- 著者: Scott Haston, Estela Gonzalez-Gualda, Samir Morsli, et al.
- Corresponding author: Scott Haston (UCL) / Daniel Munoz-Espin (Cambridge) / Juan Pedro Martinez-Barbera (UCL)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-06-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 37267953
背景
細胞老化は、細胞周期の不可逆的な停止と、SASP (senescence-associated secretory phenotype) と呼ばれる炎症性サイトカイン、ケモカイン、増殖因子などの分泌を特徴とする細胞状態である。SASP成分はIL-6、IL-8、TNF-α、MMP類、VEGFなどを含み、傍分泌的または自己分泌的に非老化細胞の腫瘍化を促進することが知られている。細胞老化は当初、DNA損傷やテロメア短縮などに対する腫瘍抑制メカニズムとして認識されていたが、その後の研究により、SASPを介した腫瘍促進的な二面性も明らかになった Gorgoulis et al. Cell 2019。特に、腫瘍微小環境 (TME) における老化細胞の蓄積は、免疫抑制、血管新生促進、および腫瘍細胞の増殖促進に寄与すると示唆されてきたが、in vivo でどの細胞種が主要な老化細胞集団を形成し、どのように腫瘍形成に寄与するかについては、直接的な解析が不足していた。
KRAS変異型肺癌は非小細胞肺癌 (NSCLC) の約30%を占め、治療抵抗性が大きな課題である。KRAS変異は細胞老化を誘導しうるが、腫瘍細胞自体が老化状態を維持するか、あるいはTME内の間質細胞が老化するかは、細胞コンテキストや腫瘍の進行段階によって異なると考えられていた。progeroidマウスや自然老化マウスを用いた先行研究では、p16陽性細胞の除去が加齢関連障害を遅延させ、自発的腫瘍形成を抑制することが報告されている Baker et al. Nature 2011。しかし、KRAS駆動型肺癌モデルにおいて、特定の老化細胞集団、特に老化マクロファージを特異的に追跡し、除去した際の腫瘍形成への影響を詳細に解析した研究はこれまで報告されていなかった。また、老化マクロファージが分泌するSASP成分のうち、どの因子が腫瘍促進的に機能するのか、その分子メカニズムも未解明な点が残されていた。これらの知識ギャップを埋めることは、新たな治療戦略の開発に不可欠である。本研究は、KRAS駆動型肺癌における老化細胞の役割に関するこれらの知識ギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の目的は、KRAS駆動型肺癌の腫瘍微小環境 (TME) における老化細胞のアイデンティティを in vivo で同定し、その腫瘍形成への寄与を定量的に解析することである。特に、p16-FDR (p16-fluorescent and destabilized reporter) マウスモデルを新規に開発し、老化細胞の可視化、遺伝的追跡、および選択的除去を可能にすることで、老化マクロファージがKRAS駆動型肺癌の発生と進行に果たす役割を明らかにすることを目指した。さらに、老化マクロファージに特異的なSASP因子と表面タンパク質を同定し、それらが腫瘍細胞の増殖に与える影響を機能的に検証する。最終的に、遺伝的またはセノリティックな老化細胞除去、あるいはマクロファージ枯渇が腫瘍負荷の軽減と生存期間の延長をもたらすかを2つのKRASマウスモデルで検証し、セノリティック療法の前臨床的エビデンスを構築することを目的とした。また、ヒトの肺前悪性病変においても老化マーカーを発現するマクロファージの存在を確認し、臨床的意義を評価することも目的とした。
結果
KRAS駆動型肺癌における老化細胞の同定とマクロファージの優位性: 新規開発したKY-FDRマウスモデルを用いて、AdCre投与8週後の腫瘍担癌肺におけるmCherry+老化細胞を解析した。その結果、mCherry+細胞の63% ± 17.8%がCD68+マクロファージであり、次いでPECAM+内皮細胞が24% ± 10.7%を占めることが明らかになった (Fig 2C, 2D)。T細胞 (CD3+: 5% ± 1.9%)、B細胞 (CD19+: 1.5% ± 2.5%)、肺胞細胞型I (AQP5+: 6.5% ± 1.4%) は少数であった。また、CD68+マクロファージの35% ± 9.3%がmCherry+であり、PECAM+内皮細胞の39% ± 9.8%がmCherry+であった (Fig 2E)。さらに、p16INK4a+細胞の80% ± 7.01%がCD68を発現し、CD68+マクロファージの25.6% ± 6.1%がp16INK4aを発現した。老化マクロファージはM2様 (CD206+) 表現型が優位であり (66.7% ± 9.4% vs M1 iNOS+: 4.5% ± 0.5%)、免疫抑制的な性質を持つことが示唆された。腫瘍誘導2週後のYFP+腫瘍細胞ではp16陽性率50% ± 2.3%であったが、8週後には1% ± 0.8%へ劇的に低下し (p=0.0001)、腫瘍細胞自体は早期老化から増殖状態へ移行することが示された (Fig 1G)。
老化マクロファージ特異的SASP因子と表面マーカーの同定: mCherry+細胞とmCherry-細胞のscRNA-seq解析により、mCherry+間質マクロファージとmCherry-対照との間で783遺伝子が差次的発現を示した。老化マクロファージに特異的なSASP因子として、Bmp2、Il10、Ccl2、Ccl7、Ccl8、Ccl24、Cxcl13、Fcna (他の全肺細胞種と比較して特異的に高発現する8因子) が同定された (Fig 3F, 3G)。また、表面マーカーとしてFolr2、Cd209g、Cd209f、Cd163が同定された。これらの老化マクロファージSASP・表面マーカーシグネチャは、老化 (20〜22ヶ月齢) p16FDR/+マウスの肺においても完全に保存されていた (Fig 3H)。機能的検証として、FACS分離したYFP+腫瘍細胞を各因子で培養したところ、IL-10が総細胞数を29% ± 6.8%増加させ、CCL2が25% ± 1.8%増加させた。これは、これらのSASP因子が腫瘍細胞の増殖を直接促進することを示唆する。
遺伝的およびセノリティックな老化細胞除去による腫瘍縮小効果: KY-FDRマウス (n=8 mice、AdCre投与後8週) へのDTまたはABT-737投与により、mCherry+細胞比率が有意に減少した (p=0.002, p=0.006) (Fig 4G)。これに伴い、Ki67+腫瘍細胞比率も両群で有意に低下した (p=0.0244, p=0.0021) (Fig 4K)。Kras-FSFG12Vモデル (腫瘍誘導10.5ヶ月後) のmicro-CT解析では、腫瘍体積がvehicle群で66.09 ± 33.11 mm³ (n=5 mice) に対し、ABT-737群で22.53 ± 10.38 mm³ (n=7 mice) へ有意に減少した (p=0.0295) (Fig 5F, 5G)。生存曲線解析では、ABT-737投与群の生存期間が有意に延長した (p<0.05) (Fig 5H)。このモデルでも、F4/80+マクロファージの36.9% ± 16.0%がp16INK4aを発現し、p16INK4a+細胞の45.1% ± 25.6%がF4/80+であり、老化マクロファージの優位性が再現された。
抗CSF1R抗体によるマクロファージ特異的除去の効果: KY-FDRマウス (n=8 mice) への抗CSF1R抗体投与 (300 µg、週2回、7週間) により、CD68+マクロファージが有意に減少し (p=0.0001)、YFP+腫瘍病変数も有意に減少した (p=0.0001) (Fig 6E, 6F)。mCherry+老化細胞比率の低下はマクロファージ特異的であり、PECAM+内皮細胞のmCherry発現は変化しなかった (Fig 6I)。この結果は、セノリティックによる広範な老化細胞除去効果の主要部分がマクロファージ除去に起因することを直接的に示した。
老化細胞除去によるTMEの免疫調節と血管新生抑制: DTまたはABT-737による老化細胞除去は、腫瘍病変におけるFOXP3+Treg細胞の有意な減少 (p=0.0114, p=0.039) と、CD4+およびCD8+T細胞の有意な増加をもたらした (Fig 7B, 7C, 7E)。これは、免疫抑制的なTMEが免疫刺激的なTMEへと転換されたことを示唆する。さらに、内皮細胞マーカーであるエンドムシン (Endomucin) の発現が腫瘍病変内で有意に減少し (p=0.0447, p=0.0211)、腫瘍内血管網の破壊が示唆された (Fig 7G, 7H)。抗CSF1R抗体によるマクロファージ除去後も、CD8+T細胞の増加が観察され、マクロファージが腫瘍免疫調節に重要な役割を果たすことが裏付けられた。
ヒト肺前悪性病変における老化マクロファージの存在: ヒトNSCLC検体 (AAH、AIS、ADC) の解析では、p16INK4aおよびp21Cip1の発現が、AAHおよびAISといった早期の前悪性病変で最も高く、ADCでは低かった (Fig 8B)。CD68+マクロファージにおけるp16INK4aまたはp21Cip1の共発現は、AAHおよびAISで高頻度で観察されたが、ADCではほとんど見られなかった (Fig 8C, 8D)。さらに、マウス老化マクロファージで同定された表面マーカーであるCD163およびFOLR2も、ヒトAAHおよびAISのp16INK4a陽性マクロファージで発現が確認されたが、ADCでは見られなかった (Fig 8E, 8F)。これらの結果は、マウスモデルの知見がヒトの肺がん発生初期段階にも関連することを示唆している。
考察/結論
本研究は、KRAS駆動型肺癌の腫瘍微小環境 (TME) における老化細胞のアイデンティティを in vivo で体系的に同定した最初の研究であり、p16-FDRという革新的な遺伝子ツールを用いて老化細胞の可視化・追跡・選択的除去を同一モデルで実現した点が最大の新規性である。これまで、老化線維芽細胞や腫瘍細胞自体が主要な老化細胞集団と仮定されることが多かった先行研究と異なり、本研究はCD68+マクロファージが腫瘍関連老化細胞の63%超という圧倒的割合を占めることを初めて定量的に示した。
scRNA-seqで同定された8種の老化マクロファージ特異的SASP因子 (Bmp2、Il10、Ccl2、Ccl7、Ccl8、Ccl24、Cxcl13、Fcna) が他の全肺細胞種には発現せず、老化マクロファージに特異的であるという知見は、治療標的としての精度を高める。特に、IL-10とCCL2が腫瘍細胞増殖をそれぞれ29%および25%促進するという機能的証明は、SASP因子の直接的な腫瘍促進機序を支持する。また、この老化マクロファージのSASPシグネチャが自然老化肺でも完全に保存されていたことは、加齢関連肺癌リスクとの連動を示唆する新規な発見である。
臨床的意義として、本研究結果はKRAS変異肺癌に対する新たな治療戦略の可能性を提示する。ABT-737 (BCL-2/BCL-xL阻害薬) の後継薬であるナビトクラックス (navitoclax) は既に臨床試験段階にあり、本結果はKRAS変異肺癌への適用可能性を示す。また、老化マクロファージ特異的表面マーカー (Folr2、Cd163) は、FOLR2/CD163を標的とした選択的除去戦略の開発へ応用できる可能性がある。ヒトの前悪性肺病変 (AAH、AIS) においても老化マーカーを発現するマクロファージが確認された点は、早期介入による癌予防戦略の可能性を示唆する。
残された課題として、(1) セノリティク療法と免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の併用効果の前臨床・臨床検証、(2) ヒト進行NSCLC手術検体における老化マクロファージの定量と予後との関連性の詳細な解析、(3) 老化マクロファージ除去後のTME再構築における詳細なメカニズム解明 (CD8+ T細胞増加やTreg減少が示唆されているが、定量的解析と詳細なメカニズム解明は限定的である)、(4) 本モデルの他のKRAS変異癌種 (膵癌・大腸癌) への拡張、および (5) 老化マクロファージのSASPを標的とした抗体療法や特異的遮断薬の開発が挙げられる。これらの今後の検討課題に取り組むことで、老化細胞を標的とした癌治療のさらなる進展が期待される。
方法
p16-FDRマウスモデルの新規開発と検証: Cdkn2a (p16) プロモーターの3’末端に、FLPo (mammalian optimized FLP-recombinase) 組換え酵素とDTR (diphtheria toxin receptor)/mCherry融合タンパク質をコードするFDR (Flippase, Diphtheria toxin receptor and Reporter) カセットを組み込んだp16-FDRマウスモデルを新規に作製した (Fig 1A)。このシステムにより、老化細胞のmCherryによる可視化、FLPoを介した遺伝的追跡 (frt-STOP-frt-GFPレポーターによるGFP発現)、およびDTRを介したジフテリア毒素 (DT) による選択的除去が可能となった。初代マウス胎児線維芽細胞 (MEF) を用いて、p16-FDRアレルが細胞老化に応答して活性化されること、およびDT処理により70%以上の細胞死が誘導されることを in vitro で確認した。
KRAS駆動型肺癌マウスモデルの作製と解析: KRAS駆動型肺癌モデルとして、KrasG12D/+; p16FDR/+; Rosa26lox-STOP-lox-YFP/+ (KY-FDR) 三重遺伝子改変マウスを作製した。このモデルでは、Cre組換え酵素の鼻腔内投与 (AdCre) により、KRASG12D変異とYFPが同時に発現し、YFPでKRAS腫瘍細胞を、mCherryでp16INK4a発現老化細胞をデュアルラベルした (Fig 1C)。第2のモデルとして、Kras-FSFG12V/+マウスにAdFLPを気管内投与し、腫瘍を誘導した。
老化細胞の除去と腫瘍形成への影響評価: 老化細胞の除去は、KY-FDRマウスにおいてDT (10 ng/g体重、週2回) またはセノリティック薬ABT-737 (BCL-2/BCL-xL阻害剤、25 µg/g体重、週1回) をAdCre投与後8週間投与することで実施した (n=8 mice)。Kras-FSFG12V/+マウスでは、腫瘍誘導後10.5ヶ月までABT-737を投与した (n=5〜7 mice)。マクロファージ特異的除去のため、KY-FDRマウスに抗CSF1R抗体 (300 µg、週2回、7週間) を投与した。腫瘍負荷は、フローサイトメトリー (FACS) によるYFP+腫瘍細胞の割合、組織学的解析による腫瘍病変数、およびmicro-CTによる腫瘍体積 (Kras-FSFG12Vモデル) で評価した。生存期間はカプラン・マイヤー曲線で解析した。
分子生物学的解析: 腫瘍担癌肺からFACS分離したmCherry+細胞 (n=1,060 cells) とmCherry-細胞 (n=7,652 cells) を用いて、10x GenomicsプラットフォームによるシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) を実施した Zheng et al. NatCommun 2017。データ解析にはSeurat (v4.0.3) を用い Hao et al. Cell 2021、sctransformで正規化し Hafemeister et al. GenomeBiol 2019、細胞種アノテーションと差次的遺伝子発現解析を行った。バルクRNAシーケンスも実施し、DESeq2で差次的発現解析を行った Love et al. GenomeBiol 2014。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) は Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005 に基づき実施した。免疫組織化学 (IHC)、多重免疫蛍光染色、フローサイトメトリー、およびxCell deconvolution解析を用いて、老化細胞の細胞種同定、SASP因子発現、およびTMEにおける免疫細胞構成の変化を評価した。
ヒト肺組織検体の解析: ヒトの非小細胞肺癌検体 (異型腺腫様過形成 AAH n=16、上皮内腺癌 AIS n=4、腺癌 ADC n=3) を用いて、p16INK4a、p21Cip1、Ki67、CD68、CD163、FOLR2の発現を免疫組織化学で解析した。
統計解析: 全てのデータは平均 ± 標準誤差 (SEM) または標準偏差 (SD) で示し、一元配置分散分析 (one-way ANOVA) または両側Studentのt検定を用いて統計学的比較を行った。生存曲線はログランク検定で解析した。p値が0.05未満を有意とした。