• 著者: Kurt A. Schalper, Michael Carleton, Ming Zhou, Tian Chen, Ye Feng, Shu-Pang Huang, Alice M. Walsh, et al.
  • Corresponding author: Kurt A. Schalper (Yale University School of Medicine, New Haven, CT, USA); Ignacio Melero (Universidad de Navarra, Pamplona, Spain)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-05-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32405062

背景

IL-8 (CXCL8) は、最初に発見されたケモカインであり、好中球および単球の強力な走化性因子として機能する。腫瘍細胞が産生するIL-8は、血管新生促進、上皮間葉転換、浸潤、転移といった多面的な腫瘍促進作用を持つことが知られており、複数のがん種において血清IL-8高値が予後不良と関連することが報告されていた。例えば、前立腺がんにおけるCXCケモカインの腫瘍形成への関与がMoore et al. (1999)により示され、IL-8が血管新生を促進することが示唆されている。また、Baggiolini et al. (1989)はIL-8が好中球を活性化する新規サイトカインであることを報告し、その後の研究でIL-8が好中球の走化性に強く関与することが確立された。しかし、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療患者を対象とした大規模無作為化試験におけるIL-8の臨床的意義は、これまで十分に検証されていなかった点が知識ギャップとして残されており、その詳細な作用機序も未解明であった。

従来のICIバイオマーカー(PD-L1発現、MSI、TMB、CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) など)は、組織生検を要するため、その臨床実装には制約がある。例えば、PD-L1発現の評価は腫瘍組織の入手が必要であり、生検の侵襲性や腫瘍内不均一性といった課題が指摘されている。また、TMBの測定も次世代シーケンシングを必要とし、コストや解析時間、適切なカットオフ値の設定など、広範な臨床導入にはまだ課題が多い。このような背景から、通常の血液検体で定量的に測定できる液性バイオマーカーの確立は、患者負担の軽減と迅速な治療選択に資するため、臨床的に極めて重要である。著者らは、先行研究において、メラノーマおよび非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の小規模な後ろ向きコホートにおいて、ICI治療中のIL-8増加が予後不良と関連することを報告しており、Sanmamed et al. Ann Oncol 2017、この知見を大規模な第III相試験で検証することが本研究の動機となった。既存のバイオマーカーでは捉えきれない、ICI治療に対する抵抗性メカニズムを反映する新たなバイオマーカーの探索が不足していた。特に、IL-8が腫瘍微小環境に与える影響や、免疫抑制細胞の動員における役割については、大規模な臨床データに基づいた詳細な解析が不足しており、この点が重要な課題として残されていた。

目的

本研究の目的は、4件の第III相無作為化臨床試験 (CheckMate 067, 017, 057, 025) に登録された合計1,344例の患者のベースライン血清保存検体を用いて、以下の3点を検証することである。(1) ベースライン血清IL-8レベルと、ニボルマブ単剤またはニボルマブとイピリムマブ併用療法を受けた進行がん患者の全生存期間 (OS) との関連性を評価する。(2) 血清IL-8レベルが、既存のバイオマーカーであるPD-L1発現および腫瘍変異負荷 (TMB) とは独立した予後予測因子であるかどうかを検証する。(3) 血清IL-8レベルと腫瘍微小環境における免疫細胞組成、特に好中球および単球の浸潤との関係を詳細に解析し、IL-8が免疫抑制的な腫瘍微小環境の形成にどのように関与しているかを解明する。これらの検証を通じて、血清IL-8がICI治療の臨床的効果を予測する新たなバイオマーカーとしての可能性を評価し、その作用機序を明らかにすることを目指す。

結果

IL-8高値の頻度と各試験でのOS短縮: 各試験において、ベースライン血清IL-8レベルが23 pg/mL以上の患者は全体の27.1%から34.3%を占めた (Extended Data Fig. 2)。全試験および全治療アームにわたり、IL-8高値はOSの有意な短縮と関連することが示された。最も顕著な影響はCheckMate 067試験のニボルマブとイピリムマブ併用療法群(メラノーマ)で観察され、IL-8高値群のハザード比 (HR) は3.06 (95% CI 2.13-4.41, p<0.001) と極めて高いリスクを示した (Fig. 1c)。ニボルマブ単独群でもHR 2.83 (95% CI 1.89-4.22, p<0.001)、イピリムマブ単独群でHR 2.16 (95% CI 1.47-3.18, p<0.001) と、全ての治療アームで有意なOS短縮が確認された (Fig. 1a-b)。CheckMate 017試験のニボルマブ群(扁平上皮NSCLC)ではHR 1.84 (95% CI 1.19-2.83, p=0.006)、CheckMate 057試験のニボルマブ群(非扁平上皮NSCLC)でもHR 1.90 (95% CI 1.42-2.53, p<0.001) のOS短縮が確認された (Fig. 1e-f)。CheckMate 025試験のニボルマブ群(RCC)でもHR 2.56 (95% CI 1.89-3.45, p<0.001) と有意なOS短縮が観察された (Fig. 1d)。客観的奏効率 (ORR) についても、IL-8高値群は低値群と比較して各試験・各治療アームで数値的に低い傾向を示したが、個別試験での統計的有意性はアームとがん種によって異なった (Extended Data Fig. 4)。

非免疫療法群でも同様の予後不良効果 — 予後因子としての性格: IL-8高値の予後不良効果は、免疫チェックポイント阻害薬以外の治療アームでも観察された。CheckMate 025試験のエベロリムス群(RCC)では、血清IL-8高値がOS短縮と関連し (HR 2.52, 95% CI 1.80-3.53, p<0.001)、CheckMate 057試験のドセタキセル群(非扁平上皮NSCLC)でも同様にOS短縮が認められた (HR 2.05, 95% CI 1.43-2.94, p<0.001) (Extended Data Fig. 3)。この結果は、IL-8がICI特異的な予測バイオマーカーではなく、より広範な腫瘍の予後因子としての役割を持つことを示唆する重要な観察である。治療群(ICI vs 非ICI)とIL-8レベルの交互作用項解析は統計的に有意ではなかった (p=非有意)。このことから、IL-8はICI治療への反応を特異的に予測する因子というよりも、腫瘍の内在的悪性度(unfavorable immunobiology)を反映する汎用的な予後マーカーと解釈された。

IL-8とPD-L1・TMBの独立性: 各試験におけるPD-L1発現レベルと血清IL-8レベルのSpearman相関は低値であった (CheckMate 067: ρ −0.069, p=0.04; CheckMate 025: ρ −0.026, p=0.492; CheckMate 017: ρ 0.107, p=0.25; CheckMate 057: ρ 0.081, p=0.09; 全試験統合 ρ −0.028) (Fig. 1g-j)。PD-L1陽性患者(1%カットオフ)と陰性患者の間でIL-8≥23 pg/mLの割合はほぼ同等であり、IL-8とPD-L1が独立した情報を持つことが示された (Extended Data Fig. 5)。TCGAデータセットの4がん種(メラノーマ、NSCLC、KIRC、膀胱がん)の1,424例でのCXCL8 mRNAとTMBのSpearman相関もρ 0.0073〜0.1458と低値であり、IL-8高発現はTMB高値とは独立した生物学的プロセスを反映することが確認された (Extended Data Fig. 6)。これらの知見は、IL-8をPD-L1やTMBとは独立したバイオマーカーとして既存のパネルに追加する意義を支持する。

IL-8と腫瘍免疫組成の関係 — 多角的解析: 血清IL-8レベルは、腫瘍CXCL8 mRNA発現、血中好中球数、および単球数と有意な正相関を示した (Fig. 2a)。具体的には、血中好中球数との相関はρ=0.38、血中単球数との相関はρ=0.35であった。一方、腫瘍のIFNγ関連シグナチャー(IFNγ, CXCL9, CXCL10など)およびT細胞浸潤関連転写シグナチャー(CD8A, CD8B, CD3など)とは有意な負相関を示し、IL-8高発現腫瘍が適応免疫反応の低い「冷たい」腫瘍微小環境を持つことが示唆された。多重蛍光免疫染色 (AQUA system) では、腫瘍内IL-8タンパク高発現とMPO陽性好中球およびCD15陽性単球の腫瘍内浸潤増加が有意に関連した (NSCLC 265例でp<0.0001; メラノーマ 99例でp=0.0001; RCC 307例でp=0.0129) (Fig. 2b-j)。腫瘍内IL-8の産生源は主に腫瘍細胞であることが同定され、腫瘍由来IL-8が骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC) を腫瘍へ動員し、T細胞を排除して免疫抑制的腫瘍微小環境を形成する機序が病理学的に示された。

カットオフ値23 pg/mLの妥当性と臨床応用性: 23 pg/mLというカットオフ値は、ROC曲線解析によりOS 12ヶ月生存を基準にYouden指数を最大化することで導出された (Extended Data Fig. 1)。このカットオフ値は、各試験個別およびプール解析の両方でニボルマブ含有アームにおいて最大値に近いYouden指数を示し、メラノーマ、扁平上皮NSCLC、非扁平上皮NSCLC、RCCの4がん種に横断的に適用可能なカットオフとして設定された (Extended Data Fig. 7)。血清IL-8の測定は通常の採血で実施でき、簡便、低コスト、定量的という臨床実装上の利点を持つ。

考察/結論

本研究は、4つの第III相臨床試験(CheckMate 067, 017, 057, 025)の1,344例という大規模な患者コホートを対象とした後ろ向き解析により、ベースライン血清IL-8レベルが23 pg/mL以上であると、ICIを含む複数のがん治療におけるOSに独立して悪影響を与えることを実証した。この大規模な無作為化試験データを用いた解析は、IL-8の臨床的意義に関するこれまでの小規模な報告を裏付け、その汎用的な予後因子としての役割を強く支持するものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、IL-8の腫瘍促進作用や予後不良との関連が報告されてきたが、ICI治療患者を対象とした大規模な第III相試験データで、IL-8がPD-L1発現やTMBとは独立した予後因子として機能することを明確に示した点は、これまでの報告と異なり、本研究の重要な貢献である。特に、ICI治療のみならず、エベロリムスやドセタキセルといった非免疫療法においてもIL-8高値が予後不良と関連したことは、IL-8が治療法によらない汎用的な予後因子であることを示唆する。これは、IL-8が単なる免疫療法のバイオマーカーではなく、腫瘍のより根源的な悪性度を反映するマーカーであるという点で、Ribas et al. Science 2018Havel et al. NatRevCancer 2019といった先行研究で示されたICIバイオマーカーの概念とは対照的である。

新規性: 本研究で初めて、血清IL-8高値が腫瘍内好中球および単球浸潤の増加と相関し、T細胞浸潤関連遺伝子シグナチャーとは負の相関を示すことを多角的解析により新規に同定した。さらに、多重蛍光免疫染色により、腫瘍細胞がIL-8の主要な産生源であり、腫瘍由来IL-8がMPO陽性好中球やCD15陽性単球(骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC) を含む)の腫瘍内動員を促進し、T細胞の浸潤を物理的・機能的に排除することで免疫抑制的な腫瘍微小環境を形成する機序を病理学的に示したことは、これまで報告されていない新規の知見である。このメカニズムは、Riaz et al. Cell 2017が報告した腫瘍微小環境の進化と免疫療法抵抗性の関連を、IL-8経路の観点から具体的に補完するものである。

臨床応用: 血清IL-8は通常の採血検体で簡便かつ定量的に測定できるため、その臨床応用は容易である。これは、腫瘍組織生検を必要とするPD-L1 IHCやTMBといった既存のバイオマーカーと比較して大きな利点である。特に、腎細胞がんのように、MSIやTMBが有用なバイオマーカーとして確立されていないがん種では、IL-8がバイオマーカーの選択肢を拡充する可能性がある。また、IL-8をPD-L1、TMB、CD8陽性TILといった他のバイオマーカーと組み合わせた多変量スコアは、個々のバイオマーカーよりも優れた予測性能を発揮する可能性があり、臨床現場での治療選択の最適化に貢献しうる。例えば、Ayers et al. JClinInvest 2017が提唱したIFNγ関連mRNAプロファイルと組み合わせることで、より高精度な予測が可能になるかもしれない。

残された課題: 本研究の主要な限界は、後ろ向き解析である点であり、IL-8が予後に影響する因果関係の証明には前向き介入試験が必要である。また、各試験で全患者ではなく一部にのみ保存血清が利用可能であったため、選択バイアスの可能性が残されている。さらに、本研究は単一のアッセイ法(Myriad RBM MAP)を使用しており、23 pg/mLというカットオフ値の他施設・他測定法での再現性の確認が今後の実装上の課題として残る。IL-8がICI特異的な予測因子ではなく汎用的な予後因子であることは、IL-8高値患者ではICIを含む標準治療の恩恵が限定的であり、より積極的な戦略(IL-8経路を標的とした治療)が必要であることを示唆する。今後の検討課題として、抗IL-8抗体(BMS-986253)とニボルマブの併用試験(NCT03400332)や、CXCR1/CXCR2選択的阻害薬とICIの併用試験(NCT02499328など)における介入的検証が最重要である。IL-8の治療中の動的変化(早期上昇の奏効予測への活用)の臨床的意義も重要な研究課題である。

方法

本研究では、4つの第III相臨床試験(CheckMate 067 (メラノーマ)、CheckMate 017 (扁平上皮NSCLC)、CheckMate 057 (非扁平上皮NSCLC)、CheckMate 025 (腎細胞がん (RCC))) に登録された合計1,344例の患者から採取されたベースライン血清検体を用いた大規模な後ろ向き解析を実施した。血清IL-8レベルは、Multianalyte Profile (MAP) 免疫アッセイ (Myriad RBM) を用いて定量的に測定された。

統計解析には、まず受信者操作特性 (ROC) 曲線解析を実施し、OS 12ヶ月生存を基準として、Youden指数を最大化する23 pg/mLをIL-8のカットオフ値として設定した (Extended Data Fig. 1)。このカットオフ値を用いて、患者群をIL-8高値 (≥23 pg/mL) とIL-8低値 (<23 pg/mL) に層別化した。各試験および治療アームにおけるOSの比較には、Kaplan-Meier法とログランク検定 (log-rank test) を用い、ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルを用いて算出した。

IL-8と既存のバイオマーカーとの関連性を評価するため、PD-L1発現レベル(DAKO PD-L1 IHC 28-8 pharmDxアッセイ、Agilent社製、病理医による腫瘍細胞陽性率%で評価)と血清IL-8レベルとのSpearman相関係数を算出した。また、The Cancer Genome Atlas (TCGA) データセットから、4がん種(メラノーマ、NSCLC、腎臓がん、膀胱がん)の1,424例におけるCXCL8 mRNA発現とTMBの相関もSpearman相関係数を用いて評価した。TMBは全エクソームシーケンシングデータから、コード領域における全ての塩基置換および小規模な挿入・欠失の数を33 Mbで割ることで算出された。

腫瘍免疫組成との関係を評価するため、遡及的に収集された腫瘍組織マイクロアレイ (TMA) を用いた多重蛍光免疫染色 (AQUA system) を実施した。対象はNSCLC 265例、メラノーマ 99例、RCC 307例であった。染色にはIL-8、CD15、ミエロペルオキシダーゼ (MPO)、DAPI、サイトケラチン (CK) の抗体を用い、腫瘍内IL-8発現と好中球(MPO陽性)および単球(CD15陽性)の浸潤との関係を評価した。統計的比較にはMann-Whitney U検定を用いた。血清IL-8レベルと腫瘍CXCL8 mRNA発現、血中好中球数、単球数、ならびにIFNγ関連遺伝子シグネチャーおよびT細胞浸潤関連遺伝子シグネチャーとの相関も解析した。これらの遺伝子発現データはHTG EdgeSeq Oncology Biomarker Panel (HTG Molecular Diagnostics) を用いて取得された。

本研究では、SAS v9.4およびR version 3.6がデータ解析に用いられた。また、解析に含まれた4つの第III相臨床試験は全てNCT登録されており、CheckMate 067 (NCT01844505)、CheckMate 017 (NCT01642004)、CheckMate 057 (NCT01673867)、CheckMate 025 (NCT01668784) であった。