• 著者: Etienne Patin, Milena Hasan, Jacob Bergstedt, Vincent Rouilly, Valentina Libri, Alejandra Urrutia, Cécile Alanio, Petar Scepanovic, Christian Hammer, Friederike Jönsson, Benoit Beitz, Hélène Quach, Yoon Ching Lim, Julie Hunkapiller, Magge Zepeda, Cherie Green, Barbara Piasecka, Claire Leloup, Lars Rogge, François Huetz, Isabelle Peguillet, Olivier Lantz, Magnus Fontes, James P. Di Santo, Stéphanie Thomas, Jacques Fellay, Darragh Duffy, Lluis Quintana-Murci, Matthew L. Albert, Milieu Intérieur Consortium
  • Corresponding author: Lluis Quintana-Murci (Institut Pasteur, Paris, France); Matthew L. Albert (Genentech, South San Francisco, CA, USA)
  • 雑誌: Nature Immunology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-02-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29476184

背景

免疫細胞のサブセット組成や表面マーカー発現といった「免疫表現型」は、ヒト個体間で大きな変動を示し、感染症感受性、自己免疫疾患、ワクチン応答、がん免疫療法の効果差の背景にあると考えられている。これまでの双生児研究では、適応免疫系、特にメモリーT/B細胞が環境要因(既往感染、加齢、生活習慣)の影響を強く受けることが示されてきた (Farber et al. NatRevImmunol 2014)。しかし、自然免疫系における遺伝的要因と非遺伝的要因の相対的寄与については、これまで明確な結論が得られておらず、大きな研究ギャップが存在していた。先行するゲノムワイド関連解析(GWAS)研究としては、249サードニア家族コホートで13遺伝子座を同定したOrrù et al. (2013) の研究や、245双生児ペアの約1,800免疫形質を解析し11遺伝子座を同定したRoederer et al. (2015) の研究、105双生児ペアの95免疫形質を解析したBrodin et al. (2015) の研究があるが、いずれも自然免疫細胞を網羅的に解析しておらず、その規模も限定的であった。また、Aguirre-Gamboa et al. (2016) は442健常ドナーコホートで適応免疫形質関連4遺伝子座を同定しているが、自然免疫細胞の多くを十分に考慮していなかったため、自然免疫と適応免疫の両方におけるヒトの変動を駆動する内在的、環境的、遺伝的要因の性質とそれぞれの影響に関する統合的な評価が著しく不足していた。特に、サイトメガロウイルス(CMV)感染は一般集団の40%から90%以上に検出され、エフェクターメモリーT細胞の増加と関連することが報告されているが、自然免疫細胞と適応免疫細胞の両方に対する年齢、性別、CMV感染のそれぞれの影響、および免疫系の変動に影響を与える環境要因の正確な性質は、依然として未解明な点が多かった。大規模かつ均質な健常コホートを用いた、自然免疫と適応免疫の両方を網羅する統合的解析の必要性が高まっていた。

目的

本研究の目的は、フランスのMilieu Intérieur (MI) コホート(西欧系健常成人1,000例、年齢20〜69歳、男女均等500名ずつ)を対象として、標準化フローサイトメトリーで測定した166の免疫表現型に対する年齢、性別、CMV感染、喫煙を含む非遺伝的要因の寄与を定量的に評価することである。さらに、全ゲノム遺伝子型データを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)により、これらの免疫表現型を規定する遺伝子座を同定し、自然免疫と適応免疫における遺伝的駆動の相対的重要性を明らかにすることを目指した。最終的に、健常状態における自然免疫細胞と適応免疫細胞のパラメータ変動が、非遺伝的要因と遺伝的要因によってどのように異なる影響を受けるかを包括的に解明することを目的とした。

結果

非遺伝的要因:年齢の広範な影響と性差: 年齢は166の免疫表現型のうち35% (調整済みp < 0.01) に有意な影響を与え、最大の単一因子であった (Fig 2a)。加齢とともにILCおよび形質細胞様樹状細胞 (pDC) が減少し、CD16高単球が増加した。ナイーブCD8+ T細胞は年率3.6% (99% CI 3.0-4.1%) の速度で減少し、ナイーブCD4+ T細胞の年率1.6% (99% CI 1.1-2.1%) 減少より約2倍速かった (Fig 2b-c)。メモリーT細胞の加齢による増加は、主にCMV血清陽性によって説明され、加齢そのものではないことが混合モデルで示された。性差は16%の免疫表現型 (調整済みp < 0.01) に有意な影響を示し、活性化NK細胞は男性で高く、MAIT (mucosa-associated invariant T) 細胞は全年代を通じて女性で系統的に高かった (Fig 2d-f)。

CMV感染と喫煙による免疫攪乱効果: CMV血清陽性は13%の免疫表現型に有意な影響を与え、そのうち75%以上が適応免疫に関するものであった (Fig 2g)。特にCMV陽性はCD4+ TEMRA (T-cell receptor memory T cells re-expressing CD45RA) 細胞を12.5-fold (99% CI 8.8-17.6, p < 0.001) 増加させ、CD8+ TEMRA細胞を4.6-fold (99% CI 3.5-6.0, p < 0.001) 増加させた (Fig 2g-i)。これに対し、ナイーブT細胞やセントラルメモリーT細胞への影響は検出されなかった。一方、39の非遺伝的要因のうち、GWASで有意な影響を持つのは能動的喫煙のみであり、36%の免疫表現型に影響した (Fig 3a)。喫煙者では全CD45+細胞が非喫煙者比23%多く (99% CI 11-37%)、従来型リンパ球が26%多かった (99% CI 10-45%) (Fig 3b)。活性化Treg細胞が43%増加 (99% CI 17-76%)、メモリーTreg細胞が41%増加 (99% CI 15-71%) しており、喫煙が免疫抑制的環境を促進することが示された (Fig 3c-d)。

GWASによる15遺伝子座の同定と局所pQTL: 保守的なGWAS有意閾値 (p < 1.0 × 10⁻¹⁰) で14の独立遺伝子座が42/166 (25%) の免疫表現型に関連し、条件付き解析で追加1座を同定し、計15座を確定した (Fig 4a, Table 1)。GWAS有意な42表現型のうち36 (86%) がMFI測定値であり、そのうち28 (78%) でSNPが対応するタンパク質をコードする遺伝子近傍に局在する局所pQTL (protein quantitative trait loci) であった (Table 1)。代表例として、ENPP3 (ectonucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase 3) 遺伝子近傍変異が好塩基球のCD203c (ENPP3) MFIと関連 (rs2270089; p = 2.1 × 10⁻²⁸)、CD24遺伝子近傍変異がmarginal zone B細胞のCD24 MFIと関連 (rs12529793; p = 3.8 × 10⁻²¹) した。FCGR (Fc gamma receptor) クラスターでは2つの独立局所pQTLが同定され、FCGR3A近傍変異がCD16hi NK細胞のCD16 (Fc gamma receptor IIIa) MFIと関連 (rs3845548; p = 3.0 × 10⁻⁸⁷)、FCGR2B近傍変異が好塩基球のCD32 (Fc gamma receptor IIb) MFIと関連 (rs61804205; p = 1.7 × 10⁻³⁶) した。SELL遺伝子座変異は好酸球のCD62L MFIと関連 (rs2223286; p = 1.6 × 10⁻³⁵) し、好中球のCD62Lとも関連 (p = 8.8 × 10⁻¹³) したが、好塩基球には関連しなかった (Fig 4b,c)。

HLAアミノ酸変異の寄与と自然免疫における遺伝的駆動の優勢: HLA-DR領域では3つの独立したシグナルが同定され、HLA-DRβ1タンパク質の13位アミノ酸 (omnibus p = CD14hi単球で2.0 × 10⁻⁴⁷、pDCで7.0 × 10⁻⁹⁰、cDC1で5.3 × 10⁻⁴¹) と67位 (cDC3で p = 3.9 × 10⁻¹³) のアミノ酸変異がそれぞれ細胞種特異的にHLA-DR MFIと関連した。GWAS有意な44表現型のうち35 (80%) が自然免疫細胞の表現型であったが、全表現型に占める自然免疫の割合は47%に過ぎなかった。多変量モデルで遺伝的要因と非遺伝的要因の分散寄与を比較すると、遺伝的要因の説明分散は自然免疫表現型で適応免疫表現型より66%大きかった (95% CI 13-143%; p = 0.012) (Fig 5b,d)。逆に、適応免疫表現型の分散は年齢、CMVなどの環境因子が優位であった (Fig 5a,c)。非遺伝的要因によって説明される分散は、自然免疫細胞の測定値で適応免疫細胞の測定値よりも46%小さかった (95% CI 22-63%; p = 1.8 × 10⁻³)。本結果は、n=1000 donorsの健常西欧人コホートの解析により得られたものであり、免疫表現型の測定値は安定しており、n=500 donorsの再測定値においても高い再現性を示した。

考察/結論

先行研究との違い: これまでの双生児研究が主に適応免疫の環境依存性を強調してきたのに対し、本研究は自然免疫細胞 (好中球、単球、NK細胞、DC) のパラメータが遺伝的要因により優先的に駆動されるという対比を、GWAS手法で定量的に示した。この結果は、環境要因が優位であると報告してきた従来の知見と異なり、対照的な結果となっている。

新規性: 本研究で初めて、自然免疫細胞のパラメータ変動が適応免疫細胞よりも遺伝的要因(特に局所pQTL)によって強く制御されることを定量的に示した。遺伝的要因による分散説明率は自然免疫細胞で66%大きく、非遺伝的要因による分散説明率は46%小さかった (p = 0.012)。また、15の新規遺伝子座(うち12は新規)を同定し、これらが疾患関連バリアントに富むことを明らかにした。

臨床応用: 同定されたFCGR、SELL、ENPP3、HLA領域の局所pQTLが、感染症感受性、自己免疫疾患、免疫療法反応性のバイオマーカー候補となりうる。GWAS関連SNPが疾患関連バリアントと31%重なるという知見は、自然免疫セットポイントの遺伝的変異が共通自己免疫疾患リスクに直結することを示す。例えば、単球におけるHLA-DRの発現は敗血症性ショックの臨床経過予測や免疫補助療法から恩恵を受ける患者の特定に日常的に測定されているが、本研究でHLA-DRβ1のコーディングバリアントがCD14hi単球におけるHLA-DR発現に強い影響を与えることが特定された。これは、敗血症における致死的転帰を予測するツールが患者の遺伝的背景に合わせて調整されるべきであるという臨床的意義を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、非西欧系集団での検証、他組織 (粘膜、リンパ節) 免疫表現型との比較、縦断的変動の評価、および遺伝的変異が感染・疾患転帰を介して表現型に影響する因果経路の解明が挙げられる。本研究はpopulation immunologyの基盤データセットとして、後続の免疫遺伝学、個別化免疫療法研究の重要な参照基盤となっている。

方法

Milieu Intérieurコホートは、20歳から69歳までの各年代から200名ずつ、男女各500名、合計1,000名の健常な西欧系成人で構成された。参加者は、神経学的または精神医学的疾患の既往、重度/慢性/再発性の病態、アルコール乱用、違法薬物の使用、最近のワクチン接種、免疫調節剤の使用などの厳格な除外基準に基づいて選定された。末梢血サンプルは、2012年9月から2013年8月にかけて、毎日午前8時から午前11時の間に採取され、標準化されたプロトコルに従って処理された。

免疫表現型の定量には、10種類の8色フローサイトメトリーパネルを使用し、主要な白血球集団(好中球、好塩基球、好酸球、単球、NK細胞、B細胞、CD4/CD8 T細胞、Treg細胞、DC、γδT細胞など)および活性化・分化マーカーを定量した。これにより、合計166の異なる免疫表現型(細胞数および平均蛍光強度 (MFI))を取得した。内訳は、自然免疫細胞由来の75表現型 (46%) と適応免疫細胞由来の91表現型 (54%) であった。自然免疫細胞はゲノムの体細胞再編成を欠く細胞と定義され、顆粒球、単球、NK細胞、樹状細胞 (DC)、自然リンパ球 (ILC) が含まれた。適応免疫細胞はRAG1-RAG2リコンビナーゼ活性に依存する細胞と定義され、T細胞(γδT細胞、粘膜関連不変T細胞 (MAIT細胞)、NKT細胞、Treg細胞、ヘルパーT細胞)およびB細胞が含まれた。測定された免疫表現型は、76の循環細胞絶対数、87の細胞表面マーカー発現レベル (MFI)、および3つの細胞数またはMFI値の比率であった。技術的変動を低減するため、サンプル追跡および処理の標準化プロトコルを厳守し、技術的再現性を検証した。フローサイトメトリー解析に影響を与える2つの技術的バッチ効果(採血時刻と1年間のサンプリング期間における時間的変動)を特定し、その後の全ての解析で補正した。

CMV血清抗体、喫煙歴、BMI、ライフスタイル調査を含む詳細な非遺伝的要因データを収集した。Illumina HumanOmniExpress-24 BeadChipおよびHumanExome-12 BeadChipを用いて、参加者1,000名のゲノムワイドDNAジェノタイピングを実施した。品質管理後、ゲノム補完 (インピューテーション) を行い、約570万の高精度SNPを取得した。

非遺伝的要因の効果を評価するため、各免疫表現型と39の非遺伝的変数に対して線形混合モデルを適用した。モデルには、年齢、性別、CMV血清陽性状態を固定効果として含め、サンプリング日をランダム効果として含めた。GWASでは、各免疫表現型を対数変換し、外れ値を除去した後、ComBat非パラメトリック経験ベイズフレームワークを用いてバッチ効果を調整した。線形混合モデル (GEMMA (genome-wide efficient mixed-model association)) を用いてGWASを実施し、遺伝的関連性を調整し、安定性選択に基づくelastic net回帰により各免疫表現型に対して予測的な非遺伝的共変量を選択してモデルに含めた。保守的なゲノムワイド有意閾値 (p < 1.0 × 10⁻¹⁰) を設定した。条件付き解析、HLAアレル解析、アミノ酸関連解析、eQTL/pQTL重ね合わせ解析を実施した。主要なGWAS結果は、独立した欧州系コホート75名のドナーおよびMIコホート内500名の7〜44日後の再測定値で再現検証された。遺伝的要因と非遺伝的要因の分散寄与を比較するため、線形回帰モデルを用いて各要因が免疫表現型の総分散に占める割合 (R²) を推定した。統計解析にはMann-Whitney U testも用いられた。また、本研究はヒト末梢血サンプルを主に対象としており、特定の細胞株(A549、H1299、MCF-7、HEK293Tなど)やマウス系統(C57BL/6J、BALB/c、NSG、NOD/SCIDなど)は使用していない。