- 著者: Sanjeev Mariathasan*, Shannon J. Turley*, Dorothee Nickles*, Alessandra Castiglioni, Kobe Yuen, Yulei Wang, Edward E. Kadel III, Hartmut Koeppen, Jillian L. Astarita, Rafael Cubas, Suchit Jhunjhunwala, Romain Banchereau, Yajai Yang, Yinghui Guan, Cecile Chalouni, James Ziai, Yasin Şenbabaoğlu, Stephen Santoro, Daniel Sheinson, Jeffrey Hung, Jennifer M. Giltnane, Andrew A. Pierce, Kathryn Mesh, Steve Lianoglou, Johannes Riegler, Richard A. D. Carano, Pontus Eriksson, Mattias Höglund, Loan Somarriba, Daniel L. Halligan, Michiel S. van der Heijden, Yohann Loriot, Jonathan E. Rosenberg, Lawrence Fong, Ira Mellman, Daniel S. Chen, Marjorie Green, Christina Derleth, Gregg D. Fine, Priti S. Hegde, Richard Bourgon, Thomas Powles
- Corresponding author: N/A
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-02-14
- Article種別: Original Article
- PMID: 29443960
背景
抗PD-1/PD-L1療法は複数のがん種で持続的奏効をもたらすが、奏効患者は一部に限られることが知られている。転移性尿路上皮がん (mUC) は高い体細胞変異負荷 (TMB) を特徴とし、PD-L1発現や腫瘍変異負荷が奏効予測因子として報告されていたが、非奏効の機序は未解明であった。特に、免疫排除型 (immune-excluded) 表現型は、T細胞が腫瘍周囲間質に留まり腫瘍実質に浸潤できない病態であり、mUCの大多数を占めるにもかかわらず、そのT細胞排除の分子機序は不明であった。TGFβは多面的なサイトカインであり、免疫抑制、線維芽細胞活性化、デスモプラジア形成を促進することが知られているが、その免疫療法耐性への寄与と治療標的としての可能性はこれまで十分に検討されていなかった。
先行研究では、PD-L1阻害薬アテゾリズマブがmUC患者に臨床的活性を示すことが報告されている (Powles et al. Nature 2014, Rosenberg et al. Lancet 2016)。また、腫瘍変異負荷 (TMB) が免疫チェックポイント阻害薬への奏効と相関することも、メラノーマ (Snyder et al. NEnglJMed 2014) や非小細胞肺がん (Rizvi et al. Science 2015) などで示されており、mUCにおいても同様の関連が示唆されていた (Chalmers et al. GenomeMed 2017)。しかし、これらの因子だけでは全ての患者の奏効を説明するには不足しており、非奏効患者における免疫回避のメカニズムを深く理解する必要があった。特に、T細胞が腫瘍実質に浸潤できない免疫排除型腫瘍の病態生理は、治療効果を制限する主要な要因と考えられていたが、その分子基盤は未解明な点が多かった。本研究は、この知識のギャップを埋め、mUCにおけるPD-L1阻害薬への奏効と非奏効を規定する包括的な生物学的特徴を特定することを目的とした。具体的には、既存のT細胞免疫、腫瘍変異負荷、そしてTGFβシグナル伝達経路という3つの独立した生物学的特徴が、アテゾリズマブへの奏効を決定する上で重要であるという仮説を検証した。
目的
本研究の目的は、大規模な第II相臨床試験 (IMvigor210) におけるアテゾリズマブ (抗PD-L1抗体) 治療を受けた転移性尿路上皮がん (mUC) 患者コホートにおいて、多面的なバイオマーカー統合解析を実施し、奏効と非奏効に関連する分子および組織学的因子を同定することである。特に、免疫排除型腫瘍免疫表現型とTGFβシグナル伝達経路との関係を詳細に解明し、TGFβがT細胞排除に果たす役割を明らかにすることを目指した。TGFβシグナル伝達の活性化が、線維芽細胞を介してT細胞の腫瘍実質への浸潤を阻害するという仮説を検証した。さらに、この仮説を検証するため、免疫排除型表現型を再現するマウスモデルを用いてTGFβ遮断とPD-L1遮断の併用療法の効果を評価し、T細胞浸潤および腫瘍退縮におけるメカニズム的洞察を得ることを目的とした。最終的には、これらの知見を統合し、mUC患者における免疫チェックポイント阻害薬への奏効を予測するための、より包括的なバイオマーカー戦略を確立することを目指した。
結果
奏効の3コア経路:CD8+ Teff免疫、TMB、TGFβシグナル: PD-L1発現(免疫細胞)は、IC2/3群(免疫細胞のPD-L1発現が5%以上)で奏効率が有意に高く(Fisher’s exact test, P=0.0038)、完全奏効(CR)率も有意に高かった(P=0.0006)。CD8+ Teffシグネチャーは奏効と有意に相関し(t検定, P=0.0087)、特にCR群で強い相関が認められた(CR vs PD, P=0.0003)。また、全生存期間(OS)とも相関した(P=0.0092)。腫瘍変異負荷(TMB)は奏効(P=6.9×10⁻⁷)およびOS(P=2.0×10⁻⁵)と有意に相関し、DNA損傷応答(DDR)経路や細胞周期関連遺伝子の変異が高いTMBと関連することが示された(P=0.0117、P=6.01×10⁻⁸)。TGFB1発現は非奏効と有意に相関し(P=0.00011)、OS短縮と関連した(P=0.0096)。対照的に、IFNGは奏効群で高発現しており、IFNGR1は非奏効群で高発現していた。これら3つの経路を統合したモデルは、単因子または2因子モデルと比較して、患者全体の奏効説明力が有意に優れていることが示された (Figure 1j)。
腫瘍免疫表現型分布とTGFβのExcluded腫瘍特異的役割: mUCコホートにおける免疫表現型の分布は、excluded型が47%と最も多く、desert型が27%、inflamed型が26%であった。CD8+ Teffシグネチャーの平均スコアは、desert型、excluded型、inflamed型の順に高くなり、inflamed型腫瘍でのみ奏効と有意に相関した(P=0.042)。F-TBRS(pan-fibroblast TGFβ response signature)は、excluded型腫瘍でのみ非奏効と有意に相関した(P=0.0066)。TMBはexcluded型(P=0.00009)とinflamed型(P=0.00258)の両方で奏効と相関した。Excluded型腫瘍では、F-TBRSとTMBの組み合わせが奏効予測において最も優れたモデルであった。Lundのゲノム不安定型(GU)サブタイプはexcluded型かつ高応答と相関し、TCGAのルミナルIIサブタイプはF-TBRSが高く、応答不良と相関した。これらの結果は、TGFβが線維芽細胞を活性化し、T細胞の腫瘍実質への浸潤を阻害することで、excluded表現型を形成・維持することを示唆した (Figure 2d, e)。
EMT6マウスモデルにおける抗TGFβ+抗PD-L1併用療法の効果: 免疫排除型表現型を示すEMT6乳腺がんモデル(TGFβ全アイソフォームおよびPD-L1を発現)において、抗PD-L1単剤療法および抗TGFβ単剤療法は、腫瘍体積に最小限の効果しか示さなかった。しかし、抗PD-L1抗体と抗TGFβ抗体の併用療法は、有意な腫瘍縮小を誘導した(6回の独立した実験、各群n=10 mice)。この腫瘍退縮はCD8+ T細胞に依存的であり、抗CD8抗体によるT細胞枯渇処置により効果が消失した。併用療法により、CD8+ Teff細胞数が増加し(フローサイトメトリー、n=15 mice/群)、グランザイムBの平均蛍光強度(MFI)も増加した。免疫組織化学染色による定量解析では、T細胞が腫瘍辺縁から中心へと移行していることが示された(間質境界からの距離が増加し、腫瘍中心からの距離が減少)。単剤療法ではT細胞の分布に変化はなかった (Figure 4f-h)。pSMAD2/3の発現は非免疫細胞(特に線維芽細胞)で減少し、TGFβシグナル伝達の抑制が示唆された。F-TBRSおよびマトリックスリモデリング関連の線維芽細胞遺伝子発現は、併用療法により著明に低下した。Treg細胞数には変化がなかったことから、TGFβ遮断効果はTreg抑制ではなく、線維芽細胞の再プログラミングによるものと考えられた。同様の結果はMC38大腸がんモデル(n=10 mice/群)でも再現され、併用療法が腫瘍退縮を誘導し、CD8+ T細胞の浸潤を促進することが確認された。
TMBとDDR経路の関連: TMBは、DNA損傷応答 (DDR) 経路に関連する遺伝子変異と強く相関することが示された。DDR経路の変異を持つ腫瘍は、持たない腫瘍と比較して有意に高いTMBを示し(P=6.01×10⁻⁸)、奏効率も高かった(P=0.0117)。これにより、TMBが腫瘍の免疫原性とDDR経路の機能不全を反映している可能性が示唆された (Extended Data Figure 1g)。
APOBEC3A/Bの発現と奏効: 細胞質シチジンデアミナーゼであるAPOBEC3AおよびAPOBEC3Bの発現は、奏効群で有意に高かった(APOBEC3A: P=0.015、APOBEC3B: P=0.0025)。これらの遺伝子の高発現はTMBとも相関しており、APOBEC酵素がTMBの形成に寄与し、免疫チェックポイント阻害薬への奏効に影響を与える可能性が示唆された (Extended Data Figure 1i, j)。
考察/結論
本研究は、GenentechとPowles (Barts) グループが、IMvigor210コホートという大規模臨床データセットを用いて、転移性尿路上皮がんにおける免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 奏効を規定する3つのコア経路を同定し、特にTGFβシグナルが線維芽細胞を介してT細胞排除 (excluded phenotype) を促進することを臨床・基礎両面から包括的に実証した画期的な研究である。
先行研究との違い: これまでの研究では、PD-L1発現やTMBが奏効予測因子として個別に報告されてきたが、本研究はこれらの因子に加えてTGFβシグナル伝達経路が独立した非奏効因子として機能することを初めて示した点で、先行研究とは異なっている。特に、免疫排除型腫瘍におけるTGFβの役割に焦点を当てた点は、これまでの研究とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、F-TBRS (pan-fibroblast TGFβ response signature) という新規バイオマーカーシグネチャーが、excluded腫瘍に限定した奏効予測因子として機能することを同定した。また、TGFβシグナルが線維芽細胞を活性化し、コラーゲン沈着を介してT細胞の腫瘍実質浸潤を物理的に阻害するというメカニズムを、マウスモデルで新規に実証した。この知見は、後のPD-L1とTGFβの二重遮断抗体 (bintrafusp alfa / M7824) の開発を直接駆動した概念的基盤となった。
臨床応用: 本知見は、mUC患者におけるアテゾリズマブへの奏効を予測するための、より精密なバイオマーカー戦略の開発に直結する。特に、F-TBRSは免疫排除型腫瘍患者において、抗PD-L1療法にTGFβ阻害薬を併用する患者選択の臨床的有用性を示唆する。TMBとCD8+ Teff免疫が独立した奏効予測因子として機能するという多変量モデルは、後のIMvigor211試験等の独立コホートでも確認されており、臨床現場での患者層別化に貢献する。
残された課題: 今後の検討課題として、TGFβが線維芽細胞活性化からコラーゲン沈着、ひいてはT細胞排除を引き起こす詳細な分子機序のさらなる解明が残されている。例えば、TGFβによって活性化された線維芽細胞が産生する特定の細胞外マトリックス成分や、それらがT細胞の遊走に与える影響について、より詳細な解析が必要である。また、本研究はmUCに焦点を当てたが、非小細胞肺がんや乳がんなど、他の固形がん種におけるTGFβ遮断とICB併用療法の有効性についても検証が必要である。TGFβ遮断単独では効果が少ない理由(T細胞が既に存在しない腫瘍ではTGFβ遮断が効かない可能性)の解明や、最適な患者選択バイオマーカーの臨床実装も今後の重要な研究方向性である。
方法
IMvigor210試験の第II相コホート(シスプラチン不適格な転移性尿路上皮がん患者、アテゾリズマブ1200 mgを3週間ごとに投与)から、治療前腫瘍生検サンプル298例を対象に、RNAシーケンス解析、PD-L1免疫組織化学染色(SP142抗体を使用)、および腫瘍変異負荷(TMB)解析を実施した。奏効は完全奏効(CR)または部分奏効(PR)と定義し、非奏効は安定疾患(SD)または進行疾患(PD)と定義した。
バイオマーカー解析では、CD8+ Tエフェクター細胞(Teff)遺伝子シグネチャー、パン線維芽細胞TGFβ応答シグネチャー(F-TBRS)、およびTMBの3つの主要な生物学的特徴を評価した。これらの因子と奏効との関連を、ロジスティック回帰の擬似R²を用いて多変量解析により評価した。腫瘍免疫表現型は、組織学的特徴に基づいて「inflamed(炎症型)」、「excluded(排除型)」、「desert(砂漠型)」の3群に分類した。また、LundおよびTCGA分子サブタイプ分類を適用し、これらのサブタイプと奏効およびバイオマーカーとの関連を解析した。
マウス実験では、免疫排除型表現型を再現するEMT6乳腺がんモデルと、MC38大腸がんモデルを用いた。これらのマウスはBALB/cJマウス(EMT6モデル)およびC57BL/6Jマウス(MC38モデル)であり、いずれもCharles River Laboratoriesから入手した。各モデルにおいて、抗PD-L1抗体と抗TGFβ抗体の単剤または併用治療効果を評価した(各群n=10 mice、6回の独立した実験)。腫瘍体積の変化を測定し、腫瘍退縮におけるCD8+ T細胞の役割を評価するために、抗CD8抗体によるT細胞枯渇実験も実施した。治療後の腫瘍組織については、pSMAD2/3の免疫組織化学染色、フローサイトメトリーによるCD8+腫瘍浸潤リンパ球(TIL)およびグランザイムB発現の定量、RNAシーケンスによるF-TBRSおよび線維芽細胞関連遺伝子発現の解析を行った。Treg細胞数もフローサイトメトリーで評価した。統計解析には、t検定、フィッシャーの正確確率検定、ログランク検定、およびロジスティック回帰モデルを使用した。