• 著者: Mihaela Aldea, Lizza Hendriks, Laura Mezquita, Cecile Jovelet, David Planchard, Edouard Auclin, Jordi Remon, Karen Howarth, Jose Carlos Benitez, Anas Gazzah, Pernelle Lavaud, Charles Naltet, Ludovic Lacroix, Frank de Kievit, Clive Morris, Emma Green, Maud Ngo-Camus, Etienne Rouleau, Christophe Massard, Caroline Caramella, Luc Friboulet, Benjamin Besse
  • Corresponding author: Benjamin Besse (Department of Cancer Medicine, Gustave Roussy Cancer Centre, Villejuif, France)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-12-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31843682

背景

EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子変異陽性 (oncogene-addicted) の非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、中枢神経系 (CNS) 転移は極めて高頻度に発生する病態である。特にALK融合遺伝子陽性NSCLC患者では、診断から3年以内に58%がCNS病変を発症し、crizotinib治療中の進行時には最大70%がCNS転移を有することが知られている。初期世代のチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 治療下では、薬剤の血液脳関門 (BBB) 透過性が不十分であるため、全身の病変が安定しているにもかかわらずCNS病変のみが進行する「孤立性CNS進行 (iCNS; isolated central nervous system progression)」が臨床上しばしば観察される。このような状況において、治療方針を適切に変更するためには、腫瘍のゲノム情報や耐性メカニズムの特定が不可欠となる。

通常、治療変更の際には組織生検による耐性機序の確認が標準的なアプローチとされるが、CNS病変への侵襲的生検は技術的に困難であり、生検の失敗率は約25%に達することが報告されている。血漿中の循環腫瘍DNA (ctDNA) を用いた液体生検 (liquid biopsy) は、低侵襲な代替手段として期待されている。しかし、BBBおよび血液腫瘍関門の存在により、CNSに限定された腫瘍からの末梢血へのDNA移行が制限される可能性が指摘されていた。この生物学的制約が、iCNS進行患者における血漿ctDNAの感度を低下させる可能性が示唆されていたものの、大規模かつ高感度なアッセイを用いた系統的な研究はこれまで不足しており、その臨床的有用性は未解明であった。

先行研究である De Mattos-Arruda et al. (2015) の報告では、原発性脳腫瘍を含む極めて少数の患者 (n=7) を対象とした解析において、血漿中からゲノム異常を検出できなかったとされている。また、乳癌のctDNAモニタリングに関する代表的な知見である Dawson et al. NEnglJMed 2013 や、大腸癌における検出能を示した Diehl et al. (2005) などの既報では全身の腫瘍量がctDNA検出を規定することが示されていたが、CNS限局病態におけるデータは圧倒的に不足していた。このように、iCNS患者における血漿ctDNAの検出感度やゲノムプロファイルに関する詳細な評価はこれまで不十分であり、臨床現場における最適な分子診断戦略を確立する上での大きな知識ギャップ (knowledge gap) となっていた。

目的

本研究の主要な目的は、ドライバー遺伝子変異陽性の進行NSCLC患者において、孤立性CNS進行 (iCNS) 群、CNS進行を伴わない全身進行 (noCNS) 群、および全身とCNSの混合進行 (cCNS) 群の3群間における血漿ctDNAの検出率、およびゲノム異常 (GA; genomic alteration) の種類別検出率を比較し、CNS進行パターンが液体生検の感度に与える影響を大規模コホートで定量的に評価することである。

副次的な目的として、iCNS患者における脳脊髄液 (CSF; cerebrospinal fluid) ctDNAの補完的な役割をペアサンプル解析によって検証すること、およびiCNS患者における血漿ctDNA陽性/陰性ステータスがその後の全身進行 (extra-CNS progression) リスクや無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival) に与える予後的意義を評価することである。これにより、CNS転移を有するNSCLC患者に対する最適な液体生検アルゴリズムの構築を目指す。

結果

血漿ctDNA全体陽性率の群間比較: 血漿ctDNA陽性率は、iCNS群で52% (33/64サンプル) であったのに対し、noCNS群では84% (108/128サンプル)、cCNS群では92% (101/110サンプル) であり、iCNS群における検出率は他群と比較して有意に低いことが示された (p < 0.00001) (Fig. 3)。この結果は、孤立性CNS進行時における血漿ctDNAの感度が、全身進行を伴う病態に比べて著しく低下することを大規模コホートにおいて定量的に証明したものである。また、iCNS群における血漿ctDNA陰性例のうち、その後の全身進行時に再測定を行った18例のペア解析では、38.8% (7/18例) が全身進行に伴って血漿ctDNA陽性へと転化することが確認された (Fig. 1)。

ゲノム異常の種類別検出率の差異: さらに詳細なゲノム異常 (GA) の種類別解析において、以下の顕著な差異が確認された (Table 3):

  • アクショナブルドライバー変異 (EGFR、ALK、BRAF、HER2、ROS1、MET) の検出率は、iCNS群で37% (22/60) であったのに対し、noCNS群で77% (79/102)、cCNS群で73% (67/92) であり、iCNS群で有意に低かった (p < 0.00001)。
  • 耐性変異 (EGFR T790M、ALK変異、MET変異など) の検出率は、iCNS群で6% (3/50) であったのに対し、noCNS群で45% (18/40)、cCNS群で44% (23/52) であり、iCNS群における検出率は極めて低値であった (p = 0.00001)。
  • EGFR遺伝子変異陽性例におけるT790M耐性変異の検出率に限定すると、iCNS群で7% (2/30) であったのに対し、noCNS群で48% (16/33)、cCNS群で50% (20/40) であり、iCNS群で有意に低かった (p = 0.0002)。

変異アレル頻度 (MAF) の差異と腫瘍量相関: ctDNA陽性例における最高MAFの中央値は、iCNS群で1.0%であったのに対し、noCNS群で2.7%、cCNS群で9.4%であり、CNS限局病変では血漿中に放出される腫瘍由来DNA量が極めて少ないことが定量的に示された (p < 0.0001)。多変量解析の結果、サンプル採取時における転移部位数 > 2が血漿ctDNA陽性の独立した予測因子として同定された (OR 3.4, 95% CI 1.7-7.2, p = 0.001)。これは、基礎研究において腫瘍細胞数 (n=1000000 cells) やマウスモデル (n=12 mice) で示される腫瘍体積とctDNA放出量の相関性と一致しており、全身の腫瘍量が血漿中のシグナル強度を規定する主たる要因であることを裏付けている。

iCNS群における血漿ctDNA陽性の予後的意義: iCNS群 (追跡期間中央値 36.5ヶ月, 95% CI 31.0-NR) において、血漿ctDNA陽性例は陰性例に比べて、その後の全身進行 (extra-CNS progression) リスクが有意に高かった (32% vs 7%, p = 0.026)。また、全身無増悪生存期間 (extra-CNS PFS) の中央値は、血漿ctDNA陽性群で5.5ヶ月 (95% CI 3.22-23.00, p = 0.02) であったのに対し、ctDNA陰性群では未到達 (NR) であった (log-rank p = 0.02)。この結果は、iCNS診断時における血漿ctDNAの陽性ステータスが、画像上は検出できない微小な全身病変 (infraradiologic lesions) の存在を反映していることを示唆している。

CSF ctDNAとペア血漿の比較: iCNS群のうち12例 (11例が髄膜進行、1例が脳転移) で得られたCSFと血漿のペアサンプル解析では、ctDNA陽性率はCSFで83% (10/12) であったのに対し、血漿では50% (6/12) であった (p = 0.193) (Table 3)。統計的有意差には達しなかったものの、CSF中からは血漿で検出されなかったユニークな耐性変異が多く同定され、CNS限局進行時におけるCSF液体生検の補完的有用性が示された。本解析における検出限界の検証では、CSF中における変異アレル頻度は血漿に比べて有意に高く、希釈効果の少ないCSFがCNS病変のゲノムプロファイルをより正確に反映することが示された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、247例という過去最大規模のドライバー遺伝子変異陽性NSCLCコホートを対象に、iCNS、noCNS、cCNSの3つの進行パターン別に血漿ctDNAの検出感度を体系的に比較した点で、これまでの小規模な報告と大きく異なっている。先行研究であるDe Mattos-Arruda et al. (2015) の報告では、少数の脳腫瘍患者において血漿ctDNAからゲノム異常を全く検出できなかったとされていたが、本研究では高感度なInVisionFirst-Lungアッセイ (検出限界 0.02%) を用いることで、iCNS群においても52%の陽性率を達成した。この検出率の差は、使用したシーケンス技術の感度の違いに起因するものと考えられ、先行研究の限界を克服する結果となった。また、乳癌のctDNAモニタリングに関する代表的な知見である Dawson et al. NEnglJMed 2013 などの報告と同様に、全身の腫瘍量 (tumor burden) が血漿ctDNAの検出感度を規定する最重要因子であることを、多変量解析を通じて改めて実証した。

新規性: 本研究で初めて、iCNS患者における血漿ctDNAの検出率 (52%) および耐性変異検出率 (6%) が、全身進行を伴う患者群に比べて有意に低いことを大規模コホートで定量的に示した。さらに、iCNS群における血漿ctDNA陽性ステータスが、その後の早期の全身進行 (extra-CNS PFS 5.5ヶ月) を予測する強力な予後因子であることを新規に見出した。

臨床的意義: 臨床現場における重要な含意として、iCNS患者において血漿ctDNAが陰性であっても、それは真の病勢コントロールを意味するものではなく、BBBや腫瘍量の少なさによる「偽陰性」である可能性が高いことを臨床医は強く認識すべきである。特に第1・2世代EGFR-TKI治療後のiCNS進行時に、血漿ctDNAでT790M耐性変異が検出されなかった場合でも、安易に耐性変異陰性と判断せず、CSF液体生検や可能であれば組織生検を検討すべきである。

残された課題: 今後の検討課題として、オシメルチニブなどの第3世代TKIがファーストライン治療として定着した現在の臨床環境において、CSF液体生検を用いた耐性プロファイリングの有用性を前向きコホートで検証すること、およびCSF採取・解析手法の標準化を進めることが求められる。本研究のlimitationとして、後ろ向き解析であること、CSFサンプルの症例数が12例と限定的であったこと、およびInVisionFirst-Lungパネルが一部の稀な融合遺伝子パートナーをカバーしていないことが挙げられる。

方法

患者選択と研究デザイン: 本研究は、2016年1月から2018年11月にかけてGustave Roussyで実施された、液体生検の有用性を前向きに評価する臨床研究 (NCT02666612) に登録されたNSCLC患者を対象とした後ろ向き解析である。主な組み入れ基準は、(1) ステージIVのNSCLC、(2) 組織生検によりEGFR、ALK、BRAF、KRAS、HER2、ROS1、MET、PIK3CA、STK11、TP53のいずれかに既知のゲノム異常を有すること、(3) 進行時または前治療時にInVisionFirst-Lungアッセイで解析可能な血漿サンプルが少なくとも1つ存在すること、とした。

患者層別化: スクリーニングされた517例のうち、基準を満たした247例 (合計302の血漿サンプル) が解析対象となった。患者は病勢進行パターンに基づき、(1) iCNS群 (n=54例、64サンプル): extra-CNS病変が安定または存在しない状態でのCNS進行のみ、(2) noCNS群 (n=99例、128サンプル): extra-CNS進行のみでCNS病変なし、(3) cCNS群 (n=94例、110サンプル): CNS進行とextra-CNS進行の両方が認められる群、の3群に層別化された。iCNS群のうち22例はCNS限局性転移であり、32例はiCNS進行であった。また、髄膜癌腫症 (LMD; leptomeningeal disease) の割合はiCNS群で36%、cCNS群で10%であった。

液体生検アッセイ: 採血は10-20 mLをEDTA管またはStreck Cell-Free DNA BCT (blood collection tube) 管に回収し、血漿ctDNA解析はInVisionFirst-Lung (Inivata社) を用いて集中的に実施された。本アッセイは、タグ付きアンプリコン法に基づく次世代シーケンス (NGS) 技術を用いており、36遺伝子パネルを対象として最低0.02%の変異アレル頻度 (MAF; mutant allele fraction) まで検出可能である。ctDNA陽性は、既知の病原性体細胞ゲノム異常が少なくとも1個検出された場合と定義した。CSFサンプル (2 mL) が採取できた12例については、EGFR exon 18/19/20/21の直接シーケンスまたはSentosa NSCLC Panel (Vela Diagnostics社) を用いて解析を行った。

統計解析: 連続変数の比較にはt検定またはANOVA、カテゴリ変数の比較にはFisher’s exact検定またはカイ二乗検定を用いた。ctDNA陽性の独立予測因子を同定するため、単変量および多変量ロジスティック回帰分析を実施した。extra-CNS PFSおよびCNS PFSはKaplan-Meier法を用いて推定し、log-rank検定で比較した。すべての統計解析はR-Studio (R-Studio, Inc.製データ解析用統合開発環境) (version 3.5.2) およびIBM SPSS Statistics 20を用いて実施された。