• 著者: Yufan Yang, Guanyin Huang, Jingru Lian, Chunhao Long, et al.
  • Corresponding author: Chengzhi Hu, Qingfeng Chen, Xin Hong (Southern University of Science and Technology; A*STAR Singapore)
  • 雑誌: BMJ Oncology
  • 発行年: 2024
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 39886139

背景

circulating tumour cell (CTC) は血流中を漂流する腫瘍由来細胞であり、遠隔転移の「種」として古くから注目されてきた。しかし近年、CTCは単一細胞としてだけでなく複数個が凝集したCTCクラスターとして存在し、単一CTCをはるかに上回る転移効率を示すことが明らかになってきた。Aceto et al. 2014 は乳がん患者のCTCクラスターが単一CTCより23〜50-fold高い転移ポテンシャルを持ち、転移巣の約97%がクラスター由来であることを報告し、クラスター研究の基盤を構築した。また、Cheung et al. 2016 はCTCクラスターが血管内を鎖状に再配置して毛細血管を通過できることを示し、従来の「クラスターは血管内で詰まる」という概念を覆した。さらに、Gkountela et al. 2019 はCTCクラスターに特異的なエピゲノムプロファイル (OCT4 (octamer-binding transcription factor 4)/NANOG (homeodomain protein)/SOX2 (SRY-box 2) 結合部位の低メチル化) を同定し、多能性関連遺伝子発現がクラスターの高い腫瘍形成能に寄与することを示した。加えて Sarioglu et al. 2015 はCluster Chipを用いて乳がん・前立腺がん患者の血液からCTCクラスターを高感度で単離し、その技術的実現可能性を初めて臨床検体で実証した。

一方でCTCクラスターの研究には技術的な制約がある。血液検体中におけるCTCクラスターの単離・精製技術は複数開発されているものの、捕捉効率・純度・スループットの面でそれぞれ一長一短があり、臨床応用に向けた標準的な手法はいまだ未確立である。また、腫瘍細胞と好中球・血小板・MDSC・腫瘍関連マクロファージ (TAM) ・cancer-associated fibroblast (CAF) ・赤血球 (RBC) とのあいだで形成される「異種 (heterotypic) クラスター」の分子機序は断片的にしか理解されておらず、各クラスター成分が転移のどの段階でどのように機能するかは手薄な状態であった。とくに治療戦略としてクラスターを標的とする試みは前臨床段階にとどまるものが多く、臨床エビデンスが不足していた。本レビューはこれらの未解明の課題に取り組むべく、最新の単離技術・ホモタイプおよびヘテロタイプクラスターの生物学・治療的介入を包括的に整理した。

目的

本レビューの目的は、(1) CTCクラスター単離に用いられるマイクロフルイディクス等の技術的アプローチを性能指標とともに整理すること、(2) ホモタイプCTCクラスター (腫瘍細胞同士の集合体) およびヘテロタイプCTCクラスター (腫瘍細胞と宿主細胞の集合体) の形成機序・免疫回避・転移促進における生物学的役割を概説すること、(3) 各クラスター成分を標的とした治療介入の前臨床エビデンスおよび臨床試験の現状を総括することにある。

結果

CTCクラスター単離技術の多様性と性能特性

複数のマイクロフルイディクスおよび磁気ビーズベース技術が開発されている。Cluster Chip (三角柱マイクロポスト配列) は4細胞以上のクラスターを99%の効率で捕捉し、3細胞クラスターでは70%、2細胞クラスターでは41%であった。流量は2.5 mL/時、7.5 mL血液の処理に最大3時間を要する (Fig 1)。Cluster-Well (マイクロウェルアレイ) はMDA-MB-231二重細胞クラスターを90%超の効率で回収し、WBC混入率は0.06%未満、血小板混入率は0.025%未満と高純度を実現した。DLD (deterministic lateral displacement; 決定論的側方変位) 2段階デバイスは大型・小型・単一細胞をそれぞれ90%/89%/97%の効率で分離し、RBC除去率は99.99%に達したが、処理速度は0.5 mL/時と低速である。3次元スキャフォールドハイドロゲル法は2細胞クラスターで115.38%、3細胞で98.33%、4細胞で93.62%の回収率を示した (100%超は計数誤差を反映)。HB-Chip (CD41コーティング) はCTC-血小板クラスターを肺がん患者の66%、乳がんの60%、メラノーマの83%で検出し、異種クラスターの臨床的存在を直接示した。EasySepはEpCAM法 (58%) と比較して2倍の捕捉効率を示し、WBC混入率は1%未満を達成した。Magsweeper (磁気ビーズ連続走査) は純度100%・効率80%超を実現し、white cell count (WCC) 混入は2×10⁴個未満であった。これらのデバイスは処理速度・純度・捕捉効率の間にトレードオフがあり、Cluster Chipは高感度ながら低スループット、DLD 2段階は高スループットながら流量制限という特性を持つ。臨床応用における最適デバイス選択は対象クラスターのサイズ分布と目的 (単離後の分子解析 vs 検出のみ) によって判断される必要があり、現状では標準化された比較試験が欠如している (Fig 1)。

ホモタイプCTCクラスターのアノイキス耐性と転移機序

腫瘍細胞同士が凝集したホモタイプクラスターは、単一CTCより23〜50-fold高い転移ポテンシャルを持ち、転移の約97%がクラスター由来であることが動物モデルで示された (Fig 2)。アノイキス (基質非依存性細胞死) への耐性はCD44→γ-セクレターゼ→CD44 ICD (細胞内ドメイン) →Rac1-Pak2シグナル軸によって付与される。CD44シェディングにより生成されたICDが核に移行し、Rac1/Pak2を活性化してアポトーシスを回避する。また、intercellular adhesion molecule (ICAM) がCTC凝集体の形成を媒介し、プラコグロビン (plakoglobin) がアドヘレンスジャンクションおよびデスモソームを安定化させることでクラスターの構造的完全性を保つ。エピゲノム解析ではOCT4/NANOG/SOX2の結合部位が選択的に低メチル化されており、幹細胞性関連遺伝子の発現上昇がクラスターの高い腫瘍形成能を支えている。この幹細胞性プログラムはDNA複製関連遺伝子の上昇と組み合わさり、クラスター解離後の単一細胞状態でも転移巣においてコロニー形成能が持続することが示された。低酸素環境はクラスター形成を促進する一方、抗血管新生療法は逆説的にCTCクラスター数と転移を増加させ、血管新生促進療法は乳がんマウスモデルで転移負荷を軽減した。この逆説的効果は抗血管新生療法による低酸素誘導がクラスター形成シグナルを活性化させるためと考えられ、少なくとも一部の患者において治療効果が転移播種の増加によって相殺される可能性を示す重要な知見である。形態的には鎖状再構築によって毛細血管径よりも大きいクラスターが通過を可能にしており、クラスターは循環中の物理的制約を動的な細胞再配置によって克服していることが明らかになった。

CTC-好中球・CTC-血小板クラスターによる免疫回避

ヘテロタイプクラスターのなかでもCTC-好中球クラスターは特に転移に直結する。VCAM1 (vascular cell adhesion molecule 1) とMAC-1 (macrophage-1 antigen)/ICAM-1がCTCと好中球の接着を媒介し、好中球が分泌するロイコトリエンは腫瘍形成性サブポピュレーションを拡大させる。さらに好中球はCTCの増殖を直接支援し、細胞周期を促進する (Fig 3)。CTC-血小板クラスターは複数の機序でNK細胞を回避する。血小板から腫瘍細胞へのRGS18 (regulator of G-protein signaling 18) 移行により、HLA-E:CD94-NKG2A軸が活性化されてNK細胞の細胞毒性が阻害される。血小板由来のMHC-I分子が腫瘍細胞表面に発現して「自己」を偽装する。加えてTGFβ (トランスフォーミング増殖因子β) がEMT (上皮-間葉転換) を誘導し、P-セレクチン/CD97/αIIbβ3が接着を強固にする。これらの機序により、n=22例の乳がんモデルにおいてCTC-血小板クラスターの存在が肺転移効率を有意に上昇させることが示された。

CTC-MDSC・CTC-TAM・CTC-CAF・CTC-RBCクラスターの転移促進機序

骨髄由来抑制細胞 (MDSC; 多形核MDSC = PMN-MDSC) とのクラスターにおいては、Notch1-Jagged1/Nodal-Cripto軸の活性化と活性酸素種 (ROS) 産生増加が確認され、転移ポテンシャルが増強される。Sprouse et al. のデータではCTC-PMN-MDSCクラスターが単一CTC比較で転移形成能を有意に増大させることが動物実験で示された。M2様腫瘍関連マクロファージ (TAM) とのクラスターはJAK2/STAT3/miR-506-3p/FoxQ1軸を介してEMTを促進し、SLCCモデルではCTCが単球のTAMへの分化を誘導することも示された (Fig 4)。JAK2/STAT3シグナルの下流でFoxQ1が活性化され、E-カドヘリン発現が抑制されるとともにN-カドヘリン・ビメンチン発現が増加してEMT形質が強固になる。CAF (cancer-associated fibroblast; がん関連線維芽細胞) とのクラスターでは物理的接触によりCXCL10/CCL5が分泌されてECM (細胞外マトリックス) 再構築が駆動され、S100A4依存的なECMリモデリングおよびCD44媒介接着がCAFとの結合を安定化する。CXCRリガンド-受容体軸の下流では走化性および転移部位への定着が促進される。CTC-RBCクラスターにおいてはガレクチン4が接着を媒介し、血管内皮への接着亢進と血管外遊走の促進が確認された。cancer-associated thrombosis (CAT) とCTC-RBCクラスターの形成は密接に関連し、凝固機能亢進がCTCの血行性播種に有利な環境を提供する。各ヘテロタイプクラスター成分はこのように固有のシグナルネットワークを介して転移の異なる段階を加速しており、腫瘍微小環境の構成要素が血流中においても転移促進的に機能し続けることが示された (Fig 5)。

クラスターを標的とした治療的介入の前臨床・臨床エビデンス

ホモタイプクラスターに対する治療では、CD44拮抗抗体 (RG7356; Phase I、限定的効果)、Angstrom6 (CD44 mAb)、ナイスタチン (脂質ラフト破壊によるCD44シェディング抑制) が試験されている。γ-セクレターゼ阻害薬ではMRK003が前臨床で有効性を示し、Nirogacestat (PF-03084014) は硬性線維腫 (desmoid tumor) を対象としたPhase III DeFi試験で無増悪生存期間 (PFS) および奏効率 (ORR) の統計的有意な改善を達成した。DeFi試験の結果はγ-セクレターゼ阻害が腫瘍の種類を問わず抗転移活性を持つ可能性を示唆しており、CTC cluster文脈での展開が期待される。ICAM1阻害薬A-205804はin vitroでCTC凝集を47%抑制し、Akt/Rac1-Pak2二重阻害薬KP372-1も前臨床モデルで転移巣形成数を有意に低下させた。CTC-好中球標的ではCanakinumab (抗IL-1β抗体) がCANTOS試験において肺がん発生率の低下をもたらし、Anakinra (IL-1R1拮抗薬) が直腸がんPhase Iに進んでいる。IL-6/IL-6R経路ではsiltuximab/tocilizumabが試験されている。CTC-血小板標的ではMonalizumab (抗NKG2A抗体; Phase 1/2進行中) およびTFL-033 (抗HLA-E mAb; NK細胞・CD8+T細胞細胞毒性を回復) が開発されており、とくにmonalizumabはNSCLC患者を対象とした共同試験で奏効データが蓄積されつつある。CTC-CAF標的ではCXCR2拮抗薬SB225002およびCXCR3拮抗薬AMG487がマウスモデルで肺転移を有意に抑制し、S100A4阻害薬のカンタリジン/ノルカンタリジンを化学療法と併用したPhase II胃がん試験でQOL (生活の質) の有意な改善が報告された。CTC-MDSC標的ではNotch阻害薬crenigacestat/CB-103がPhase I/IIに進行中である。CTC-RBC関連の血栓症 (cancer-associated thrombosis; CAT) にはlow-molecular-weight heparin (LMWH) が推奨されており、CATの制御がCTC-RBCクラスター形成そのものを間接的に抑制する可能性も指摘されている (Fig 5)。

考察/結論

本レビューが示したCTCクラスターの生物学は、単一CTCの数を指標とする従来の液体生検アプローチ (Ring et al. NatRevCancer 2023) と異なり、クラスターが独自の分子プログラムを持つ転移の「積極的主体」であることを明確にした。特に転移の約97%がクラスター由来であるという知見は、抗転移療法の設計においてクラスター解体を中心的戦略に据えるべきことを強く示唆する。

ホモタイプクラスターの文脈においてはCD44-γ-セクレターゼ-Rac1-Pak2軸とICAM1が本研究で初めて統合的に整理されたキー経路であり、Nirogacestatのような市販薬ないし臨床試験薬がこの経路を直接標的できる点は臨床応用に直結する意義を持つ。DeFi試験でのPFSおよびORR改善という結果は、γ-セクレターゼ阻害が腫瘍サブタイプを超えて有効である可能性を示す新規な臨床エビデンスとして注目される。一方、ヘテロタイプクラスター各成分の機序は病型特異性が高く (Gvozdenovic et al. TrendsCancer 2025)、例えばCTC-血小板のHLA-E:NKG2A軸はNSCLC/消化器がんでの試験が先行するmonalizumabの適応拡大根拠になり得るが、実際の血液中におけるCTCクラスターの定量的評価が未標準化の現状では患者選択の指標が確立されていない。

残された課題として次の3点が挙げられる。第一に、単離技術間の捕捉効率・純度・スループットの差は依然として大きく、どのデバイスが最終的な臨床診断基準になり得るかを前向き比較する大規模試験が必要である。HB-Chipのような抗原特異的捕捉は特定の異種クラスターを検出するには優れるが、HLA-E陰性CTCやEpCAM低発現クラスターを見逃すリスクがある。第二に、ヘテロタイプクラスターの治療標的は前臨床での有望なエビデンスが多い一方、臨床試験で「クラスター解体」を主要エンドポイントとして設定した研究は存在せず、薬剤効果の生体内検証が不十分である。第三に、低酸素・抗血管新生療法がCTCクラスター形成を逆説的に増加させるという知見は、現行の抗血管新生療法レジメンが転移播種を促進している可能性を示唆しており、臨床試験データの再解析と安全性の再評価が求められる。

これらの課題を克服し、CTCクラスターを液体生検の新たな定量マーカーとして (Keller et al. NatRevCancer 2019)、かつ転移制御のターゲットとして実装できれば、がん患者の予後改善に新たな次元の介入機会をもたらすことが期待される。

方法

本総説はPubMed/MEDLINEを主なデータソースとして、CTCクラスターに関する英語文献を系統的に検索した。検索キーワードには “circulating tumour cell cluster”、“CTC cluster”、“microfluidic isolation”、“heterotypic cluster”、“metastasis”等を組み合わせて使用した。対象はin vitro実験・動物モデル・臨床研究を含む原著論文、総説、臨床試験報告とし、発表年の制限は設けなかったが2020年以降の論文を重点的に収録した。各単離技術の性能比較では捕捉効率 (capture rate)・純度 (WBC混入率)・処理速度 (流量) の3指標を主軸に記述した。クラスターの転移ポテンシャル評価には、生体内転移アッセイ (尾静脈注射・乳腺脂肪体注射モデル) におけるコロニー形成能や生存率をエンドポイントとし、統計解析としてMann-Whitney U検定・log-rank検定を用いた研究を含む複数の論文から数値を引用した。治療的介入に関しては前臨床マウスモデルのデータおよびPhase I〜III臨床試験の結果を分類・統合した。各クラスターの分子機序については細胞シグナリング経路の上流-下流関係を軸に記述し、キナーゼ・サイトカイン・接着分子の役割を統合的に論じた。報告された数値の信頼区間 (CI) と有意水準 (p値) はMann-Whitney U検定またはlog-rank検定を基軸とする原著論文から抽出し、本レビューでは統計的有意差が確認された知見を中心に転移機序の議論を構成した。転移アッセイの結果はin vivoモデルにおけるコロニー形成数の群間比較として示し、ヘテロタイプクラスターの臨床検体における検出率は患者コホートごとにパーセンテージで記載した。