- 著者: Gang G Wang, Katherine R Calvo, Martina P Pasillas, David B Sykes, Hans Hacker, Mark P Kamps
- Corresponding author: Mark P. Kamps (University of California at San Diego)
- 雑誌: Nature Methods
- 発行年: 2006
- Epub日: 2006-01-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 16554834
背景
好中球やマクロファージなどの食細胞は、免疫調節のみならず、多発性硬化症、肝硬変、関節炎、動脈硬化、糖尿病、炎症性腸疾患などの慢性炎症性疾患や、中毒性ショック症候群などの急性炎症性疾患の病理において極めて重要な役割を果たす。また、正常な炎症プロセスはがんの増殖や転移、肥満の発症といった複雑な疾患とも密接に関連している。したがって、食細胞がどのようにケモカインやサイトカインに反応し、前炎症性カスケードを活性化させ、リンパ球の増殖や機能を調節し、微生物の殺菌を行うかという分子メカニズムを解明することは、慢性炎症のメカニズムを明らかにする上で不可欠である。
これまで、ノックアウト技術を用いて先天性免疫タンパク質の機能を研究し、食細胞機能における重要性が示されてきた。しかし、これらの変異マウスから分化、シグナル伝達、またはエフェクター機能を特性解析するために、十分な数の好中球や単球を簡便に大量に生成するプロトコルは確立されておらず、解析に必要な細胞数の確保という大きな課題が残されていた。特に、機能解析のために必要な細胞を得るためのコストのかかる交配や、時間のかかる精製プロセスは、研究の効率を著しく低下させていた。
一方で、Class I Hox (Homeobox) ホメオドメイン転写因子は造血前駆細胞の拡大を促進することが知られており、ヒトおよびマウスの骨髄性白血病においてその発現異常が報告されている。例えば、Hoxa9 (Homeobox A9) や Hoxa7 (Homeobox A7) は CD34+ Sca-1+ (Stem cell antigen-1) Lin- 骨髄細胞集団に高発現しており、分化に伴いダウンレギュレートされる。Lawrence et al. (1997) は、Hoxa9 -/- マウスにおいて骨髄HSC (Hematopoietic Stem Cell) が 5-10倍減少することを報告している。逆に、Thorsteinsdottir et al. (2002) は、Hoxa9 のレトロウイルス発現により長期再構築能を持つ HSC が 10-fold 増加することを示した。また、Calvo et al. (2000) らの報告により、Hoxb8 (Homeobox B8) や Hoxa9 の強制発現は、SCF (Stem Cell Factor) または GM-CSF (Granulocyte-Macrophage Colony-Stimulating Factor) 依存的な骨髄前駆細胞の分化を停止させることが知られている。
このように、Hoxタンパク質が骨髄分化を停止させ、無限の前駆細胞拡大を可能にする能力を持つことは既報であるが、これを条件付きで制御し、正常な分化能を保持した食細胞を大量に産生する系は未解明であり、実用的なモデルとしての構築が不足していた。
目的
本研究の目的は、エストロゲン受容体 (ER: Estrogen Receptor) 融合タンパク質を用いた条件付きHoxb8 (ER-Hoxb8) を導入することで、正常な分化能と先天性免疫機能を保持した好中球およびマクロファージを ex vivo で大量に産生するシステムを構築することである。具体的には、ER-Hoxb8によって不死化された前駆細胞を用い、培養に使用するサイトカイン(SCFまたはGM-CSF)の選択によって、分化方向を好中球またはマクロファージに特異的に誘導できるかを検証する。また、得られた分化細胞が正常な表面マーカー、遺伝子発現パターン、およびTLR (Toll-like Receptor) 刺激に対する炎症応答能を有しているかを確認し、さらに胎生13日目 (e13) の胎児肝前駆細胞からの不死化が可能か、および致死的な遺伝子欠損マウスにおける機能再構成ツールとして有用であるかを明らかにすることを目的とした。
結果
ER-Hoxb8およびER-Hoxa9のエストロゲン依存的転写活性: ERのエストロゲン結合ドメイン (ERBD: Estrogen Receptor Binding Domain) をHoxb8およびHoxa9のN末端に融合させ、MSCV (Murine Stem Cell Virus) レトロウイルスベクターを用いて発現させた。Pbxとの協調によるTGAT-TTATモチーフ駆動のルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて転写活性を測定したところ、ER-Hoxa9およびER-Hoxb8はエストロゲン濃度依存的な転写活性化を示した。最大活性化レベルはER-Hoxa9で 10-fold、ER-Hoxb8で 3-fold であり、いずれも半最大活性化濃度は 10 nM estrogen であった (Fig. 1b)。
ER-Hoxb8による好中球およびマクロファージ前駆細胞の不死化: 1 M estrogen存在下で、IL-3 (Interleukin-3)、SCF、またはGM-CSFで培養した一次骨髄前駆細胞にER-Hoxb8またはER-Hoxa9を導入したところ、因子依存的な不死化前駆細胞が得られた (Fig. 1c)。エストロゲン除去後、これらの細胞は増殖を停止し、形態的な終末分化を示した (Fig. 1d, Fig. 2a)。一方、G-CSF (Granulocyte Colony-Stimulating Factor) または M-CSF (Macrophage Colony-Stimulating Factor) 存在下では不死化は認められなかった。 さらに、分化方向を制御する条件を検討した。Lin- (MacI+, B220+, Thy1.2+ 除外) 骨髄前駆細胞をSCF, IL-3, IL-6で48時間前刺激し、SCFのみを含む培地でER-Hoxb8を導入して不死化した「SCF ER-Hoxb8前駆細胞」は、エストロゲン除去後、98-99% の純度で好中球へ分化した (n=4 clones, Fig. 2a)。これらの細胞は9ヶ月以上の培養後も正常な 40-XX 核型を維持していた (19/20 chromosome spreads)。 対照的に、Ficoll精製した骨髄前駆細胞をGM-CSFのみを含む培地でER-Hoxb8を用いて不死化した「GM-CSF ER-Hoxb8前駆細胞」は、99% 以上の純度でマクロファージへ分化した (n=10 clones, Fig. 2a)。これらの細胞は2年以上 (850世代以上) の培養後も正常な 40-XX 核型を維持していた (17/20 chromosome spreads)。
分化細胞の表面マーカーおよび酵素活性の解析: SCF ER-Hoxb8前駆細胞から分化した好中球は、NADPHオキシダーゼ活性の上昇、表面抗原 Gr-1 および Mac1 の発現上昇、およびマクロファージマーカー F4/80 のダウンレギュレーションを示した (Fig. 2b)。一方、GM-CSF ER-Hoxb8前駆細胞から分化したマクロファージは、非特異的エステラーゼ (NSE: Non-specific Esterase) 活性の上昇、F4/80 および Mac1 の発現上昇、および Gr-1 のダウンレギュレーションを示した (Fig. 2b)。なお、ER-Hoxa9およびER-Hoxa7を用いた前駆細胞は、サイトカインの種類に関わらず主に好中球とマクロファージの両方へ分化するbiphenotypicな性質を示した。GM-CSF ER-Hoxa9前駆細胞の 23 clones のうち、厳格な好中球分化は 4 clones、マクロファージ分化は 1 clone のみであり、18 clones はbiphenotypicであった。
ゲノムアレイによる分化プログラムの検証: Affymetrix 430 2.0 Arrayを用いて、分化過程の遺伝子発現を解析した。SCF ER-Hoxb8好中球前駆細胞では、分化に伴い Il8rb, Ltf, Lrg1, CD177, Camp, Lcn2 などの好中球特異的マーカーが選択的に上昇した。一方、GM-CSF ER-Hoxb8マクロファージ前駆細胞では、Mmp12, Cd68, Msr1, Msr2, Mgl2, Itgax (CD11c), Clec4n などのマクロファージ特異的マーカーが選択的に上昇した (Fig. 3)。また、GM-CSF前駆細胞では未分化状態で Irf8, Emr1 (F4/80), Tcfec が高発現しており、マクロファージへのコミットメントが既に完了していることが示された。共通の骨髄分化マーカー (Fpr1, Fpr-rs2, Mrc1, Tlr2, Mmp8, Itgam, Fgr, Lgmn) は両前駆細胞で上昇し、前骨髄球マーカー (Mpo, Prt3, Ela2, Cnn3) は共通してダウンレギュレートされた。
SCF ER-Hoxb8前駆細胞の多能性 (GMP様性質): SCF ER-Hoxb8前駆細胞は、分化誘導時に添加するサイトカインによって分化先を変化させた。G-CSF添加によりクロマチン凝集が促進され、細胞拡大能が 70-fold から 120-fold へ向上した。IL-5添加では、成熟顆粒球の 1/3 に好酸球顆粒が誘導された。GM-CSF添加では、拡大能が 830-fold に達し、16% のマクロファージが産生された (Fig. 4)。M-CSF添加では、6% の細胞がマクロファージへ分化した。一方、エリスロポエチンは好中球分化に影響を与えなかった。これにより、SCF ER-Hoxb8前駆細胞は顆粒球-マクロファージ前駆細胞 (GMP: Granulocyte-Macrophage Progenitor) と同様の多能性を保持していることが証明された。
炎症応答能の評価: ER-Hoxb8マクロファージの炎症応答を、TLR4アゴニストであるLPS (Lipopolysaccharide) およびTLR2アゴニストである細菌リポタンパク質 (BLP: Bacterial Lipoprotein) を用いて評価した。LPS刺激により、NF-κB, Stat, Jun, Egrファミリーの転写因子および、Tnfsf9, Il12b, Il23, Ccl2, Ccl3, Ccl5, Ccl7, Ifnb, Tnfa, IL6, IL1a, IL1b, LIF などの 50 以上の炎症メディエーター遺伝子が強力に転写活性化された (Supplementary Fig. 4, Supplementary Table 4)。
e13胎児肝前駆細胞の不死化とTraf3欠損の機能再構成: Traf3 (TNF receptor-associated factor 3) -/- マウスのe13胎児肝前駆細胞にER-Hoxb8を導入し、不死化前駆細胞を構築した。この Traf3 -/- マクロファージは、CpG-DNA (TLR9アゴニスト) 刺激に対してインターフェロン (IFN) および IL-10 を産生しなかった。ここにHAタグ付きTraf3をレトロウイルスで導入して再構成したところ、野生型と同等の強力なIFNおよびIL-10の産生能が回復した (Fig. 5c)。これにより、致死的な表現型を持つノックアウトマウスからでも、ER-Hoxb8系を用いて十分な数の機能的食細胞を確保し、遺伝子再構成実験を行うことが可能であることが示された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究で構築したER-Hoxb8システムは、従来のHL60細胞へのTPA処理やM1細胞へのIL6処理、あるいはHoxa9前駆細胞へのMCSF処理によるマクロファージ分化モデルと異なり、極めて均一な形態的・機能的分化を誘導できる。従来のモデルでは、分化誘導後もオンコプロテインの活性が残存するため、不完全な分化プログラムや顕著なアポトーシスを伴う不均一な集団が得られる傾向があった。対照的に、ER-Hoxb8系ではエストロゲンの除去によりオンコプロテインが完全に不活性化されるため、正常な細胞周期脱出と成熟分化が達成される。また、32D前駆細胞やHoxa9前駆細胞のG-CSF誘導分化と比較しても、Ltfなどの二次顆粒遺伝子の発現上昇やMpo/Ela2のダウンレギュレーションがより完全であり、機能的に優れた好中球が得られる。
新規性: 本研究で初めて、単一の条件付きオンコプロテイン (ER-Hoxb8) を用いながら、培養サイトカインの選択のみで、好中球に特異的な分化能を持つ前駆細胞と、マクロファージに特異的な分化能を持つ前駆細胞を、それぞれ高純度 (98-99%以上) かつ定量的に産生できる系を新規に同定した。また、胎生13日目の胎児肝前駆細胞から不死化前駆細胞を樹立し、致死的な遺伝子欠損マウスにおける機能解析を可能にした点も、これまで報告されていない画期的な成果である。
臨床応用: 本システムは、骨髄性白血病におけるHoxオンコプロテインがどのように未分化状態を維持し、MybやMycなどの他のプロトオンコジーンの転写を制御しているかというメカニズムを解明するための強力なツールとなる。また、LfnやFprなどのパターン認識遺伝子の転写制御メカニズムの解析など、食細胞の生物学的な基礎研究を加速させる。さらに、希少な変異を持つマウスや致死的なノックアウトマウスから大量の食細胞を得られるため、炎症性疾患やがんの微小環境における食細胞の役割を検証する translational な研究への応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、本系で得られた細胞が、in vivo の組織環境における複雑な相互作用をどの程度再現できるかという検証が残されている。Limitation として、不死化過程でゲノムの安定性は概ね維持されているが、長期培養によるエピジェネティックな変化が分化能に与える影響を詳細に評価する必要がある。また、好中球以外の骨髄系細胞(好酸球や赤血球系)への分化誘導効率をさらに高めるためのサイトカインカクテルの最適化も今後の方向性である。
方法
前駆細胞の分離と不死化: 好中球前駆細胞の樹立には、BALB/c マウスの骨髄からMacI, B220, Thy1.2に対する抗体を用いてネガティブセレクションを行い、Lin-前駆細胞を回収した。これらをSCF (50 ng/ml), IL-3 (25 ng/ml), IL-6 (25 ng/ml) 含有IMDM培地で48時間前刺激した後、ER-Hoxb8レトロウイルスをスピノキュレーション法 (2,500 g, 2 h, 22°C) により導入した。その後、10 ng/ml SCFおよび 1 M -estradiol を含むOptiMem培地で培養し、非付着細胞を3日ごとに継代することで不死化前駆細胞を濃縮した。 マクロファージ前駆細胞の樹立には、硫酸アンモニウムによる赤血球溶血後、Ficoll-Paqueを用いて単核細胞を分離した。これらにER-Hoxb8レトロウイルスを導入し、10 ng/ml GM-CSFおよび 1 M -estradiol を含むRPMI 1640培地で培養した。G418耐性選択を用いることで、10-14日以内に不死化前駆細胞を樹立した。
分化誘導と解析: 分化は、培地からエストロゲンを除去することで誘導し、6日後に解析を行った。形態解析にはWright-Giemsa染色を用い、表面マーカー解析にはFACS (Fluorescence-Activated Cell Sorting) を用いた。好中球の機能評価にはNBT (Nitroblue Tetrazolium) 還元アッセイを、マクロファージの機能評価にはNSE (Nonspecific Esterase) アッセイを用いた。
遺伝子発現およびシグナル解析: RNA抽出後、Affymetrix 430 2.0 Arrayを用いて全ゲノム発現解析を行い、130種類の骨髄系遺伝子の発現量を定量した。タンパク質発現は、RelB, Jun, RelA, Msr1などの特異的抗体を用いたウェスタンブロッティングにより確認した。Traf3 -/- マウス由来細胞への再構成は、MSCV-Puroベクターを用いてHA-Traf3を導入し、ピューロマイシンで選択した。CpG-DNA刺激後のIFNおよびIL-10産生量は、バイオアッセイおよびELISAを用いて定量した。
統計および細胞株: 解析にはHEK293T 細胞を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイを行い、エストロゲン濃度に対する転写活性を測定した。核型分析にはスペクトラルカリオタイプ分析を用いた。また、各群の比較には Student t-test または one-way ANOVA 等の統計的手法を用い、有意差を判定した。