• 著者: Frances M. Smith, Jonathan H. Schrope, David A. Bennin, Adam Horn, Andrew S. Wagner, Yiran Hou, Jack J. Stevens, Morgan A. Giese, Huy Q. Dinh, Anna Huttenlocher
  • Corresponding author: Anna Huttenlocher (Department of Medical Microbiology and Immunology, University of Wisconsin-Madison)
  • 雑誌: The Journal of Immunology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41764731

背景

好中球は感染や組織傷害に対する生体防御の最前線で不可欠な役割を果たすが、その過剰な活性化は組織傷害を引き起こし、様々な疾患の原因となることが知られている。好中球の遊走を促進する分子機構については、LTB4 (leukotriene B4) による自己増幅的なスウォーミングシグナルなど、多くの研究がなされてきた。しかし、好中球の炎症活性を抑制する内因性機構の理解は未解明な部分が多く、好中球の活動を抑制する内在性制御因子の詳細な解明が不足している。これまでに、セマフォリン3EがRas関連GTPase活性の調節を介してCXCL1誘導遊走を阻害することや、NLRP12 (NLR family pyrin domain containing 12) がERKシグナルを介してCXCL1方向への遊走を選択的に阻害することが報告されているが、その全体像はまだ明らかではない。このように、好中球の炎症応答を収束させる内因性シグナル経路には大きな knowledge gap が残されており、好中球の過剰な活性化を制限する分子経路に関する詳細な知見が不足している。

骨髄由来成長因子である MYDGF (myeloid-derived growth factor) は、種を超えて高度に保存された分泌型パラクリン因子であり、好酸球性小胞から初めて同定された。著者らの先行研究である Houseright et al. (2021) では、ゼブラフィッシュ幼生の尾鰭切断モデルにおいて、好中球とマクロファージでMYDGFが誘導され、MYDGFの枯渇が炎症収束と創傷治癒を障害することが示された。さらに、心筋梗塞後の心筋保護効果や非アルコール性脂肪肝炎におけるNF-κB経路を介した炎症抑制など、MYDGFの治療特性が報告されている。また、MYDGFが SERCA2a (sarco/endoplasmic reticulum Ca2+-ATPase 2a) を阻害し、カルシウム駆動性心臓肥大を緩和するという報告があり、カルシウム調節への関与が示唆されていた。カルシウムシグナルは好中球の ROS (reactive oxygen species) 産生、食菌、遊走といったエフェクター機能に中心的な役割を担うため、MYDGFが好中球のカルシウムダイナミクスを調節することで炎症活性を制御する可能性が浮上した。

ヒト PBN (peripheral blood neutrophil) はin vitroでの寿命が短く、遺伝子操作が困難であるという研究上の制約がある。著者らの先行研究である Giese et al. (2024) や Wagner et al. (2025) では、ヒト iPSC (induced pluripotent stem cell) から分化させたiNeutrophilが、PBNの表現型と機能を維持しつつ、遺伝子操作が可能であることを示してきた。iNeutrophilは将来の輸注療法への応用可能性も持つことから、MYDGFの機能解析モデルとして最適である。

目的

本研究の目的は、ヒトiPSC由来好中球 (iNeutrophil) において、CRISPR-Cas9システムを用いて分泌型パラクリン因子であるMYDGFをノックアウトし、好中球内因性におけるMYDGFの役割を解明することである。特に、MYDGF欠損が好中球の成熟、ROS産生、抗真菌活性、経内皮遊走、マイクロチャネル内での封じ込め下遊走、細胞内カルシウムシグナル、および好中球間のパラクリンコミュニケーションに与える影響を詳細に解析し、その分子機序を明らかにすることを目的とする。

結果

MYDGF KOはiNeutrophilの同一性・成熟性に影響しない: ウェスタンブロットにより、WT iNeutrophilおよびヒトPBNで検出されるMYDGFが、KO iNeutrophilで完全に消失していることを確認した (Fig. 1B)。MYDGF KO iNeutrophilは多葉核の形態を維持しており (Fig. 1C)、CD11b、CD15、CD16といった成熟マーカーの陽性率および発現強度において、WT iNeutrophilとの間に有意な差は認められなかった (n=3 replicates) (Fig. 1D-F)。scRNA-seqによるUMAP解析でも、WTとKOのiNeutrophilはヒト一次好中球の成熟軌跡と一致する分子不均一性を示し、MYDGF欠損がiNeutrophilの同一性や成熟度に有意な影響を与えないことが示された (Fig. 1G, H)。

MYDGFはROS産生と抗真菌活性を抑制する: scRNA-seqのGO富化解析では、MYDGF KO iNeutrophilにおいて、炎症性サイトカイン産生やケモカイン応答に関連する経路の増加が認められた (Fig. 2A)。ゾイモサン刺激下において、MYDGF KO iNeutrophilはWT iNeutrophilと比較して有意に高いROS産生を示し (p<0.001)、MYDGFのノックインによりROS産生はWT水準に回復したことから、MYDGFが刺激依存的に炎症応答を抑制することが確認された (n=3 replicates) (Fig. 2B)。安静時のROS産生には差がなかった (Fig. 2C)。Aspergillus fumigatus との共培養実験では、MYDGF KO iNeutrophilが菌糸増殖を有意に制限し、WT iNeutrophilと比較して優れた抗真菌活性を示した (KO; n=42 spores、WT; n=39 spores、p<0.001) (Fig. 2D, E)。NET放出および P. aeruginosa に対する食菌率はWTとKO間で差がなく、MYDGFの制御が抗真菌ROS応答に選択的であることが示唆された。

MYDGF欠損は経内皮遊走と封じ込め下遊走を著明に促進する: LumeNEXTモデルを用いた経内皮遊走実験では、MYDGF KO iNeutrophilは12時間でWTの約5.0-fold increaseに相当する細胞数が内皮バリアを越えて遊走した (n=3 replicates) (Fig. 3B)。マイクロチャネルでの封じ込め下遊走速度は、MYDGF KO iNeutrophilがfMLP誘引下でWTの約2.0-fold increaseとなる速度(p<0.001)を示し、MYDGFのノックインにより速度は50%以上低下し、WT水準まで回復した (Fig. 3D)。接着分子の発現に差は認められず、MYDGFが遊走力学に直接影響することが示唆された。各実験はn=7 channelsで実施された。

MYDGFはパラクリンシグナルを介して好中球間の遊走抑制コミュニケーションを媒介する: ウェスタンブロットおよび免疫沈降により、MYDGFがWT iNeutrophilから培地中に分泌されることが確認された (Fig. 4A)。WTとKO iNeutrophilを1:1で混合して封じ込め下遊走を測定したところ、混合集団中のKO iNeutrophilはKO単独群よりも有意に遅く遊走し (p<0.01)、混合WT iNeutrophilと同等の速度であった (Fig. 4B, C)。KO iNeutrophilをWT条件培地 (MYDGF含有) で処理すると遊走速度が低下したが (p<0.01)、KO条件培地では変化しなかった (Fig. 4D)。さらに、WT条件培地はヒトPBNの遊走速度も約2.5-fold抑制した (p<0.001) (Fig. 4E)。これらの結果は、MYDGFが好中球間のパラクリン性抑制シグナルとして機能することを示している。各実験はn=5 channelsまたはn=9 channelsで実施された。

MYDGFは遊走中の細胞内カルシウムダイナミクスを抑制する: Fluo-4 AMを用いた封じ込め下遊走実験では、WT iNeutrophilは細胞内Ca2+キレーターであるBAPTA-AM (100 µM) 処理により遊走速度と蛍光強度 (Ca2+シグナル) が有意に低下した (p<0.01) (Fig. 5A, B)。MYDGF KO iNeutrophilはfMLP誘引時にWTと比較して有意に高いCa2+シグナルピーク強度を示し (p<0.001)、封じ込め下遊走中も一貫して高いCa2+強度を維持した (Fig. 5C-F)。WT iNeutrophilではカルシウムが細胞全体に比較的均一に分布するのに対し、MYDGF KO iNeutrophilでは孤立したCa2+マイクロドメインが形成され、これが遊走シグナルの増強に寄与する可能性が示唆された。MYDGFのノックインによりCa2+強度はKO水準から低下し (p<0.05) (Fig. 5G)、BAPTA-AM処理によりMYDGF KO iNeutrophilの促進された遊走が抑制された (p<0.01) (Fig. 5H, I)。これらのデータから、MYDGFが細胞内カルシウムシグナルの内因性阻害因子として機能することが確認された。各実験はn=14 channelsまたはn=5 channelsで実施された。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のゼブラフィッシュモデルを用いた研究では、MYDGFが組織の炎症収束や創傷治癒に関与することは示されていたものの、その作用が微小環境由来なのか好中球内因性なのかは不明であった。本研究は、遺伝子操作が可能なヒトiPSC由来のiNeutrophilモデルを用いることで、MYDGFが好中球内因性のパラクリン抑制因子として機能し、好中球間の直接的な細胞コミュニケーションを媒介することを初めて実証した点において、これまでの知見と大きく異なる。また、MYDGF KO iNeutrophilがGATA1 KO iNeutrophilとは対照的にNET放出の増加を示さない点は、組織傷害を最小限に抑えつつ抗菌活性を向上させるという、安全性の高いプロファイルを持つことを示している。

新規性: 本研究で初めて、MYDGFが好中球の細胞内カルシウムダイナミクスを抑制し、これがROS産生、抗真菌活性、および遊走能の制御に寄与することを示した。MYDGFが好中球間のパラクリン性抑制シグナルとして機能し、集団レベルでの好中球の遊走を調節するという発見はこれまで報告されていない。

臨床応用: MYDGF KO iNeutrophilが向上した遊走能と抗真菌活性を示す一方でNET増加がなく、成熟度に変化がないことは、重症好中球減少症患者や難治性真菌感染症に対する輸注療法において、機能が増強された治療用iNeutrophilとしての臨床応用可能性を示す。逆に、可溶性MYDGFの外因性投与は、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、関節リウマチなど、慢性的な好中球過活性化による組織傷害を制限する臨床的治療戦略となりうる。

残された課題: 今後の検討課題として、MYDGFの特異的受容体が未同定であり、パラクリン遊走抑制シグナルの下流機序解明が必要である。MYDGFがfMLP誘引遊走を抑制することはGタンパク共役受容体依存経路の関与を示唆するが、LTB4スウォーミングフィードバック機構との関係も不明である。MYDGFの小胞体局在とSTIM1/2による小胞体-形質膜接触部位でのCa2+調節との具体的関係の解明も今後の検討課題である。さらに、in vitroの知見のin vivo的検証と、iNeutrophil輸注療法の前臨床安全性・有効性の体系的評価が臨床応用に向けて必要である。

方法

iNeutrophilモデルの作製と特性評価: BM9 (BM9 iPSC line) 株において、MYDGFエクソン4を標的とする2種類のsgRNA (single guide RNA) とCas9タンパク質を核感染させ、42 bpの欠失を持つMYDGFノックアウト (KO) iPSC株を作製した。また、AAVS1安全ハーバー領域に3×FLAG-Twin Strepタグ付きMYDGFをノックインすることで再発現株も作製した。これらのiPSC株は既報のプロトコールに従ってiNeutrophilへ分化させ、多葉核の形態、および表面マーカー (CD11b、CD15、CD16) の発現をフローサイトメトリーと細胞染色により確認した。MYDGFの欠損および再発現はウェスタンブロットと免疫沈降により確認した。

機能評価:

  • ROS産生: Dihydrorhodamine-123 (DHR123) 蛍光法を用いて、PMA (phorbol 12-myristate 13-acetate) およびゾイモサン (100 µg/mL) 刺激下でのROS産生を測定した。
  • 抗真菌活性: 赤色蛍光タンパク質 (RFP) 標識した Aspergillus fumigatus (CEA10株) とiNeutrophilを12時間共培養し、菌糸増殖面積を測定した。
  • 食菌活性: Pseudomonas aeruginosa に対する食菌活性を評価した。
  • 経内皮遊走 (TEM: transendothelial migration): LumeNEXT内皮ルーメンモデルを用い、P. aeruginosa を誘引源として12時間にわたる経内皮遊走細胞数を定量した。
  • 封じ込め下遊走: 液壁マイクロチャネル (underoil confined migration system) を使用し、fMLP (formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine) (10 µM) 勾配下でのiNeutrophilの遊走速度を測定した。
  • カルシウムダイナミクス: Fluo-4 AM蛍光色素を用いて細胞内カルシウムシグナルをリアルタイムで測定した。細胞内Ca2+キレーターであるBAPTA-AM (100 µM) 処理による遊走およびCa2+シグナルへの影響も評価した。

分子解析と統計解析: scRNA-seq (single-cell RNA sequencing) には 10x Genomics Chromium 3’ システムを用い、MYDGF KO iNeutrophilとWT iNeutrophilの遺伝子発現プロファイルを比較し、Gene Ontology (GO) 富化解析を実施した。シングルセルデータの統合解析には Hao et al. Cell 2021 の手法を適用した。接着分子の発現はフローサイトメトリーで評価した。統計解析には、2群間比較として Student’s t-test (t検定) または Mann-Whitney test を用い、多群間比較には one-way ANOVA (一元配置分散分析) を用いた。