• 著者: Gareth R. Hardisty, Frances Llanwarne, Danielle Minns, Jonathan L. Gillan, Donald J. Davidson, Emily Gwyer Findlay, Robert D. Gray
  • Corresponding author: Robert D. Gray (Centre for Inflammation Research, University of Edinburgh, Edinburgh, UK)
  • 雑誌: Frontiers in Immunology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-06-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34168640

背景

好中球は生体防御の最前線で機能する主要な免疫細胞であるが、その不均一性 (heterogeneity) は長らく議論の的となってきた。特に、低密度好中球 (LDN: Low-density neutrophils) は、密度勾配遠心分離において末梢血単核細胞 (PBMC: Peripheral Blood Mononuclear Cells) 層に分離される好中球サブセットとして、癌、自己免疫疾患、感染症、敗血症など様々な炎症性疾患で報告されてきた。これらの疾患関連LDNは、通常密度好中球 (NDN: Normal-density neutrophils) とは異なる炎症促進性または免疫抑制性の機能を持つとされ、病態生理に寄与するメカニズム的役割が示唆されてきた。例えば、全身性エリテマトーデス (SLE: Systemic Lupus Erythematosus) におけるLDNは、高炎症性であり、I型インターフェロンを産生し、T細胞を活性化してTNFαやII型インターフェロンを産生するとRahman et al. (2019)により報告されている。また、癌においては、LDNがT細胞増殖を抑制することがSagiv et al. CellRep 2015により示されている。

しかし、先行研究の多くは、疾患患者から分離されたLDNを、疾患患者または健常者のNDNと比較する一方で、健常者由来のLDNを体系的に評価した対照群が不足しており、LDNが真に独立した系統的サブセットであるのか、あるいは単に好中球の活性化状態を反映したものであるのかという根本的な問題が未解明であった。さらに、LDNの分離方法も研究間で一貫性がなく、FACS (Fluorescence-activated cell sorting) や磁気ビーズ分離、密度勾配遠心分離の組み合わせなど、様々なプロトコルが用いられてきた。これらの分離方法の違いが、好中球の活性化状態に影響を与え、結果として報告されるLDNの表現型や機能にアーティファクトを生じさせている可能性も指摘されている (Zhou et al. 2012)。例えば、PBMC層からの好中球分離は、単球の存在下で好中球の活性化を引き起こす可能性がある (Quach et al. 2017)。また、LDNの同定に用いられる表面マーカーも研究間で異なり、普遍的なLDNマーカーが不足していることも、LDNの定義と理解を複雑にしている。

これらの背景から、健常者におけるLDNの存在とその機能的特性を明確にすることは、疾患におけるLDNの役割を正確に理解するために不可欠である。本研究は、健常者から高純度のLDNを単離する標準化されたプロトコルを確立し、健常LDNとautologous NDN、さらに嚢胞性線維症 (CF: Cystic Fibrosis) 患者由来のLDNを比較することで、LDNが機能的に独立した好中球サブセットであるか否かを検証することを目的とした。

目的

本研究の目的は、健常者末梢血から高純度 (>95%) の低密度好中球 (LDN) を単離する新規プロトコルを確立することである。このプロトコルを用いて単離された健常LDNの表現型および機能的特性を、同一ドナー由来の通常密度好中球 (NDN) と比較し、LDNが独立した好中球サブセットであるか、あるいは活性化状態を反映するものであるかを検証する。さらに、炎症性刺激によるNDNからLDNへの移行の可能性を検討し、嚢胞性線維症 (CF) 患者におけるLDNの動態を評価することで、疾患におけるLDNの役割と、密度による好中球分類の妥当性について考察する。具体的には、以下の点を明らかにする。

  1. 健常者から高純度かつ機能アッセイに十分な量のLDNを単離する効率的なプロトコルの開発。
  2. 健常LDNとautologous NDNの表面マーカー発現、アポトーシス、活性酸素種 (ROS: Reactive Oxygen Species) 産生、NET (Neutrophil Extracellular Traps) 形成能、T細胞増殖抑制能の比較。
  3. 炎症性刺激 (TNF, LPS, fMLF) がNDNの密度に与える影響、すなわちNDNからLDNへの移行の検証。
  4. 嚢胞性線維症患者におけるLDNおよびNDNの数、アポトーシス抵抗性、NET形成能の評価。

これらの検証を通じて、LDNの生物学的意義と、その臨床的応用における限界を明確にすることを最終的な目的とする。

結果

高純度LDN単離プロトコルの確立: 本研究で開発したネガティブ磁気選択と3層Percoll密度勾配遠心分離を組み合わせたプロトコルにより、健常ドナー12 mLの全血から、平均630,000個のLDNを95%以上の高純度で単離することに成功した (Figure 1C-E)。これは全好中球の平均3.62%に相当し、機能アッセイに十分な細胞数であった (Figure 1G)。従来のPercoll密度勾配法では、LDNはリンパ球や単球と混在して分離されたが (Figure 1B)、本プロトコルでは細胞ソーティングを必要とせず、高純度なLDN集団が得られた。フローサイトメトリーによるLDN数はn=5 donorsで794,000個であり、全好中球の2.95%を占めた (Figure 1F)。新規プロトコルではn=10 donorsから平均630,000個のLDNが単離され、全好中球の3.62%に相当した (Figure 1G)。

健常LDNとNDNの表現型の類似性: 健常ドナー由来のLDNとautologous NDNの表面マーカー発現をフローサイトメトリーで比較した結果、CD16, CD15, CD10, CD66b, CD62L, CD11b, CD54, CXCR2, CD47のいずれのマーカーにおいても、両集団間に統計的に有意な差は認められなかった (Figure 2B, C)。先行研究では、疾患LDNの識別に用いられたこれらのマーカーが、健常LDNとNDNを区別できないことが示された。これは、これらのマーカーがLDNの普遍的な特徴ではなく、疾患特異的な活性化プロファイルを反映している可能性を示唆する。また、LDNとNDNの自己蛍光スペクトルにも有意な差は認められなかった (Figure 2E)。これらの解析はn=5 donorsから得られた細胞を用いて行われた。

NET形成能における軽微な差異: PMA刺激によるNET形成能を比較した結果、健常LDNはNDNと比較して、6時間のタイムコースでNET産生が低下する傾向を示したが、統計的有意差には達しなかった (Figure 3A)。免疫蛍光染色によるMPO+NE+DNA+のNET形成細胞の割合を4時間後に定量した結果でも、LDNとNDN間に有意な差は認められなかった (Figure 3C, D)。このアッセイはn=5 donorsの細胞を用いて実施された。これは、従来の「LDNはNET形成能が亢進している」という主張が、健常ベースラインでは当てはまらないことを示唆する。

アポトーシスとROS産生における同等性: 20時間培養後のアポトーシス率をAnnexin V/PI染色で評価した結果、健常LDNとNDNのいずれも約70%の細胞がアポトーシスを起こしており、両集団間に有意な差は認められなかった (Figure 3E)。同様に、fMLF刺激によるROS産生能も、LDNとNDN間で同等であった (Figure 3F, G)。これらの結果は、n=5 donorsの細胞を用いた実験であり、健常LDNがNDNと比較して、細胞寿命や殺菌能力に本質的な違いがないことを示唆する。

T細胞増殖抑制能の類似性: CD3/CD28抗体で活性化されたT細胞とLDNまたはNDNを96時間共培養し、T細胞の増殖とIFNγ産生を評価した (Figure 4A)。LDNおよびNDNのいずれも、T細胞単独培養と比較してCD4+およびCD8+ T細胞の増殖を有意に抑制したが (Figure 4E, I)、LDNとNDNの間でT細胞増殖抑制能やIFNγ産生に有意な差は認められなかった (Figure 4C, D, G, H)。この結果は、n=3 donorsの細胞を用いた実験であり、「LDN特異的な免疫抑制」が健常条件下では再現されないことを示している。

NDNからLDNへの変換の証明: 健常ドナー由来のNDNをTNF、LPS、またはfMLFで2時間刺激した後、再度Percoll密度勾配遠心分離に供したところ、刺激されたNDNは主にLDN層に移行することが確認された (Figure 5B, C)。これは、n=4 donorsの細胞を用いた実験であり、LDNが独立した細胞系統ではなく、炎症性刺激による活性化状態の変化に伴う密度シフトであることを直接的に示すメカニズム的証拠である。刺激されたNDNは、核構造は成熟した分葉核を維持しつつも、fMLF処理細胞では細胞質に空胞化が、LPS処理細胞では細胞表面の膜ラッフルや突起が観察された (Figure 5D)。

嚢胞性線維症患者における好中球の動態: 嚢胞性線維症 (CF) 患者 (n=5 patients) における好中球数を評価した結果、NDN数は健常者と比較して有意に増加していた (p=0.0047, Figure 6A)。しかし、LDNの割合はCF患者で4.64% (健常者3.62%) と健常者と同程度であり、LDNの絶対数も健常者と近似していた (Figure 6A)。このことから、CFにおける好中球増加症は主にNDNの増加によって駆動され、LDNの寄与は限定的であることが示唆された。CF患者のNDNおよびLDNは、健常者と比較してアポトーシス抵抗性を示すpro-survival表現型を示したが、CF NDNで平均45.23% ± 10.43% (SEM)、CF LDNで53.18% ± 10.26%の生存率を示した (Figure 6B)。CF LDNのNET形成能はCF NDNよりも低い傾向にあった (Figure 6C)。

考察/結論

本研究は、健常者から高純度のLDNを単離する新規プロトコルを開発し、健常LDNがautologous NDNと表面マーカー発現、アポトーシス、ROS産生、T細胞増殖抑制能においてほぼ同等であることを示した。唯一の例外は、PMA刺激によるNET形成能がLDNでわずかに低下する傾向にあった点である。さらに、TNF、LPS、fMLFなどの炎症性刺激によりNDNがLDN層へと移行することを確認し、LDNが独立した好中球サブセットではなく、好中球の活性化状態を反映した密度シフトである可能性を強く示唆した。この知見は、「LDNは独立した好中球サブセットである」というこれまでのパラダイムに直接挑戦するものである。

先行研究との違い: 多くの先行研究は、疾患LDNと疾患/健常NDNを比較する際に、健常LDNを対照群として含んでいなかった。また、LDNの分離方法も不均一であり、細胞活性化のアーティファクトが報告される表現型に影響を与えていた可能性がある。本研究では、健常LDNとautologous NDNを直接比較し、さらに好中球の活性化が密度に与える影響を直接的に検証することで、これまでの研究では見過ごされてきた健常LDNのベースライン特性を明確にした。特に、Sagiv et al. CellRep 2015などで報告された疾患特異的なLDN表現型は、本研究の健常LDNでは再現されず、疾患コンテキスト特異的な活性化の産物である可能性が示唆される。

新規性: 本研究で開発した高純度LDN単離プロトコルは、細胞ソーティングを必要とせず、機能アッセイに十分な量のLDNを迅速かつ効率的に取得できる点で新規性がある。また、炎症性刺激によってNDNがLDNへと密度を変化させることを直接的に示した点は、LDNの発生メカニズムに関するこれまで報告されていない重要な知見である。これは、LDNが特定の系統に属する細胞ではなく、好中球の成熟度や活性化状態を反映する可塑的な存在であることを強く裏付ける。

臨床応用: 本研究の結果は、LDN数を疾患バイオマーカーとして単純に利用することに臨床的含意として警鐘を鳴らすものである。LDNの増加が単なる好中球の活性化状態を反映している場合、その数は疾患の重症度や炎症の程度を示す指標となり得るが、特定の機能を持つ独立した細胞サブセットの増加を示すものではない。したがって、抗LDN治療の開発といったアプローチの根拠を弱め、代わりにNDNの活性化制御を主要な治療標的として再位置付けする必要がある。より高次のリードアウトとして、活性化表現型やトランスクリプトームプロファイルを評価することが推奨される。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationがある。(i) 機能アッセイの多くでサンプル数 (n=3-5 donors) が比較的小さかった点、(ii) 96時間のT細胞共培養において、好中球によるビーズの貪食やアポトーシス細胞の存在がT細胞抑制の結果を複雑にする可能性、(iii) 臨床的に安定したCF患者を中心に研究が行われたため、急性増悪期や他の炎症性疾患への一般化可能性は未検証である点、(iv) 健常ベースラインにおけるLDN発生の分子メカニズムは未解明である点、(v) 全身採血であるため、CF肺における局所的な炎症を直接反映するものではない点などが挙げられる。今後の研究では、これらの残された課題を解決し、LDNの多様性と可塑性をさらに深く理解するための今後の方向性として、シングルセルRNAシーケンスなどのオミクス解析や、様々な疾患モデルにおけるLDNの動態と機能を詳細に解析することが求められる。

方法

試験デザイン: 本研究は、健常ドナー10名および臨床的に安定した嚢胞性線維症 (CF) 患者5名から末梢血を採取し、LDNとNDNの比較分析を行った。健常ドナーは年齢・性別をマッチさせ、研究参加時に疾患の兆候がないことを確認した。CF患者はF508del変異を一つ持つ臨床的に安定した状態の患者を対象とした。

好中球の精製: 12 mLのクエン酸ナトリウム加末梢血から、まずEasySep™ Direct Human Neutrophil Isolation Kit (Stem Cell) を用いたネガティブ磁気選択法により総好中球を分離した。その後、分離された総好中球を、55%/70%/81%の3層不連続Percoll密度勾配遠心分離 (720xg、30分、ブレーキなし) に供した。NDNは71%/55%界面から、LDNは70%/81%界面から回収された。細胞数はNucleoCounter® NC-100 (Chemometec) で測定し、純度はCytospin 4 (Thermo) でスライドを作成し、Kwik-Diff染色後に顕微鏡観察により95%以上であることを確認した。

表現型解析: 1x10^6個のLDNまたはNDNをPBS-/- + 2% FCSに懸濁し、CD66b, CD16, CD15, CD10, CD11b, CD54, CD47, CXCR2, CD62L抗体 (Biolegend) で30分間4℃で染色した。Fcブロックは使用しなかった。細胞はAurora Spectral Flow cytometer (Cytek) で解析し、平均蛍光強度 (MFI: Mean Fluorescence Intensity) を測定した。ゲーティング戦略はFigure 2Aに示されている。

アポトーシス: 5x10^5個のLDNまたはNDNを200 µLのPBS-/- + 2%ドナー血清に懸濁し、37℃、5% CO2で24時間培養した。その後、Annexin-V-FLUOS Staining Kit (Sigma) を用いて染色し、LSR Fortessa (BD) フローサイトメーターで解析した。

NET形成: 5x10^4個のLDNまたはNDNを200 µLのPBS-/- + 2%ドナー血清に懸濁し、100 nM PMA (Phorbol 12-myristate 13-acetate) で刺激した。NET形成はSYTOX™ Green核酸染色 (Thermo) を用いて、Synergy HT (BioTek) プレートリーダーで6時間測定した。免疫細胞化学アッセイでは、4時間後に4% PFAで固定し、ウサギ抗ヒトミエロペルオキシダーゼ (MPO: Myeloperoxidase) 抗体 (Dako) とマウス抗ヒト好中球エラスターゼ (NE: Neutrophil Elastase) 抗体 (Dako) で染色した。DNAはHoecshtで染色し、Thermo Scientific™ Invitrogen™ EVOS™ FL Auto 2 Imaging Systemで観察した。

活性酸素種 (ROS) 産生: 2.5x10^5個のLDNまたはNDNを500 µLのHBSS+/+に懸濁し、Dihydrorhodamine 123 (DHR 123) で染色後、10 nM fMLF (N-formylmethionyl-leucyl-phenylalanine) で20分間37℃で刺激した。ROS産生はフローサイトメトリーで測定した。

T細胞共培養: 1x10^5個のCFSE (Carboxyfluorescein succinimidyl ester) 標識T細胞を、2x10^4個のHuman T-Activator CD3/CD28 Dynabeads (Thermo) とともに、2x10^5個のLDNまたはNDNと96時間共培養した。その後、CD4, CD8, CD66b抗体および細胞内IFNγ抗体 (Biolegend) で染色し、LSR FortessaフローサイトメーターでT細胞の増殖 (CFSE希釈) とIFNγ産生を解析した。

好中球の活性化検証: 健常ドナー由来のNDN (5x10^6個) を、100 ng/mL LPS (Lipopolysaccharide) または100 ng/mL TNF (Tumor Necrosis Factor) で2時間、または10 nM fMLFで30分間刺激した。刺激後、好中球を再びPercoll密度勾配遠心分離に供し、LDN層への移行を評価した。

統計解析: 2群間の比較には、対応のないt検定またはWilcoxon符号順位検定を用いた。3群以上の比較には、一元配置分散分析 (ANOVA: Analysis of Variance) と多重比較検定を用いた。データはGraphPad Prism 9で解析し、平均値±標準誤差 (SEM: Standard Error of the Mean) で示した。