HMGB1 (High Mobility Group Box 1)
一行要約
HMGB1 は核内 DNA 結合タンパク質であり、壊死・NETosis・化学療法誘導 ICD (immunogenic cell death) 時に細胞外に放出される代表的 DAMP (damage-associated molecular pattern) である。酸化還元状態依存的な受容体選択性 (還元型 → CXCL12/CXCR4 走化性、ジスルフィド型 → TLR4-NF-κB 炎症、完全酸化型 → tolerogenic) を有し、ICD triad (HMGB1 + calreticulin + ATP) の一角として DC の TLR4 活性化 → 抗原 cross-presentation を駆動する一方 (Palucka et al. Cell 2016)、慢性 HMGB1 放出は NF-κB 依存的な腫瘍促進炎症・血管新生・MDSC 動員を駆動し、NET の主要構成成分としても転移促進に寄与する dual role 分子である。
主要エビデンス
ICD シグナルと DC 活性化
免疫原性細胞死 (ICD) では化学療法・放射線療法により腫瘍細胞から HMGB1 + calreticulin (eat-me signal) + ATP (find-me signal) の 3 分子が coordinated に放出される (Palucka et al. Cell 2016、Schreiber et al. Science 2011)。HMGB1 は DC 表面の TLR4 に結合し、MyD88 依存的に抗原 cross-presentation を促進する。TLR4 欠損マウスでは化学療法による抗腫瘍免疫が成立しないことから、HMGB1-TLR4 軸は ICD の必須シグナルとして確立されている。
Pozzi et al. NatMed 2016 は cetuximab + 化学療法の併用が ICD を誘導し、HMGB1 放出 → DC 活性化 → 抗腫瘍 CD8+ T 細胞応答を惹起することを実証した。Kraehenbuehl et al. NatRevClinOncol 2022 は ICD pathway を IO 増感の新興標的として包括的に位置づけている。
放射線 + IO 相乗効果 (Abscopal effect)
放射線照射は局所での大量 HMGB1 放出を誘導し、DC 活性化 → systemic T 細胞応答 → 遠隔病変の退縮 (abscopal effect) を駆動する。Demaria et al. JAMAOncol 2015 は局所放射線の immunological adjuvant としての役割を提唱し、HMGB1 を key mediator として位置づけた。Ngwa et al. NatRevCancer 2018 は IO との併用で abscopal effect を増幅する戦略を総括している。
Theelen et al. JAMAOncol 2019 は NSCLC で SBRT + pembrolizumab が pembrolizumab 単独より腫瘍応答を改善することを臨床で示し、HMGB1 を含む ICD-DAMP → DC priming → IO 増感の translational 証拠を提供した。Weichselbaum et al. NatRevClinOncol 2017 は放射線と免疫療法の synergy を包括的にレビューしている。
NET 構成成分としての HMGB1
HMGB1 は好中球の NET (neutrophil extracellular trap) の主要構成成分であり、NET を介した DAMP シグナルが腫瘍促進 inflammation を増幅する。Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013 は NET が循環腫瘍細胞を sequester し転移を促進することを示した foundational paper であり、NET 上の HMGB1 が CTC の adhesion と survival を支持する。
Tohme et al. CancerRes 2016 は手術ストレス誘導 NET が肝転移を促進することを実証し、NET-HMGB1 が surgical stress と転移を結ぶ分子リンクであることを示した。Adrover et al. CancerCell 2023 および Shahzad et al. NatRevCancer 2026 は NET-cancer bidirectional interplay を最新総説として統合している。
慢性 HMGB1 と腫瘍促進炎症
Hernandez et al. Oncogene 2016 は DAMP の “double-edged sword” としての本質をレビューし、急性 HMGB1 放出は anti-tumor (DC activation)、慢性 HMGB1 は pro-tumor (NF-κB 持続活性化 → IL-6 / VEGF / MMP 産生 → 血管新生 / EMT / MDSC 動員) であることを整理した。腫瘍壊死巣からの持続的 HMGB1 放出は「wound that does not heal」の分子的実体の一つである。
Autophagy と細胞死の制御
HMGB1 は RAGE 結合を介して MAPK → Beclin-1 → autophagy を誘導する。Conrad et al. Cell 2026 はがんにおける細胞死の包括的レビューで、HMGB1 を ICD / necrosis / NETosis の crossroads に位置する central DAMP として統合的に位置づけた。化学療法抵抗性における protective autophagy と ICD-promoting apoptosis のバランスに HMGB1 が関与する。
メカニズム
構造と核内機能
HMGB1 は HMG box A / B ドメイン (DNA 結合) と acidic C-terminal tail から成る非ヒストンクロマチン結合タンパク質である。核内では DNA bending / nucleosome remodeling を担い、転写・DNA 修復・V(D)J 組換えに関与する。核外放出は 壊死 (passive release) と 活性化免疫細胞からの能動分泌 (acetylation 依存) の 2 経路で生じる。
酸化還元依存的受容体選択性
| 酸化還元状態 | 受容体 | 下流シグナル | 生物学的効果 |
|---|---|---|---|
| 全還元型 (all-thiol) | CXCL12 と heterocomplex → CXCR4 | CXCR4 → Gαi → PI3K → 走化性 | 免疫細胞 recruitment |
| ジスルフィド型 (C23-C45 bond) | TLR4 → MyD88 | NF-κB → TNF-α / IL-6 / IL-1β | 炎症誘導・DC 活性化 (ICD) |
| 完全酸化型 (sulfonyl) | — | — | 不活性 (tolerogenic) |
この redox-dependent switch は TME の酸化ストレス環境により HMGB1 の機能が動的に変化することを意味し、急性壊死 (還元〜ジスルフィド型) では免疫活性化、慢性腫瘍壊死 (酸化型蓄積) では免疫寛容に傾く。
RAGE シグナル
RAGE (receptor for advanced glycation end-products) との結合は MAPK (ERK / p38) → NF-κB、および Beclin-1 → autophagy を活性化する。腫瘍細胞の RAGE 高発現は HMGB1-RAGE autocrine loop を形成し、化学療法抵抗性の一因となる。
ICD triad の coordinate 放出
| DAMP | 放出タイミング | 受容体 | 機能 |
|---|---|---|---|
| Calreticulin | 早期 (ER stress → 表面移行) | CD91 (LRP1) | “eat-me” signal → DC phagocytosis |
| ATP | 中期 (pannexin-1 channel) | P2RX7 / P2RY2 | ”find-me” signal → DC recruitment |
| HMGB1 | 後期 (壊死/secondary necrosis) | TLR4 | DC maturation → cross-presentation |
3 分子の sequential かつ coordinate な放出が productive ICD の条件であり、いずれかの欠損は tolerogenic cell death に陥る。
がんにおける位置づけ
ICD-IO synergy の分子的基盤
HMGB1-TLR4 軸は化学療法・放射線 → ICD → DC priming → CD8+ T 細胞応答 → IO 増感という cascade の中核をなす。Chabanon et al. NatRevCancer 2021 は DNA damage response 標的治療が ICD / STING 活性化を介して IO と synergize することを示し、HMGB1 放出がその主要 mediator であることを論じている。
放射線照射と abscopal effect
局所放射線 → massive HMGB1 release → DC TLR4 活性化 → cross-priming → systemic T 細胞応答 → abscopal regression。McCall et al. ClinCancerRes 2018 は stage III NSCLC での CRT + IO 併用の基盤として HMGB1 / ICD 機構を言及している。
NET-HMGB1 と転移促進
NET 上の HMGB1 は CTC adhesion / dormancy escape / metastatic colonization を支持する。He et al. CancerCell 2025 は化学療法誘導 NET が肺での dormant cancer cell awakening を駆動することを示し、NET-HMGB1 が dormancy exit の trigger であることを示唆する。
慢性 DAMP と免疫抑制 TME
慢性 HMGB1 → NF-κB 持続活性化 → IL-6 / IL-10 / VEGF → MDSC 動員 / Treg 誘導 → immunosuppressive TME。Pitt et al. Immunity 2016 は IO 抵抗性の extrinsic factor として慢性 DAMP シグナルを位置づけている。
治療標的化
| 標的 | 薬剤 / 戦略 | 状態 | がん文脈 |
|---|---|---|---|
| ICD 誘導 (HMGB1 放出促進) | Oxaliplatin / Doxorubicin + IO | 臨床使用中 | ICD-competent chemotherapy + ICI |
| 放射線 → HMGB1 → DC | SBRT + anti-PD-1 | Phase II/III (Theelen et al. JAMAOncol 2019) | NSCLC abscopal 戦略 |
| HMGB1 中和 | Anti-HMGB1 mAb / Glycyrrhizin | 前臨床 | 慢性 HMGB1 neutralization (pro-tumor 側抑制) |
| RAGE 阻害 | FPS-ZM1 (RAGE 阻害) | 前臨床 | HMGB1-RAGE autophagy loop 遮断 |
| NET 標的 (HMGB1 含有) | DNase I / PAD4 阻害 | 前臨床 | NET-HMGB1 → 転移促進の遮断 |
| TLR4 agonist | Monophosphoryl lipid A (MPLA) | 承認 (ワクチン adjuvant) | HMGB1 mimicry による DC 活性化 |
現状の臨床的課題: HMGB1 の dual role (anti-tumor ICD vs pro-tumor chronic inflammation) のため、単純な阻害 / 促進では治療最適化できない。ICD-competent chemotherapy (oxaliplatin 等) の選択と、慢性 HMGB1 signaling の選択的遮断 (RAGE 阻害等) の組み合わせ設計が必要。Redox state を考慮した biomarker 開発 (disulfide vs oxidized HMGB1 の血中比) が望まれる。
Open Questions
- Redox-dependent HMGB1 の biomarker 開発 — ジスルフィド型 (pro-inflammatory) vs 酸化型 (tolerogenic) の血中比が IO response 予測に使えるか
- ICD-competent vs ICD-incompetent chemotherapy — HMGB1 放出量の違いが IO 併用設計にどう影響するか (oxaliplatin vs cisplatin)
- NET-HMGB1 標的の臨床移行 — DNase I / PAD4 阻害の systemic 投与の安全性、特に感染症リスク
- 慢性 HMGB1 の selective neutralization — ICD 時の急性 HMGB1 は保存しつつ慢性 HMGB1 のみを阻害する戦略の実現可能性
- HMGB1 と autophagy の治療的操作 — RAGE-autophagy loop 遮断が化学療法感受性を回復させるか
- Abscopal effect の predictive biomarker — HMGB1 / calreticulin / ATP の coordinate 放出を定量化する liquid biopsy アッセイ
重要論文 Top 10
- ★★★★★ Hernandez et al. Oncogene 2016 — DAMP の dual role を包括的に整理、HMGB1 central review
- ★★★★★ Palucka et al. Cell 2016 — ICD triad (HMGB1 + calreticulin + ATP) を oncoimmunology の基盤として体系化
- ★★★★ Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013 — NET-HMGB1 による CTC sequestration → 転移促進の foundational paper
- ★★★★ Theelen et al. JAMAOncol 2019 — SBRT + IO の NSCLC 臨床証拠、HMGB1-DC 軸の translational 実証
- ★★★★ Conrad et al. Cell 2026 — ICD / necrosis / NETosis の crossroads としての HMGB1 の統合的位置づけ
関連エンティティ
- NETosis — NET 構成成分としての HMGB1
- PD-1-inhibitor — ICD-HMGB1-DC axis による IO 増感
- Toll-like-receptor-pathway — TLR4-MyD88-NF-κB による炎症誘導
- NF-kB-pathway — HMGB1 下流の主要炎症シグナル
- S100A8-A9 — DAMP 間の協調 (NET / 炎症増幅)
- Interferon-pathway — ICD → DC maturation → type I IFN → cross-priming
- Ferroptosis-pathway — 細胞死様式と DAMP 放出の関連
- MDSC — 慢性 HMGB1 による MDSC 動員