- 著者: Jeffrey B. Smerage, William E. Barlow, Gabriel N. Hortobagyi, Eric P. Winer, Barry Leyland-Jones, Alvaro Reddy, Massimo Cristofanilli, Daniel F. Hayes
- Corresponding author: Daniel F. Hayes (University of Michigan Comprehensive Cancer Center, Ann Arbor, MI)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-09-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 24888818
背景
転移性乳癌 (MBC: metastatic breast cancer) においてCellSearchシステムによる循環腫瘍細胞 (CTC) 計数は予後予測因子として確立されており、治療開始前のCTCが7.5 mL全血あたり5個以上であることは有意に不良な予後と関連することが示されていた (Cristofanilli et al. N Engl J Med 2004)。MBC患者の生存期間は、疾患のタイプや部位によって数ヶ月から数年まで幅広く、抗悪性腫瘍薬治療は一般的に症状管理に向けられることが多い (Clark et al. J Clin Oncol 1987)。そのため、化学療法は通常、単剤で順次投与され、腫瘍量減少による最適な効果と最小限の毒性のバランスが取られているが (Miles et al. Oncologist 2002)、CTC高値が持続する患者の治療抵抗性を克服するための新たな戦略が求められていた。
しかし、一次化学療法中にCTC数が高値のまま持続する患者 (化学療法不応答を示唆) に対して、早期に化学療法レジメンを変更することが臨床転帰を改善するかどうかは未検証であり、この点に大きなギャップが残されていた。SWOG S0500はこの臨床的疑問に対する前向きランダム化比較試験として設計された、液体生検 (CTC) を治療決定に組み込んだ最初の大規模前向き試験の一つである。先行研究では、CTCが治療効果の有用な予測因子である可能性が示唆されていたが (Liu et al. J Clin Oncol 2009)、CTCに基づく治療介入の有効性についてはデータが不足していた。また、Dawson et al. NEnglJMed 2013は循環腫瘍DNA (ctDNA) のモニタリングの可能性を示したが、CTCとctDNAのどちらが治療選択に直接的に寄与するかは未解明であった。本研究は、CTC高値が持続する患者の治療抵抗性を克服するための新たな戦略を評価することを目的とした。別の先行研究であるAllard et al. Clin Cancer Res 2004では、主要な癌種においてCTCが末梢血中に循環することが示されており、その検出が予後予測に繋がる可能性が指摘されていた。また、Paoletti et al. Principles and Practice of Oncology Updates 2012においても、CTCが予後マーカーとしての重要性を持つことが総説で強調されていた。これらの背景から、CTCを指標とした治療戦略の確立が強く望まれていた。
目的
転移性乳癌 (MBC) の一次単剤化学療法中にCTC数が高値のまま持続する患者 (3週間目でもCTCが7.5 mL全血あたり5個以上) に対して、化学療法の早期変更が標準継続と比較して全生存期間 (OS) を改善するかを前向きランダム化比較試験で評価する。副次評価項目として、ベースラインおよび治療21日後のCTCレベルが全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) に与える予後予測能を評価し、CTC動態と生物学的サブタイプとの関連性を検討する。さらに、CTCレベルに基づく治療戦略が患者の毒性プロファイルにどのような影響を与えるかを評価することも目的とした。本研究は、CTCの動態が治療反応性および予後予測に与える影響を詳細に解析し、個別化医療への道筋を探ることを目指した。特に、CTC高値が持続する患者群における治療戦略の有効性を検証することで、この予後不良群に対する新たな治療アプローチの必要性を明確にすることも重要な目的であった。
結果
CTC動態に基づく全生存期間 (OS) の層別化: 全症例595例のうち、ベースラインCTCが5個未満の患者 (アームA、n=276) のOS中央値は35ヶ月と最も良好であった。ベースラインCTC高値から低値に転換した患者 (アームB、n=165) のOS中央値は23ヶ月であった。一方、CTC高値が持続した患者 (アームC、n=123) のOS中央値は13ヶ月と最も不良であった (p < .001)。この結果は、CTC動態が転移性乳癌のOSを強力に層別化する独立した予後因子であることを明確に示している (Figure 3A)。アームAの患者の約25%は5年以上生存していたが、アームCの患者では10%未満であった。この予後差は、ホルモン受容体およびHER2ステータスで調整した後も統計的に有意であった (p < .001)。PFS中央値もアームAで11.1ヶ月、アームBで8.9ヶ月、アームCで4.9ヶ月であり、同様に有意な差が認められた (p < .001)。
主要評価項目:持続CTC高値患者における化学療法変更の効果: 持続CTC高値患者 (アームC) 内でのランダム化比較では、化学療法変更群 (C2、n=59) と継続群 (C1、n=64) のOS中央値はそれぞれ12.5ヶ月と10.7ヶ月であり、統計的に有意な差は認められなかった (HR 1.00; 95% CI 0.69-1.47, p=0.98) (Figure 2A)。同様に、PFS中央値もC2群で4.6ヶ月、C1群で3.5ヶ月であり、有意差はなかった (HR 0.92; 95% CI 0.64-1.32, p=0.64) (Figure 2B)。この結果は、CTC持続高値を契機とした早期化学療法変更が転帰改善をもたらさないことを示唆している。Coxモデルは両アウトカムにおいて比例ハザード仮定の違反を示さなかった (OS p=0.92; PFS p=0.27)。
ベースラインCTC陽性率と治療によるCTC動態: 全症例595例のうち、ベースラインCTCが5個未満 (アームA相当) は46% (n=276) であった。ベースラインCTCが5個以上 (アームB+C相当) の患者319例のうち、288例 (90%) でフォローアップCTCが評価された。このうち165例 (57%) が22日目までにCTCが5個未満に低下し、アームBに割り付けられた。持続高値 (アームC) は123例 (43%) に相当し、全症例の約21%であった (Figure 1)。ベースラインCTC高値の患者のうち、ホルモン受容体陽性HER2陰性患者の51% (93 of 182)、トリプルネガティブ患者の55% (33 of 60)、HER2陽性患者の84% (36 of 43) が22日目までにCTC低値に転換した (p = .001)。HER2陽性患者は他のサブタイプと比較してCTC低値への転換率が有意に高かった。
生物学的サブタイプ別の予後: 生物学的サブタイプ別 (ホルモン受容体陽性HER2陰性、トリプルネガティブ、HER2陽性) のOSも解析された (Figure 3B-D、Table 3)。各サブタイプにおいて、アームAのOSが最も長く、アームCが最も短いという傾向は一貫しており (p < .001)、CTCの予後予測能がサブタイプによらず維持されることを示した。特に、HER2陽性患者のアームAではOS中央値が未到達であり、アームBでも33ヶ月と良好であった。一方、トリプルネガティブ乳癌 (TNBC) のアームCではOS中央値が9.5ヶ月と最も不良であり、これらの患者の75%が15ヶ月以内に死亡した。これはTNBCの予後不良とCTC高値の相乗的な悪影響を示唆する。アームBのTNBC患者のOS中央値は12.5ヶ月であった。アームC1とC2の間でサブタイプ別のOSに有意差はなかった (例: ホルモン受容体陽性HER2陰性患者のOS HR 0.80; 95% CI 0.50-1.28, p=0.35)。
毒性プロファイル: CTC分析のための採血に関連する毒性は認められなかった。観察された毒性は転移性乳癌に対する化学療法で一般的に見られるものであり、治療関連死はなかった。アームC1で8例、アームC2で13例のグレード4毒性が報告され、そのほとんどが好中球減少症と白血球減少症であった。これは、化学療法変更が毒性プロファイルを大きく改善しないことを示唆している。
考察/結論
SWOG S0500の主要な結論は、CTC持続高値を契機とした化学療法の早期変更がOSおよびPFSを改善しないという「否定的試験」の結果であった。しかし、この結果は必ずしも液体生検 (CTC) の無用性を示すものではなく、むしろ「薬剤変更」というシンプルな介入がCTC高値に関連する根本的な治療抵抗性を克服できないという解釈が適切である。
先行研究との違い: 複数の後ろ向き・観察研究がCTCが7.5 mL全血あたり5個以上と予後不良の関連を示していたが (Cristofanilli et al. N Engl J Med 2004)、本試験はそれを前向き多施設無作為化試験で確認した点で決定的な位置づけを持つ。これまで、CTCレベルに基づく治療変更戦略の有効性を示した大規模な前向き試験は報告されておらず、本研究は既存の知見と対照的な結果を示した。本研究は、転移性乳癌患者のCTC動態が予後を強力に層別化するという以前の報告 (Cristofanilli et al. N Engl J Med 2004) を、厳密な患者選択と前向きデザインで再検証した。
新規性: 本研究で初めて、転移性乳癌患者において、一次化学療法後にCTC高値が持続する患者に対する早期の化学療法変更が全生存期間を延長しないことを、ランダム化比較試験で明確に示した。これは、CTCが強力な予後因子である一方で、単純な治療変更ではその予後不良を克服できないという新規の知見である。CTC高値が持続する患者は、複数の一般的に使用される化学療法剤に対して相対的、あるいは絶対的に抵抗性を持つ癌集団である可能性が示唆された。
臨床応用: CTC計数が転移性乳癌の強力な予後予測因子であることの確認は、臨床試験での層別化因子や代替エンドポイント候補としての利用を支持する。しかし、CTC計数のみに基づく単純な薬剤変更は有効ではないため、CTC分子特性 (HER2発現、ER/PRステータス、PD-L1等) や他のバイオマーカー (ctDNA等) との組み合わせによる包括的な液体生検戦略が今後の臨床応用への方向性となる。CTC高値が持続する患者は、標準的な化学療法に対する抵抗性が高い可能性があり、これらの患者を早期に新規治療薬の臨床試験に組み込むことが臨床的意義を持つと考えられる。患者が進行した際に別の化学療法オプションがあるという認識のため、MBC患者が第I相または第II相試験に登録されることは少ないが、本研究の結果は、CTCが減少しない患者に対しては、早期に新規治療法の試験参加を検討すべきであることを示唆している。
残された課題: 今後の検討課題として、なぜCTC高値患者への化学療法変更が無効であったかのメカニズム解明が残されている。CTC分子プロファイリング (単細胞解析) による治療抵抗性機序の同定、より新しい治療選択肢 (抗体薬物複合体 (ADC) 等) との組み合わせでのCTC指導型試験、および他の液体生検マーカー (ctDNA) との組み合わせによる予後・治療選択最適化が今後の重要な研究方向性となる。本研究のlimitationとして、化学療法の選択が医師の裁量に委ねられていた点や、CTC高値が持続する患者群のサンプルサイズが比較的小さかった点が挙げられる。また、CTCの分子特性評価は本研究の範囲外であったため、今後の研究でCTCの異質性を詳細に解析し、個別化医療への道を開く必要がある。
方法
SWOG S0500として、2006年10月1日から2012年3月15日まで、転移性乳癌患者624例を登録し、595例が適格とされ、CTCレベルが評価された。患者は組織学的に確認された乳癌と臨床的または放射線学的に転移性疾患の証拠を有し、Zubrod (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータスが0から2であった。安定した脳転移を有する患者は適格であったが、髄膜癌腫症の患者は除外された。先行化学療法は受けず、単剤化学療法が医師の裁量で選択された。CellSearch (Veridex) を用いて、治療前 (ベースライン) と22日目 (サイクル1終了後) にCTCを計測した。CTCレベルが7.5 mL全血あたり5個未満を低値、5個以上を高値と定義した。
患者はCTCレベルに基づき以下の3アームに層別された (Figure 1)。アームA (ベースラインCTCが5個未満、n=276) は標準継続治療を受けた。アームB (ベースラインCTCが5個以上、22日目CTCが5個未満に低下、n=165) も標準継続治療を受けた。アームC (ベースラインCTCが5個以上、22日目でもCTCが5個以上持続、n=123) の患者は、C1 (化学療法継続、n=64) とC2 (化学療法変更、n=59) のいずれかに1:1でランダムに割り付けられた。ランダム化は、病型 (測定可能病変 vs 骨のみ評価可能病変) およびHER2ステータスによって層別化された。
主要評価項目はアームCでのOSの比較であった。副次評価項目として、各アーム間の予後比較および無増悪生存期間 (PFS) が含まれた。OSは登録からあらゆる原因による死亡までの期間と定義され、PFSは登録から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、ログランク検定により比較された。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) はCox回帰モデルを用いて推定された。統計的有意水準は両側p値0.05と設定された。本研究は、NCT00382018としてClinicalTrials.govに登録されている。
毒性はCommon Terminology Criteria for Adverse Events (version 3) を用いて評価された。患者および介護者は22日目のCTC結果については盲検化されたが、ベースラインのCTC値は通知された。生物学的サブタイプ (ホルモン受容体、HER2) は各施設の病理学的評価により決定された。統計解析では、Coxモデルが比例ハザード仮定の違反を示さないことが確認された (OS p=0.92; PFS p=0.27)。