- 著者: Junling Yang, Yinchuan Li, Ambuj Bhalla, Mark Maienschein-Cline, Kenichiro Fukuchi
- Corresponding author: Junling Yang (University of Illinois College of Medicine, Peoria, Illinois, United states of America)
- 雑誌: PloS one
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-07-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 37440496
背景
全身性炎症がアルツハイマー病 (AD) などの神経変性疾患における認知機能低下や神経変性を促進することは、臨床的および実験的動物モデルにより示唆されている。加齢に伴う慢性的な低グレードの全身性炎症(inflammaging)や、糖尿病、高血圧、肥満などの修正可能なリスク因子も、ADの病態に関与する炎症反応として描出されている。また、ゲノムワイド関連解析 (GWAS) により、免疫・炎症反応に関与する遺伝的リスク変異が同定されており、炎症応答が後発性ADの病因において重要であることが強調されている。
血液脳関門 (BBB) の構成要素である脳血管内皮細胞は、末梢性炎症分子に対する第一応答者である。特にリポポリサッカライド (LPS) による刺激は、TLR4/CD14/MD2受容体複合体を介して内皮細胞を活性化させ、敗血症における血管崩壊やアポトーシスを誘導することが知られている。一方で、LPSはNFκB活性化を介して細胞保護タンパク質 A1 や A20 の発現を誘導するという相反する報告もある。さらに、内皮細胞は IL-1β、IL-6、TNFα などの多様なサイトカイン受容体を発現しており、これらの炎症メディエーターがBBBの完全性を損なうことが報告されている。
しかし、全身性炎症時に放出されるサイトカインやケモカインは多種多様であり、単一のサイトカインやLPSのみを用いた内皮細胞の単独培養系 (mono-culture) では、生体内で起こる複雑な分子イベントを十分に再現することが困難であった。特に、マクロファージなどの免疫細胞から放出される炎症メディエーターが脳内皮細胞に与える影響を詳細に検討するためのモデル系は未確立であり、in vivo の炎症状態を模倣した in vitro モデルの構築という課題が残されていた。したがって、全身性炎症がどのように脳内皮細胞の表現型を変化させ、神経炎症を誘導するのかというメカニズムの解明には、十分な知見が不足していた。
目的
本研究の目的は、脳内皮細胞 (bEnd.3 cells) と LPS 活性化マクロファージ (Raw 264.7 cells) を用いた新規の共培養 (co-culture) システムを構築し、全身性炎症に伴うマクロファージ由来の炎症メディエーターが脳内皮細胞に及ぼす影響を調査することである。具体的には、構築した共培養モデルにおけるサイトカインプロファイルを、LPS を腹腔内投与したマウスの血漿プロファイルと比較することで、モデルの妥当性を検証する。さらに、このモデルを用いて、全身性炎症が脳内皮細胞の遺伝子発現やシグナル伝達経路、および BBB の完全性(タイトジャンクションタンパク質の発現)にどのような影響を与えるかを解析する。また、AD モデルマウスを用いて、低用量 LPS 投与が脳内アミロイドβ (Aβ) 負荷および BBB 透過性に及ぼす影響を評価し、in vitro モデルで得られた知見との整合性を検討することを目的とした。
結果
共培養モデルによるサイトカインプロファイルの再現性: bEnd.3 細胞と LPS (100 ng/ml) 刺激 Raw 264.7 細胞の共培養系を構築し、培養上清のサイトカインプロファイルを解析した。その結果、G-CSF (P = 0.002)、GM-CSF (P = 0.025)、IL-1ra (P < 0.001)、IL-6 (P = 0.008)、IL-27 (P < 0.001)、CXCL10 (P < 0.001)、CXCL11 (P = 0.018)、CXCL1 (P = 0.001)、CXCL2 (P < 0.001)、CCL5 (P < 0.001)、TIMP-1 (P = 0.001)、TNFα (P = 0.002) の 12 種類のサイトカイン/ケモカインが LPS により有意に上昇した (Fig 2A-2C)。特に 8 種類の分子は 40-fold 以上の顕著な増加を示した。対照的に、bEnd.3 細胞のみの単独培養系では CXCL10 (P < 0.001) のみが有意に上昇し、他のサイトカインの増加はほとんど認められなかった (Fig 2D-2F)。一方、マウスに LPS を腹腔内投与し 2 時間後の血漿を解析したところ、G-CSF (P < 0.001)、IL-1ra (P < 0.001)、IL-6 (P < 0.001)、CXCL10 (P < 0.001)、CXCL1 (P < 0.001)、M-CSF (P = 0.008)、CCL2 (P < 0.001)、CCL3 (P < 0.001)、CCL4 (P < 0.001)、CXCL2 (P < 0.001)、TIMP-1 (P < 0.001)、TNFα (P < 0.001) の 12 種類が有意に上昇しており、共培養モデルは単独培養よりも in vivo の全身性炎症状態をより正確に反映していることが示された (S1B-S1D Fig)。
RNA-seq による脳内皮細胞の転写応答解析: LPS 活性化 Raw 264.7 細胞と共培養した bEnd.3 細胞の RNA-seq 解析を実施した。FDR < 0.05 のカットオフにおいて、合計 7,867 個の変動遺伝子 (DEGs) が同定され、そのうち 4,159 遺伝子が上昇し、3,708 遺伝子が低下していた (Fig 3A)。さらに fold change > 2、FDR < 0.05 のフィルタリングを適用したところ、2,004 遺伝子が上昇し、1,519 遺伝子が低下した (S2 Table)。Enrichr を用いた遺伝子セット濃縮解析の結果、上昇遺伝子の中で最も有意な経路は「cytokine-mediated signaling pathway (GO: 0019221)」であり、176 個の DEGs が関与していた (Fig 3B, S3 Table)。この結果を検証するため 15 種類の遺伝子について qRT-PCR を行ったところ、共培養系では CCL2 (P < 0.001)、CCL3 (P = 0.002)、CCL4 (P = 0.001)、CCL5 (P < 0.001)、CD36 (P = 0.003)、CSF1 (P < 0.001)、CXCL1 (P < 0.001)、CXCL10 (P < 0.001)、CX3CL1 (P < 0.001)、ICAM1 (P < 0.001)、IL-1α (P < 0.001)、IL-1β (P < 0.001)、IL-6 (P < 0.001)、IRF7 (P < 0.001)、TNFα (P = 0.018) のすべてが有意に増加した (Fig 3C)。一方、単独培養系で有意に増加したのは CCL2 (P = 0.002)、CCL5 (P = 0.022)、CXCL1 (P < 0.001)、CX3CL1 (P = 0.004)、IL-6 (P = 0.041) の 5 種類のみであり、マクロファージ由来サイトカインが内皮細胞の遺伝子発現を強力に誘導することが明らかとなった (Fig 3D)。
JAK/STAT 経路の活性化と BBB 構成タンパク質の減少: RNA-seq データに基づき、JAK/STAT 経路の関与を検討した。Western blot 解析の結果、LPS 刺激 Raw 264.7 細胞との共培養により、bEnd.3 細胞における STAT1 (P = 0.002) および STAT2 (P < 0.001) のタンパク質発現レベルが有意に増加していた (Fig 4A-4D)。また、インターフェロン誘導性膜タンパク質 3 (IFITM3) については mRNA レベルでの増加が認められたが、タンパク質レベルでは有意な変化は見られなかった (Fig 4E-4F)。さらに、BBB の主要なタイトジャンクションタンパク質である Claudin-5 の発現を解析したところ、共培養系において Claudin-5 の発現が有意に減少していた (P < 0.001) (Fig 4G-4H)。これらの STAT1/2 の上昇および Claudin-5 の減少は、bEnd.3 細胞の単独培養系では認められなかった (S2A-S2F Fig)。
低用量 LPS 投与による APP マウスの Aβ 動態への影響: 14 ヶ月齢の APP マウス (n = 6 mice/group) に低用量 LPS (0.5 mg/kg) を腹腔内投与し、脳内 Aβ 負荷を評価した。Thioflavin S 染色による線維状 Aβ 沈着面積は、海馬 (LPS: 0.48 ± 0.06% vs PBS: 0.55 ± 0.04%) および新皮質 (LPS: 0.75 ± 0.07% vs PBS: 0.88 ± 0.09%) のいずれにおいても群間差は認められなかった (Fig 5A-5C)。しかし、ELISA による解析の結果、皮質の可溶性 Aβ 40 (LPS: 388.57 ± 15.71 ng/mg protein vs PBS: 460.98 ± 22.29 ng/mg protein, P = 0.020) および可溶性 Aβ 42 (LPS: 151.58 ± 5.47 ng/mg protein vs PBS: 174.80 ± 4.79 ng/mg protein, P = 0.0096) のレベルが有意に減少していた (Fig 5D)。一方で、不溶性画分の Aβ 40/42 には有意差はなかった (Fig 5E)。さらに、脳脊髄液 (CSF) 中の Aβ 濃度を測定したところ、Aβ 40 (LPS: 15.31 ± 0.36 ng/ml vs PBS: 10.17 ± 0.69 ng/ml, P < 0.001) および Aβ 42 (LPS: 5.12 ± 0.47 ng/ml vs PBS: 3.55 ± 0.35 ng/ml, P = 0.023) の双方が劇的に増加していた (Fig 5F)。これは、急性末梢炎症が脳実質から CSF への可溶性 Aβ の流出を促進することを示唆している。
Bf-Fibrinogen の内皮細胞への付着と炎症性遺伝子の誘導: BBB の完全性を評価するため、フィブリノゲン (fibrinogen) の沈着を解析した。in vitro 共培養モデルでは、LPS 刺激 Raw 264.7 細胞との共培養により、bEnd.3 細胞へのフィブリノゲン付着が有意に増加した (0.04 ± 0.02 vs 0.29 ± 0.03, P < 0.001) (S3A-S3B Fig)。一方、LPS 刺激単独の bEnd.3 細胞では有意な増加は見られなかった (0.04 ± 0.02 vs 0.07 ± 0.03, P > 0.05)。in vivo の LPS 投与 APP マウスでは、フィブリノゲン信号は血管壁に限定されており、脳実質への浸潤は認められなかった。しかし、血管壁におけるフィブリノゲン/CD31 陽性面積比は、LPS 投与群で 0.19 ± 0.03% となり、PBS 投与群の 0.02 ± 0.01% に対して有意に高値であった (P < 0.001) (Fig 6A-6B)。また、LPS 投与 APP マウスの海馬において、共培養モデルで同定された炎症性遺伝子の発現を qRT-PCR で確認したところ、CCL2 (P = 0.0096)、CCL5 (P < 0.001)、CSF1 (P = 0.006)、CXCL1 (P < 0.001)、CXCL10 (P = 0.014)、ICAM1 (P = 0.002)、IL-1α (P = 0.003)、IL-1β (P = 0.002)、IRF7 (P < 0.001) のすべてが有意に上昇していた (Fig 6C)。
考察/結論
先行研究との違い: 従来、末梢性 LPS 刺激による BBB への影響を調べる研究では、内皮細胞のみに高濃度の LPS を直接投与する単独培養系が多用されてきた。しかし、本研究の結果は、内皮細胞単独への LPS 刺激では限定的なサイトカイン応答しか得られないこと、そして in vivo で観察される血漿サイトカインプロファイルとは大きく異なっていることを示した。本研究で構築したマクロファージとの共培養モデルは、単独培養系とは対照的に、in vivo の全身性炎症時に見られる多種多様なサイトカインの同時上昇を再現できており、より生理的な炎症環境を模倣できている。
新規性: 本研究で初めて、bEnd.3 細胞と LPS 活性化 Raw 264.7 細胞を用いた共培養系を構築し、これが全身性炎症による脳内皮細胞の炎症応答を調査するための優れた in vitro モデルとなることを実証した。特に、マクロファージ由来のサイトカインが JAK/STAT 経路を介して内皮細胞の STAT1/2 発現を誘導し、結果として Claudin-5 の発現を減少させるというメカニズムを新規に提示した。また、低用量 LPS 投与が脳実質から CSF への Aβ 流出を促進するという現象を、血管壁へのフィブリノゲン付着および内皮細胞の炎症性遺伝子誘導と関連付けて示した点も新規である。
臨床応用: 本知見は、COVID-19 に伴うサイトカインストームなどの全身性炎症が、どのように BBB 機能を修飾し、神経学的後遺症や認知機能低下を誘発するかを理解するための translational な基盤を提供する。特に、JAK/STAT 経路が内皮細胞の炎症応答において支配的な役割を果たしていることが示されたため、FDA 承認済みの JAK 阻害剤などの既存薬を転用し、全身性炎症に伴う BBB 機能不全を抑制するという臨床的アプローチの可能性が示唆される。
残された課題: 本研究の limitation として、bEnd.3 細胞単独では完全なバリア構造を形成できず、アストロサイトやペリサイトなどの他の BBB 構成細胞を含まない共培養系であったことが挙げられる。そのため、実際の BBB 透過性の定量的評価には限界がある。今後の検討課題として、STAT1/2 阻害剤が末梢性炎症による BBB への悪影響を実際に軽減できるかを検証すること、およびより複雑な 3 次元共培養モデルを用いて、in vivo の BBB 崩壊プロセスを詳細に解析することが挙げられる。
方法
実験動物および Aβ 解析: AD モデルマウスとして、B6.Cg-Tg (APPswe, PSEN1dE9) 85Dbo/J マウス (APP マウス) を使用した。14 ヶ月齢の雄マウス (n = 6 mice/group) に対し、0.5 mg/kg の LPS を腹腔内投与、または対照として PBS を投与した。投与 24 時間後に、cisterna magna から CSF を採取し、脳(新皮質および海馬)を摘出した。線維状 Aβ の定量には Thioflavin S 染色を行い、Zeiss Axioscan および Image Pro 10 ソフトウェアを用いて面積比を算出した。可溶性および不溶性 Aβ 40/42 の定量には、Invitrogen 社の ELISA キットを用いた。
細胞培養および共培養モデル: Raw 264.7 細胞および bEnd.3 細胞を DMEM (10% FBS 含有) で培養した。共培養モデルでは、6 ウェルプレートの下層に Raw 264.7 細胞 (3 x 10⁵ cells/well) を播種し、翌日に Corning Transwell Permeable Polycarbonate Membrane Inserts (孔径 3 μm) 内に bEnd.3 細胞 (2 x 10⁵ cells/insert) を播種した。3 日目に Raw 264.7 細胞に LPS (100 ng/ml) または PBS を添加し、24 時間共培養した。単独培養系では Raw 264.7 細胞を播種せず、bEnd.3 細胞のみに LPS を処理した。
サイトカインプロファイリングおよび RNA-seq: 共培養 24 時間後の培養上清を回収し、Mouse Cytokine Array Panel A (R&D Systems) を用いて 40 種類のサイトカイン/ケモカインを同時検出した。bEnd.3 細胞から抽出した全 RNA を用い、DNBSEQ プラットフォームで RNA-seq を実施した。リードのアライメントには STAR を、定量には FeatureCounts を使用し、edgeR を用いて変動遺伝子 (DEGs) を算出した。p 値は Benjamini-Hochberg 法による FDR 補正を行った。
タンパク質解析および統計手法: bEnd.3 細胞のライセートを用い、anti-Claudin-5, anti-STAT1, anti-STAT2, anti-IFITM3, anti-GAPDH 抗体を用いた Western blot 解析を実施した。バンドの光学密度は Image J で定量した。フィブリノゲン付着の評価には、CD31 (内皮マーカー) とフィブリノゲンの共染色を行い、共焦点顕微鏡 (Olympus FV3000) で解析した。統計解析には、two-tailed Student’s t-test および分散分析 (ANOVA) を用い、P < 0.05 を有意とした。