• 著者: Tao Huang, Yoshinori Takashima, Jitendra Kumar, Jose Morales, Kevin Le, Zhensheng Hu, Selene Rubino, Robert T. Trousdale, Gerald J. Berry, Jorg J. Goronzy, Cornelia M. Weyand
  • Corresponding author: Cornelia M. Weyand (Mayo Clinic / Stanford University)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41794034

背景

関節リウマチ (RA) は、慢性の自己免疫性滑膜炎を特徴とし、関節破壊をもたらす難治性疾患である。RA関節の炎症性パンヌスには、組織修復・恒常性維持を担うSELENOPhi MerTK+CD206+マクロファージが豊富に存在するにもかかわらず、炎症が持続するという逆説的な現象が観察されてきた。マクロファージは組織の恒常性維持において中心的な役割を果たすが、RA環境では代謝競合、栄養枯渇、炎症性シグナルが複合的に作用する。先行研究では、このマクロファージサブセットが修復機能を担うと想定されてきたが (Alivernini et al. 2020)、RA関節という敵対的微小環境においてどのような運命をたどるかは未解明であった。

補体分子C1qは、本来は抗炎症・免疫複合体クリアランスに機能するが、マクロファージや線維芽細胞でも産生されることが知られている (Ghebrehiwet et al. 2012)。また、C1qは様々な受容体に結合し、その中には細胞表面およびミトコンドリアに存在するC1q結合タンパク質 (C1QBP) が含まれる (Ghebrehiwet et al. 2019)。C1QBPはミトコンドリアのタンパク質合成や酸化的リン酸化にも関与することが報告されている (Yagi et al. 2012)。

免疫細胞の排除は、アポトーシスのような非溶解性・非炎症性細胞死によって免疫寛容を維持するが、PANoptosis、pyroptosis、necroptosisのような溶解性・炎症性細胞死は、細胞膜の崩壊と細胞内容物の組織環境への放出を引き起こす (Newton et al. 2024)。これらの細胞死は、ZBP1、AIM2、RIPK1、NLRP12などのPANoptosome複合体の形成を介してカスパーゼやRIPKを活性化し、ガスダーミンD (GSDMD) の切断を誘導する (Sundaram et al. 2023)。

ミトコンドリア酵素SARM1はNAD+加水分解酵素であり、軸索変性においてNAD枯渇を介した細胞死を引き起こすことが知られている (Essuman et al. 2017)。SARM1はToll様受容体 (TLR) シグナル経路にも関与し (Carty et al. 2006)、そのTIRドメインは強力なNAD+加水分解活性を持ち、ミトコンドリアのNAD濃度と全体的なフィットネスを調節する (Essuman et al. 2017)。しかし、マクロファージ機能、特に自己免疫性炎症におけるSARM1の役割はこれまで十分に解明されていなかった。RAにおける慢性炎症の持続には、保護的マクロファージの機能不全が関与している可能性が示唆されてきたが、その詳細な分子メカニズムには知識のギャップが残されている。本研究は、このギャップを埋めることを目的とした。

目的

関節リウマチ (RA) の炎症性滑膜炎において、組織修復・恒常性維持を担うSELENOPhi MerTK+CD206+マクロファージが保護機能を失い、慢性炎症を促進するメカニズムを解明すること。具体的には、C1q-C1QBP経路とSARM1を介したマクロファージの代謝疲弊およびPANoptosis (pyroptosis, apoptosis, necroptosisを統合した炎症性細胞死) の分子機構を明らかにし、新たな治療標的を同定することを目的とした。本研究は、RAにおける慢性炎症の持続に寄与するマクロファージの自己破壊的役割を詳細に解析し、SARM1が代謝ストレス下マクロファージの死の執行者として機能することを実証することを目指した。

結果

SELENOPhi MerTK+CD206+マクロファージはC1qを自己分泌しC1QBPを発現する: scRNA-seq解析により、RA滑膜組織から6つのマクロファージサブクラスターが同定された。そのうちSELENOPhi MerTK+CD206+マクロファージが最大の組織常在性・修復性集団であることが確認された (Figure 1A)。500種の分泌タンパク質プロファイリングにより、このサブセットがC1qを選択的に豊富に分泌することが判明した。C1QA、C1QB、C1QCの転写産物はRA滑膜で高発現しており (Figure S2D)、RA患者の血清C1q濃度は健常者と比較して有意に高値を示した (70 μg/mL vs. 53 μg/mL、p=0.0081) (Figure S2E)。C1qの9種の受容体のうち、C1QBPがマクロファージ上で最も顕著に発現し (Figure 1J)、CellChat解析では補体シグナルのマクロファージ間オートクライン/パラクライン経路が予測された (Figure 1I)。高C1q産生は高炎症スコアと相関した (Figure 1F)。

C1qはSELENOPhiマクロファージにPANoptosisを誘導する: 組織から単離したSELENOPhi CD206hi MerTKhiマクロファージは生体外で48時間以内に大部分が死滅した。ライブセルイメージングで細胞膨張、細胞膜破綻、細胞外へのDNA放出が確認され、非アポトーシス性死が示唆された (Figure 2A)。SYTOX染色によると、RA滑膜CD68+細胞の50%がSYTOX+であり、死細胞比率は組織炎症スコアと強相関を示した (Figure 2D)。rhC1q刺激実験では、RA患者由来マクロファージ (n=8 donors) は健常者由来と比較して12時間以降に有意に高い死亡率を示した (LDH放出で確認) (Figure 2E)。C1QA siRNAによる内在性C1q抑制は自然細胞死率を低下させ、C1QBP siRNAは細胞死からの保護効果を示した (C1q欠損より効果的) (Figure 2G)。分子レベルでは、C1q刺激後にNLRC5およびNLRP12がアップレギュレートされ、カスパーゼ1、3、7、8の活性化ならびにGSDMD・GSDMEの切断が確認された (Figure 2I)。免疫沈降でASC-NLRC5/NLRP12-カスパーゼ8複合体 (PANoptosome) の形成が実証された (Figure 2J)。NLRC5 siRNAおよびNLRP12 siRNAはいずれも細胞死を著明に抑制した (Figure 2K)。

C1qはSARM1を介したNAD消費と代謝崩壊を引き起こす: C1q刺激はC1QBPをミトコンドリアへ移行させた (Figure 3A)。RA患者マクロファージ (n=6 patients) はベースラインのATP産生が低く、C1q刺激はさらにATP産生を低下させた (Figure 3B、p=0.001)。C1q誘発性死細胞 (n=8 patients) はミトコンドリア膜電位の著しい低下とROS増加を示した (Figure 3C)。詳細な代謝解析でC1q刺激後にNAD+濃度が著明に低下し、同時にNAD加水分解産物であるcyclic ADP ribose (cADPR) が蓄積することが判明した (Figure 3G)。SARM1 (NAD+加水分解酵素) をsiRNAで抑制するとcADPR産生が消失し、マクロファージはPANoptosisから保護された (Figure 4D)。cADPR-AMの直接投与はPANoptosome組成を再現し、独立した細胞死誘導を示した (Figure 3H)。SARM1阻害剤DSRM-3716は、C1q刺激によるNAD+低下を回復させ (Figure 4G)、細胞膜破壊を軽減した (Figure 4H)。共免疫沈降により、C1QBPとSARM1が物理的に結合することが示された (Figure 4I)。SARM1はSELENOPhiマクロファージで選択的に高発現しており (Figure 4A)、C1q処理によりその発現がさらに上昇した (Figure S5D)。SARM1 siRNAサイレンシングはC1q誘発性NAD+損失を完全に抑制し、NAD+濃度を20-30%回復させた (Figure 4D)。SARM1阻害剤DSRM-3716は、C1q刺激によるNAD+低下を回復させ (Figure 4G)、細胞膜破壊を軽減した (Figure 4H)。

in vivoでのSARM1阻害が滑膜炎を緩和する: ヒト滑膜組織を移植したNSGマウス滑膜炎モデル (n=10 mice) において、rhC1q投与は炎症を増悪させ、炎症スコアが2倍に増加した (Figure 5A、p=0.0003)。C1q処理により、マクロファージとT細胞の浸潤が増加し、IL-1β、IL-6、TNF産生マクロファージ、T細胞、線維芽細胞の頻度が増加した (Figure 5D)。SARM1阻害剤DSRM-3716の投与は、自発性滑膜炎の炎症スコアを抑制し、MerTK+CD206+マクロファージの死細胞率を減少させた (Figure 6A, 6C、p<0.0001)。C1q誘発性滑膜炎においても、SARM1阻害剤は炎症スコアを有意に軽減し (Figure 6G、p=0.001)、MerTK+CD206+マクロファージの死細胞率を50%低下させた (Figure 6I)。RNAシーケンス解析では、SARM1阻害により炎症性メディエーター (ケモカイン、サイトカイン、MMP) の広範な下方制御と、ミトコンドリアフィットネスおよび酸化的リン酸化関連遺伝子セットの有意な上方制御が認められた (Figure 6M, 6N)。

考察/結論

本研究は、RA関節において「本来は保護的」であるSELENOPhi MerTK+CD206+マクロファージが、オートクライン的C1q分泌を介した自己破壊ループに陥るという逆説的な病態機構を解明した。C1q→C1QBP→ミトコンドリア移行→SARM1活性化→NAD+消費→cADPR蓄積→NLRC5/NLRP12-PANoptosome形成→PANoptosisという一連の分子カスケードは、RA慢性炎症の新たな病因論的枠組みを提供する。

先行研究との違い: 先行研究ではMerTK+CD206+マクロファージがRA滑膜で修復的に機能すると想定されてきたが (Alivernini et al. 2020)、本研究はこれと対照的に、同細胞が病状の進行に積極的に関与することを示した。また、SARM1はこれまで神経変性 (軸索変性) での役割が知られていたが (Gerdts et al. 2013)、本研究は自己免疫性炎症における代謝疲弊マクロファージの死の執行者としての新機能を明らかにし、組織を超えた普遍的な代謝-免疫経路を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、RA滑膜におけるSELENOPhiマクロファージが、自己分泌性のC1qを介してC1QBP-SARM1経路を活性化し、ミトコンドリアNAD+の枯渇とcADPRの蓄積を引き起こすことでPANoptosisに至るという、新規の分子メカニズムを同定した。この代謝危機が炎症性細胞死を誘導し、慢性炎症を増幅するという知見は、これまで報告されていない。

臨床応用: 本知見は、SARM1がメタボリックストレス下マクロファージの新たなバイオマーカーであり、SARM1阻害薬がRA患者における保護的マクロファージの温存と慢性炎症断絶に向けた治療戦略として有望であることを示唆する。in vivoマウスモデルにおいてSARM1阻害剤DSRM-3716が滑膜炎を抑制し、組織保護効果を示したことは、臨床応用への大きな可能性を秘めている。

残された課題: 今後の検討課題として、SARM1活性化の上流におけるC1QBP-ミトコンドリア複合体の正確な形成機序、RA以外の自己免疫疾患への本経路の適用可能性、および既存のDMARDs (疾患修飾性抗リウマチ薬) とのSARM1阻害剤の相互作用の解明が挙げられる。また、RA患者の滑膜炎の重症度とマクロファージの代謝疲弊状態との詳細な関連性についても、さらなる研究が必要である。

方法

本研究では、17例の未治療RA患者の滑膜組織から71,073細胞のscRNA-seq解析を実施し、マクロファージサブクラスタリングを行った。患者由来滑膜組織のフローサイトメトリー、ライブセルイメージング、免疫組織化学解析により、滑膜マクロファージの死細胞比率および組織炎症スコアとの相関を評価した。滑膜組織の炎症スコアはKrennらの基準 (Krenn et al. 2006) に基づいて半定量的に評価された。

in vitroモデルとして、IL-10とLPSで分極化した単球由来マクロファージ (SELENOPhi MDM) を樹立し、recombinant human C1q (rhC1q) 刺激実験を行った。機能解析にはsiRNAサイレンシング (C1QA、C1QBP、NLRC5、NLRP12、SARM1、SIRT1、PARP1、CD38) を用い、免疫沈降によりPANoptosomeの構成要素を同定した。代謝アッセイでは、ATP産生、NAD測定、cADPR測定、ROS産生を評価し、ミトコンドリア解析では膜電位と電子伝達系機能不全を調べた。NAD+およびその代謝産物 (NADH、NaAD、NR、NAM、ADPR、cADPR) の定量にはLC-MS/MSを用いた。

SARM1阻害剤DSRM-3716を用いたin vivoマウス滑膜炎モデルで治療効果を検討した。このモデルでは、ヒト滑膜組織をNSGマウスに移植し、RA患者由来の末梢血単核細胞 (PBMC) を養子移入することで滑膜炎を誘導した。C1qの役割を評価するため、マウスにはrhC1qを隔日で投与した。SARM1阻害剤の治療効果を評価するため、DSRM-3716を隔日で投与し、炎症スコア、マクロファージおよびT細胞の密度、サイトカイン産生をフローサイトメトリーおよびRT-qPCRで測定した。また、バルクRNAシーケンスにより、SARM1阻害後の転写変化を解析した。統計解析にはGraphPad Prismソフトウェアを使用し、2群間の比較にはStudentのt検定、多群間の比較には一元または二元配置分散分析 (ANOVA) を用いた。p値が0.05未満を有意とした。動物実験では、各群最低4匹のNSGマウスを使用し、90%の検出力と5%の有意水準で2.3倍の変化を検出できる計算に基づいた。