• 著者: Jeemin Jee, Helen H. Won, Soo-Ryum Yang, Ronglai Shen, Mark T.A. Donoghue, Walid K. Chatila, Charlotte Kubiak, Maria E. Arcila, Marc Ladanyi, et al.
  • Corresponding author: Bob T. Li (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-11-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36357680

背景

進行NSCLCの診療においては、EGFR変異・ALK再構成・KRAS G12C (glycine-to-cysteine; 12番グリシンのシステイン置換変異) 等のドライバー変異に基づく分子標的療法が急速に普及している。一方で、組織生検には侵襲性・検体量不足・腫瘍内不均一性・TAT (turnaround time; 検査所要時間) の問題が残る。これらの課題を補完する手段として、血漿ctDNA (circulating tumor DNA; 循環腫瘍DNA) 解析が液体生検 (Liquid biopsy paradigm) として普及している。ctDNA液体生検 はMRD (minimal residual disease; 微小残存病変) モニタリングにも応用され、腫瘍由来DNAを血漿から非侵襲的に検出する。

先行研究の系譜を整理すると、Bettegowda et al. (2014) はctDNAが固形腫瘍の大部分で検出されることを示した。さらに、短期研究 (Leighl et al. 2019、Aggarwal et al. 2019) では、ctDNA適合標的療法は組織適合標的療法と同等の放射線学的奏効率を示すと報告された。しかし、ctDNA情報に基づく治療 (ctDNA-guided therapy) が長期OS (overall survival) を実際に改善するかどうかは、大規模・長期追跡データが欠如していたため未確立であった。加えて、組織では検出されずctDNAにのみ検出される変異 (ctDNA-only変異) の臨床的意義も未解明であり、腫瘍不均一性を反映するのか、CH (clonal hematopoiesis; クローン性造血) のアーチファクトなのかは議論が続いていた。何が足りなかったか:すなわち、大規模前向き国際コホートでctDNAの予後的意義・標的療法マッチングによるOS改善・ctDNA-only変異の臨床的位置づけを統合的に評価したエビデンスが不足していた。

目的

進行NSCLC大規模国際前向きコホートにおいて、(1) 血漿ctDNA検出が臨床・放射線学的因子から独立した予後因子となるかを検証する、(2) ctDNA情報によりマッチした標的療法がOSを改善するかを評価する、(3) ctDNA-only変異 (組織との時間的一致検査で検出されない変異) の頻度・ゲノム特性・予後的意義を明らかにする、の3つを目的とする。

結果

ctDNA検出率と基本特性:全解析対象n=1,127 patients 中n=722 patients (64%) で血漿ctDNA変異が検出された (Table 1)。ctDNA検出率は肺外転移の有無 (転移あり74% vs 肺内のみ40%、chi-squared P<0.001) や組織型 (扁平上皮癌で高い) と相関した。登録時年齢中央値68歳 (IQR 59-75)、腺癌が86%を占めた。ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status; 全身状態評価スコア) 0-1が大多数で、治療歴あり35%、治療ナイーブ65%であった。

ctDNA陽性の独立予後因子としての意義:ctDNA陽性患者はctDNA陰性患者と比較してOSが有意に短縮した (HR 2.05、95% CI 1.74-2.42、P<0.001; Fig. 2a)。この関連はMTV (metabolic tumor volume; 腫瘍代謝体積) を連続変数として含む多変量モデルでも独立して維持された (ctDNA陽性 HR>2、MTVは傾向のみ; Fig. 2f)。ctDNA変異数・最大VAF (variant allele frequency; バリアントアレル頻度) の高値はOS短縮と相関した。また、VUS (variant of unknown significance; 病理学的意義不明変異) のみのctDNA陽性例もctDNA陰性例より予後が不良であり、ctDNAが腫瘍生物学的攻撃性を反映することが示唆された。同一遺伝子 (TP53・EGFR・KRAS) の変異について、ctDNAで検出された場合は組織のみ検出と比較してより不良な予後と関連した (Fig. 2b)。

ctDNAガイド下標的療法とOS:n=418 patients (37%) が登録後に標的療法を受け、うちn=255 patients (23%) はctDNA情報によりマッチされた (Fig. 1)。ctDNA陽性で標的療法にマッチした群はctDNA陽性だが標的療法未施行の群と比較してOSが有意に改善した (HR 0.63、95% CI 0.52-0.76、P<0.001; Fig. 3a)。一方、ctDNA陰性患者では標的療法の有無によるOS差は統計学的有意性に達しなかった (HR 0.92、P>0.1)。組織NGS (next-generation sequencing; 次世代シーケンシング) 施行なしの患者においてもctDNA適合標的療法はOS改善と関連し、組織検査が実施困難な状況における液体生検の実用的価値を示した。また、進行時に追加ctDNA検査で2次目のドライバー変異が新規検出され2次標的療法にマッチした例が11例あった。

液体生検の実用的優位性:ctDNA解析の失敗率はわずか2% (37/1,919サンプル) であり、組織NGSの13% (164/1,219) を大幅に下回った。TATは液体生検11日 (IQR 9-14) vs 組織33日 (IQR 25-41) と、液体生検が約3倍速かった (Extended Data Fig. 1)。実際に組織NGSが実施されなかった症例はMSKコホートで20% (197例) に達し、実臨床での組織検査の不完全性を裏付けた。広範パネル (広範NGSパネル、129遺伝子) を用いた230例中188例 (82%) で少なくとも1つのctDNA変異が検出されており、標的パネル (ctDx Lung、64%) より高感度であることが示された。

ctDNA-only変異の頻度・特性・予後:組織との時間対照検査を両方施行したn=429 patients のうち、n=109 patients (25%) に組織では検出されないctDNA-only変異が存在した (Fig. 4a)。ctDNA-only変異は組織適合変異と比較してOS短縮と独立して関連した (多変量Cox、P=1×10^-5)。ctDNA-only変異のゲノム特性として、サブクローナルドライバー — RICTOR (rapamycin-insensitive companion of mTOR) 増幅・NTRK1 (neurotrophic receptor tyrosine kinase 1) 増幅・MET増幅・HER2増幅・PIK3CA変異 — が有意に富化していた (ANOVA P=4×10^-13; Fig. 5c)。ctDNA-only変異は腫瘍量 (MTV中央値737 mL、IQR 125-1,598 mL) が組織対応ctDNA変異群 (中央値252 mL、IQR 109-484 mL、P<0.001) やctDNA陰性群 (中央値122 mL、IQR 58-284 mL) より高く、空間的腫瘍不均一性を液体生検が捕捉していることを示唆した (Fig. 5b)。ctDNA-only変異の12%はCH (clonal hematopoiesis; クローン性造血) または生殖細胞系列変異によるアーチファクトと同定され、残る大部分は組織組織NGSパネルでサブスレッシュホールドレベルで検出可能であった (SNV 54%・CNA 51% が組織に低VAFで存在; Fig. 4c-d)。ctDNA-only変異と組織適合変異の遺伝子レベル分布に正の相関 (Pearson’s R=0.86、P<0.001) が認められ、NSCLCで変異頻度の高い遺伝子は液体生検特異的にも多いことが示された。

考察/結論

本研究は1,127例という最大規模の前向き国際コホートで、血漿ctDNA検出が進行NSCLCのMTV調整後も独立した予後因子であることを実証し、ctDNAガイド下標的療法がOSを有意に改善する (HR 0.63) という観察的エビデンスを提供した点で臨床的に重要な貢献である。本研究で初めて (first to demonstrate)、ctDNA-only変異が25%の患者に存在し独立した予後不良因子であることを大規模に示したことは新規性 (novelty) が高い。全ゲノムにわたるcfDNA断片化パターンとがんの関連はCristiano et al. 2019 (Cristiano et al. Nature 2019) が実証しており、本研究のctDNA検出率に関する知見はこれと一貫している。

先行研究 (Leighl et al. 2019 等) と比較して、本研究は短期放射線学的奏効率から長期OS追跡へと評価指標を拡張し、液体生検の「真の臨床的有用性」をより確固たるエビデンスで示した点が従来と異なる。また先行研究がMTVと独立してctDNAの予後的価値を十分に検証していなかったのに対し、本研究は多変量MTV調整モデルでもctDNA陽性のHR>2を維持することを示した。

臨床的含意 (clinical implication) として、組織検査が困難または時間的に間に合わない状況での液体生検ファーストアプローチの合理性が支持される。失敗率2% vs 13%・TAT 11日 vs 33日という定量的比較は、実臨床での液体生検の実用的優位性を明確化する。ctDNA-only変異が同定された場合、RICTOR増幅へのmTORC1/2阻害薬やHER2増幅へのHER2標的治療の開発・前向き検証が今後の課題である。

残された課題として、本研究は観察研究であり因果推論には限界がある。ctDNA適合標的療法のOSへの真のベネフィットを証明するためにはランダム化試験が不可欠であり、対照群の非均一性がHRの解釈を複雑にする。ctDx Lung はfocused targetedパネルであり、より広範なWGS/WESで観察されるctDNA検出率は本試験より高い可能性がある。今後の課題 (future direction) として、ctDNA-only変異への対応療法の前向き試験、液体生検と組織生検の統合戦略の最適化、そして組織生検率の低いコミュニティセッティングへの普及が挙げられる。

方法

多施設前向き国際コホート研究 (ClinicalTrials.gov NCT01775072)。MSK (Memorial Sloan Kettering Cancer Center、ニューヨーク、n=1,002) + GenesisCare Sydney (オーストラリア、n=125) の計1,127例の進行NSCLC (ステージ4または再発、既知ドライバー変異なし or 標的療法後進行) を対象とした。登録期間2016年10月21日〜2020年11月1日、追跡期間中央値445日 (IQR 171-826)。全例に Resolution Bioscience ctDx Lung (targeted NGSパネル、既知NSCLCドライバーを網羅) による血漿ctDNA解析を実施。MSKコホートは全例の組織NGSに同意 (IMPACT (Integrated Mutation Profiling Actionable Cancer Targets) 組織NGSパネル、454遺伝子、FDA clearance済)。ctDNA解析の失敗率・ターンアラウンドタイムを組織と比較。ctDNA陽性・陰性間のOS比較はCox比例ハザードモデルで多変量調整、共変量はMTV (metabolic tumor volume; 腫瘍代謝体積)・ECOG PS (performance status; 全身状態スコア)・病期・治療歴等。ctDNA適合標的療法群 (n=255) vs 非適合群のOS比較も同様に実施。組織との30日以内同時施行例 (n=429) においてctDNA-only変異を同定しゲノム特性・予後を解析した。