- 著者: E.H. Puttock, E.J. Tyler, M. Manni, E. Maniati, C. Butterworth, M. Burger Ramos, E. Peerani, P. Hirani, V. Gauthier, Y. Liu, G. Maniscalco, V. Rajeeve, P. Cutillas, C. Trevisan, M. Pozzobon, M. Lockley, J. Rastrick, H. Läubli, A. White, O.M.T. Pearce (Puttockと Tylerは同等第一著者)
- Corresponding author: O.M.T. Pearce (Queen Mary University of London, Barts Cancer Institute, London, UK)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-05-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 37188691
背景
高悪性度漿液性卵巣がん (HGSOC) は診断時にすでに大網 (omentum) に転移していることが多く、腹膜播種が予後を規定する主要因子の一つである。腫瘍微小環境 (TME) における免疫浸潤の組成が治療効果と予後に直接影響することは広く認識されており、なかでも腫瘍関連マクロファージ (TAM) は全腫瘍浸潤免疫細胞の最多数を占め、M1様の炎症促進性からM2様の免疫抑制性まで幅広い表現型スペクトルを示す。従来の研究では、TAMの極性化はIFNγ (M1)・IL-4/IL-13 (M2) などのサイトカインシグナルによって制御されると考えられてきた。しかし、腫瘍ECMの組成が浸潤免疫細胞の表現型を直接誘導・「教育」するかどうかは未解明であった。
一方、がん組織の細胞外マトリクス (ECM) が著しくリモデリングされることは古くから知られており、ECMが免疫抑制環境の確立に積極的役割を担うと考えられる。例えば、TGFβ阻害剤であるgalunisertibの前臨床モデルでは、ECM沈着の非特異的抑制によりCD8+ T細胞浸潤が増加し、PD-L1阻害との併用で全生存率が改善することがMariathasan et al. Nature 2018によって示されている。同様に、ヒアルロナンの枯渇も前臨床的に抗腫瘍免疫を増強することが報告されており、ECMが免疫抑制環境の確立に積極的役割を担うことが示唆される。これらの先行研究は、腫瘍ECMが免疫抑制と関連することを示唆しているが、ECMが直接的に免疫細胞の表現型を教育するメカニズムについては知識が不足していた。
本研究グループは以前の研究で、HGSOC大網転移巣のバルクRNA-seqおよびプロテオミクスデータからECMシグネチャーを同定し、これが免疫抑制と疾患進行に関連することを示していた。このECMシグネチャーは免疫抑制性細胞表現型と関連するものの、細胞傷害性免疫細胞表現型とは正の相関を示さず、CD8 T細胞とは負の相関を示した。これらの先行研究は、腫瘍ECMが免疫抑制と関連することを示唆しているが、ECMが直接的に免疫細胞の表現型を教育するメカニズムについては知識が不足していた。本研究はその知見を発展させ、ECMの直接的なTAM教育作用を脱細胞化組織モデルで証明することを目指した。特に、M0マクロファージと呼ばれる特定のTAM集団が、肝細胞がん、肉腫、乳がん、肺がんなど複数の癌種で予後不良と関連することが近年報告されているが、HGSOCにおけるその役割やECMとの関連性は十分に解明されていなかった点が、本研究の重要な知識ギャップであった。
目的
本研究の目的は、高悪性度漿液性卵巣がん (HGSOC) 大網転移巣において特定のECM分子組成がM0様免疫調節性腫瘍関連マクロファージ (TAM) と関連することを計算科学的に同定することである。次に、脱細胞化組織モデルを用いて、ECM組成がマクロファージ表現型を直接規定することを実験的に証明することを目指した。さらに、このECM-TAM軸の臨床的予後意義をHGSOCならびに12がん種以上で系統的に評価し、ECMを標的とする治療戦略がマクロファージ表現型とその下流の免疫調節を改善する可能性を検討することである。特に、M0マクロファージの表現型が従来のM1/M2二分法では説明しきれない多様性を持つ可能性を、ECMの視点から解明することも重要な目的であった。
結果
M0 TAMと5種のECM分子の関連同定: CIBERSORTxおよびxCellを用いたHGSOC大網転移巣 (n=32) のdeconvolutionでは、M2マクロファージが全サンプルで優勢なシグネチャーを示したが、M2と疾患範囲・ECMとの有意な相関は検出されなかった。これに対し、CIBERSORTx「M0マクロファージ」シグネチャーおよびxCell「Macrophage」シグネチャーがECM組成 (疾患スコア・腫瘍マトリソーム) と最も強く正相関した (M0: p=0.000034、M1: p=0.0368、M2: p=0.0216)。145種のマトリソーム分子と22〜34種の免疫シグネチャーのスピアマン相関解析から、5種のECM分子がCIBERSORTx M0マクロファージとxCell Macrophageの両シグネチャーに一貫して正相関することが同定された: フィブロネクチン (FN1)・バーシカン (VCAN)・マトリクスリモデリング関連5 (MXRA5)・XI型コラーゲンα1 (COL11A1)・分泌性frizzled関連タンパク2 (SFRP2)。TIP解析でこの5分子高発現群はカンサー免疫サイクルのステップ7 (がん殺傷) で有意な低下を示した (p=0.005 vs 低発現群)。5分子のレーザー捕捉顕微解剖では主として間質に局在することが確認された (Figure 1)。
ECM特化プロテオミクスによる組織分類 (ECG1〜5): 脱細胞化大網転移巣39例のECM特化プロテオミクスでは、コラーゲン類が全ECMタンパク質の35%を占め、次いでglycoprotein 25%・proteoglycan 25%・ECMレギュレーター8%・ECM affiliated proteins 5%・ECM分泌因子1%の順であった。階層クラスタリングによりサンプルは5つのECM組成グループ (ECG) に分類された。低疾患度のECG1〜2は主として脂肪組織から成り免疫細胞浸潤が低かった。高疾患度のECG3〜5では免疫浸潤が増加しECG3<ECG4<ECG5の順で多く、特にCD68+マクロファージが全ECGで最多の免疫浸潤細胞を占め、ECG5で最多であった (one-way ANOVA, p<0.01 / p<0.05、各ECGでn=6〜10)。M0関連ECMシグネチャー分子はECG3とECG5で高発現傾向を示し、特にFN1はECG5で有意に高発現した (Figure 3D)。ECG5はM0マクロファージシグネチャーが最も豊富なグループであり、ECM組成とTAM表現型の関連が組織レベルで確認された。
脱細胞化組織モデルによるM0様MAMの直接誘導: HDおよびLD脱細胞化組織上で14日間培養した単球由来マクロファージ (MAM) は、それぞれのECM組成に応じたクラスタリングを示す転写プロファイルを形成した。HD MAMとLD MAMの間で3613遺伝子の差次的発現が同定された (HD MAMで1839遺伝子上昇、LD MAMで1774遺伝子上昇、adj. p<0.05, |logFC|>1)。CIBERSORTx解析では、HD MAMはM0マクロファージシグネチャーを有意に多く含みM2様シグネチャーとも共有されたのに対し、LD MAMはM1様シグネチャーに近いことが示された (M0: p=0.000034; M1: p=0.0368; M2: p=0.0216)。これらのMAMはそれぞれ「extracellular matrix-educated macrophages (MAM)」と命名された。フローサイトメトリーでは、HD MAMでCD163 (M2/免疫調節マーカー) が有意に高発現した一方 (Mann-Whitney U test, p=0.004)、CD209 (マンノース受容体) はLD MAMで高発現した (unpaired t test, p=0.0016、各n=3 MAMサンプル×3技術反復) (Figure 4G)。
WGCNA解析によるHD MAMの免疫調節・組織リモデリング機能の解析: WGCNA解析で13の協調発現遺伝子プログラムが同定された。HD MAMではクラスター8・9・10が有意に上昇し、これらはインテグリン受容体 (血液凝固経路)・Toll-like受容体シグナル・ECM組織化・ECM分解・白血球接着に関連する遺伝子を濃縮していた。一方、HD MAMでクラスター1・2・4・12が低下し、MHCクラスII抗原提示・IFNγシグナル・防御応答経路を含んでいた (Pearson相関 p<0.05)。選択された上位DE遺伝子にはARG1・CD36・MSR1・MARCO・CXCL5・MMPs等が含まれた。マクロファージ活性化スペクトルモデル (29刺激・49遺伝子モジュール) との照合では、HD MAMは脂肪酸刺激 (パルミチン酸・オレイン酸・リノレン酸) による活性化モジュールと正相関し、M1/M2二分法を超えたECM依存的な独特の極性化経路が示された。CXCL5 (T細胞の化学遊走因子かつM0 CIBERSORTxシグネチャー成員) は遺伝子・タンパク質の両レベルでHD MAMで有意に高発現した (LEGENDplex多重アッセイ, p<0.0001, n=16各) (Figure 4J)。
HD MAMによる食食能低下とT細胞活性化の調節: 食食能アッセイ (CellTrace Yellow標識K562細胞使用) では、HD MAMはLD MAMより食食能が有意に低下した (Mann-Whitney U test, p=0.02、各n=4 MAMサンプル×3技術反復)。CD3+ T細胞とMAMのco-culture実験 (低濃度CD3/CD28刺激下, 5日間) では、HD MAMはLD MAMや対照と比較してCD3+ T細胞上のLAG3 (p=0.0026 vs 対照、p=0.0444 vs LD MAM)・PD-1 (p=0.0039)・TIM3 (p=0.0209) の発現を有意に誘導した。またCD3+ T細胞の増殖もHD MAMとの共培養で有意に増加した (p=0.013)。一方、MAM conditioned mediumではこれらの変化は観察されず、T細胞免疫チェックポイント発現誘導には直接の細胞接触が必要であることが示された (n=4) (Figure 6D, E)。
ECM-M0 TAMシグネチャーの予後意義: 卵巣がんおよび12がん種: KMプロッター解析では、M0マクロファージ関連ECMシグネチャー (FN1/VCAN/MXRA5/COL11A1/SFRP2) の高発現は卵巣がん患者において全生存期間 (OS) の有意な短縮と関連した (高発現群 OS=28.25ヶ月 vs 低発現群 OS=45.63ヶ月、HR=1.56)。5分子個別では COL11A1 (HR=1.78) と SFRP2 (HR=1.66) が最も高いHRを示した。さらにKMプロッターのpan-cancer解析 (19がん種) では、12がん種でこのECM-M0マクロファージシグネチャーの高発現が予後不良 (OS短縮) と一貫して関連することが示された (卵巣がん・膵臓がん・肺がん・食道がんを含む)。
考察/結論
本研究は、腫瘍ECM組成がマクロファージ表現型を直接「教育」するという概念を、ヒト大網転移巣由来脱細胞化組織モデルという独自のシステムで実験的に証明した意義深い成果である。
先行研究との違い: これまでのTAM研究はサイトカイン (IFNγ/IL-4/IL-13) や細胞間シグナルによるM1/M2二分法的極性化に焦点を当ててきた。本研究は、CIBERSORTxのM0シグネチャー (単球の7日間分化後のIRISデータセット由来) がM1/M2双方のシグネチャーと部分的重複を示しながら独自の特徴を持つことを明らかにし、TAM多様性の説明にECM組成という新次元を加えた点で、これまでの研究とは異なる視点を提供した。腫瘍ECMリモデリングがin vivoで免疫抑制をもたらすという先行研究 (TGFβ阻害・ヒアルロナン枯渇モデル) との整合性は保たれているが、本研究は「ECM→MAM→T細胞抑制」の因果連鎖を直接的に示した点で革新的である。腫瘍グリコプロテインであるtenascin-CやMUC1-STがTAM様表現型を誘導するという報告との一致も示された。
新規性: 振動刃ミクロトームで均一厚300µmに切断し脱細胞化した「ECM足場」上でのマクロファージ培養系は、ECM組成の直接的効果を細胞成分から切り離して検証できる新規プラットフォームである。ECMのみ (細胞由来因子を除いた純粋なマトリクス) で単球がM0/M2様TAMに分化することを示した点は、既存のサイトカイン依存性パラダイムへの根本的な問いを提起する。本研究で初めて、ECM組成が特定のM0様マクロファージ表現型を直接誘導し、それが複数の癌種で予後不良と関連することを示した。ECM教育のメカニズム候補として、コラーゲン結合によるLAIR1免疫抑制シグナル、またはtumor ECM上のシアロ糖鎖によるSiglec受容体シグナルが転写データから示唆された。組織硬度についても以前の研究で卵巣転移巣はLD組織 (0.1〜1 kPa) より硬く (10〜20 kPa) ECMリモデリングの形態が異なることが報告されており、物理的・化学的シグナル双方のECM依存的作用が示唆される。
臨床応用: HR=1.56 (5分子シグネチャー)・HR=1.78 (COL11A1単独) という明確な予後予測能は、このECM-TAM軸が臨床バイオマーカーとして有用である可能性を示す。循環ECM断片 (血中・尿中のコラーゲンペプチド等) での同シグネチャー測定が非侵襲的な予後マーカーとして応用可能性を持つ。治療戦略面では、ECMリモデリング薬 (COL11A1阻害・VCAN分解酵素・FN1中和抗体等) がTAMの免疫調節性表現型を修正し免疫療法の感受性を高める可能性がある。HD MAMがLAG3・PD-1・TIM3を誘導するというデータは、この経路への介入がMAMを介したT細胞抑制を解除できる可能性を示唆する。本研究で用いた脱細胞化組織モデルは他のがん種・他の免疫細胞タイプ (T細胞・NK細胞) でのECM-immune education研究に応用可能な汎用プラットフォームとしての臨床的有用性も持つ。
残された課題: ECMがMAM教育に作用する分子受容体の同定 (インテグリン・LAIR1・Siglecなどの候補の機能的検証) が最大の残された課題である。また、脱細胞化モデルはECM純粋効果を評価できる長所がある一方で、腫瘍細胞・線維芽細胞・他の免疫細胞との複合シグナル環境がin vivoでは重要であり、モデルのin vivo妥当性をさらに確認する必要がある。5分子シグネチャーの各分子の独立的 vs 協調的な寄与の解明 (COL11A1はECG特異的相関を示さず他4分子と異なる挙動) も今後の課題である。ECM組成が各患者で動的に変化する条件 (術前化学療法後や再発時) での免疫教育作用の変化も不明である。
方法
データセットと計算科学的解析: 以前に報告した同一コホートのHGSOC大網転移巣 (n=32プロテオミクス解析用, n=32 RNAseq用) からバルクRNA-seqおよびLTQ-Orbitrap XL質量分析計によるECM特化プロテオミクスデータを取得済みであった。CIBERSORTxおよびxCell (各22〜34種の免疫細胞サブタイプ推定) で免疫細胞組成をdeconvolutionし、スピアマン相関でECMマトリソーム分子 (145種) と免疫シグネチャーを統合解析した。カンサー免疫サイクルの活性度はTIP (Tracking Tumor Immunophenotype) により評価した。全生存率はKaplan-Meier Plotter (kmplot.com) を用いて解析した。
脱細胞化組織ライブラリーの構築: HGSOCの大網転移巣39症例 (Barts Health NHS Trust, 2010〜2017年) から均一厚300µmの振動刃ミクロトーム切片を作製した。脱細胞化は低張バッファー (10 mM Tris/5 mM EDTA, 4 h室温)・アセトン (100%, 16〜18 h, 4°C)・デオキシコール酸ナトリウム (LD: 2.5 mM / HD: 4%, 4 h, 4°C)・Benzonase核酸分解液 (50 mM Tris/1 mM MgCl2/40単位/mL Benzonase, 20 h, 37°C) の順次処理で実施した。脱細胞化効率はNanodrop分光光度計による核酸定量とIHC核染色で確認した (核数 p=0.000085、核酸含量 p=1.198×10⁻¹³, n=39各)。ECM構造はSEM・Masson三色染色・TWOMBLI (The Work flow Of Matrix BioLogy Informatics) プラグインで評価し、脱細胞化前後で繊維径・整列指数に有意差なしと確認した。
マクロファージ培養・分析: 健常ドナー4名の末梢血単球 (PBMCs由来CD14+ 単球) を脱細胞化組織上に200,000細胞/ウェルで播種し、37°C 14日間培養してECM教育マクロファージ (MAM) を作製した。高疾患度 (HD) 組織 (ECG3&5, n=4) と低疾患度 (LD) 組織 (ECG1&2, n=4) をそれぞれ使用した (総n=31サンプル, 4ドナー×4〜8組織/条件)。バルクRNA-seqによるde novo転写プロファイル解析 (CIBERSORTxサブタイプ推定、WGCNA解析で13の遺伝子プログラム同定) を実施した。表面マーカーはフローサイトメトリー (CD14/CD11b/CD45/CD163/CD206/CD86/CD38/CD209/CD47/CD36/CD204) で評価した。機能解析として食食能アッセイ (CellTrace Yellow標識K562細胞との混合)、T細胞共培養 (CD3/CD28低刺激下でのHD or LD MAMとのco-culture, 5日間)、LEGENDplex多重サイトカインアッセイを実施した。ECMプロテオミクスにはECM特化プロトコール (8 M尿素溶解・trypsinペプチド化・NanoAcquity UPLC-Orbitrap XL MS) を用い、MASCOT検索でタンパク質同定を行った。統計解析にはGraphPad Prism 8.3.0またはRStudio 2022.02.3+492を使用し、スピアマンまたはピアソン相関、t検定、Mann-Whitney U検定、一元配置ANOVA、二元配置ANOVA、Dunnettの多重比較検定、Sidakの多重比較検定などを適用した。p<0.05を有意差ありとした。