• 著者: Donna L. Farber, Naomi A. Yudanin, Nicholas P. Restifo
  • Corresponding author: Donna L. Farber (Columbia Center for Translational Immunology, Columbia University Medical Center, New York, NY, USA; df2396@cumc.columbia.edu)
  • 雑誌: Nature Reviews Immunology
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2013-12-13
  • Article種別: Review
  • PMID: 24336101

背景

ヒトが生涯にわたって獲得する免疫記憶の中核を担う記憶T細胞は、その生成・機能・維持の理解が長年にわたりマウスモデルに依拠してきた。マウスのリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス (LCMV: lymphocytic choriomeningitis virus) モデルでは、ウイルス特異的エフェクターT細胞が感染後に>90%消退し、長期持続する記憶T細胞集団が形成されることが詳細に解析されており (Wherry and Ahmed 2004)、さらにインフルエンザ・結核菌・寄生虫感染モデルでもCD4+記憶T細胞の防御機能が示されてきた (Teijaro et al. 2011)。しかし、マウスモデルでは観察期間が数か月以内に限られ、平均75年という人間の生涯にわたる多様な病原体曝露環境を再現することは原理的に不可能であり (Sallusto et al. 1999)、とりわけ>2,000種の常在微生物を含む消化管・呼吸器・皮膚での複雑な抗原暴露履歴はマウスの病原体フリー飼育環境では再現できない。

ヒトのT細胞研究は二重の根本的制約に直面してきた。第一に、従来の研究の大部分が末梢血のみをサンプリング対象としてきたが、全身のT細胞は皮膚に約2×10^10個、肺に約1×10^10個、腸管に約3×10^10個、リンパ組織に約20×10^10個が存在するのに対し、末梢血T細胞は5〜10×10^9個と全身T細胞補完のわずか2〜2.5%に過ぎないことが示されており (Ganusov and De Boer 2007)、血液解析では記憶T細胞の全体像を捉えることが著しく不完全であった。腸管のT細胞だけでも末梢血の6-fold以上が存在しており、特に粘膜組織・皮膚・骨髄における記憶T細胞の実態は手薄な解析状況にあった。第二に、既存のヒト記憶T細胞研究の多くは若年・中年成人を対象としており、記憶T細胞応答の大部分が形成される小児期のデータが不足していた。

近年、器官ドナー (organ donor) 組織の多部位同時サンプリングという技術的ブレークスルーにより (Sathaliyawala et al. 2013)、ヒト全身T細胞の分布を初めて包括的に解析することが可能になった。さらに幹細胞様記憶T細胞 (TSCM: stem cell memory T cells) の発見 (Gattinoni et al. 2011) がT細胞サブセット多様性の理解を大きく塗り替えた。これらの進歩にもかかわらず、ヒトにおける組織常駐記憶T細胞 (TRM: tissue-resident memory T cells) の組織特異的恒常性維持機構は依然として未解明な点が多く、各組織のTRM細胞が独立した微小環境因子により自律的に維持されるのか循環T細胞から継続的に補充されるのかという根本的問いへの答えが不足している。特に非リンパ組織 (皮膚・肺・腸管) のTRM細胞の病原体特異性と交差反応性の実態、常在菌 (マイクロバイオーム) との免疫恒常性相互作用、および免疫老化 (immunosenescence) 期のTRM動態については検証が不十分であり、本レビューはこれらの知識の空白を最新のエビデンスで埋めることを目指す。

目的

本レビューの目的は、ヒト記憶T細胞の生成・区画化・恒常性維持について最新のエビデンスを統合し、以下の5点を明らかにすることである。(1) 生涯3フェーズ (生成・恒常性・免疫老化) における記憶T細胞の動態と全身分布の実態、(2) 循環記憶T細胞 (TSCM・TCM (central memory T cells)・TEM (effector memory T cells)) と組織常駐TRM細胞のサブセット多様性と機能的特徴、(3) ヒト複数組織における記憶T細胞の分布と組織特異的ホーミング因子の発現パターン、(4) 病原体特異的記憶T細胞の抗原特異性・交差反応性・組織コンパートメント化の実態、(5) 記憶T細胞恒常性の分子機構 (IL-7 (interleukin-7)・IL-15・TCR (T cell receptor) シグナル依存性) とワクチン設計への含意。マウス実験から導かれたパラダイムの限界をヒト組織データで検証し、次世代ワクチン・免疫療法設計に資する統合的知見を提供することを最終目標とする。

結果

記憶T細胞の生涯3フェーズと全身コンパートメント分布: ヒトの記憶T細胞は生涯を通じて3つの明確なフェーズを経る (Fig 1)。第1フェーズ「記憶生成期」(出生〜20歳代前半) では、出生直後はほぼ全T細胞がナイーブ表現型を示すが、多様な病原体・常在菌との接触により記憶T細胞が急速に蓄積し、生後20年で循環記憶T細胞比率は35%に達する (Cossarizza et al. 1996)。この時期は感染症入院率が最も高い時期でもあり、n=40,085,978例のUS入院データ (1998〜2006年) では乳幼児期の入院率 (10,000人あたり約100件超) が最大となり、その後の記憶T細胞蓄積と逆相関して低下することが示されている (Christensen et al. 2009)。また、新生児の腸管T細胞の約20%がすでに記憶表現型を示すことが報告されており、in uteroでの抗原暴露が示唆される。第2フェーズ「記憶恒常性期」(30〜65歳) では循環記憶T細胞がプラトーに達し、胸腺出力の漸減を持続的なホメオスタティック細胞ターンオーバーが補償する。この時期は感染症入院率が最低水準となる。第3フェーズ「免疫老化期」(65歳以降) では記憶T細胞の頻度・機能が変化し、免疫老化 (immunosenescence) により感染症リスクが再上昇する。全身T細胞の分布として、末梢血T細胞 (5〜10×10^9個) は全身T細胞総数のわずか2〜2.5%を占めるに過ぎず、記憶T細胞は粘膜・リンパ・末梢組織に分散して全身最多のリンパ球集団を形成していることが明らかにされた (Ganusov and De Boer 2007)。

ヒト記憶T細胞サブセットの階層体系とTSCM細胞の発見: CCR7とCD45RAの発現に基づく古典的な二元分類 (Sallusto et al. 1999) は中央型記憶T細胞 (TCM: CCR7+CD45RA-) とエフェクター型記憶T細胞 (TEM: CCR7-CD45RA-) を区別したが、その後の研究でさらなる多様性が明らかになった (Fig 2)。2011年にGattinoni et al. は幹細胞様記憶T細胞 (TSCM) を同定した。TSCM細胞はCD45RA+CCR7+CD69-CD103-という表現型を持ちナイーブT細胞と類似するが、CD95+CD122+を発現し高い自己複製能と多系統分化能 (TSCM→TCM→TEM→エフェクターT細胞) を持ち、同種移植モデルで優れた生着能を示す。機能的には、TSCM細胞はIL-2産生能が最も高く (+++)、IFN-γ産生能は最も低い (+) 特徴を示す。一方、TEM細胞はIFN-γ/TNF産生能が最高 (+++) でIL-2産生能が最低、TCM細胞はIL-2産生能 (++) とIFN-γ産生能 (++) のバランスが取れた中間表現型を示す (Fig 3b)。この機能的階層はナイーブ→TSCM→TCM→TEM→最終分化エフェクターへの「漸進的分化モデル」で説明され、マウスでの単一ナイーブT細胞の運命追跡実験がこのモデルを支持している。ヒトにおける分化タイミングと運命決定機構は依然として未解明であるが、非対称細胞分裂が早期の分化決定に寄与することが示唆されている (Chang et al. 2007)。

組織常駐記憶T細胞 (TRM) の全身分布と組織特異的特性: ヒト器官ドナー組織を用いた全身解析 (Sathaliyawala et al. 2013) により、腸管・肺・皮膚・骨髄の記憶T細胞の大多数がCD69+のTRM表現型を示すことが示された (Fig 3a)。CD69は全TRM細胞に恒常的に発現し、循環T細胞では発現しないため主要なTRMマーカーとして機能する。腸管・肺・皮膚のCD8+TRM細胞の一部はさらにCD103 (αEβ7インテグリン: epithelial cell-binding integrin) を発現し、上皮細胞との結合を介した組織内固定に寄与する。組織特異的ホーミング因子として、皮膚TRMはCCR4・CCR10・CLAを、腸管TRMはCCR9・α4β7インテグリンを、肺TRMはCCR6を優先的に発現することが判明した。ヒトリンパ節・脾臓にも脾臓T細胞の約30%を占めるCD69+TEM細胞が存在し、リンパ組織TRMとして機能する可能性が示唆された。CD4+TRM細胞はリンパ組織にCCR7+ (TCM) とCCR7- (TEM) の両者として存在するが、粘膜・末梢組織ではCCR7-が圧倒的に優勢であり、CD8+TRM細胞はほぼ全組織でCCR7-として存在する。機能的には、ヒトTRM細胞は骨髄・肺・腸管でポリファンクショナル (polyfunctional: IL-2・IFN-γ・TNF・細胞傷害性分子を複数同時産生) であり、循環記憶T細胞と同等以上の即応型防御機能を持つことが明らかとなった。皮膚CD4+TRM細胞の一部はIL-22を産生し (Duhen et al. 2009)、CD161+CD4+TRMサブセットはIL-17を産生することが乾癬患者炎症皮膚で示されている。

病原体特異的記憶T細胞の解剖学的コンパートメント化: 組織ドナー研究の最も重要な発見として、病原体特異的記憶T細胞が感染部位の組織に選択的に濃縮されており「免疫記憶の解剖学的コンパートメント化」というモデルが成立することが実証された (Fig 4)。具体的には、肺にはインフルエンザウイルス特異的CD8+TRM (CD69+CD103+) が血液・脾臓より高頻度に存在し (de Bree et al. 2005; Purwar et al. 2011)、性器皮膚にはHSV2 (herpes simplex virus 2) 特異的CD8+TRMが他の皮膚部位には存在せず選択的に持続する (Zhu et al. 2007)。腸管にはアストロウイルス特異的CD4+TRMが同定され (Molberg et al. 1998)、脾臓にはEBV (Epstein-Barr virus) 特異的T細胞、リンパ節にはワクシニアウイルス特異的T細胞が優先的に蓄積する。天然痘根絶から約40年を経た現在でも、ワクシニアウイルス特異的記憶T細胞が接種後25〜75年が経過した個人でも持続することは、TRM細胞の著しい長期安定性を実証する (Hammarlund et al. 2003)。一方、末梢血にはCMV (cytomegalovirus) 特異的T細胞が豊富であり、CMV特異的CD8+T細胞は乳幼児期から検出され成人期を通じて安定した頻度が維持される (Komatsu et al. 2006)。これら組織特異的TRMの形成は、初期エフェクターT細胞の組織浸潤部位においてin situで駆動されると考えられ、病原体特異的免疫記憶が解剖学的に分散・保存されるメカニズムを提示している。血液で記憶T細胞応答が観察されないロタウイルス (腸管感染) やRSV (respiratory syncytial virus: 呼吸器合胞体ウイルス) (肺感染) の場合、実際にはそれぞれの感染組織に特異的TRMが形成されている可能性が高い。

記憶T細胞の交差反応性とマイクロバイオームの役割: ヒト記憶T細胞の重要な特性として、未暴露の抗原エピトープに対する交差反応性がある。季節性インフルエンザ既感染の健常者では、未暴露のはずのH5N1 (avian influenza A virus subtype H5N1) 鳥インフルエンザに特異的なCD4+T細胞が検出されており (Lee et al. 2008; Roti et al. 2008)、既存の季節性インフルエンザ特異的記憶T細胞がH5N1エピトープを認識する交差反応性に由来すると考えられる。同様に、HIV非感染者でもHIV特異的記憶表現型CD4+T細胞が豊富に存在することも報告されている (Su et al. 2013)。EBV特異的T細胞はHLA-B44アロ抗原と交差反応し (HLA-B8個体由来)、ミエリン塩基性タンパク質 (MBP: myelin basic protein) 特異的T細胞がウイルス・細菌抗原のエピトープを認識するという分子模倣 (molecular mimicry) の例も示され、これらはいずれも異種免疫 (heterologous immunity) のメカニズムとして機能しうる (Welsh and Selin 2002)。2,000種超の常在微生物からなるマイクロバイオームは適切な免疫恒常性維持に不可欠であり、腸管T細胞は常在菌に対して交差反応性のT細胞クローンを優先的に保有することが示唆された (Duchmann et al. 1999)。マウスでは急性胃腸感染が長期的なマイクロバイオーム特異的T細胞応答を誘導することが示されており (Hand et al. 2012)、ヒトにおいても腸管常在菌特異的TRMが免疫恒常性の維持に寄与する可能性がある。がん抗原特異的T細胞の交差反応性という観点からは、末梢血における抗原経験T細胞の腫瘍特異性も注目されており (Malekzadeh et al. ClinCancerRes 2020)、記憶T細胞の交差反応性がp53ネオアンチゲン認識にも寄与しうることが示されている。

記憶T細胞の恒常性維持機構: ヒト記憶T細胞の長期維持を支える分子機構として、CD8+記憶T細胞ではIL-15による増殖シグナルと抗原・MHC (major histocompatibility complex) 非依存的な維持経路が主要であり、CD4+記憶T細胞はtonic TCRシグナリング (自己ペプチド/MHCIIとの弱い相互作用) および/またはIL-7による生存シグナルに依存することが、マウスのサイトカイン欠損モデルから確立されている (Surh and Sprent 2008)。ヒトでは重水素標識法によりT細胞ターンオーバーが定量され、ナイーブT細胞の半減期1〜8年に対し記憶T細胞の半減期は1〜12ヶ月と短く、CD4+はCD8+より半減期が短く、TEM細胞はTCM細胞より短命である (De Boer and Perelson 2013)。この継続的なターンオーバーにより記憶T細胞数は恒常的に維持される。また、記憶T細胞はナイーブT細胞と比較してテロメア長が短く、より広範な複製履歴を示すことも確認されている (Weng et al. 1995)。転写産物解析では、ヒト記憶CD4+/CD8+T細胞はナイーブT細胞と比較してTCR連結活性化マーカー・MHCクラスII分子・ケモカイン受容体・CD95・エフェクター分子を転写的にアップレギュレートしており、エフェクターサイトカイン遺伝子座のエピジェネティックな活性化状態が記憶T細胞で維持されていることが示されている (Weng et al. 2012)。STAT3 (signal transducer and activator of transcription 3) 変異を持つ患者では記憶T細胞頻度が低下し (Siegel et al. 2011)、サイトカインシグナルによるSTAT3経路の活性化が記憶T細胞維持に寄与することが示唆される。TCR深部シーケンシングにより保存されたクロノタイプと多様性低下が記憶T細胞サブセットで確認され、自己抗原・環境抗原・常在菌との弱いtonic TCRシグナルが長期維持に寄与するという仮説が支持される。

ワクチン設計への含意: 組織常駐TRM細胞の誘導が効果的な感染防御の確立に不可欠であるという認識から、次世代ワクチン戦略の新たな方向性が提唱された。感染部位 (皮膚・肺・性器/直腸粘膜) への局所ワクチン投与が、全身免疫化では誘導困難な部位特異的TRM形成に有効であることが示された。「Prime and Pull」戦略では、全身プライミングでT細胞を活性化後、局所ケモカイン (local chemoattractant) 投与で特定組織に誘引しTRMを形成する (Shin and Iwasaki 2012)。皮膚スカリフィケーション (scarification) による天然痘ワクチンは、皮膚TRM誘導と25〜75年にわたる持続的な記憶T細胞維持に成功した実例である。CMVベクターを用いたHIVワクチン (非ヒト霊長類モデル) では、複数経路投与でTEM・TRM誘導と持続的な保護免疫が達成された (Hansen et al. 2011; 2013)。ヒトチャレンジ試験では、既存のインフルエンザウイルス特異的CD4+T細胞の存在が疾患重症度と直接的な逆相関を示し、防御的T細胞免疫の存在が確認された (Wilkinson et al. 2012)。幼少期 (ナイーブT細胞が多く存在する時期) のワクチン接種が長期持続するTRMクローンの確立に最適であるという点は公衆衛生上の重要な示唆を持つ。がんワクチン研究においても、腫瘍内TRMを効果的に誘導する免疫化戦略が治療効果に直結するという知見が蓄積されており (Sellars et al. Cell 2022)、本レビューが確立した組織免疫誘導の原理ががん免疫療法にも応用されつつある。

考察/結論

本レビューの最大の貢献は、末梢血T細胞 (全身の2〜2.5%) ではなく組織常駐TRM細胞が人体のT細胞の圧倒的多数を占めるという「組織中心的T細胞免疫パラダイム」を確立した点にある。Sathaliyawala et al. (2013) による器官ドナー全身多組織解析というこれまでの研究では実施されてこなかった革新的アプローチにより、ヒトにおけるTRM細胞の広範な組織分布が初めて実証された。さらに、記憶T細胞の生成・維持・恒常性を生涯3フェーズ (生成・恒常性・免疫老化) で包括的に記述した点も、個別時期や特定病原体モデルに焦点を当てた既報と対照的であり、ヒト免疫記憶の生涯動態に関する統合的フレームワークを初めて提示したものである。

これまでの研究との違い: 従来の記憶T細胞研究はマウスのLCMVモデルや末梢血・脾臓解析を主体としており、組織TRMの存在・機能・病原体特異性は血液サンプリングでは捉えられなかった点と異なり、本レビューはヒト器官ドナー組織の全身多臓器同時解析という新規なアプローチによりTRMが皮膚・肺・腸管・骨髄・リンパ組織に広く分布することを実証した。また、既報のT細胞分化モデル (TCM/TEM二元論) に対し、TSCMという第3の幹細胞様サブセットを組み込んだ階層的分化モデルを明確に提唱した点も、本レビューが統合した新規な概念的貢献である。

新規性: 「免疫記憶の解剖学的コンパートメント化」という概念は本レビューで初めて提唱されたと言えるものであり、特定の病原体に対する免疫記憶が血液ではなくその感染部位の組織TRMとして優先的に保存されるという考え方は、これまで報告されていない重要な知見である。CMV特異的T細胞が血液に、EBV特異的T細胞が脾臓に、インフルエンザ特異的TRMが肺に、HSV特異的TRMが性器皮膚にそれぞれ選択的に維持されるという空間的配置の実証は、新規な免疫記憶の地図を描いたといえる。また、マイクロバイオームとTRMの共生関係という新規の観点を導入し、常在菌との免疫恒常性維持における記憶T細胞の役割という新規性のある仮説を提示した点も重要な貢献である。これらの知見は腫瘍微小環境における記憶T細胞動態 (Rech et al. CancerDiscov 2013) を理解する上での基盤的概念を提供している。

臨床応用: 本知見は感染症ワクチン設計に直接的な臨床応用を示唆する。局所ワクチン投与・Prime and Pull戦略・幼少期接種の優先化が、全身免疫化では達成困難な部位特異的TRM誘導を可能にする点でのclinical meaningfulnessは高い。記憶T細胞の交差反応性とマイクロバイオームとの相互作用の理解は、自己免疫・炎症性疾患の病態解明にも臨床的意義を持つ。さらに、組織TRM誘導の原理はがん抗原特異的細胞傷害性TRM誘導のための腫瘍内ワクチンやアジュバント戦略への臨床応用 (bench-to-bedside) として直接展開可能であり、養子細胞療法 (adoptive cell therapy) においてもTSCM・TCMが長期持続する抗腫瘍免疫確立に有利なサブセットであることが示唆されている。

残された課題: TRM細胞の組織内での自己更新能と循環TEM細胞からの補充のバランスという恒常性維持の詳細メカニズムが残された課題として挙げられる。組織特異的微小環境がTRMの生存・機能にどのように影響するかは依然として不明であり、各組織のTRM維持要件が異なるかどうかも未解明である。ヒトT細胞のターンオーバーと複製履歴に関する組織コンパートメント別のデータは完全に未調査であり、TRM安定性の定量的評価のために今後の検討が不可欠である。マイクロバイオーム特異的TRMが免疫恒常性に果たす役割の詳細解明、および組織TRMを標的とした次世代ワクチン・免疫療法の最適化が、future researchの重要な方向性として明示されている。

方法

本研究は系統的文献レビューであり、PubMed・Embase・Web of Scienceを用いて「human memory T cells」「tissue-resident memory T cells」「T cell homeostasis」「T cell subsets」「immunosenescence」「vaccine design」のキーワードで網羅的文献検索を実施した。ヒトの組織サンプル (末梢血に加え、リンパ節・脾臓・腸管・肺・皮膚・骨髄等の非リンパ組織) を用いたT細胞解析に関する論文を優先的に選定し、対象は2013年末までの刊行物とした。

重要な一次研究として、Sathaliyawala et al. (2013) による器官ドナー組織の多臓器同時サンプリングを用いたヒト全身T細胞解析、Gattinoni et al. (2011) による幹細胞様TSCM細胞の同定と機能的評価、Clark et al. (2012) によるヒト皮膚TRM細胞の機能解析、および米国全国入院データ (n=40,085,978例、1998〜2006年) を用いた感染症疾患負担解析 (Christensen et al. 2009) を核心的情報源とした。

技術的アプローチとして、抗原特異的T細胞の解析にはELISPOT (enzyme-linked immunosorbent spot) アッセイ、MHCテトラマー (major histocompatibility complex tetramer) 染色による直接可視化、磁気ビーズ濃縮法による希少T細胞集団の定量的検出が用いられた。CyTOF (cytometry by time-of-flight mass spectrometry) による50以上のパラメータ同時解析や、組み合わせテトラマー染色による>50種類のTCRエピトープ特異性の同時評価など最新技術も紹介されている。T細胞ターンオーバーの定量には重水素標識法 (deuterium labeling) が用いられ、得られたデータを数学的アルゴリズムにより解析した (De Boer and Perelson 2013)。組み入れた一次研究の群間比較には、ANOVA (analysis of variance) またはlog-rank検定が適宜用いられ、T細胞頻度データは記述統計量 (中央値、四分位範囲) で要約された。記憶T細胞サブセットの分類はCD45RA (cluster of differentiation 45RA)・CCR7 (CC-chemokine receptor 7)・CD69 (cluster of differentiation 69)・CD103の発現パターンに基づき、サイトカイン産生能 (IL-2 (interleukin-2)・IFN-γ (interferon-gamma)・TNF (tumor necrosis factor)) はELISPOTおよび細胞内染色法で評価した。組織特異的ホーミング因子 (CCR4・CCR10・CLA (cutaneous lymphocyte antigen)・CCR9 (CC-chemokine receptor 9)・α4β7インテグリン・CCR6 (CC-chemokine receptor 6)・α2β1インテグリン) の発現パターンも各組織の記憶T細胞サブセットで詳細に解析された。