• 著者: Álvaro Teijeira, Saray Garasa, María Gato, Carlos Alfaro, Itziar Migueliz, Pedro Berraondo, Jose L. Perez-Gracia, Ignacio Melero
  • Corresponding author: Álvaro Teijeira (CIMA, Universidad de Navarra, Pamplona); Ignacio Melero (CIMA, Universidad de Navarra, Pamplona)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-03-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32289253

背景

好中球は固形腫瘍において最も豊富な浸潤免疫細胞の一つであり、その存在は多くの腫瘍タイプで予後不良と相関することが報告されている Gentles et al. NatMed 2015。特に、顆粒球性骨髄由来抑制細胞 (GR-MDSC) も腫瘍環境で拡大し、T細胞抑制機能を有することが広く認識されている Bronte et al. NatCommun 2016。腫瘍微小環境は、CXCL1、CXCL2、IL-8 (CXCL8) などのELR+CXCLケモカインを豊富に産生し、これらはCXCR1/CXCR2を介して好中球やGR-MDSCを腫瘍に動員することが知られている。これらのケモカイン受容体は好中球およびGR-MDSCの両方に発現しており、その活性化は腫瘍への骨髄系細胞浸潤を促進し、T細胞応答を抑制することが示唆されている。

一方、好中球細胞外トラップ (NETs) は、好中球が核DNAを細胞外に放出し、病原体防御に機能する現象として初めて報告された Brinkmann et al. Science 2004。NETosisと呼ばれるこの細胞死プログラムは、病原体捕捉に重要である一方で、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、血栓症などの様々な病態生理学的役割も担うことが明らかにされている Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018。近年、NETsは癌の文脈においても注目されており、特に転移促進や休眠癌細胞の覚醒への関与が報告されている Park et al. SciTranslMed 2016 Albrengues et al. Science 2018。例えば、乳癌細胞の静脈内注射は肺におけるNETs形成を誘導し、DNase I処理による細胞外DNAの消化は肺転移の出現を減少させることが示されている Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013

しかし、腫瘍内でのNETs形成の具体的な機序、特に腫瘍由来因子による誘導経路、およびNETsが免疫細胞障害性に対してどのように影響を及ぼすかについては、依然として未解明な点が多かった。腫瘍浸潤好中球の免疫抑制機能はサイトカイン産生(TGFβ、ROS、ARG1)を介するメカニズムで説明されてきたが、NETsが直接的な物理的バリアとして機能する可能性については、知識が不足している状況であった。特に、腫瘍由来のCXCR1/CXCR2リガンドがNETosisを誘導し、それが免疫細胞障害性を直接的に阻害するメカニズムについては、詳細な検討が不足していた。

目的

本研究の目的は、腫瘍が産生するCXCR1およびCXCR2リガンドが好中球およびGR-MDSC (顆粒球性骨髄由来抑制細胞) からのNETosis (好中球細胞外トラップ放出) 誘導の主要なドライバーであることを明らかにすることである。さらに、腫瘍微小環境におけるNETsが、CD8+ T細胞(CTL)およびNK細胞による腫瘍細胞の殺傷機構をどのように阻害するのか、その詳細なメカニズムを解明することを目的とした。具体的には、NETsが免疫細胞と標的腫瘍細胞間の物理的接触を妨げるという新規の免疫回避戦略を検証し、NETosis阻害が免疫チェックポイント阻害剤と相乗効果を発揮し、抗腫瘍免疫応答を増強する可能性を探ることを目指した。本研究は、NETsが単なる転移促進因子としてだけでなく、局所的な免疫回避機構としても機能するという、これまで不足していた知見を提供することを目指す。

結果

CXCR1/CXCR2がNETosis誘導の主要シグナル: 健常ドナー好中球 (n=5 donors) を用いたin vitro実験において、GPCRを介して作用するほとんどの好中球走化性因子がNETosis (好中球細胞外トラップ放出) を誘導したが、特にCXCR1/CXCR2ケモカイン(CXCL1、CXCL2、CXCL5、CXCL6、CXCL8)が最も強力な誘導因子であることが判明した (Fig 1A)。Giサブユニット阻害薬Ptx (ペルタシストキシン) またはCXCR1/CXCR2特異的阻害薬レパリキシンによって、これらのケモカインによるNETosisは完全に抑制された (Fig 1A, B)。例えば、CXCL8刺激ではNETs面積が約60%に達したが、レパリキシン処理により約10%に減少した (p<0.001)。HGF (肝細胞増殖因子) によるNETosisも、内因性IL-8産生を介してCXCR1/CXCR2依存的であることが示された。重症腫瘍患者由来のGR-MDSC (顆粒球性骨髄由来抑制細胞) (n=6 patients) においても同様の結果が得られ、CXCR1/CXCR2ケモカインがNETosisを誘導し、Ptxまたはレパリキシンで抑制された (Fig 1C, D)。さらに、腫瘍細胞株(メラノーマ5株、HT29結腸がん)の培養上清は、好中球およびGR-MDSCのNETosisを誘導し、その誘導はレパリキシンまたはCXCR1中和抗体で完全に阻害された (Fig 2A, B)。HT29腫瘍球と好中球 (n=3 donors) の共培養タイムラプス観察では、レパリキシン存在下ではNETosisがほとんど観察されなかった (NETs面積は対照の約5%) (Fig 2D, E)。

腫瘍内NETsの形成確認と腫瘍依存性: 4T1皮下腫瘍 (n=10 mice) 内でシトルリン化H3 (cit H3) 陽性のNET構造が確認され、Ly6G+浸潤領域と共局在していた (Fig S2A)。4T1担癌マウスをPtxまたはレパリキシンで20時間治療すると、腫瘍内NET量は有意に減少したが (p=0.002 for Ptx, p=0.0008 for reparixin)、GR-MDSC浸潤数は変化しなかった (Fig 3A-C)。LLC (Lewis lung carcinoma) 腫瘍モデルでも同様の結果が確認された (Fig S2B)。Rag2-/-Il2rg-/-マウスにHT29異種移植腫瘍を形成させ、ヒト好中球を腫瘍組織に注入するとNETを形成したが、レパリキシンまたはPtxの同時注入によりNETは消失した (Fig 3E, F)。免疫蛍光染色により、CXCL1は主に腫瘍細胞および内皮細胞から、CXCL2は主に血管から産生されることが確認された (Fig S2D-I)。

NETsによるCTL・NK細胞の細胞障害性阻害: IL-8またはPMA (ホルボールミリスタートアセテート) で誘導したNETsによって被覆された腫瘍球(LS174TまたはHT29、n=3 replicates)に対してNK細胞またはCD8+ T細胞(EpCAM-CD3 BiTE併用)を共培養すると、DNase I処理でNETsを除去した対照と比較して腫瘍細胞生存数が有意に増加した (Fig 4B)。競合実験では、NK細胞またはEpCAM-CD3 BiTE存在下のCD8+ T細胞存在下で、生存腫瘍細胞の80%以上がNET被覆細胞であった (Fig 4D, E)。タイムラプス顕微鏡観察により、NETsの存在下ではCD8+ T細胞とNK細胞が腫瘍細胞との接触を有意に減少させることが可視化された (Fig 4F, G)。NETsはトランスウェル上でCD8+ T細胞のCCL5に対する遊走を著明に阻害し、DNase I除去で遊走が回復した (Fig 4H)。また、リンパ球の遊走速度および運動係数もNET存在下で著明に低下した (Fig 4I-K)。NETs単独では腫瘍細胞の生存率に変化は認められなかった (Fig S3E-G)。

生体内視鏡でのNET-免疫細胞接触阻害: LLC皮下腫瘍マウスの肝臓におけるIVM (生体内視鏡) 観察により、NE酵素活性プローブで同定されたNET豊富領域が腫瘍細胞を囲んでいることが示された (Fig 6A, B)。Ncr1 GFPマウス (n=5 mice) のGFP+ NK細胞は、NET被覆腫瘍細胞との接触を大幅に減少させることが確認された (Fig 6C, D)。NETsに接触した腫瘍細胞の割合は、非接触細胞と比較して有意に低かった (p<0.001)。同様に、CD2 RFPマウス (n=3 mice) の赤色T細胞もNET周囲での腫瘍細胞接触が低下した (Fig 6F, G)。耳皮膚内の4T1腫瘍において、SYTOX greenで標識したNETsを注入すると、OT-I CD8+ T細胞(B16-OVA腫瘍に対し)とNET被覆腫瘍細胞の接触が阻害されることが確認された (Fig 7C, D)。内因性T細胞においても、NETs豊富領域では腫瘍細胞との接触が最小限であることが示された (Fig 7E)。

NETosis阻害とチェックポイント阻害の相乗効果: 4T1腫瘍肺転移モデルにおいて、DNase I注入またはPAD4 (protein arginine deiminase 4) 阻害薬GSK484によるNETosis阻害は、野生型BALB/cマウス (n=5 mice) およびT細胞欠損Rag1-/-マウスにおいて肺mCherry+転移フォーカス数を有意に減少させた (p<0.005) (Fig 5A, B)。NK細胞枯渇(抗asialo GM1抗体)ではDNase Iによる転移減少効果が消失し、NK細胞がNETs非存在下での転移制御に重要であることが示された (Fig 5C)。Rag2-/-Il2rg-/-マウス(T・NK細胞両欠損)ではDNase I効果が消失した。4T1皮下腫瘍モデルでPAD4阻害単独は腫瘍増殖を軽度遅延させたが、抗PD-1+抗CTLA-4との併用で明確な相乗効果が得られた (Fig 5D, E)。この腫瘍増殖遅延効果はCD8+ T細胞除去によって消失した (Fig 5F)。

考察/結論

本研究は、腫瘍が産生するELR+CXCLケモカイン、特にCXCR1/CXCR2アゴニストが、腫瘍内NETosis (好中球細胞外トラップ放出) の主要なドライバーであることを本研究で初めて示した。この知見は、これまで転移促進効果として知られていたNETsが、腫瘍局所での免疫監視阻害にも直接寄与するという新規の免疫回避機構を提示するものであり、これまでの報告とは異なるメカニズムを明らかにした。具体的には、NETsが腫瘍細胞を物理的に被覆し、CTL (細胞傷害性Tリンパ球) やNK細胞との接触を遮断することで、免疫細胞障害性を阻害することをin vitroおよびin vivoの両方で実証した。

これまでの研究では、腫瘍浸潤好中球の免疫抑制機能は主にサイトカイン産生(TGFβ、ROS、ARG1)を介したメカニズムで説明されてきたが、本研究はNETsという物理的バリアが免疫細胞の接触を妨げるという、これまで報告されていない新概念を提唱している。この新規メカニズムは、腫瘍が免疫系から逃れるための巧妙な戦略の一つであり、腫瘍微小環境におけるNETsの役割を再評価する必要があることを示唆する。

臨床的意義として、PAD4 (protein arginine deiminase 4) 阻害によるNETosis阻害とPD-1/CTLA-4チェックポイント阻害の組み合わせが、免疫療法感受性の低い腫瘍(4T1など)において明確な相乗効果を示したことは極めて重要である。これは、NETsが免疫療法抵抗性の一因となっている可能性を示唆し、腫瘍浸潤好中球が豊富な腫瘍型(膵臓がん、乳がんなど)において、NETs阻害が免疫療法の有望な増感戦略となりうることを示唆する。CXCR1/CXCR2拮抗薬やPAD4阻害薬などの既存薬または開発中の薬剤を免疫チェックポイント阻害剤と併用することで、臨床応用への道が開かれる可能性がある。

残された課題としては、ヒト腫瘍内での同様の機序の確認、NETsによる物理的バリア効果とサイトカイン性免疫抑制の相対的寄与の定量化、およびPAD4阻害の毒性・副作用プロファイルのさらなる検討が必要である。また、NETsが他の免疫細胞(例えば樹状細胞やマクロファージ)の機能に与える影響についても、今後の研究で明らかにする必要がある。本研究は、腫瘍微小環境におけるNETsの役割に関する理解を深め、新たな癌免疫療法の開発に向けた重要な基盤を提供するものである。

方法

健常ドナー好中球および重症腫瘍患者末梢血由来GR-MDSC (顆粒球性骨髄由来抑制細胞) を用いてin vitro NETosis (好中球細胞外トラップ放出) 誘導実験を実施した。具体的には、LPS (リポ多糖)、C5a (補体成分C5a)、fMLP (N-ホルミルメチオニル-ロイシル-フェニルアラニン)、LTB4 (ロイコトリエンB4)、CXCL1、CXCL2、CXCL5、CXCL6、CXCL8、HGF (肝細胞増殖因子) などの各種ケモカイン、補体、増殖因子による刺激を行い、SYTOX green染色と共焦点顕微鏡によるNETs面積の定量を行った。NETosis誘導のシグナル経路を特定するため、Giサブユニット阻害薬ペルタシストキシン (Ptx) およびCXCR1/CXCR2特異的アロステリック阻害薬レパリキシン (reparixin) を用いた阻害実験を実施した。HGFによるNETosis誘導におけるIL-8産生の関与はELISAで評価した。

腫瘍細胞株(ヒトメラノーマ5株、HT29結腸がん)の培養上清が好中球およびGR-MDSCのNETosisを誘導するかを検証し、その誘導がレパリキシンまたはCXCR1中和抗体で阻害されるかを確認した。HT29腫瘍球(organoid)モデルと健常ドナー好中球の共培養において、タイムラプス共焦点顕微鏡を用いてSYTOX greenによるNETs放出をリアルタイムで可視化した。

in vivoでのNETs形成を評価するため、4T1乳癌およびLLC (Lewis lung carcinoma) 皮下腫瘍マウスモデルを用いた。腫瘍組織内のNETsはシトルリン化H3 (cit H3) およびLy6Gの免疫蛍光染色により同定した。Ptxまたはレパリキシンによる治療が腫瘍内NETs量およびGR-MDSC浸潤に与える影響を評価した。ヒトHT29異種移植腫瘍モデルでは、CMRAおよびHoechstで標識したヒト好中球を腫瘍内に注入し、SYTOX greenの全身投与後に多光子顕微鏡を用いてNETs形成を可視化した。CXCL1およびCXCL2の主要産生細胞は免疫蛍光染色で同定した。

NETsによる免疫細胞障害性阻害を検証するため、EpCAM+ HT29およびLS174T腫瘍細胞の3Dスフェロイド培養を用いた。IL-15活性化NK細胞またはEpCAM-CD3二重特異性抗体でリダイレクトしたCD8+ T細胞と、NETsで被覆された腫瘍球またはDNase I処理でNETsを除去した腫瘍球を共培養し、生存腫瘍細胞数をフローサイトメトリーで定量した。競合実験では、NET被覆腫瘍細胞とNET非被覆腫瘍細胞を同一ウェルで共培養し、免疫細胞による選択的殺傷を評価した。タイムラプス共焦点顕微鏡を用いて、NETs存在下でのCD8+ T細胞およびNK細胞と腫瘍細胞の接触頻度を定量した。トランスウェルアッセイにより、NETsがCD8+ T細胞の遊走を阻害するかを評価し、IMARISソフトウェアを用いてリンパ球の遊走速度および運動係数を解析した。

in vivoでのNET-免疫細胞接触阻害を可視化するため、生体内視鏡 (intravital microscopy; IVM) を用いた。LLC皮下腫瘍マウスの肝臓において、NE酵素活性プローブによりNET豊富領域を同定し、NcrGFPマウスのGFP+ NK細胞およびCD2RFPマウスの赤色T細胞がNET被覆腫瘍細胞との接触を妨げられるかをIVMで観察した。耳皮膚内の4T1腫瘍モデルにおいても、SYTOX greenで標識したNETsを直接注入し、OT-I CD8+ T細胞と腫瘍細胞の接触阻害を評価した。

NETosis阻害と免疫チェックポイント阻害の相乗効果を評価するため、4T1腫瘍肺転移モデルおよび皮下腫瘍モデルを用いた。肺転移モデルでは、DNase I注入またはPAD4 (protein arginine deiminase 4) 阻害薬GSK484によるNETosis阻害が肺mCherry+転移フォーカス数に与える影響を評価した。NK細胞枯渇(抗asialo GM1抗体)およびT・NK細胞両欠損マウス(Rag2-/-Il2rg-/-)を用いて、NETs非存在下での転移制御におけるNK細胞の役割を検討した。4T1皮下腫瘍モデルでは、PAD4阻害薬GSK484単独および抗PD-1+抗CTLA-4チェックポイント阻害剤との併用効果を評価し、CD8+ T細胞除去がその効果に与える影響を検証した。統計解析にはMann-Whitney U検定、Student t検定、ANOVA検定を用いた。