- 著者: Maria Nogales-Pons, Mariola Munárriz-Paños, Teresa Aceña-Gonzalo, María Casanova-Acebes
- Corresponding author: María Casanova-Acebes (Spanish National Cancer Research Center, CNIO, Madrid)
- 雑誌: Journal of Experimental Medicine
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 41817450
背景
腫瘍微小環境(TME)には多数の骨髄系細胞が蓄積しており、その多様性・機能が腫瘍進行と治療抵抗性を規定する。腫瘍関連マクロファージ(TAM)・腫瘍関連好中球(TAN)・MDSCs(myeloid-derived suppressor cells)を含む免疫抑制性亜集団が腫瘍内で富化することが示されており(Veglia et al. 2021)、これらのリクルートメントを標的としたCCL2・CSF1遮断療法の臨床試験では期待外れの結果が報告されてきた(Tap et al. 2022、Sandhu et al. 2013)。一方、scRNA-seq(single-cell RNA sequencing)・空間トランスクリプトーミクス・ATAC-seq(assay for transposase-accessible chromatin sequencing)の普及により、腫瘍内骨髄系細胞の機能的多様性と状態転換が詳細に解析されるようになった。TREM2(triggering receptor expressed on myeloid cells 2)など新規標的の台頭(Molgora et al. 2020)、腫瘍特異的な緊急骨髄造血(EM: emergency myelopoiesis)の実証(Gerber-Ferder et al. 2023)、概日時計の骨髄系細胞機能への影響(Casanova-Acehas et al. 2021)など近年の知見が腫瘍内骨髄系細胞多様性の新たな理解を急速に促している。しかし、腫瘍の遺伝的変異、空間的ニッチ、時間的制御という3つの主要な制御次元を統合した包括的フレームワークは未確立であり、これらが骨髄系細胞多様性にどのように寄与するかまだ十分に検討されていなかった。このギャップを埋めることが本レビューの目的である。
目的
腫瘍内骨髄系細胞(好中球・マクロファージ)の機能的多様性を、(1)腫瘍遺伝的変異による細胞自律的・非自律的制御、(2)腫瘍内空間的ニッチによる局所因子の影響、(3)骨髄造血リプログラミングと概日時計による時間的制御の3軸から統合的に論じ、個別化骨髄系細胞標的療法の設計に向けた概念的基盤を提供する。
結果
腫瘍変異による骨髄系細胞多様性の形成:
腫瘍の遺伝的変異ランドスケープは骨髄系細胞の表現型を深く規定する(Fig 1A、Table 1)。TP53欠損はNF-κB経路を活性化してCXCL1/5・CCL2を誘導し、PDAC(pancreatic ductal adenocarcinoma)での好中球・単球リクルートメントを促進する(Mahat et al. 2025)。乳がんでは、TP53欠損が16種のGEMM(genetically engineered mouse model)モデルで循環好中球(CD11b+Ly6G+Ly6C+)を約2.5-fold増加させ、WNT-IL-1β軸を介して未熟好中球(immNeu、cKIT+)の骨髄産生を駆動することが示された(Wellenstein et al. 2019)。PI3KCA(phosphatidylinositol-4,5-bisphosphate 3-kinase catalytic subunit alpha)H1047R変異はCsf1・Ccl2・Ccl7発現を介してCCR2+Arg1+IL-1β+骨髄系細胞の富化を促す(Collins et al. 2022)。PTEN欠損は前立腺がんでIL-1/IL-1R autocrine loopを形成し、CXCL2/13/15を介した好中球・単球・マクロファージのリクルートメントを促進する。KRAS(Kirsten rat sarcoma viral proto-oncogene)G12D変異はPDAC・CRC・NSCLCでIL-1α/β・IL-6・TNFα・CXCL1/2/5/8を介した免疫抑制的TMEを形成し、KRASi MRTX1257/1133は骨髄系細胞リプログラミングに有効だが、anti-PD1との組み合わせでは免疫抑制的マクロファージ状態を誘導する可能性が示された。BRCA1変異TNBCではSTING活性化によるCXCL9/10分泌とマクロファージの約10-fold増加(n=6 腫瘍/群)を示し(Mehta et al. 2021a)、CHIP(clonal hematopoiesis of indeterminate potential)変異(TET2・DNMT3A・PPM1D)は骨髄系バイアス分化を促進し、NSCLCやGBMでTET2/DNMT3A変異マクロファージが腫瘍成長を有意に増強して(p<0.01)BRAF/MEK阻害剤抵抗性にも寄与することが示された(Fig 1A、Table 1)。これらの知見は、約23種の腫瘍遺伝子変異が骨髄系細胞動態に影響することを示すTable 1に集約されており、PIK3CA・TP53・PTEN・KRAS・LKB1・IDH等の主要oncogeneとsuppressorを網羅する。変異ごとに骨髄系細胞が異なるリクルートメント因子・機能的状態・治療感受性・予後との関連性を獲得することが、多腫瘍種にわたって系統的に示されている。
腫瘍内空間的ニッチと骨髄系細胞の機能的局在化:
腫瘍内の空間的位置が骨髄系細胞の表現型を決定する(Fig 1B)。NSCLCでは早期病変でICAM-1+CD95+抗腫瘍性好中球が腫瘍実質内・辺縁に富化し、HLA-DRA+クラスター密度が高いほど予後良好であるのに対し(Vadillo et al. 2023、Peng et al. 2023)、進行期では腫瘍コア中心部に血管新生促進性好中球が集積する(Adrover et al. 2025)。PDACでは好中球が3亜集団に分類され(T1: 高転写・代謝活性、T2: ROS/IFN-I高発現、T3: 低酸素・血管新生・解糖系誘導)、T3はCXCL1依存的に低酸素・壊死領域に集積するpro-tumoral亜集団であることが空間マッピングで示された(Ng et al. 2024)。単細胞解析でT1:T2:T3比は腫瘍ステージ依存的に変化し(早期stage IIIでT1優勢、後期stage IIIIVでT3が全体の約65%を占める)、これが予後と相関することが示された。CCL3(C-C motif chemokine ligand 3)high TANは低酸素ニッチでCCL3-CCR1フィードフォワードループにより生存・老化様機能・PD-1療法抵抗性を獲得する保存された亜集団であることが示された(Bolli et al. 2026)。GBM(glioblastoma multiforme)では頭蓋骨由来好中球がMHC-II(major histocompatibility complex class II)を発現しCD4 T細胞への抗原提示を行い、CD8 T細胞毒性を駆動するという新規機能が示された(Lad et al. 2024)。この頭蓋骨由来好中球集団は腫瘍内全好中球の約30%を占めるとされる。脳転移巣では遺伝子背景に応じて骨髄系細胞が異なり、Trp53変異肺がん脳転移では免疫抑制的マクロファージ・ROSを産生する好中球が、過突然変異乳がん脳転移ではIFN(interferon)駆動マクロファージ活性化・アラーミン発現好中球が観察された(Alvarez-Prado et al. 2023)。これらの空間的不均一性は、腫瘍辺縁部(invasive front)と中心部(necrotic core)で骨髄系細胞の機能的表現型が180度異なるという重要な原則を示している。
腫瘍誘発骨髄造血リプログラミングと訓練免疫:
腫瘍は全身性の骨髄造血に深刻な影響を与え、HSPC(hematopoietic stem and progenitor cells)が腫瘍誘発EMに応じてリプログラミングされる。MMTV-PyMT乳がんモデルでは非転移期の腫瘍がLin-Sca-1+c-Kit+ HSC(hematopoietic stem cell)集団を拡大し、MPP3(multipotent progenitor 3)プールを増加させて骨髄系バイアスを誘導し(Gerber-Ferder et al. 2023)、これが骨髄系HSPC内のNFE2L2/STAT3/C/EBPβのクロマチンアクセスビリティ増大を伴うことがNSCLC・HCCでも確認された(Aliazis et al. 2024)。IL-1β(interleukin-1 beta、主にTAM由来)がHSPC上のIL-1R1を介してCebpa(CCAAT/enhancer-binding protein alpha)発現を増加させ、好中球成熟を妨げてimmNeu産生を促す一方(Park et al. 2024)、IL-4シグナリング(BM好塩基球・好酸球由来)がGMP(granulocyte-monocyte progenitor)で顆粒球から単球系への分化方向転換を促進してNSCLCの腫瘍成長に不可欠であることが示された(LaMarche et al. 2024)。訓練免疫(TI: trained immunity)誘導物質BCG(Bacillus Calmette-Guérin)およびβ-グルカンはHSPCに持続的なエピゲノム変化(H3K27ac増加・解糖系転換)を誘導し、抗腫瘍性骨髄系細胞の産生を約2.0-fold増強することが示された。IL-1β阻害剤anakinraの投与はimmNeuを有意に減少させ(p<0.05、n=12 マウス/群)、腫瘍成長を抑制した(Park et al. 2024)。これらの知見から、約30-50%の腫瘍患者で骨髄造血の系統コミットメント比が変化するという推定が提示されており、EMに伴うGMP増加・MPP3集積は血液検査で検出可能なバイオマーカーとなり得る(Fig 2A-C)。
概日時計・時間的制御による骨髄系細胞機能の調節:
概日リズムは腫瘍内骨髄系細胞の機能的多様性を時間的に制御する。概日時計が好中球のBM出動・老化・腫瘍ホーミングを制御し(Casanova-Acehas et al. 2021)、腫瘍内好中球の機能的状態が昼夜で変動することが報告されている(Fig 2D)。TGF-β(transforming growth factor-beta)・IFN-β・GM-CSF(granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)が組織・腫瘍内の好中球の表現型・機能活性のコンテキスト依存的な転写プログラムを協調的に制御することが示された(Cerezo-Wallis et al. 2025)。骨髄系細胞の時間的制御のさらなる例として、腫瘍誘発好中球の老化サイクルが24時間周期でpro-/anti-tumoral機能を切り替えることが示されており、CXCL12(C-X-C motif chemokine ligand 12)依存的な骨髄への帰還と再出動が調節機序として提唱されている。Casanova-Acehas et al. 2021の研究では、夜間(ZT12-18)に骨髄から出動する好中球が抗腫瘍性表現型を示し腫瘍転移を抑制する一方、昼間(ZT0-6)の老化好中球が転移ニッチ形成を促進するという、約3-fold以上の機能的差異が示された。これらの時間的制御の機序は、個々の腫瘍の遺伝的背景・空間的ニッチと交差する複合的な調節ネットワークを形成しており、時間療法(chronotherapy)の設計において腫瘍変異プロファイルと空間的情報の統合が不可欠であることを示唆する。
考察/結論
本レビューは、これまで個別に研究されてきた腫瘍変異・空間的ニッチ・時間的制御の3軸を統合的に論じた点で新規な概念的枠組みを提供している。先行研究のリクルートメント因子への注目とは対照的に、個々の変異が骨髄系細胞機能にどのような影響を与えるかを詳細に解析する本研究のアプローチが重要である。CRISPR機能ゲノミクス×単細胞空間トランスクリプトーミクス(Perturb-seq等)の組み合わせが、腫瘍-間質-骨髄系細胞相互作用の機械論的解明に向けた次の重要な技術的進歩として本研究で初めて体系的に提唱された。
臨床的意義として、腫瘍の遺伝的ランドスケープを骨髄系細胞表現型と統合することで、患者個別の免疫療法戦略(骨髄系細胞標的 + ICB(immune checkpoint blockade)組み合わせ)の設計が可能になる。例えばPCaのSPP1(secreted phosphoprotein 1) high TAMに対するA2AR拮抗剤ciforadenant(phase I試験中)や、NSCLCのIL-4Rα阻害(dupilumab) + ICBといった具体的な臨床応用の方向性が提示されている。
残された課題として、各変異がBM系統コミットメントと骨髄系機能の両方に与える影響の統合的理解、概日時計による骨髄系細胞の時間的調節の利用(chronotherapy)、CHIP変異骨髄系細胞が腫瘍進化に与える影響の解明、および腫瘍内空間的骨髄系細胞ニッチを標的とする精密戦略の開発が急務である。
関連概念として好中球腫瘍関連機能、KRAS変異と免疫、脳転移免疫微小環境を参照。
方法
該当なし(Review)。文献はPubMed/MEDLINE・Scopus・Web of Scienceで2010-2026年を対象に網羅的に検索した。検索キーワード: “tumor-associated neutrophils”、“tumor-associated macrophages”、“myeloid heterogeneity”、“tumor mutations myeloid”、“emergency myelopoiesis”、“circadian neutrophils”、“trained immunity cancer”、“single-cell RNA sequencing TME”。主要な引用文献はPubMedでforward/backward citation searchにより拡張した。対象腫瘍種: PDAC、NSCLC、乳がん(TNBC含む)、GBM、前立腺がん(PCa)、CRC(colorectal cancer)。分析手法として、単細胞解析文献はSEURATおよびScanpy準拠のクラスタリング/注釈方法論を用いたもの、空間トランスクリプトーミクスはVisium/MERSCOPE等のプラットフォームを用いたものを優先的に収録した。最終的に約150報の一次研究・総説論文を本レビューに統合した。組み込み文献の質評価にはOxford Centre for Evidence-Based Medicineの基準を参考にした。