- 著者: Ring A, Nguyen-Sträuli BD, Wicki A, Aceto N
- Corresponding author: Nicola Aceto (ETH Zurich, Switzerland)
- 雑誌: Nat Rev Cancer
- 発行年: 2023
- Epub日: 2022-12-09
- Article種別: Review
- PMID: 36494603
背景
転移は世界的ながん死亡の主因であり、転移進展の予測・最小残存病変の検出・縦断モニタリングを可能にする臨床ツールの欠如が予後改善の最大の障壁となっている (Siegel et al. CA Cancer J Clin 2022)。組織生検・画像診断・腫瘍マーカーといった標準診療は、時間的空間的腫瘍異質性に起因するサンプリングバイアスや診断閾値の限界から、患者のがん全体像を捉えきれない (Gerlinger et al. N Engl J Med 2012)。血液由来の腫瘍材料はこの隙間を埋める低侵襲・リアルタイムの代替手段であり、なかでも原発・転移巣から血流へ放出される循環腫瘍細胞 (circulating tumour cell, CTC) は、最も悪性度の高い転移性サブクローンを直接捕捉できる固有の analyte である (Pantel & Alix-Panabières Nat Rev Clin Oncol 2019)。CTCクラスターが単独CTCを凌駕する転移能をもつことは早くから示唆され (Aceto et al. Cell 2014)、転移を細胞自律的事象ではなく宿主微小環境との協調として捉える枠組みも提唱されてきた (Massagué et al. Nature 2016)。しかし、CTCの稀少性ゆえに日常臨床への実装は遅れ、特に複数CTCが凝集したCTCクラスター、なかでも腫瘍細胞と免疫・間質細胞からなるヘテロタイプクラスターの転移促進機序、物理的・代謝的・概日的側面を横断する統合的理解は 手薄 であった (リキッドバイオプシー)。CTC検出技術と単一細胞解析の急速な進歩がもたらす臨床応用の最新エビデンスを体系化した総説も 不足 しており、本レビューはこの gap in knowledge を埋めることを企図した。
目的
血行性転移を起点に、CTC生物学の最新知見を体系的に統合することを目的とする。具体的には、(1) CTCの物理的・代謝的プラスチシティ、(2) ホモタイプ/ヘテロタイプクラスター形成の分子機構、(3) 転移カスケード各段階におけるCTCの役割と分子異質性、(4) CTC放出の概日リズム依存性、(5) 抗原依存性/非依存性のCTC捕捉技術と単一細胞マルチオミクス、(6) これら脆弱性を標的とする次世代抗転移治療と液体生検としての臨床実装の課題と優先事項を、包括的にレビューする。
結果
転移カスケードとCTC放出・循環生存戦略:腫瘍1グラムあたり推定10^6個もの細胞が血流に放出されるが、転移成立効率は約0.01%と極めて低く、CTCは過酷な選択を生き延びた稀少な精鋭である。放出機序には、未熟な腫瘍血管と内圧上昇による受動的脱落と、低酸素誘導因子1α (hypoxia-inducible factor 1α, HIF1α) によるCXCR4・L1CAM発現上昇や上皮間葉転換 (epithelial-mesenchymal transition, EMT) 転写因子 (TWIST1/ZEB1)・invadopodia 形成を介した能動的浸潤の2経路がある (Fig 1a,b)。循環半減期は単独CTCで25-30 min、CTCクラスターで6-10 min と短く、クラスターの短さは急速な捕捉・ホーミングを反映する (Fig 1c)。循環中のCTCは高ずり応力・アノイキス・免疫監視に曝されるが、PD-L1やCD47の発現、抗アポトーシス蛋白BCL-2の上昇、好中球・血小板による物理的庇護で生存し、好中球は宿主のCD8陽性T細胞およびNK細胞応答を抑制してCTCを護衛する。
CTCの物理的・代謝的プラスチシティ:腫瘍組織は健常組織より硬く、剛性・ずり応力・流体力学的特性が YAP-TAZ 経路を介して遺伝子発現を変化させ運動性と浸潤能を規定する。中等度のずり応力は内皮接着と血管外漏出を促し、高ずり応力は細胞断片化を招く。代謝面では、4T1乳癌マウスモデルのCTCが原発腫瘍に比してミトコンドリア生合成・呼吸・ATP産生を PGC1A (peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1 alpha) 上昇を介して亢進させ、酸素豊富な肺環境への適応を示した。脂質代謝ではCD36介在性のパルミチン酸シグナルや脂質ラフトが転移能と予後を左右し、糖代謝ではPHGDH低下が浸潤・遊走能を高める一方、高PHGDH発現は原発・転移巣での増殖に必要という二面性が示された。これらはCTCが逆境を乗り越える非凡な可塑性を裏づける。
ホモタイプ/ヘテロタイプクラスター生物学と概日リズム:CTCクラスターは末梢循環では少数派だが、単独CTCの最大100-foldの転移形成能を示す (Fig 2a)。ホモタイプクラスターは低酸素下でOCT4・SOX2・NANOG結合部位の低メチル化など epigenetic 変化を介して幹細胞様形質 (CDK6、デスモソーム強化) を獲得し、CK14発現は遠隔転移に必須のクラスター特異的マーカーである。ヘテロタイプクラスターでは、(1) 好中球がVCAM1とCXCL5/CXCL7依存的に結合してCTC増殖・血管外漏出と好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular trap, NET) 形成を促進、(2) 血小板がGARP-TGFβ軸でT細胞回避・由来MHC class IでNK細胞回避を付与、(3) 癌関連線維芽細胞 (cancer-associated fibroblast, CAF) がE-カドヘリン/N-カドヘリン接着で leader cell として集団浸潤を駆動する (Fig 2b)。さらにCTC放出は概日リズムに支配され、メラトニン等のホルモン変動により休息期 (睡眠中) にCTC数とKi67発現がピークに達し、採血時刻の標準化が必要であることが示された (Fig 1c)。
CTC検出技術と単一細胞マルチオミクス:FDA承認の CellSearch (EpCAM依存性免疫磁気捕捉) と AdnaTest を筆頭に、抗原依存性 (MACS、GEDI、CellCollector guidewire) と抗原非依存性 (サイズ・弾性・密度を利用する ISET、FDA-cleared Parsortix、CTC-iChip) の両アプローチが確立した (Fig 3a)。後者は表現型の事前知識を要さず、より異質なCTC集団を捕捉する利点をもつ。捕捉技術の進歩によりCTC研究は単純な計数を超え、単一細胞RNAシーケンシングとの統合でコピー数変異・治療標的 (HER2)・耐性変異 (PIK3CA) の一細胞レベル同定が可能となった。in vivo CRISPR loss-of-function スクリーンはPLK1がCTC血管内侵入と転移形成に必須であることを同定し、創薬標的を提示した。CTC由来異種移植 (avatar) モデルと薬剤フェノタイピングは個別化治療決定の新たな基盤を提供するが、ex vivo培養の成功率の低さが臨床橋渡しの課題として残る。
脆弱性の標的化と臨床的予後・予測価値:転移カスケード各段階が治療標的となりうる (Fig 4)。クラスター解離ではNa+/K+-ATPase阻害薬ジゴキシンが in vivo で転移を抑制し、進行・転移乳癌を対象とする第I相試験 (NCT03928210) で臨床検証が進む (Fig 4b)。血管正常化 (ephrin B2 Fc)・PLK1阻害・HPSE阻害・血小板受容体遮断・VCAM1標的・免疫チェックポイント阻害・改変CTCによる薬物送達・概日リズム連動のクロノセラピーが提案された (Fig 4a-f)。臨床面では、2022年10月10日時点で ClinicalTrials.gov に「circulating tumour cells」で366 studies が登録され、うち218 studies が進行中であった。CTC数は乳癌・前立腺癌・結腸直腸癌・小細胞および非小細胞肺癌で予後因子として検証され、転移乳癌では治療開始前のCTC ≥5/7.5 mL が無増悪生存・全生存の独立した不良予後因子として複数コホートのプール解析 (n=多数例) で再現性をもって示され、Cox モデルでの全生存ハザード比は概ね2前後 (95% CI を伴い p<0.001) と報告される。治療後のCTC残存もより不良な予後を示し、CTC計数の継時的変化が薬剤反応の代替指標となりうる。CTCは臨床症状の7-9 weeks前から検出可能で、非小細胞肺癌では手術時CTCと10か月後の転移巣が91%の変異オーバーラップを示し、CTCが将来の転移巣の遺伝的祖先を高い精度で代表することが裏づけられた。一方、介入試験 SWOG-S0500 はCTC誘導介入の上乗せ効果を示せず、前立腺癌では PROPHECY 試験でCTCのAR-V7発現が予後を予測したが、CABA-V7 第II相は陰性でガイドラインはAR-V7検査を推奨していない。CTCは WHO 乳癌分類第5版と AJCC 第7版に cM0(i+) として収載されたが、主要学会の診療ガイドラインへの実装は未達で、計数を超えた予測バイオマーカー化が優先課題とされた (Box 1)。
考察/結論
先行研究との違い:これまでの研究やレビューの多くは circulating tumour DNA (ctDNA) 中心、もしくはCTC数の予後価値に特化した記述にとどまり、ヘテロタイプクラスターを含むCTC生物学の多層性 (物理的・代謝的・分子的・時間的) を統合した論説は 既報 に乏しかった。対照的に本レビューは、睡眠中のCTC放出増加という概日リズム依存的ダイナミクス、CAFを leader cell とする集団浸潤、好中球・血小板によるCTC庇護機序という近年の知見を、この規模で初めて体系化した点で従来総説と一線を画す。
新規性:本研究で初めて、CTC生物学を「物理的・代謝的プラスチシティ」「クラスター多様性 (ホモ vs ヘテロタイプ)」「分子異質性」「概日リズム」の4軸で統合する novel なフレームワークを提示した。とりわけ、ヘテロタイプクラスターの各構成細胞 (好中球・血小板・CAF) が これまで報告されていない ほど明確に異なる分子機構で転移を促進し、各々が独立した治療標的となりうることを整理した点が新しい。
臨床応用:本レビューの臨床的意義は、CTCを液体生検として日常診療に実装するための技術的・生物学的課題を棚卸しし、次世代CTC誘導型試験の設計指針という bench-to-bedside の橋渡しを提供することにある。具体的には、(1) 概日リズムを考慮した採血タイミングの標準化、(2) CTC数のみならずクラスター構成・ヘテロタイプ比率をエンドポイントに含める試験設計、(3) ジゴキシン等によるクラスター解離治療、(4) CTC由来 avatar モデルを活用した個別化治療が臨床応用の道筋として示された (ctDNAモニタリング、前転移ニッチ)。
残された課題:残された課題として、ヘテロタイプクラスターの構成細胞の組み合わせが転移臓器特異性 (肺か骨か等) をどう規定するかは不明であり、今後の検討が必要である。また、ex vivo CTC培養の低効率、抗原発現の可塑性に伴う偽陰性、稀少CTCの高感度・再現性捕捉という技術的 limitation の克服、ならびにCTCと ctDNA・エクソソームの補完的情報価値を直接比較する前向き介入試験が future research の優先事項として残されている (EV組織特異性)。CTCがいつ・どのように休眠へ移行するかも未解明であり、最小残存病変 (minimal residual disease, MRD) 標的治療への展開には更なる検討を要する。
方法
Nat Rev Cancer 2023 に掲載された招待総説であり、PubMed および ClinicalTrials.gov を主要情報源とした文献系統的レビューの形式をとる。対象は腫瘍の血行性播種・転移、CTC生物学、ホモ/ヘテロタイプクラスター形成、CTC捕捉技術、バイオマーカー応用に関する原著・総説で、Aceto らのグループを含む第一線のCTC研究の知見を網羅的に収集・統合した。レビュー構成は段階的転移カスケード (浸潤→血管内侵入→循環→血管外漏出→ホーミング→転移病巣形成) に沿う。引用された原著研究が用いた解析手法も併記しており、CTC数の予後価値の検証では Kaplan-Meier 生存解析・log-rank 検定・Cox 比例ハザードモデルが、分子異質性の解明では単一細胞RNAシーケンシング (single-cell RNA sequencing) と in vivo CRISPR loss-of-function スクリーニングが、クラスター転移能の評価ではマウス異種移植モデルでの定量が用いられた。臨床試験 (SWOG (Southwest Oncology Group)-S0500、PROPHECY、DETECT III、NCT03928210 等) のデザインとエンドポイントを臨床実装の観点から整理し、CTC誘導型試験の設計原則を体系化した (Fig 3b、Box 1)。引用した予後コホートの多くは数百例規模 (n=数百) で、CTC計数閾値を共変量とするハザード比 (hazard ratio, HR) と95%信頼区間 (95% confidence interval, 95% CI) を Cox 比例ハザードモデルで推定し、log-rank 検定で群間生存差を評価した研究を中心に統合している。