• 著者: Dimitrios Mathios, Jakob Sidenius Johansen, Stephen Cristiano, Jamie E. Medina, Jillian Phallen, Klaus R. Larsen, et al.
  • Corresponding author: Robert B. Scharpf; Victor E. Velculescu (Johns Hopkins University School of Medicine)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-07-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34417454

背景

肺癌は世界の癌死亡原因第1位であり、5年生存率は20%未満と不良である。その最大の理由は診断時に進行期が多く、早期では有効な治療介入が可能であるにもかかわらず見逃されることにある。LDCT (low-dose computed tomography; 低線量CT) は高リスク集団での肺癌死亡率を低減させることがNLST (National Lung Screening Trial) 試験で実証されたが、米国で推奨されるスクリーニング対象者のうち実際に受診するのは6%未満に過ぎない。その理由として偽陽性率が高く (単純陽性の大多数が良性結節)、精神的・身体的負担を伴う侵襲的精査が必要になる点が挙げられ、改善が求められていた。

血漿中の無細胞DNA (cfDNA; cell-free DNA) を用いた液体生検は、非侵襲的な癌検出の新手段として急速に台頭した。先行研究のCristiano et al. 2019 (Cristiano et al. Nature 2019) は DELFI (detecting early-stage lung-fragmentation indices) として全ゲノムにわたるcfDNAフラグメントパターンの癌検出への応用を報告し、複数癌種でAUC 0.85を達成した。また Chabon et al. 2020 (Chabon et al. Nature 2020) は肺癌特化のcfDNAマルチモーダル解析を実施し、初期スクリーニングへの応用可能性を示した。さらにAbbosh et al. 2017 (Abbosh et al. Nature 2017) は早期NSCLCでのctDNA進化的解析を行い、術後微小残存病変の検出に液体生検が有用なことを報告した。

しかし肺癌に特化した前向き大規模コホートでの外部検証はなく、組織型分類・予後的意義も未確立であった。何が足りなかったか:実臨床に近い前向き設定での大規模外部検証、SCLC/NSCLCの非侵襲的組織型分類、長期追跡に基づく予後的意義の定量的実証が不足していた。

目的

前向き観察研究の LUCAS (lung unselected cancer ascertained study) コホート (n=365) でDELFIによるcfDNAフラグメントーム解析の (1) 肺癌検出性能 (AUC・感度・特異度、ステージ別・組織型別)、(2) CEA (carcinoembryonic antigen; elevated biomarker 癌胎児性抗原)・臨床リスク因子との多変量統合モデル DELFImulti (detailed evaluation leveraging fragmentation indices) およびLDCTとの逐次スクリーニングアルゴリズムの性能、(3) ASCL1 (achaete-scute homolog 1) 転写因子結合部位を用いたSCLC/NSCLC非侵襲的分類、(4) DELFIスコアの予後的意義を独立バリデーションコホートも含めて評価すること。

結果

DELFI肺癌検出性能 (LUCASコホート、Fig. 1-2)

全肺癌 (n=129 patients) vs 非癌 (n=236 patients) のROC曲線AUCは0.90 (95% CI 0.86-0.94)。ステージ別ではStage I AUC=0.76、Stage II AUC=0.89、Stage III AUC=0.92、Stage IV AUC=0.92と進行ステージで高い検出性能を示した。高リスク喫煙者 (50-80歳、喫煙歴≥20pack年; n=229 samples) ではAUC=0.94に向上した。対照的に、コピー数変化のみを用いるichorCNA (n=365 samples) のAUCは0.76、全体cfDNA断片長中央値のみではAUC=0.61と大幅に劣り、DELFIのゲノムワイドアプローチの優位性が明確になった。非癌群のDELFIスコア中央値は0.16 (良性結節群0.21) であり、癌群との乖離は明確であった (p<0.01、全ステージ)。腫瘍サイズとDELFIスコアは正相関し、腫瘍径別ステージ (第1〜4区分) で中央値DELFIスコアはそれぞれ0.32/0.56/0.77/0.94 (最小腫瘍群 対 最大腫瘍群 p<0.001)、リンパ節転移なし群と転移あり群でも有意差 (p<0.001) が認められた (Fig. 1)。

バリデーションコホートでの外部再現性 (Fig. 3)

LUCASで決定されたカットオフ (0.344) を固定モデルとしてバリデーションコホート (非癌n=385 patients、早期肺癌n=46 patients) に適用したところ、ステージ別・組織型別の感度・特異度はLUCASコホートと同等であり、モデルの汎化能力が実証された。80%特異度でのStage I感度はバリデーションでも60%以上を維持した。

DELFImultiとLDCT逐次スクリーニング (Fig. 4)

DELFImulti単独のAUCは0.93 (Stage I AUC=0.78、Stage III AUC=0.94)。DELFImultiを前スクリーニングとしてLDCTと組み合わせた逐次スクリーニングアルゴリズムでは、全体感度94% (Stage I 87%、Stage II 100%、Stage III 97%、Stage IV 96%) を80%特異度で達成した。LDCT単独では不要な精査数が67件だったのに対し、DELFI/LDCT統合では32件に52%削減。Monte Carlo シミュレーション (仮想100,000 patients集団) では、DELFIプレスクリーニング導入によりLDCT単独の肺癌検出数が平均51件から394件増加 (約8倍増、95% CI 4.4-19.6倍) と推定された (Fig. 4)。

ASCL1によるSCLC vs NSCLC非侵襲的分類 (Fig. 5)

TCGA RNA-seqでASCL1がSCLC (n=79 samples) でNSCLC・全血に対し>960倍高発現と同定された (Pearson r = 0.82 for ASCL1 ChIP-seq coverage correlation with SCLC classification)。13,693のゲノムワイドASCL1 ChIP-seqピーク周辺のcfDNAカバレッジを用いた分類では、SCLC (n=11 samples) vs 非癌 (n=158 patients) でAUC=0.92。DELFI陽性症例内でSCLC vs NSCLC (その他DELFI陽性) の分類では感度100%・特異度95%・AUC=0.98 (95% CI 0.95-1.0) を達成した (Fig. 5)。

予後的意義 (Fig. 6)

LUCAS長期追跡 (7-8年) でDELFIスコア>0.5の患者群はDELFIスコア<0.5群に対し有意に短い癌特異的生存 (p=0.003)。多変量Coxモデル (年齢・組織型・臨床ステージ・治療法調整) でDELFIスコアは独立した予後因子 (HR=2.53、95% CI 1.46-4.37、p=0.001)。Stage IV腺癌の均一集団でも同様の有意差 (p=0.004)。既往癌寛解患者25名中再発例5例はベースラインDELFIスコアが有意に高く (中央値0.65 vs 0.19、p=0.005)、疾患モニタリングへの応用可能性も示された (Fig. 6)。さらに、DELFIスコアはOS (overall survival) の多変量解析でも独立した予後因子 (HR=2.01、95% CI 1.23-3.28、p=0.006) として確認され、cfDNAフラグメトームが肺癌患者の腫瘍生物学的侵攻性を直接反映する指標であることが示された。

考察/結論

本研究はDELFIフラグメトーム解析が肺癌の多目的非侵襲的評価 (検出・組織型分類・予後層別化) に包括的に利用できることを示した。

先行研究との差異:先行研究 Cristiano et al. Nature 2019 は複数癌種を対象とした後ろ向き設計であったが、本研究は肺癌特化の前向きデザインで症候性高リスク集団という実臨床に近い設定での検証を行った。また先行研究と異なり、ASCL1 ChIP-seqシグネチャーによる組織型分類という新たな概念実証と独立したバリデーションコホートでの外部再現性を追加した点で重要な前進である。Chabon et al. Nature 2020 のゲノム特徴統合手法と比較し、フラグメトームの位置情報活用による組織型分類可能性を新たに示した。

新規性:本研究で初めてDELFIスコアが独立した予後因子 (HR 2.53) となることを前向きコホートで実証した。ASCL1 TF (transcription factor)シグネチャーによるSCLC/NSCLC識別 (AUC 0.98) は、cfDNAフラグメントームが転写因子結合部位のクロマチン状態を反映し組織型非侵襲的分類に応用できるという novel な概念実証であり、これまでにない液体生検の可能性を提示した。Bruhm et al. NatRevCancer 2025 の包括的フラグメトームレビューも本研究のASCL1シグネチャーを重要な技術革新として位置付けている。

臨床応用の意義:DELFImulti+LDCT逐次アルゴリズムにより94%感度/80%特異度という実用的な性能と、不要な精査の52%削減を同時達成した点が重要な臨床応用の意義となる。LDCTスクリーニング普及率が6%未満にとどまる根本的課題に直接対処できるtranslationalな貢献として、cfDNAフラグメトーム解析はLDCT補助スクリーニングの臨床実装への橋渡しとなる。また NatMed (Nature Medicine journal) 誌掲載の Jee et al. 2022 の ctDNA DNA-guided (directed nucleic acid-guided) 治療研究 Jee et al. NatMed 2022と組み合わせることで、スクリーニングから治療選択まで一貫したliquid biopsy活用体制の構築が期待される。

残された課題・今後の展望:残された課題として、LUCASコホートの大多数が症候性患者であり真のスクリーニング集団 (無症状) とは異なること、SCLC例数 (n=11) が少ないこと、早期Stage I検出のAUC (0.76) の改善が必要であることが挙げられる。今後は無症状スクリーニング集団での大規模前向き試験、ctDNA変異・メチル化・タンパク質との統合、および人種・地域多様性を考慮した検証が求められる。

方法

LUCASコホート:デンマーク・コペンハーゲンのBispebjerg病院呼吸器内科を受診した前向き観察試験 NCT03634943 のn=365 patients (肺癌n=129、非癌n=236)。大多数 (90%) は喫煙歴20pack年以上・年齢50-80歳の症候性高リスク集団。血液採取は確定診断の中央値9.5日前。追跡期間は最長7-8年 (2020年4月まで)。

バリデーションコホート:非癌n=385 samples (デンマーク・オランダの大腸癌スクリーニング試験参加者) + 早期肺癌n=46 samples (BioIVT (biological integrated-value tissue) 社)。LUCASとは完全に独立したサンプル収集・解析。

DELFI解析:2-4 mlの血漿からcfDNAを抽出し、約2×低カバレッジWGS (whole genome sequencing; Illumina paired-end sequencing) で実施。473の5 Mbゲノムビン + 39常染色体腕のz-scoreで算出し、主成分分析 (PCA) で次元削減後、LASSO (least absolute shrinkage selection operator) penalized logistic regressionで機械学習モデルを構築。5分割交差検証×10反復でDELFIスコアを算出。

DELFImulti:DELFIスコアに血清CEA・年齢・喫煙歴・COPD (chronic obstructive pulmonary disease) 合併を追加した多変量ロジスティック回帰モデル。

ASCL1シグネチャー:TCGAのRNA-seqデータでSCLC (n=79) とNSCLC (n=1046)・全血 (n=755) を比較し、最も差次発現した転写因子としてASCL1 (>960倍高発現) を同定。ゲノムワイド13,693のASCL1 ChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequencing) ピーク周辺 (±200 bp) のcfDNAカバレッジと断片長をSCLC/NSCLC分類に使用。

生存解析:DELFI score 0.5をカットオフとした二群のKaplan-Meier + log-rank検定、および多変量Cox比例ハザードモデル (年齢・組織型・臨床ステージ・治療法で調整)。