• 著者: Kerndl M, Musiejovsky L, Komljenovic A, Lam HS, Vogel A, et al.
  • Corresponding author: Omar Sharif, Gernot Schabbauer (Medical University of Vienna)
  • 雑誌: Nature Immunology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42151478

背景

中枢神経系 (CNS; central nervous system) では、神経炎症が生じると単球由来細胞 (Mdc; monocyte-derived cells) が血液脳関門を通過して組織に浸潤する。Ly6C[hi]CCR2+CX3CR1[lo]炎症性単球は炎症局所で単球由来マクロファージ (moMAC; monocyte-derived macrophage) や単球由来樹状細胞 (moDC; monocyte-derived dendritic cell) へと分化し、実験的自己免疫性脳脊髄炎 (EAE; experimental autoimmune encephalomyelitis) における神経炎症病態の主要な駆動因子として認識されてきた。先行研究ではEAE発症ピーク時には iNOS (inducible nitric oxide synthase)+ Mdcが優勢であり、回復期にかけて ARG1 (arginase 1) 発現 Mdc に置換されるという段階的分化モデルが提唱されていたが (Giladi et al. Nat Immunol 2020; Klose et al. J Exp Med 2021)、ARG1 が抗炎症的か病態促進的かについては議論が続いていた。また、Mdc 浸潤が CNS 代謝にどのように影響し、それが神経炎症の病態にどう反映されるかという知識のギャップが未解明のまま残されていた Barreby et al。脂質滴蓄積マイクログリア (LDAM; lipid droplet-accumulating microglia) が神経変性を促進するという先行報告 (Bhatt et al. Nat Aging 2023) もあったが、CNS浸潤 Mdc が代謝改変を介して同様の機能を持つかどうかは不足していた。本研究ではEAEモデルを用い、遺伝学的運命追跡・代謝産物イメージング・メタボロミクスを組み合わせることで、Mdc 浸潤が CNS 代謝に与える影響を包括的に解析した Bhatt et al。

目的

遺伝学的運命追跡・標的メタボロミクス・MALDI-MSI (matrix-assisted laser desorption/ionization–mass spectrometry imaging) を組み合わせてEAEモデルにおけるCNS Mdc浸潤と代謝変動の関連を解析し、特にARG1+ Mdcが駆動するアルギニン異化が神経炎症病態において持つ役割を解明すること。

結果

EAE神経炎症に伴うCNS代謝変動とMdc浸潤の同定

標的メタボロミクスにより脊髄で57個、CSFで15個の疾患連関代謝産物 (DLM; disease-linked metabolite) を同定した (Fig. 1)。ピーク期には神経毒性物質キヌレン酸・キノリン酸・α-アミノアジピン酸が上昇し、酸化ストレスの指標である還元型グルタチオン (reduced glutathione) が低下した。アデノシン・クレアチン (neuroprotective) も減少し、エネルギー代謝障害が示唆された。一方でカルニチン類 (長鎖脂肪酸酸化の補因子) が多数上昇した。CD45+CCR2+CX3CR1+ Mdc はピーク期に回復期と比べて有意に増加しており (P=0.0012)、代謝変動と Mdc 浸潤の時間的一致が確認された (Fig. 1d)。経路解析では脊髄でアルギニン生合成・ニコチン酸/ニコチンアミド代謝・核酸糖代謝に有意な代謝産物の集積が観察され、CSFでもアルギニン生合成経路の富化が確認された (Fig. 2a)。脊髄アルギニン低下・シトルリン上昇に加え、CSFアルギニンの ELISA 測定でも有意な低下 (n=3, P=0.018) が確認された (Fig. 2c)。

ARG1+iNOS− Mdcがアルギニン異化の主役

Arg1-eYFP マウスのEAEピーク期に、浸潤 Mdc の約半数が ARG1+iNOS− 選択的であり、ARG1−iNOS+ および ARG1+iNOS+ はそれぞれ 6-10% のみであることを t-SNE 解析で確認した (Fig. 2k)。CCR2-CreERT2 を用いた誘導性運命追跡および Ms4a3-Cre による恒常的追跡のいずれでも、CCR2-tdTomato+ Mdc の大多数が ARG1+iNOS− であり (Fig. 2l, m)、微小グリアでは ARG1 がほぼ検出されなかった。Mdc の分化過程では、単球からmoDC・moMAC へと分化するにつれて ARG1・CD44・F4/80 を獲得し、CD44 と ARG1 は moMAC > moDC であった (Fig. 2k)。ARG1活性 (n=6, ANOVA P<0.0001) および NOS活性はいずれもピーク期に有意増加した (Fig. 2h, i)。ARG1 下流のポリアミン (ornithine、putrescine、spermidine) も脊髄・CSF で上昇し、ARG1 経路の優勢活性化が示された。MALDI-MSI により ornithine・fumarate がEAE病変内に局在することが空間的に確認され (n=3, P=0.0478 および P=0.0022、Fig. 3g, h)、ARG1+細胞が局所アルギニン異化の主役であることが裏付けられた。ヒトMS脳剖検組織でも、活動性病変中心で ARG1+ 細胞が正常白質と比較して有意に増加しており (ANOVA P<0.0001)、ARG1+iNOS− myeloid cell の保存性が示された (Fig. 3c, d)。

ARG1+Mdcの脂質蓄積転写プログラムと酸化ストレス促進

ARG1+YFP+ vs ARG1−YFP− Mdc のバルク RNA-seq (n=5) では、67遺伝子が上方調節、98遺伝子が下方調節された (Fig. 4a)。ARG1+細胞では脂肪酸代謝遺伝子 Fabp4・Fabp5・Scd4 が 2-fold 以上上方調節されており、脱髄関連の Spp1・Ccl6 も高発現した。GSEA (gene set enrichment analysis; Reactome) でスフィンゴ脂質代謝・グリコスフィンゴ脂質代謝・ミトコンドリア脂肪酸β酸化が有意に富化された (FDR; false discovery rate <0.001、Fig. 4b, c)。LipidTox 染色の MFI (median fluorescence intensity) で ARG1+ Mdc は ARG1− Mdc よりも脂質蓄積が多く (n=9, P=0.002、Fig. 4h)、神経変性促進性の LDAM 表現型と類似していた。LPS/GM-CSF 刺激は ARG1+iNOS− から ARG1+iNOS+ への移行を誘導し、Csf2rb fl/fl Ccr2-CreERT2 動物の Mdc では ARG1 発現が有意に低下した (P=0.0417、Fig. 4j)。細胞外アルギニン除去 (recombinant ARG1 処理) により、NRF2 (Nfe2l2) および HO-1 (Hmox1) の発現が有意に低下し (ANOVA P<0.0001)、脂質過酸化が増大した (n=4, P<0.0001)。これらの結果は ARG1+Mdc が細胞外アルギニンを消費することで抗酸化経路 (NRF2-HO-1 axis) を障害し、酸化ストレスを増幅するという機序を提示する。

Mdc特異的ARG1欠損がEAE病態を軽減

Arg1fl/fl Cx3cr1-Cre マウス (n=16) vs 対照 (n=21) のEAE実験では、CCR2+CX3CR1+ Mdc での ARG1 が約 2-fold 低下し、CSF アルギニンが増加した。臨床スコアは全評価指標で有意に改善された (累積スコア P=0.007、最大スコア P=0.0024、AUC P=0.0068、Fig. 5b)。Mdc 頻度は両群で同等であり (non-significant)、ARG1 欠損の効果が細胞数変化によらないことが示された。脊髄メタボロミクスでは神経毒性のキノリン酸・α-アミノアジピン酸・長鎖アシルカルニチン類が KO で低下し、神経保護的クレアチン・マンノース・アデノシンが上昇した (Fig. 5c)。Mdc の脂質過酸化 (P=0.0208) および脂質蓄積 (P=0.0468) も ARG1 欠損 Mdc で有意に低下した。Treg 細胞 (CD25+FoxP3+) がARG1欠損群で増加し (P=0.0059)、Mdc の IL-10・TGFβ発現も有意に上昇した (P=0.02-0.03)。さらに Mdc 頻度 (R²=0.3848, P=0.0237) および ARG1+Mdc 割合 (R²=0.3886, P=0.0228) と臨床スコアとの正の相関も確認された (Fig. 5a)。アルギニン欠乏食群 (n=19 vs n=19) では CSF・血漿アルギニンが低下し、臨床スコアが悪化 (AUC P=0.0146)、脱髄が増加 (Luxol fast blue, P=0.0322)、Mdc の脂質過酸化増大 (P=0.0434)、Treg 低下 (P=0.0163) が確認され、細胞外アルギニン可用性がMdc機能と神経炎症結果に直接影響することが示された Treg-mediated immune regulation in CNS

考察/結論

本研究は、CNS 浸潤 ARG1+Mdc が疾患ピーク期にアルギニン異化を駆動し、それが酸化ストレス・脂質蓄積・Mdc 機能不全を招いて神経炎症を悪化させるという新たな病態機序を提示した点で画期的である。

既存報告との違い: 先行研究では ARG1+ Mdc は回復期に優勢となり抗炎症的機能を持つとされていたが (Klose et al. 2021; Giladi et al.)、本研究はピーク期においても約半数の Mdc が ARG1+iNOS− であり、ARG1 が抗炎症の印というよりも病態促進的であることを実証した。この違いは運命追跡技術 (CCR2 や MS4A3 Cre 系統) を用いてマイクログリアと真の Mdc を厳密に区別した点と、脊髄メタボロミクスとの統合解析によるものである。また LDAM はこれまで加齢マイクログリアや神経変性文脈で記述されていたが、本研究は EAE 病態における ARG1+Mdc が同様の脂質滴蓄積・ROS 産生特性を持つことを初めて示した。

新規性: 本研究の novelty は以下の点にある。第一に、遺伝学的運命追跡・代謝産物イメージング (MALDI-MSI)・標的メタボロミクスを組み合わせた統合的アプローチにより、EAE における Mdc 浸潤が CNS 代謝に及ぼす影響を包括的に解明した初の研究である。第二に、GM-CSF 受容体シグナリングが ARG1+ Mdc の産生に必要であることを遺伝学的に証明し (Csf2rb fl/fl Ccr2-CreERT2)、ARG1 がこの経路で ROS 産生を誘導することを示した。第三に、食事性アルギニン欠乏モデルにより細胞外アルギニン可用性が Mdc 機能・Treg 誘導・脱髄重症度を決定することを in vivo で実証した。

臨床応用: ARG1 阻害は EAE において疾患改善効果を示しており (先行研究との一致)、MS 患者での ARG1+ Mdc 抑制が治療標的となりうる。アルギニン補充療法は Mdc の機能改善と Treg 促進を介して神経炎症を軽減する潜在的戦略として位置づけられる。ヒト MS 活動性病変における ARG1+CD68+ 細胞の確認は、ARG1 が MS のバイオマーカーまたは治療標的として有望なことを示す。

残課題: Cx3cr1-Cre の CX3CR1 ヘテロ接合体による副作用の可能性は完全には否定できない。ARG1 の下流代謝物への寄与を代謝フラックス実験で将来的に確認する必要がある。CNS アルギニン欠乏が Mdc の機能障害を来すメカニズム (SLC7A2 を介した競合的取り込みか、ポリアミンの直接毒性か) のさらなる解明が求められる。また、アルギニン補充の臨床応用に向けて、MS 患者での CSF アルギニン測定と ARG1+ Mdc 割合の相関解析が将来的に必要である。

方法

動物モデル: C57BL/6Jマウスを MOG (myelin oligodendrocyte glycoprotein) 35-55/CFA (complete Freund’s adjuvant) で免疫してEAEを誘導。健常・ピーク期・回復期の脊髄組織および脳脊髄液 (CSF; cerebrospinal fluid) を採取した。遺伝子改変マウスとして以下を使用: Arg1-eYFP (arginase 1 プロモーター下の eYFP; enhanced yellow fluorescent protein)、R26[tdTomato]Ccr2-CreERT2 (CCR2+細胞の誘導性運命追跡)、R26[tdTomato]Ms4a3-Cre (顆粒球・単球前駆細胞の恒常的運命追跡)、Arg1fl/fl Cx3cr1-Cre (Mdc特異的ARG1欠損)、Arg1fl/fl Ccr2-CreERT2 (単球特異的ARG1欠損)、Csf2rb fl/fl Ccr2-CreERT2 (GM-CSF; granulocyte-macrophage colony-stimulating factor 受容体β欠損)。

メタボロミクス・イメージング: 脊髄 (n=11 健常、n=8 ピーク、n=5 回復) および CSF (n=5 各群) の標的メタボロミクスを実施。代謝産物の空間分布は MALDI-MSI で解析 (n=3/群)。

トランスクリプトミクス: ARG1+ YFP+ vs ARG1− YFP− 細胞の Bulk RNA-seq (n=5動物、spinal cord より sort)。公開 scRNA-seq データセット GSE130119 (EAE複数ステージ) を再解析。

食事介入: アルギニン充足食 (n=19) vs アルギニン除去食 (n=19) 群にEAEを誘導し臨床スコアを比較。

ヒトMS脳: 剖検脳組織 (健常 n=8、MS各病変型 n=5-18) にARG1免疫組織化学を実施。

統計: 一元配置 ANOVA (Tukey’s またはDunnett’s post-hoc)、二標本 t 検定、Student’s t 検定、単純線形回帰。