• 著者: Yu Kato, Osamu Nishida, Naohide Kuriyama, Tomoyuki Nakamura, Takahiro Kawaji, Takanori Onouchi, Daisuke Hasegawa, Yasuyo Shimomura
  • Corresponding author: Yasuyo Shimomura (Department of Anesthesiology and Critical Care Medicine, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Aichi, Japan; yasuyo@fujita-hu.ac.jp; Tel: +81-562-93-2378)
  • 雑誌: International Journal of Molecular Sciences
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-05-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34066510

背景

敗血症 (sepsis) は、感染に対する調節不全な宿主応答に起因する生命を脅かす臓器機能不全であり、集中治療室 (ICU) における主要な死因の一つである。その病態は極めて複雑であり、有効な治療法の確立が世界的に喫緊の課題となっている。近年、自然免疫応答の一環として、好中球が自己のDNAとタンパク質からなる網状構造を細胞外に放出する現象、すなわち好中球細胞外トラップ (Neutrophil Extracellular Traps, NETs) 形成が注目されている。Brinkmann et al によるNETsの発見以来、その病態生理学的役割が精力的に研究されてきた。NETsは病原体を捕捉・殺傷する有益な役割を持つ一方で、その過剰な産生は微小血管血栓 (immunothrombosis) や血管内皮傷害を惹起し、敗血症における臓器障害進行の中心的メカニズムとして認識されている。特に、肺や肝臓といった主要臓器におけるNET形成は、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) や肝不全などの重篤な合併症に直接寄与することが報告されている。

トロンボモジュリン (Thrombomodulin, TM) は、血管内皮細胞に発現する多機能膜タンパク質であり、その抗凝固作用、抗炎症作用、血管内皮保護作用が知られている。敗血症性播種性血管内凝固症候群 (DIC) の発症時には血管内皮上のTM発現が低下することが報告されており、TMの機能低下が敗血症性臓器障害と密接に関連する可能性が示唆されている。リコンビナントヒト可溶性トロンボモジュリン (rTM, ART-123) は、日本においてDIC治療薬として承認されており、その臨床的有用性が確立されている。しかし、rTMが敗血症性臓器におけるNET形成を直接的に抑制し、それによって生命予後を改善する具体的な作用機序については、in vivoでの直接的な検証が不足している点が課題として残されていた。

先行研究では、rTMがin vitroにおいてリポ多糖 (LPS) 誘発性のNET形成を抑制することが報告されている (Shimomura et al)。また、細胞外ヒストンが敗血症における致死的血栓塞栓症の主要なメディエーターであることが示されており (Xu et al)、rTMがヒストン誘発性の血栓形成を抑制し、マウスを救命することも報告されている (Nakahara et al)。これらの知見は、rTMがNET形成を介した臓器障害を抑制する可能性を示唆するものの、LPS誘発性敗血症ショックモデルにおける全身的なNET形成抑制効果と、それが生存率に与える影響を包括的に評価した研究はこれまで報告されておらず、この点が未解明であった。特に、生体内における肺および肝臓の微小循環内でのNETsの動態や、rTM投与によるサイトカインストームの抑制効果との相互関連性については、直接的な画像評価や定量的解析データが不足しており、治療戦略を確立する上での大きなgap (知識ギャップ) となっていた。

本研究は、LPS誘発性敗血症ショックマウスモデルを用いて、rTM投与がNET形成抑制を介して臓器保護効果を発揮し、生存率を改善するという仮説を検証することを目的とした。特に、肺および肝臓におけるNET形成の抑制、ならびに血清サイトカインストームの緩和が、rTMの保護効果にどのように寄与するかを詳細に解析することは、敗血症治療におけるrTMの新たな治療戦略を確立するために不可欠な知識となる。

目的

本研究の目的は、リポ多糖 (LPS) 誘発性敗血症ショックマウスモデルを用いて、リコンビナントヒト可溶性トロンボモジュリン (rTM) 投与が以下の効果を通じて保護作用を発揮するかをin vivoで検証することである。具体的には、(i) 敗血症ショックにおける生存率の改善効果、(ii) 肺および肝臓といった主要臓器における好中球細胞外トラップ (NET) 形成の抑制作用、そして (iii) 血清中の炎症性サイトカインレベルの緩和効果を評価し、rTMが敗血症性臓器障害と致死率を軽減するメカニズムを解明することを目指す。本研究は、rTMのNET形成抑制作用が敗血症の病態生理に与える影響を包括的に評価し、その臨床的応用可能性を探ることを意図する。

結果

劇的な生存率改善: LPS誘発性敗血症ショックマウスモデルにおいて、rTM投与は生存率を劇的に改善した。非rTM群 (LPS単独投与) では、LPS投与後24時間から死亡が始まり、72時間後には生存率 50% まで低下し、多くのマウスが死亡した (n=20 mice)。これに対し、rTM投与群 (LPS投与1時間後にrTM 6 mg/kg/dayを腹腔内投与) では、72時間後も生存率 100% を維持し、全マウスが生存した (n=10 mice)。この生存率の差は統計的に有意であった (p < 0.05)。この結果は、rTMがLPS誘発性敗血症ショックの生命予後を救命レベルで改善する直接的なエビデンスを提供する (Figure 1)。

肺におけるNET形成の顕著な抑制: 非rTM群 (n=5 replicates) の肺組織では、免疫蛍光染色によりMPOとヒストンH2A.Xおよび細胞外DNAの広範な沈着が確認され、多数の好中球細胞外トラップ (NET) 形成が観察された。これらのNETは、肺胞マイクロ血管内に局在し、免疫血栓症の形成を示唆するものであった。しかし、rTM処置群 (n=5 replicates) では、MPOとヒストンの共局在が顕著に減少し、NET形成が大幅に抑制されていることが示された (Figure 2c, e)。この抑制効果は、肺における急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) 様病態の軽減に寄与する可能性が考えられる。

肝臓におけるNET形成と組織障害の改善: 非rTM群 (n=5 replicates) の肝臓組織では、肝類洞内で多数のNET構造が観察された。免疫蛍光染色ではMPOとヒストンの共局在が明確に確認され、肝細胞障害と微小血栓形成が示唆された。一方、rTM投与群 (n=5 replicates) では、肝臓におけるNET形成が明確に抑制されており、肝細胞障害マーカーの減少と類洞微小血栓の軽減が認められた (Figure 2d, f)。この結果は、rTMが肺と肝臓の両臓器においてNET形成を抑制し、臓器保護効果を発揮することを示している。

走査型電子顕微鏡 (SEM) によるNET構造の視覚化: 肝臓組織のSEM観察により、非rTM群 (n=5 replicates) では典型的な網目状のNET線維構造が多数確認された。これらの構造は、細胞外に放出されたDNAと顆粒タンパク質から構成されており、NET形成の形態学的特徴を明確に示していた (Figure 3)。rTM群 (n=5 replicates) では、このような網目状構造の形成が著しく減少し、好中球の正常な形態が保たれていることが示された。共焦点顕微鏡画像とSEM画像を統合することで、ヒストンとMPO顆粒が三次元的なNET網状構造内に存在することが確認され、rTMがNET形成の初期段階で直接的に干渉し、DNA-MPO-ヒストン複合体の構造的完全性を阻害するメカニズムを示唆する。

血清サイトカインストームの著明な緩和: LPS投与36時間時点の血清サイトカインレベルをCBAで測定した結果、rTM投与は炎症性サイトカインストームを著明に緩和した。非rTM群 (n=5 replicates) では、IL-6が1307.88 pg/mL、TNFαが45.99 pg/mL、MCP-1が1634.53 pg/mL、IL-10が34.98 pg/mLに増加した。rTM投与群 (n=5 replicates) では、これらのサイトカインレベルが有意に抑制された。具体的には、IL-6は25.30 pg/mL (98.1%減少、約0.02-fold)、TNFαは6.70 pg/mL (85.4%減少、約0.15-fold)、MCP-1は365.50 pg/mL (77.6%減少、約0.22-fold)、IL-10は15.05 pg/mL (57.0%減少、約0.43-fold) に低下した (p < 0.05)。IL-1βのみ統計的有意差は認められなかった (p=0.22)。この結果は、rTMが敗血症における全身性炎症反応を効果的に抑制することを示唆する (Figure 4)。

rTMによる細胞外ヒストンの抑制: LPS誘発性敗血症ショックモデルの肺および肝臓組織では、NETの主要構成成分である細胞外ヒストンが広範に検出された。しかし、rTM投与群 (n=5 replicates) では、これらの臓器におけるヒストンの検出レベルが著しく低下していることが確認された。この所見は、rTMが細胞外ヒストンの中和または分解を促進することで、ヒストンによる細胞毒性や血栓形成を抑制し、臓器障害の軽減に寄与する可能性を示唆する。rTMのレクチン様ドメインが、高移動度群ボックス1 (HMGB1) や細胞外ヒストンといったダメージ関連分子パターン (DAMPs) に結合し、これらを中和する機能を持つことが知られており、本研究のin vivoデータはこのメカニズムを裏付けるものである。

考察/結論

本研究は、LPS誘発性敗血症ショックマウスモデルにおいて、リコンビナントヒト可溶性トロンボモジュリン (rTM) が肺および肝臓における好中球細胞外トラップ (NET) 形成を全身的に抑制し、72時間生存率を100%に改善するという劇的な保護効果を実証した。この結果は、rTMが敗血症性臓器障害と致死率を軽減する可能性を強く示唆するものである。

先行研究との違い: 本研究は、これまでのrTM研究が主に抗凝固作用や抗炎症作用に焦点を当てていたのとは異なり、in vivoにおいて主要臓器でのNET形成抑制が生存率改善に直結することを初めて明確に示した。特に、LPS誘発性敗血症モデルにおける肺と肝臓の両臓器でのNET形成抑制効果を、免疫蛍光染色と走査型電子顕微鏡 (SEM) という多角的な手法で詳細に解析した点は、これまでの報告と対照的であり、rTMの新たな多面的作用機序を浮き彫りにした。

新規性: 本研究で初めて、rTMが敗血症ショックにおいて、血清サイトカインストームの緩和と同時に、肺および肝臓といった主要な標的臓器におけるNET形成を抑制することで、劇的な生存率改善をもたらすことをin vivoで実証した。rTMの多面的な作用、すなわち(i) トロンビン-トロンボモジュリン複合体形成によるプロテインC活性化を介した抗凝固作用、(ii) HMGB1結合・分解によるダメージ関連分子パターン (DAMPs) 除去作用、(iii) 細胞外ヒストンの中和による細胞毒性低下作用、および(iv) NET形成抑制による免疫血栓症阻止作用が統合的に臓器保護を実現するというメカニズムを提示したことは新規である。

臨床応用: 本研究の知見は、敗血症および敗血症性播種性血管内凝固症候群 (DIC) に対するrTM (ART-123、リコモジュリン) の早期投与戦略の重要性を裏付けるものである。また、過去のSCARLET (Sepsis Coagulopathy Asymmetry Release Therapy) 試験が敗血症性DIC患者において主要評価項目を達成できなかった結果に対し、NETを標的とした治療戦略の観点からrTMの臨床的有用性を再評価する可能性を示唆する。さらに、COVID-19重症例におけるNET-免疫血栓症の病態において、rTMが新たな治療選択肢となる可能性も考えられ、将来的な臨床応用や、他のNET標的薬 (DNase I、PAD4阻害薬など) との併用療法の開発に貢献し得る、重要な translational (橋渡し研究) な基盤を提供する。

残された課題: 本研究にはいくつかの限界 (limitation) が残されている。第一に、LPS誘発モデルはグラム陰性菌のエンドトキシン血症を再現するものであり、臨床敗血症 (多菌性感染、ウイルス性感染など) の複雑な病態とは乖離がある可能性がある。第二に、本研究で用いたrTMの投与量 (6 mg/kg/day) は、ヒト臨床用量 (0.06 mg/kg) と比較して高用量であり、臨床への橋渡しには用量再検討が必要である。第三に、雌マウスのみを用いた研究であるため、性差による影響は評価されていない。今後の検討課題として、盲腸結紮穿刺 (CLP: cecal ligation and puncture) モデルなどのより臨床に近い多菌性敗血症モデルでの検証や、rTMのレクチン様ドメインを介したヒストン分解の確固たる分子機構の解明が挙げられる。

方法

試験デザインと動物モデル: 本研究では、6〜8週齢の雌C57BL/6J Jmsマウス (C57BL/6J) を用いたLPS誘発性敗血症ショックモデルを構築した。LPSはE. coli O111由来 (Wako Pure Chemical Industries Ltd.) のものを使用し、rTM (ART-123) は旭化成ファーマ株式会社より提供された。

敗血症誘発と処置: マウスにはLPS (10 mg/kg) を腹腔内 (i.p.) 投与することで敗血症ショックを誘発した。rTM群にはLPS投与1時間後からrTM (6 mg/kg/day) を腹腔内投与し (治療的タイミング)、対照群 (非rTM群) には生理食塩水を同量腹腔内投与した。コントロール群にはLPSおよびrTMの代わりに生理食塩水を投与した。

主要評価項目:

  1. 生存率: LPS投与後72時間までの生存率をKaplan-Meier曲線で評価し、ログランク検定 (log-rank test) を用いて群間比較を行った。観察期間は最長7日間とした。
  2. 臓器におけるNET形成: LPSまたは生理食塩水投与8時間後に肺および肝臓組織を採取した。NET形成は、免疫蛍光染色法により評価した。具体的には、ミエロペルオキシダーゼ (MPO) (緑)、細胞外ヒストンH2A.X (赤)、核DNA (青、DAPI染色) の共局在を観察し、NETsの存在を同定した。さらに、走査型電子顕微鏡 (SEM: scanning electron microscope) を用いて肝臓組織におけるNETの三次元的な網目状構造を詳細に観察し、共焦点レーザー走査顕微鏡画像とSEM画像を統合してNET形態を評価した。
  3. 血清サイトカインレベル: LPS投与36時間後に心臓穿刺により血液を採取し、血清を分離した。血清中のインターロイキン-1β (IL-1β)、インターロイキン-6 (IL-6)、腫瘍壊死因子-α (TNFα)、マクロファージ走化性タンパク質-1 (MCP-1: macrophage chemotactic protein-1)、およびインターロイキン-10 (IL-10) のレベルを、サイトメトリックビーズアレイ (CBA: cytometric bead array) マウス炎症キットを用いて測定した。群間比較にはMann-Whitney U検定 (Mann-Whitney U test) を用いた。

組織病理学的評価: 肺および肝臓組織のヘマトキシリン・エオジン (H&E) 染色による組織病理学的評価も実施し、臓器障害スコアを評価した。

倫理的配慮: マウスの取り扱いは、藤田医科大学の実験動物管理規程に従い、動物実験委員会 (承認番号AP16088、2016年7月6日) の承認を得て実施された。苦痛を伴うマウスは直ちに安楽死させた。

統計解析: 生存率の比較にはログランク検定、サイトカインレベルの比較にはMann-Whitney U検定を用いた。p < 0.05を統計的有意差ありと判断した。統計解析にはStat Flex version 5を使用した。