- 著者: Sagiv JY, Michaeli J, Assi S, Mishalian I, Kisos H, Levy L, Damti P, Lumbroso D, Polyansky L, Sionov RV, Ariel A, Hovav AH, Henke E, Fridlender ZG, Granot Z
- Corresponding author: Zvi G Fridlender (Hadassah-Hebrew University Medical Center) / Zvi Granot (Hebrew University Medical School, Jerusalem)
- 雑誌: Cell Reports
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-01-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 25620698
背景
好中球は循環白血球の50〜70%を占める主要な自然免疫細胞であり、宿主防御において侵入微生物の貪食・殺傷に重要な役割を果たすことが確立されている (Welch et al., 1989; Heifets, 1982; Mayadas et al., 2014)。しかし、癌における好中球の役割は長年議論の的となってきた。先行研究では、好中球が腫瘍の血管新生促進 (Nozawa et al., 2006)、腫瘍細胞の播種促進 (De Larco et al., 2004)、転移性播種の促進 (Kowanetz et al., 2010) など、腫瘍促進的な機能を持つことが示されている。一方で、直接的な腫瘍細胞傷害性 (Colombo et al., 1992; Hicks et al., 2006) や抗腫瘍メディエーターの増強 (Di Carlo et al., 2001) を通じて、抗腫瘍・抗転移機能を持つことも報告されており、この矛盾が腫瘍における好中球機能の論争の根本となっていた (Mantovani et al., 2011; Piccard et al., 2012)。
癌患者では好中球増多や高好中球リンパ球比が予後不良と関連することが知られているが (Schmidt et al., 2005; Fridlender and Albelda, 2012)、好中球集団内のサブポピュレーションの表現型異質性がこの矛盾の原因である可能性が示唆されていた。特に、密度勾配遠心分離で単球画分に混入する低密度画分の好中球 (LDN) が注目を集めていたが、その起源、特性、腫瘍における意義は未解明であった (Brandau et al., 2011; Cloke et al., 2012; Denny et al., 2010)。我々の先行研究では、腫瘍微小環境においてTGF-βが好中球のN1抗腫瘍表現型からN2腫瘍促進表現型への分極を誘導することを示したが (Fridlender et al. CancerCell 2009)、循環好中球レベルでの表現型多様性と可塑性、およびその機序的説明は不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、複数の癌マウスモデルおよびヒト癌患者において、循環好中球サブポピュレーションの表現型的多様性と可塑性を詳細に解析することである。具体的には、低密度好中球 (LDN) の起源、機能特性、および腫瘍進行に伴う動態変化を明らかにすることを目指した。さらに、高密度好中球 (HDN) からLDNへの転換を駆動する主要な因子を同定し、好中球の抗腫瘍性 (N1) と腫瘍促進性 (N2) という二極論争に対する統一的な機序的説明を提供することを目的とした。最終的に、癌における好中球の全体的な寄与が腫瘍進行に伴いどのように変化するかを解明し、新たな治療標的の可能性を探ることも視野に入れた。
結果
LDNの腫瘍進行に伴う劇的増加と全モデルでの再現性: 無腫瘍マウスでは好中球の95%以上がHDNであったが、腫瘍進行に伴いLDNの割合が劇的に増加した (Figure 1C)。全5モデル (4T1、E0771、AT-3、AB12、K-ras肺癌) において、LDNの出現頻度は5倍以上の増加を示した (Figure 1D, 1E)。4T1モデルでは腫瘍進行に伴い循環好中球総数 (CD11b+Ly6G+) も連続的に増加し、LDNがやがて支配的な循環好中球集団となることが示された (Figure 1A)。LDNはHDNより前方散乱光 (FSC) が高く (すなわち大型)、側方散乱光 (SSC) は同等で、CD11b発現が低下していた (Figure 1F)。LDN画分中の約5%がTRAIL発現を示し、この小サブセットが抗腫瘍免疫に関与する可能性が示唆された (Figure S2D)。ヒト癌患者 (n=15 donors) においてもLDN増加が確認され、患者LDNはHDNと比較してCD11b (p<0.01) およびCD66b発現が増加する活性化表現型を呈した (Figure 2D, 2E)。健常人 (n=9 donors) ではLDNが稀であったのとは対照的であった (Figure 2A, 2B)。なお、ヒトLDNはマウスと同様に成熟 (分葉核) と未熟 (桿状核) の両方を含む不均一な集団であった (Figure 2F)。
LDNの二元的起源 — 未熟細胞と成熟HDNからの転換: BrdU (bromodeoxyuridine) パルスチェイス実験では、注射24時間後にLDN画分の約50%がBrdU陽性となった一方、HDNではわずか約3%のみがBrdU陽性であった (p<0.01) (Figure 3A)。24時間時点でのLy6G+BrdU+細胞の95%がLDN画分に存在し、HDNはわずか5%であった (Figure 3B)。48時間後にはHDN中のBrdU陽性細胞が約50%に達し、72時間後には約30%へ低下したことから、骨髄から放出された未熟細胞 (LDN初期画分) が約48時間で成熟しHDNに移行することが示された。さらに、GFP (緑色蛍光タンパク質) 発現マウスからのHDN養子移入実験では、移入3時間後に移入HDNの約40%がLD画分に移行し、一方LDNはわずか約10%がHD画分に移行した (Figure 3F)。これによりLDNは (a) 骨髄からの未熟細胞の急速放出と (b) 成熟HDNからのTGF-β依存的転換の二つの経路で形成されることが明らかとなった。
HDNからLDNへの転換はTGF-β依存的かつ腫瘍担持マウスのpreconditioning依存: in vitroでTGF-βを全血に添加すると用量依存的にLDN比率が増加した (Figure 5B)。TGF-β受容体阻害薬SB431542の添加はGFP+HDNのLD画分への移行を劇的に抑制した (Figure 5D)。注目すべきことに、腫瘍担持マウス (n=5 mice) から採取したGFP+HDNは、腫瘍なしマウス血液中でもLDNへの転換を示したが、腫瘍なしマウス由来のHDN (n=5 mice) は腫瘍担持マウスの血液中でも転換しなかった (Figure 5D)。これは好中球自体が腫瘍環境で事前コンディショニングを受けていることを示唆する。腫瘍担持マウス (n=5 mice) へのTGF-β中和抗体 (1D11) 投与でLDN比率が有意に減少し (p<0.05)、残存LDNは未熟細胞のみとなった (Figure 5E)。後期腫瘍担持マウス (day 25) から採取した血液をex vivoで3時間インキュベートすると、好中球の90%がLD画分へ移行した一方、早期腫瘍担持マウス (day 13) の血液では比率変化がなく、晩期腫瘍担持に特有のサイトカイン/ケモカイン環境が転換を駆動することが示された (Figure 4B)。
HDNとLDNの機能的二極性 — 抗腫瘍能 vs 免疫抑制能の定量的比較: HDNは腫瘍細胞に対して強いin vitro細胞傷害活性を示したが、LDNにはこの活性がほぼ認められなかった (Figure 6E)。Winn assayでは、腫瘍細胞をHDNと同時接種したマウスは腫瘍増殖が有意に抑制されたが、LDNとの同時接種では抑制効果がなかった (Figure 6H)。腫瘍担持初期 (day 13) から末期 (day 25) まで腫瘍細胞傷害性HDN (tumor-entrained neutrophils: TEN) は持続的に産生された (早期・末期HDNで腫瘍細胞傷害活性に有意差なし) (Figure 6G)。LDNはT細胞増殖の有意な抑制活性を示し、この免疫抑制活性は不均質なLDN集団全体に認められた (Figure 6I, 6J)。1:1混合 (HDN + LD mononuclear cells) でHDNの細胞傷害活性に有意な変化はなく、LD画分中の他の細胞によるHDN機能抑制は示されなかった (Figure 6F)。また、LDNはHDNと比較して走化性 (4T1馴化培地への遊走) (Figure 6A, 6B)、食作用 (FITCラベルマイクロビーズ取り込み) (Figure 6C)、酸化バースト (PMA刺激によるH2O2産生) (Figure 6D) のいずれも低下していた。TEM解析では、分節核LDNはHDNより有意に大型であったが顆粒数は <20個/群で両者とも同等であり、密度低下は脱顆粒ではなく細胞容積増大によることが示された (FSC増加・SSC不変というFACS所見と一致) (Figure 4C-4E)。
考察/結論
本研究は、循環好中球が少なくとも3つのサブポピュレーション — 強い抗腫瘍細胞傷害性を持つ成熟HDN (TEN)、TGF-β依存的にHDNから派生した免疫抑制性成熟LDN、骨髄から急速放出される未熟LDN (G-MDSCと重なる可能性) — から構成されることを複数のマウスモデルおよびヒト患者で示した。腫瘍担持マウスの5モデル全てで5倍以上のLDN増加という再現性の高い知見と、BrdU追跡実験と養子移入実験を組み合わせた二重のエビデンス体系は、本研究の結論に高い信頼性を与えている。これは腫瘍における好中球機能の二極論争に対する統一的な機序的説明を提供する最初の体系的研究である。
先行研究との違い: 我々の先行研究 (Fridlender et al. CancerCell 2009) ではTGF-β遮断により腫瘍関連好中球 (TAN) がN1→N2表現型に転換することが腫瘍部位で示されていたが、本研究はこの概念を循環好中球レベルで拡張し、TGF-βが成熟HDNから成熟LDNへの表現型・機能転換を全身レベルで駆動することを実証した点でこれまでと異なる。
新規性: 腫瘍担持マウスから採取した成熟HDN自体が腫瘍なしマウスの血液中でもLDNへ転換する (腫瘍由来因子によるpreconditioning) という知見は、TGF-β以外の骨髄内シグナルの関与も示唆する新規な発見である。また、成熟好中球が限定的な可塑性しか持たないという従来の概念に挑戦し、機能的および物理的な好中球の可塑性の存在を初めて示した。
臨床応用: 本研究の3集団モデルは、腫瘍進行に伴い抗腫瘍性HDNからLDNへの比率シフトが起こることによって好中球全体の機能的バランスが変化するというダイナミックな概念を提示する。この知見は、血中LDN比率 (またはHDN/LDN比) が癌進行・免疫抑制状態のバイオマーカーとなりうるという臨床的意義を持つ。さらに、TGF-β遮断やLDN/G-MDSC標的化戦略が腫瘍免疫療法の補完的アプローチとして有望であることを示唆する。
残された課題: 本研究の限界として、ヒト患者 (n=15、主にstage IV、多様な癌種・治療歴) での機序的解明が限定的であること、G-MDSC、未熟LDN、成熟LDNのマーカーベースの境界定義が文脈依存的であること、腫瘍内ではなく循環好中球のみを対象としていることが挙げられる。今後の検討課題として、単一細胞RNA解析による各サブセットの転写プロファイル同定、TGF-β以外のLDN誘導因子の探索、ならびに早期癌での血中LDN比率と予後・免疫療法効果との相関研究が必要である。
方法
本研究では、4T1乳癌、E0771乳癌、AT-3 (乳癌)、AB12 (中皮腫)、K-ras駆動型肺癌の5つの異なるマウスモデルを使用し、癌における循環好中球の動態を評価した。好中球はHistopaque密度勾配遠心法を用いて、高密度好中球 (HDN) と低密度好中球 (LDN) に分離された。新規産生細胞の動態を追跡するため、BrdU (bromodeoxyuridine) パルスチェイス実験を24、48、72時間の異なる時点で実施した。好中球の可塑性を評価するため、GFP (緑色蛍光タンパク質) 発現C57BL/6Jマウス由来のHDNおよびLDNを非標識腫瘍担持マウスに養子移入する実験を行った。
TGF-βの役割を検証するため、in vitroでは全血にTGF-βを添加しLDN比率の変化を観察した。また、TGF-β受容体阻害薬であるSB431542をin vitroで用いてHDNからLDNへの転換への影響を評価した。in vivoでは、腫瘍担持マウスにTGF-β中和抗体 (1D11) を投与し、LDN比率への影響を調べた。
好中球の形態学的特徴を解析するため、透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いた。機能評価として、in vitro腫瘍細胞傷害性アッセイ (H2O2媒介)、T細胞増殖抑制アッセイ、走化性アッセイ、食作用アッセイ、および酸化バースト (PMA刺激によるH2O2産生) アッセイを実施した。
ヒト癌患者 (n=15、主にステージIV、年齢中央値64.4±2.5歳) と健常対照者 (n=9、年齢中央値57.4±4.6歳) から血液サンプルを採取し、LDNの頻度と表現型をフローサイトメトリー (FACS) で解析した。統計解析には、2群間の比較にはStudentのt検定を、3群以上の比較にはANOVAと適切なpost hoc検定を用いた。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。