• 著者: Wang et al.
  • Corresponding author: N/A (Center for Excellence in Molecular Cell Science, Chinese Academy of Sciences)
  • 雑誌: Nature Cancer
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42141174

背景

PMN-MDSC (polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cells) は腫瘍微小環境 (TME) における主要な免疫抑制細胞集団であり、その腫瘍内蓄積は複数のがん種で独立した予後不良因子として確立されている (Condamine et al)。PMN-MDSCは活性化T細胞と直接接触することで ROS (reactive oxygen species) を放出し、CD3ζ鎖の下方制御を通じてT細胞寛容を誘導することが示されてきたが、その接触を媒介する分子機構は不明であった。

著者らは先行論文でCD300ldがPMN-MDSC上で高発現し免疫抑制に関与することを同定していたが、CD300ldが結合する具体的なリガンドは特定されていなかった。また、がん細胞においてPS (phosphatidylserine) フリッパーゼ遺伝子Tmem30aを欠損させると、アポトーシスを伴わずに外膜へのPS露出が生じ、免疫抑制性TMEとPMN-MDSC増加が誘導されることが報告されていた (prior PMN-MDSC studies)。さらに、PS[high] CD8+T細胞は活性化マーカーが高く強力な細胞傷害性を示すことも示されていた。

しかしながら、CD300ldの直接結合リガンドが何であるか、PMN-MDSCがPS[high] CD8+T細胞と直接接触して抑制するという機序の分子基盤、そしてこの接触軸が臨床的に免疫チェックポイント阻害 (ICB; immune checkpoint blockade) の奏功と関連するかという重要な 知識ギャップ (knowledge gap) が残されていた。加えて、PS結合蛋白としてのCD300ldを標的とした治療的アプローチの可能性も未検証であった (cancer immune evasion)。

目的

AlphaFold3構造情報駆動スクリーニングによりCD300ldの特異的脂質リガンドを同定し、PMN-MDSCによるPS[high] CD8+T細胞への直接接触依存性免疫抑制の分子機序を解明する。さらに、CD300ld-PS軸を標的とする中和抗体の治療的有効性を検証し、抗PD1との相乗効果および臨床的意義を評価する。

結果

AlphaFold3スクリーニングによるPS同定と結合の分子基盤

AlphaFold3を用いて114脂質種とCD300ld-ECDの結合モードを系統的に予測し、GNINA affinity rankingによりPS (phosphatidylserine) とPE (phosphatidylethanolamine) が最上位候補として同定された (Fig. 1a,b)。これをPVDF脂質ドットブロット、PS含有リポソームプルダウン、およびSPR (L1センサー、RU定量) で検証し、CD300ld-ECD-FcがPS含有リポソームに用量依存的に結合することを確認した。結合はCa2+依存性であり (EDTA添加で消失)、Annexin VがCD300ld-ECD-FcのPS結合を競合阻害した (Fig. 1f)。

MD シミュレーションでC62-ジスルフィド結合とD116-塩橋がPS認識に必須であることを予測し、部位特異的変異体C62AとD116AでPS結合が完全に消失することをSPRおよびリポソームWestern blotで確認した (n=3 independent experiments; Fig. 1i,j)。CD300ld-KO好中球でも蛍光リポソーム結合アッセイにてPS結合能の消失を確認した (n=3/群)。

CD300ld-PS軸を介したPMN-MDSCの腫瘍内保持と腫瘍増殖促進

CD300ld-KOおよびC62A、D116A変異ノックインマウスで複数腫瘍モデルにおける腫瘍増殖を評価した。B16-F10皮下モデルでは変異マウス群で腫瘍増殖が顕著に抑制され (WT n=9、C62A n=8、D116A n=8、P<0.0001)、腫瘍内PMN-MDSC割合の低下とCD8+T細胞浸潤の増加が認められた (day 15; n=9/群、P<0.0001; Fig. 2e-g)。TC-1 (n=9) およびMC38 (n=6-7) でも同様の結果を得た。HCCモデル (hydrodynamic plasmid injection) では変異マウスで肝臓/体重比が有意に低下し (n=6/群; P<0.0001)、生存延長が示された (WT n=10、C62A n=8、D116A n=8; log-rank P<0.0001; Fig. 2j,k)。

Annexin V (10 mg/kg、隔日投与) によるPS競合処置はWTマウスで腫瘍増殖を抑制したが、CD300ld-KOマウスでは効果がなく (Fig. 2a)、CD300ld-ECD-Fc処置でも同様にWT特異的腫瘍抑制を確認した。CD300ldはTmem30a-KO腫瘍 (PS過露出モデル) によるPMN-MDSC増加の主要メディエーターであることも示された (Tmem30a-KO腫瘍の効果はCD300ld-KOマウスで消失; Fig. 2 Extended Data)。変異PMN-MDSC (MT) はWT PMN-MDSCと比較してin vitroでのT細胞増殖抑制能が著明に低下し (PMN-MDSC:splenocytes = 1:2および1:4; n=3、P<0.0001; Fig. 2l)、CD300ldがPMN-MDSCの機能的免疫抑制を支持することが示された。

SrtAプロキシミティラベリングでのPMN-MDSC-PS[high] CD8+T細胞直接接触の定量

PMN-MDSCとCD8+T細胞の直接接触を定量するため、コレステロール結合SrtA (S. suis由来) をT細胞膜に挿入し、biotin-LPETG基質存在下での接触細胞間biotin転移を利用したプロキシミティラベリング系を構築した (Fig. 3c)。WT PMN-MDSCはSrtA+T細胞との共培養で22.5%のbiotin+標識を示したのに対し、CD300ld-KO PMN-MDSCでは7.78%に有意に低下した (対照1.39%; n=4、P<0.0001; Fig. 3d,e)。

さらにPS[high]とPS[low]のT細胞を分取して比較すると、PS[high] T細胞からPMN-MDSCへのbiotin転移率は53.9%で、PS[low] T細胞の13.3%を大きく上回った。CD300ld-KOではPS[high]接触が21.8%に有意低下したのに対し、PS[low]は13.7%でほぼ不変 (13.3% vs 13.7%、NS; n=5/群; Fig. 3f)。In vivoでのSrtAラベリング実験では、腫瘍浸潤PMN-MDSCの約8%、脾臓PMN-MDSCの約4%がbiotin+となり、Rag1-/-CD300ld-/- マウスでは接触が顕著に低下した (Rag1-/- n=9; Fig. 3l)。Imaging flow cytometry (IBFC) および免疫蛍光染色で腫瘍切片上のCD300ld+好中球 (MPO+) とCD8+T細胞の空間的近接を形態学的に確認した (Fig. 3m,n)。

scRNA-seqによるPS[high] CD8+T細胞機能障害の解明とCD300ldの接触依存性機序

B16-F10腫瘍浸潤PS[high]・PS[low] CD8+T細胞のscRNA-seq (n=27,076細胞、13クラスター、WT・CD300ld-KO各群5マウスpooling) を実施した (Fig. 4c)。CD300ld-KO腫瘍ではPS[high] CD8+T細胞におけるeffector・proliferating clusterの比率増加とterminal exhausted clusterの比率低下が明確に示された (Fig. 4d)。Trajectory解析ではWTのPS[high] T細胞が主にexhausted/terminally exhausted方向に分化するのに対し、CD300ld-KOでは effector fateへの分化が優位であった (Fig. 4f)。

フローサイトメトリーでCD300ld-KO腫瘍ではPS[high] CD8+T細胞の割合増加 (n=7/群、P<0.05)、活性化マーカー (IFNγ、Gzmb) 上昇・疲弊マーカー (PD1、Tim3) 低下が確認された (PS[low]では変化なし; Fig. 4a,b)。CD3ζ (CD247) の発現がscRNA-seqで上昇し、フローサイトメトリーでも有意に増加した (n=9、P=0.0003; Fig. 4n,o)。ROS阻害剤N-acetylcysteine (NAC) 処置でWT PMN-MDSCの抑制能がCD300ld-KO同等まで低下し、CD300ld媒介免疫抑制が接触依存性ROS伝達を通じて機能することが証明された (Fig. 4p)。

CD300ld.L14中和抗体と抗PD1の相乗的抗腫瘍効果

多段階選択戦略とMDシミュレーションによりCD300ld.L14 nanobodyを開発し、Kd=33.8 nM (MST) でのマウスCD300ldへの高親和性結合を確認した (Fig. 5b)。SPRでCD300ld.L14がCD300ld-PS相互作用を阻害することを実証した (Fig. 5c)。In vivoではL14抗体 (10 mg/kg、隔日腹腔内投与) がB16-F10腫瘍の増殖を抑制し (WT L14 n=9 vs Ctrl n=9; P<0.0001)、CD300ld-KOマウスでは効果がなくon-target活性を確認した (Fig. 5d,e)。HCCモデルでL14抗体処置により生存延長 (Ctrl n=10 vs L14 n=12; log-rank P有意; Fig. 5g)。Rencaモデルでは4/15 (27%) の完全退縮とrechallenge耐性を達成した (Fig. 5h,i)。

最も重要な知見として、B16-F10腫瘍においてL14抗体と抗PD1 (RMP1-14; 10 mg/kg) の組み合わせ処置は各単剤より有意に優れた生存延長を示した (isotype n=15、抗PD1 n=12、L14 n=14、併用 n=18; Fig. 5j)。MC38モデルでは9/15 (60%) が完全退縮を達成し、rechallenge後も腫瘍拒絶能を維持した (naive n=7 vs cured n=7; Fig. 5k,l)。ヒト用に最適化したCD300LD-L14-1 (Kd=71.84 nM) はhuLDマウスでも有意な腫瘍増殖抑制を示した (n=6/群; Fig. 6i)。

ヒトCD300LDの臨床的意義と予後バイオマーカーとしての可能性

TCGA pan-cancer解析 (n=596 参加者) でCD300LD mRNA発現とPS[high] CD8+T細胞シグネチャースコアの有意な逆相関を確認した (Pearson r = 負の有意値; 2-sided F-test; Fig. 6j)。SKCM (skin cutaneous melanoma; 皮膚悪性黒色腫) の層別生存解析では、low CD300LD + high PS[high] CD8+シグネチャー群で有意な生存優位 (P=0.0002) が示された一方、high CD300LD群ではシグネチャーの予後的意義が消失した (P=0.2375; Fig. 6k)。3コホートのICB治療melanoma縦断解析 (GES93157、phs000452、PRJEB23709) では奏功 (responder; R) 群でnon-responder (NR) 群に比べてCD300LDシグネチャーが低くPS[high] CD8+Tシグネチャーが高い傾向が示された (Mann-Whitney U test; Fig. 6l)。大腸癌患者末梢血 (n=35 参加者) ではPMN-MDSCのCD300LD発現とPS[high] CD8+T細胞割合の間に有意な負の相関が観察された (Pearson r = 負の有意値; 2-sided F-test; Fig. 6m)。

考察/結論

本研究はCD300ldがAIを活用した構造情報駆動スクリーニングによって同定されたPMN-MDSC上のPS特異的受容体であり、PS[high] CD8+T細胞との直接物理的接触を媒介して腫瘍免疫抑制を実行するという新規機序を確立した。

①既存報告との違い:先行研究ではPMN-MDSCの免疫抑制機構としてROS放出、arginase活性、NO産生が挙げられてきたが、これらの「機能」がどのような接触分子を介して活性化されるかは不明であった。本研究はその「接触のキー分子」としてCD300ldを同定し、PS[high]という活性化T細胞特異的な信号分子を認識することで免疫抑制が選択的・効率的に行われることを示した。また、PSがCD300ldのシグナリングを直接活性化しないこと (PSは接着のみを担い、シグナリングには別のリガンドが必要) という予想外の知見は、CD300ldが「接着」と「機能」の二段階作用機構を持つことを示唆し、先行研究の解釈を大きく更新するものである (immune checkpoint biology)。

②新規性:本研究が持つ技術的新規性として、(1) AlphaFold3を用いた114脂質種の網羅的スクリーニングという計算科学主導のリガンド探索アプローチ、(2) 細菌由来SrtAのコレステロール修飾による細胞膜挿入という細胞間接触の革新的定量法、(3) PS[high]という活性化T細胞特異的サブセットが免疫抑制の標的であるという概念の確立が挙げられる。特にPS[high] CD8+T細胞が「より強力な細胞傷害性」を持ちながら同時に「PMN-MDSCに優先的に抑制される」という逆説的知見は、腫瘍免疫学における新たなパラダイムとなりうる (novelty)。

③臨床応用:ヒトCD300LD用に最適化されたCD300LD-L14-1抗体はhuLDマウスで有意な抗腫瘍効果を示しており、臨床開発候補として有望である。抗PD1との組み合わせでMC38モデルの60%が完全退縮・rechallenge耐性を達成した成績は、CD300LD標的療法が既存の免疫チェックポイント阻害薬と相補的に機能することを示している。また、CD300LD低発現がICB奏功と相関するという臨床データは、患者層別化バイオマーカーとしての可能性を開く。

④残課題:CD300ldがPS以外に有するシグナリングリガンドの同定が最重要の 将来的な課題 (future work) である。本研究はPS結合は接着のみを担いシグナリングには寄与しないことを示したが、PMN-MDSCの免疫抑制実行には別途シグナリングパートナー (膜型または分泌型蛋白) が必要であり、その同定によりCD300ldの多面的機能が解明される。また、ヒト臨床試験でのCD300LD抗体の安全性・有効性は未検証であり、PMN-MDSC以外の細胞種 (例えばPS[high]を呈する他の免疫細胞) に対するオフターゲット効果も検討が必要である。さらに、本研究でのヒト臨床データは観察研究に基づくため、前向き研究による検証も 将来的に 求められる。

方法

In vitro・In vivo腫瘍モデル: 腫瘍細胞株はB16-F10、TC-1、MC38、Renca (皮下移植)、B16-OVA (ovalbumin; OVA発現メラノーマ、養子免疫移植)、ならびにHCC (KRasV12 + myrAKT + Sleeping Beautyトランスポザーゼのhydrodynamic injection) を使用。C57BL/6マウス (6週齢、雌)、Rag1-/- マウス、CD300ld-KO、CD300ld-C62A/D116A変異マウス、huLD (humanized CD300ld) マウス、huLD-D115A変異マウスをGemPharmatech社が作製。動物実験はInstitutional Animal Care and Use Committee of the Center for Excellence in Molecular Cell Science (中国科学院、SIBCB-S313-1901-004) の承認を得た。ヒト組織サンプルは楊浦医院 (Tongji大学) 倫理委員会 (LL-2024-ZRKX-044) が承認し、インフォームドコンセントを取得。

リガンドスクリーニング・構造解析: AlphaFold3 + GNINAランキングで114脂質種とCD300ld-ECD (extracellular domain; 細胞外ドメイン) の結合モードを予測。次いでSchrödinger Suite 2024-1 (Induced Fit Docking、Protein Preparation Wizard、LigPrep) でdockingを実施。MD (molecular dynamics) シミュレーション (Schrödinger) で結合安定性および抗体ブロッキング活性を評価。結合検証はPVDF (polyvinylidene fluoride) ドットブロット、リポソームプルダウン (Western blot)、SPR (surface plasmon resonance; L1センサー) で実施。

プロキシミティラベリング: Streptococcus suis由来SrtA (sortase A) をコレステロールと化学結合させ、細胞膜に挿入したSrtA供与細胞と接触した受容細胞をbiotin-LPETG基質でbiotin化する系を構築。in vitroおよびin vivo (Rag1-/-マウス静脈注射) でPMN-MDSC-CD8+T細胞の直接接触を定量した。

フローサイトメトリー・scRNA-seq・Imaging FC: FACS Canto II/FACSMelody (BD Biosciences) / SE420 (上海Future Technology) を使用。Annexin V、Caspase 3/7 kit、7AAD、Streptavidinでコンパネル。Imaging flow cytometry (IBFC): FACSDiscover S8 + CellView (BD Biosciences) + FACSChorus。scRNA-seq: 10x Genomics Chromium、n=27,076細胞 (B16-F10; 各群5マウスをpooling)。PMN-MDSC分離はMACS (magnetic-activated cell sorting; STEMCELL EasySep, 19762)。データ解析: FlowJo、Seurat (UMAP, trajectory analysis)。

治療実験: マウスCD300ld.L14 nanobody (MST; microscale thermophoresis Kd=33.8 nM)、ヒト用CD300LD-L14-1 (Kd=71.84 nM)、抗PD1 (RMP1-14, Bioxcell、10 mg/kg)、抗CD8α (YTS 169.4, 10 mg/kg)、bavituximab (PS抗体、5 mg/kg)。

臨床データ解析: TCGA pan-cancer (n=596)、SKCM Kaplan-Meier解析 (GES93157、phs000452、PRJEB23709コホート)、大腸癌患者末梢血 (n=35、楊浦医院)。

統計: 一元配置ANOVA (Tukey法多重比較)、Student’s two-sided unpaired t-test、log-rank test (生存解析)、Mann-Whitney U test (bulkRNA-seq比較)、two-sided F-test (相関)。