- 著者: Amy C. Fan, Rukman R. Thota, Nina Serwas, Vivasvan S. Vykunta, Matthew F. Krummel
- Corresponding author: Amy C. Fan (Department of Pathology, University of California, San Francisco); Matthew F. Krummel (Department of Pathology, University of California, San Francisco)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-03-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 42056510
背景
免疫系が自己寛容を維持し、自己免疫疾患の発症を防ぐためには、健康な自己組織の抗原を継続的にサンプリングし、T細胞へと提示するプロセスが不可欠である。これまでの免疫学における一般的な理解では、アポトーシスに陥った死細胞を貪食する経路であるエフェロサイトーシス (efferocytosis) が、自己抗原を抗原提示細胞 (APC) へと供給する主要なソースであると考えられてきた (Blum et al., 2013)。しかし、細胞のターンオーバーが極めて遅い組織においても、組織常在性のマクロファージや樹状細胞が常に自己タンパク質を細胞内に保持し、抗原提示を行っているという事実があり、死細胞の貪食だけでは説明がつかない自己抗原獲得経路の存在が示唆されていた (Greene et al., 2021)。
これまでの先行研究 (Harshyne et al., 2003; Pham et al., 2011; Ruhland et al., 2020) において、樹状細胞が生きた細胞から膜結合ペプチド-MHC複合体を直接引きちぎって自らの表面に提示する「cross-dressing」としてのトロゴサイトーシス (trogocytosis) は知られていた。しかし、マクロファージが生きた細胞の細胞質成分を含むサブミクロンサイズの小胞を直接獲得し、それを独自の抗原処理経路に流すという非破壊的なサンプリング機構については、その詳細な分子メカニズムや生理的意義が十分に検証されておらず、多くの「課題が残されている」。特に、生細胞由来の物質がどのようにしてリソソームによる分解経路を回避し、抗原提示に利用されるのかというトラフィッキング経路の全容は「未解明」であり、従来の顕微鏡技術の解像度不足もあって、この重要な細胞間相互作用の理解には大きな「ギャップ」が存在していた。このように、非死細胞依存的な抗原獲得を支える分子トラフィッキングに関する知見が決定的に「不足」しており、この「知識のギャップ」を埋めるための詳細なアプローチが求められていた。
目的
本研究の目的は、マクロファージが生きた細胞から非破壊的かつ接触依存的にサブミクロンサイズの小胞をサンプリングする新規メカニズムを、生体内 (in vivo) および in vitro の系を用いて包括的に解明することである。具体的には、このサンプリングプロセスがアポトーシス (カスパーゼ活性化) に依存しないこと、および細胞接触を必要とすることを実証する。さらに、超解像ライブイメージング技術を用いて、ターゲット細胞からマクロファージへ小胞が切離される動的過程を可視化し、関与する受容体や下流のシグナル伝達経路を特定する。最終的に、新規開発する多重オルガネラフローサイトメトリー解析により、獲得された小胞の細胞内運命 (リソソーム融合の回避) を明らかにし、この経路がCD8 T細胞へのクロスプレゼンテーションを選択的に駆動する分子基盤として、SNX27 (sorting nexin-27) レトロマー複合体が果たす役割を解明することを目指す。
結果
自己組織抗原がマクロファージにサブミクロン小胞として恒常的に蓄積する: Scgb1a1creERT2;ZsGreen マウスの肺において、肺胞マクロファージを含む骨髄系細胞が ZsGreen 陽性のサブミクロンサイズの点状構造を保持していることが確認されたが、リンパ球では検出されなかった (Fig. 1a,c)。Actbcre;ZsGreen マウス、Scgb1a1creERT2;ZsGreen マウス、および対照群 (B6 WT) の蛍光強度比較、ならびに骨髄移植実験の所見から、この ZsGreen シグナルは細胞内発現ではなく、外因性タンパク質の取り込みに由来することが示された (Extended Data Fig. 1b,c)。B16-ZsGreen 皮下腫瘍モデルでは、tdTomato 発現宿主の CD45 陽性免疫細胞が腫瘍由来の ZsGreen 陽性小胞を保持し、特に腫瘍関連骨髄系細胞の大部分が ZsGreen を取り込んでいた (Fig. 1e,f)。さらに、自己内因性抗原である VEGFR3 (vascular endothelial growth factor receptor 3) および PLVAP (plasmalemma vesicle-associated protein) も肺マクロファージで検出されたが、脾臓マクロファージでは検出されず、組織特異的な局所サンプリングが示唆された (Fig. 1h,i)。ZsGreen 陽性マクロファージは、ZsGreen 陰性マクロファージと比較して VEGFR3 および PLVAP の蛍光強度が有意に高かった (Fig. 1h)。
サンプリングは接触依存性かつカスパーゼ非依存性である: BMDM と B16-ZsGreen 細胞の共培養 (n=3 replicates) において、ZsGreen 陽性 BMDM が出現し、その蛍光強度は無傷のドナー細胞の数百分の 1 であり、部分的取り込みを示唆した (Fig. 2a)。Transwell 分離またはエクソソーム含有上清単独培養では ZsGreen 取り込みが大幅に減少し、細胞間接触が必須であることが示された (Fig. 2d,e; p=0.0052 for supernatant vs direct co-culture, p=0.0018 for Transwell vs direct co-culture)。エクソソーム/マイクロ粒子放出阻害剤である DMA (5-(N,N-dimethyl)amiloride; 10 µM) やエンドサイトーシス阻害剤である Dynole (5 µM) は取り込みを減弱させなかったことから、フリー粒子の取り込みではなく細胞-細胞接触が必須であることが確認された (Fig. 2f,g)。カスパーゼ阻害剤 zVAD (20 µM) 処理では取り込みが不変であり (Fig. 2h; p=0.0378)、B16-GC3AI レポーターを用いた実験では、取り込み細胞の 99% 以上が GFP 陰性 (非アポトーシス性) であったことから、アポトーシス小体の貪食ではなく生細胞からのサンプリングであることが確定した (Fig. 2j)。
Trogocytosis様ストレッチングと小胞切離をライブイメージングで捕捉: NSPARC および格子光シート顕微鏡を用いたライブイメージングにより、ターゲット細胞の ZsGreen 陽性突起が BMDM 内に伸び、30 秒から 8 秒以内の単一フレームで小胞の切離が起こる動的過程が記録された (Fig. 3a,b,d)。生成された小胞の体積は約 0.02 µm³ から 0.05 µm³ (直径数百 nm) であり、取り込み後は細胞質内を移動した (Fig. 3c)。抗体オプソニン化 (抗 CD98 抗体、抗 CD29 抗体) は FcγR3 (CD16) 依存的に取り込みを増大させ、Fcer1g KO BMDM ではこの増大効果が消失した (Fig. 3e,f; p=0.0056 for WT vs Fcer1g KO with anti-CD98)。Itgam (CD11b) KO は基礎的な取り込みを有意に減少させたが (Fig. 3g; p=0.0412)、完全には消失しなかったことから、複数の受容体の冗長な関与が示唆された。NicheNet 予測された 8 候補のうち、Cd93 KO のみで取り込みのわずかな減少が見られた (Extended Data Fig. 5f; p=0.0415)。下流シグナル阻害実験では、SRC 阻害剤 PP1 (10 µM)、PI3K 阻害剤 GDC-0941 (10 µM)、ARP2/3 阻害剤 CK-666 (200 µM) の処理が ZsGreen 取り込みを有意に減弱させた (Extended Data Fig. 6c,e)。
ライブサンプリングされた抗原は分解性後期エンドソーム/リソソームを回避する独立したトラフィッキング経路を辿る: 10 色ベシクルフローサイトメトリー (n=4 biological replicates) と共焦点顕微鏡による共局在解析の両方で、ライブサンプリング由来の ZsGreen 陽性小胞は、貪食由来の小胞と比較して LAMP1 陽性リソソームや Rab7 陽性後期エンドソームとの重なりが有意に低かった (Fig. 4j,k; p=0.0016 for B16 phagocytosis vs trogocytosis-like)。約 30% の小胞が、一般的なエンドサイトーシスマーカーを伴わない「代替コンパートメント」に局在した (Fig. 4l; p=0.0053 for B16 phagocytosis vs trogocytosis-like)。tSNE 解析でも、ライブサンプリング由来のベシクル集団は貪食由来のベシクルとは明らかに異なる分布を示した (Fig. 4m)。これは、ライブサンプリングされた物質が分解経路から隔離され、独自の経路を辿ることを示唆する。
ライブサンプリングはCD8 T細胞のクロスプレゼンテーションを選択的に駆動する: トロゴサイトーシス様式で抗原を獲得した BMDM (Trogo-BMDM) と貪食で抗原を獲得した BMDM (Phago-BMDM) を OT-I (CD8 陽性) および OT-II (CD4 陽性) T細胞と共培養した結果、OT-II T細胞の増殖は両者で弱く区別不能であった (Fig. 4o)。対照的に、Trogo-BMDM のみが OT-I T細胞を CD69 発現上昇と顕著な増殖で活性化した (Fig. 4p; p=0.000002615)。BALB/c BMDM 由来の ZsGreen 陽性細胞では H2Kb が検出されず、クロスドレッシングではなく内在性抗原処理/MHC-I 提示が主要な機構であることが確認された (Extended Data Fig. 9e,f; p=0.0368 for B6 vs BALB/c)。
SNX27レトロマー経路がCD8クロスプレゼンテーションを支える: Snx27 KO (n=5 biological replicates) はライブサンプリング自体の効率は妨げなかったが (Extended Data Fig. 10a; p=0.0028 for B16)、ZsGreen 陽性小胞のリソソーム (LAMP1 陽性画分) への再分配を有意に増加させ (Fig. 5d,e; p=0.0011)、代替コンパートメントの比率を減少させた (Fig. 5e; p=0.0032)。その結果、OT-I T細胞の増殖が有意に低下した (Fig. 5f; p=0.0359、対照群の増殖率約 53.9% に対し Snx27 KO 群では約 39.1% に低下)。SL8 ペプチドパルス実験では Snx27 KO BMDM で T細胞応答に差が出なかったことから、この効果は抗原処理経路に限定されることが示された (Extended Data Fig. 10d)。
考察/結論
本研究は、マクロファージが生きた細胞からカスパーゼ非依存的・接触依存的にサブミクロンサイズの小胞を「もぎ取る」という、これまでに詳細が未解明であった新規の自己抗原サンプリング機構を明らかにした。このプロセスは、リソソーム融合を回避する独自の SNX27-レトロマー依存性トラフィッキング経路を介して小胞を保持し、結果として CD8 T細胞へのクロスプレゼンテーションを選択的に駆動することが示された。
先行研究との違い: これまでの樹状細胞におけるトロゴサイトーシスに関する知見は、主に予め形成されたペプチド-MHC複合体の直接転送 (cross-dressing) が主機構であると報告されていたことと異なり、本研究は、細胞質タンパク質自体が APC 内にデポとして保持され、その後処理される経路を、ベシクルサイトメトリーという新規技術を用いて初めて証明した点が極めて対照的である。このデポは、自己抗原のより安定した貯蔵庫を提供し、数日以上にわたって多くのサンプリングされた細胞の自己同一性を統合し提示する手段となり得る。
新規性: 本研究で初めて、マクロファージがライブセルからサブミクロン小胞をトロゴサイトーシス様式で獲得し、それがリソソーム分解を回避する独自の SNX27 依存性経路で処理されることを新規に同定した。この経路が特に CD8 T細胞へのクロスプレゼンテーションを促進するという発見は、自己抗原提示における全く新しい分子基盤を提示するものである。SNX27 の欠損がこの経路をリソソーム分解へと偏らせ、CD8 T細胞の活性化を減少させるという知見は、この経路の特異性を裏付けている。
臨床応用: 本知見は、Treg の維持やトーニックな CD8 シグナルの供給における自己抗原デポとして機能し、健康な組織からの恒常的な「自己定義」の蓄積機構を提供する点で、生理学的に重要な意義を持つ。臨床的・病理的には、腫瘍細胞がこの経路を利用して生きた癌抗原を APC に流すことで、クロスプレゼンテーションを介する免疫監視を回避または利用する可能性が示唆される。これにより、自己寛容の破綻や腫瘍免疫制御における新たな治療標的 (SNX27 経路、CD11b/FcγR を介したストレッチングの制御など) を提示し、がん免疫療法の臨床応用に直結する可能性を秘めている。
残された課題: 今後の検討課題として、生理的な T細胞レパートリー維持におけるこの経路の役割のさらなる検証、組織特異的サンプリングの規模の定量的評価、腫瘍環境におけるこの経路の能動的なハイジャック機構の解明、およびクロスドレッシングと細胞質処理の比率の臨床的関連性などが挙げられる。また、本研究は NSPARC、格子光シート、10色オルガネラフローサイトメトリーという最新の可視化技術の組み合わせが、従来の顕微鏡では見落とされていた APC 機能を解像する好例であり、今後の研究における技術的応用も期待される。
方法
マウスモデル: C57BL/6J マウスおよび BALB/c マウスを背景とするトランスジェニック系統を用いた。具体的には、Scgb1a1creERT2;ZsGreen マウス (気道上皮特異的 ZsGreen 発現)、K14cre;ZsGreen マウス (皮膚特異的 ZsGreen 発現)、Actbcre;ZsGreen マウス (全身性 ZsGreen 発現)、Vil1cre;ZsGreen マウス (腸特異的 ZsGreen 発現)、mTmG (Ai6) マウス、Fcer1g KO (Fc受容体γ鎖欠損) マウスを用いた。ZsGreen 発現組織から CD45 陽性骨髄系細胞をフローサイトメトリーおよび共焦点顕微鏡で解析した。B16-F10-ZsGreen メラノーマ細胞株の皮下移植による腫瘍モデル、および骨髄移植実験も実施した。
In vitro 共培養系: 骨髄由来マクロファージ (BMDM) と B16-F10-ZsGreen 細胞または初代マウス胎児線維芽細胞 (MEF-ZsGreen) を共培養した。ターゲット細胞の生存率は約 99% を維持した。カスパーゼ活性レポーターである B16-GC3AI 細胞 (mCherry 常時発現かつカスパーゼ-3 活性化で GFP 発現) を用いて、取り込みがアポトーシス非依存的であることを確認した。
ライブイメージング: Nikon NSPARC 検出器システム (横方向分解能約 212 nm、軸方向分解能約 424 nm) および格子光シート顕微鏡 (lattice light-sheet microscopy、等方性分解能約 220 nm) を用いて、トロゴサイトーシス様切離の動的過程を可視化した。
ベシクルフローサイトメトリー: 表面ビオチン標識後、細胞ライセートを低速遠心し、ストレプトアビジン陰性・CellTraceViolet (CTV) 陽性の細胞内小胞を回収した。この小胞を、EEA1 (early endosome antigen 1)、Rab7、Rab17、LAMP1 (lysosome-associated membrane protein 1)、CD63、MHC-I、MHC-II、ZsGreen を含む 10 色パネルで免疫表現型解析し、内部小胞の組成と局在を分類した。
遺伝子操作: CRISPR-Cas9 (clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR-associated protein 9) システムを用いて、BMDM の Itgam (CD11b)、Cd93、Snx27 遺伝子をノックアウト (KO) した。
T細胞プライミングアッセイ: B16-ZsGreen-minOVA 細胞を用いて、BMDM による OT-I (CD8 T細胞) および OT-II (CD4 T細胞) の CTV 希釈による増殖を測定し、抗原提示能を評価した。統計解析には、Student t-test、one-way ANOVA、および two-way ANOVA を用いた。