• 著者: Alexandra Flemming
  • Corresponding author: N/A (Research Highlight by journal staff writer)
  • 雑誌: Nature Reviews Immunology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-05-15
  • Article種別: Research Highlight / Commentary
  • PMID: 32355327

背景

がん患者における好中球の増加、特に高好中球/リンパ球比 (NLR) は、広範な固形癌において予後不良の予測因子として臨床的に確立されている。好中球は、アルギナーゼ、活性酸素種 (ROS)、PD-L1などの免疫抑制因子を介して、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) への応答不良を媒介することが知られている。近年、好中球細胞外トラップ (NET) の形成が癌転移において重要な役割を果たすことが、Cools-Lartigueら (2013 JCI)、Parkら (2016 Cancer Cell)、Albrenguesら (2018 Science) などの研究により2010年代後期に確立された。しかし、NETが腫瘍細胞とT細胞/NK細胞のシナプス形成を物理的に阻害する可能性については、これまで仮説レベルに留まり、その分子機構は未解明であった。

このような背景の中、2020年にTeijeira et al. Immunity 2020が、腫瘍細胞が分泌するCXCR1/CXCR2ケモカイン受容体アゴニストに依存したNET形成が、腫瘍細胞を物理的にシールドする分子機構を詳細に報告した。この研究は、NETが単なる転移促進因子としてだけでなく、免疫回避の直接的な物理的障壁として機能するという新規パラダイムを提示した点で画期的である。本Research Highlightは、このTeijeira et al. Immunity 2020論文の重要性をNature Reviews Immunologyの広範な読者層に普及させることを目的とした解説記事である。特に、NETが免疫細胞の細胞傷害性から腫瘍を保護する「物理的シールド」として機能するという、これまで不足していた知見を補完し、その治療的含意を強調している。

目的

本Research Highlightの著者であるAlexandra Flemmingは、Teijeira et al. Immunity 2020論文の主要な結論、すなわち「腫瘍細胞が分泌するCXCL8 (IL-8) などのケモカインがCXCR1/CXCR2経路を介して好中球のNETosisを誘導し、形成されたNETが腫瘍細胞表面を物理的に覆い、T細胞やNK細胞による細胞傷害性から腫瘍を遮蔽する」というメカニズムを要約することを目的としている。

さらに、本解説記事は、このメカニズムを標的とする3つの治療戦略、すなわちDNase IによるNETs分解、PAD4阻害剤GSK484によるNETosis阻害、およびCXCR1/CXCR2アンタゴニストであるreparixinの翻訳的含意を強調することを目的としている。特に、NETosis阻害が免疫チェックポイント阻害剤との併用療法において相乗効果をもたらす可能性を示し、その臨床的開発の根拠を明確化する解説を提供することを意図している。これにより、NETsを標的とした治療法が、既存の免疫チェックポイント阻害療法のアジュバントとして有望であることを示唆し、新たな治療戦略の方向性を示すことを目的としている。

結果

腫瘍分泌CXCR1/CXCR2アゴニストによるNETosis誘導: Teijeira et al. Immunity 2020は、4T1乳癌細胞がCXCL8 (IL-8)、CXCL1、CXCL2、CXCL5などのケモカインを分泌し、これらが好中球のCXCR1およびCXCR2受容体を活性化することでNETosisを誘導することを示した。Reparixin (CXCR1/2アンタゴニスト)、百日咳毒素 (Gi共役型受容体阻害剤)、およびCXCR1/2に対するブロッキング抗体を用いることで、このNETosis誘導が阻害されることを確認し、ケモカイン受容体の活性化がNETosisの重要な上流トリガーであることを確立した。ヒト好中球を用いたin vitro実験でも、腫瘍細胞が分泌するケモカインがNETosisを強力に誘導することが示された (n=3細胞株)。

物理的シールドによる細胞傷害性遮蔽: 生体イメージング (intravital microscopy) により、NETが腫瘍細胞表面を物理的に包み込む様子が可視化された。このNETメッシュがCD8陽性T細胞およびNK細胞の腫瘍細胞への物理的アクセスを阻害することが示された。大腸癌スフェロイドを用いた殺傷アッセイでは、NETの存在下でCD8陽性T細胞媒介性の細胞傷害性が約70%減少することが示された。DNase Iの添加によりこの細胞傷害性が完全に回復することから、NETが機能的な物理的シールドとして作用することがメカニズム的に検証された (Fig 1A)。

PAD4依存性のNETosisメカニズム: PAD4阻害剤GSK484を用いることでNET形成が化学的に阻害され、citrullinated histone H3 (cit-H3) 染色によりPAD4依存性が確認された。PAD4欠損マウスではNET形成が消失し、PAD4がNETosisにおける薬理学的に標的可能な主要酵素であることが確認された (n=12 mice)。GSK484は1 μMの濃度でNETosisを効果的に抑制した。

DNase Iによる腫瘍転移抑制: 全身性のDNase I (10 mg/kg、静脈内投与) 投与により、4T1乳癌肺転移病変数が60-70%減少することが示された。これは、NETが転移に因果的に関与していることを薬理学的に証明するものであり、DNase I (ドルナーゼアルファ、PulmozymeとしてFDA承認済み) の既存薬再利用 (repurposing) の可能性を示唆する (Fig 1B)。

GSK484と免疫チェックポイント阻害剤の相乗効果: PAD4阻害剤GSK484と抗PD1抗体および抗CTLA4抗体によるデュアルチェックポイント阻害剤の併用療法が、確立された4T1腫瘍モデルにおいて相乗的な腫瘍縮小効果を示すことが示された。この併用効果は、各単剤療法と比較して有意に強力であり (p<0.01)、CD8陽性T細胞に依存的であった (CD8枯渇抗体投与により効果が消失)。この結果は、NETosis阻害が免疫チェックポイント阻害療法への応答を増強する併用戦略の概念実証を提供するものである (Fig 1C)。

CXCR1/2アンタゴニストReparixinの有効性: Reparixin (50 mg/kg) の投与により、4T1腫瘍内のNETs量が減少し、肺転移が抑制されることが示された。CXCR1/2アンタゴニストは、乳癌の第II相臨床試験 (fRida, FRIDA trial, Dompe) で評価中であり、その臨床応用への迅速な移行が期待される。

考察/結論

本Research Highlightは、NETがT細胞およびNK細胞の細胞傷害性から腫瘍細胞を物理的に保護する新規メカニズムの治療的含意をNature Reviews Immunologyの読者に普及させる上で極めて重要な解説である。Teijeira et al. Immunity 2020原著論文の、4T1乳癌、LLC (Lewis lung carcinoma)、ヒト異種移植モデル、およびスフェロイドを用いた多角的な検証と、CXCR1/2-PAD4-NET-CTL阻害という直線的な経路の解明の重要性を簡潔に伝達している。本研究は、NETosis阻害(DNase I、PAD4阻害剤GSK484)が免疫チェックポイント阻害療法のアジュバントとして臨床開発される明確な経路を示唆する。

先行研究との違い: これまでの研究では、NETが主に癌転移を促進する役割や、免疫抑制環境を形成する役割が強調されてきた。しかし、本研究は、NETがT細胞やNK細胞の物理的なアクセスを直接的に阻害する「物理的シールド」として機能するという、これまでと異なり、より直接的な免疫回避メカニズムを初めて示した点で新規性が高い。

新規性: 本研究で初めて、腫瘍細胞が分泌するケモカインが好中球のNETosisを誘導し、そのNETが腫瘍細胞を物理的に包み込むことで、免疫細胞による細胞傷害性から保護するという新規メカニズムを同定した。特に、このプロセスがCXCR1/CXCR2経路とPAD4に依存していることを明確に示し、これらの分子が治療標的として有望であることを明らかにした。

臨床応用: 本知見は、NETosis阻害剤が免疫チェックポイント阻害療法との併用療法において、その効果を増強するアジュバントとして臨床応用される可能性を強く示唆する。具体的には、PAD4阻害剤(GSK484、BMS-P5、JBI-589)の臨床開発とICIとの併用第II相試験、DNase I(ドルナーゼアルファ)の固形腫瘍への静脈内再利用試験、CXCR1/2アンタゴニスト(reparixin、AZD5069、SX-682)のICIやPAD4阻害剤とのトリプル併用療法の検討などが挙げられる。これらの戦略は、免疫チェックポイント阻害剤に抵抗性を示す患者に対する新たな治療選択肢を提供する臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、全身性のPAD4阻害が自己免疫疾患のような副作用を引き起こすリスク(関節リウマチ治療薬としての可能性とのトレードオフ)の評価が残されている。また、DNase Iの全身投与における最適な用量設定と薬物動態の解明、NETsがCD8/NK細胞のシールドメカニズム以外に持つ免疫抑制メカニズム(アルギナーゼ、PD-L1など)との相加効果の解明が不十分である。さらに、既存のICI抵抗性患者の腫瘍におけるNETs量の事後解析を行い、NETs量とICI応答との相関を検討する必要がある。これらの課題を克服することで、NETsを標的とした治療法の臨床的有用性がさらに確立されると考えられる。

方法

本稿はResearch Highlight/Commentaryであるため、著者自身による実験的な「方法」は該当しない。しかし、本稿が解説するTeijeira et al. Immunity 2020原著論文では、以下の多角的なアプローチが用いられている。

  1. 動物モデル: 4T1乳癌転移モデル(主要な焦点)、およびLewis肺癌 (LLC) 細胞を用いた生体イメージング(intravital 2 photon microscopy)により、NETsの形成と腫瘍細胞への物理的結合を可視化した。また、ヒト腫瘍細胞株の異種移植モデルにヒト好中球を共移植し、ヒトNETsの形成を評価した。
  2. in vitroモデル: ヒト大腸癌細胞株から作製したスフェロイドと健常ドナー由来の同種好中球を用いた共培養系を構築し、NETs存在下での腫瘍細胞に対する細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) およびNK細胞の殺傷能を評価した。この系では、NETsの存在がCTL媒介性細胞傷害性を約70%減少させることを示した。
  3. 薬理学的介入:
    • PAD4阻害剤: GSK484 (1 μM) を用いてNETosisを化学的に阻害し、PAD4依存性を検証した。PAD4はNETosisの主要な酵素であり、その阻害がNETs形成を抑制することを示した。
    • DNase I: NETsのDNA骨格を分解するDNase I (10 mg/kg) を全身投与し、NETs分解が腫瘍転移に与える影響を評価した。
    • CXCR1/2アンタゴニスト: Reparixin (50 mg/kg)、百日咳毒素 (Gi共役型受容体阻害剤)、およびCXCR1/2に対するブロッキング抗体を用いて、ケモカイン受容体経路を介したNETosis誘導を阻害した。
  4. 免疫チェックポイント阻害剤との併用療法: 抗PD1抗体および抗CTLA4抗体を用いたデュアルチェックポイント阻害療法とGSK484の併用効果を、確立された4T1腫瘍モデルで評価した。この併用療法がCTL依存的に相乗的な腫瘍抑制効果を示すことを実証した。
  5. 分子生物学的解析: citrullinated histone H3 (cit-H3) 染色によりPAD4依存性のNET形成を評価し、PAD4欠損マウスを用いてNET形成の消失を確認した。 これらの多様な実験手法により、腫瘍細胞によるNETosis誘導、NETsの物理的シールド機能、およびその治療標的としての可能性が包括的に解明された。