• 著者: Valentina Poli, Marco Di Gioia, Ivan Zanoni
  • Corresponding author: Ivan Zanoni (Harvard Medical School, Boston Children’s Hospital, Division of Immunology, Boston, MA 02115, USA)
  • 雑誌: STAR Protocols (Cell Press)
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-06-16
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 37352106

背景

Neutrophil extracellular traps (NETs)は、Brinkmannらが2004年にScience誌で報告して以来、感染症、自己免疫疾患、がん、血栓症など、多岐にわたる病態における重要な研究テーマとして注目されてきた。NETsは、脱凝縮したDNA骨格にシトルリン化ヒストンH3 (CitH3)やミエロペルオキシダーゼ (MPO)、好中球エラスターゼ (NE)などのタンパク質が結合した線維状構造体であり、病原体捕捉や殺菌に寄与する一方で、過剰な放出は組織損傷や炎症増悪を引き起こすことが知られている。好中球の機能とNETsの役割については、Burn et al. Immunity 2021やThomas and Schroder (2013)などの先行研究で詳細にレビューされている。

しかし、in vivoにおけるNETsの定量的解析はこれまで困難であった。従来のNETs定量法には、主に以下の3つの手法が用いられてきたが、それぞれに限界が存在した。 (i) 免疫蛍光顕微鏡 (IF): CitH3とDNAの共局在を検出する手法であり、NETsの形態学的特徴を直接観察できる利点がある。しかし、この手法はスループットが低く、観察者によるバイアスが生じやすく、多数の細胞を定量的に評価するには不向きであった。 (ii) SYTOX Greenを用いた細胞外DNA蛍光測定: 細胞外に放出されたDNAをSYTOX Greenなどの核酸染色剤で検出する手法であり、プレートリーダーを用いることで比較的高いスループットで測定が可能である。しかし、この手法はNETs特異性が低く、細胞死に伴うDNA放出とNETsによるDNA放出を区別することが困難であった。 (iii) MPO-DNA ELISA: 血漿中のMPO-DNA複合体を測定する手法であり、全身性のNETs放出を評価するのに用いられる。しかし、この手法は局所的なNETs放出を定量的に評価することができず、また単一細胞レベルでの解析は不可能であった。

これらの従来法はいずれも、定量的かつ単一細胞レベルでの解析能力が不足しており、特にin vivo環境、例えば気管支肺胞洗浄液 (BALF)中のNETsを正確に定量する上での制約が大きかった。フローサイトメトリーを用いたin vivo BALF NETs定量は、Chenらが2017年にJ Leukoc Biol誌で試行して以来、その可能性が示唆されてきたが、標準化されたプロトコール、適切なバリデーションコントロール(例:PAD4阻害剤GSK484)、および絶対定量(例:Counting Beads)を統合した包括的な方法論論文が不足していた。このため、in vivoでのNETs定量解析は依然として未解明な部分が多く、研究の進展を妨げる課題が残されていた。

このような背景のもと、イノベーションが求められていた。Boston Children’s HospitalのZanoni研究室(自然免疫および肺炎症研究を専門とする)は、マウスのS. aureus肺炎モデルにおけるBALF中のNETsをフローサイトメトリーで定量するための標準化されたプロトコールを開発し、2023年にSTAR Protocols誌で報告した。本プロトコールは、従来の課題を克服し、高スループットかつ定量的なNETs解析を可能にするものである。

目的

Boston Children’s HospitalのZanoni研究室は、マウスの肺感染モデルにおけるNETsのin vivo定量解析の課題を克服するため、以下の目的を設定した。

第一に、マウスの気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中のNETsをフローサイトメトリーで定量するための標準化されたプロトコールを確立することを目指した。これにより、NETs研究における再現性と比較可能性を向上させることを意図した。

第二に、確立したプロトコールを用いて、Staphylococcus aureus (S. aureus) USA300株による経鼻感染マウスの肺炎モデルにおいて、NETsの放出をin vivoで検出・定量することを目的とした。

第三に、プロトコールの特異性と信頼性を検証するための適切なバリデーションコントロールを確立することを目指した。具体的には、PAD4 (peptidylarginine deiminases-4) 阻害剤GSK484によるNETs形成の抑制を陰性対照として、またPMA (phorbol 12-myristate 13-acetate) によるex vivo刺激によるNETs形成の誘導を陽性対照として用いることを計画した。

第四に、NETs放出好中球を正確に同定するため、CitH3、Ly6G、CD11b、CD45を含む多色フローサイトメトリーパネルを最適化することを目的とした。これにより、好中球集団の同定と、その中のCitH3陽性細胞の検出を同時に行うことを可能にする。

第五に、Counting Beadsを用いて、BALF中のNETs放出好中球の絶対数を算出する手法を組み込むことを目的とした。これにより、単なる割合だけでなく、病態におけるNETs放出細胞の実際の数を定量的に評価することを可能にする。

第六に、これらの要素を統合することで、24時間以内に処理可能な高スループットかつ標準化されたNETs定量方法を提供することを目的とした。これにより、多数のサンプルを効率的に解析し、NETs研究の進展に貢献することを目指した。

結果

BALFにおけるNET放出好中球の定量的検出: S. aureus USA300株を経鼻感染させたマウスのBALFを感染後24-48時間で採取し、フローサイトメトリーによりNETs放出好中球を定量的に検出した。未感染マウスのBALFにはごく少数の細胞しか含まれないのに対し (Fig 2A)、感染マウスではLy6G+/CD11b+好中球画分が感染前の5%未満から50-70%へと顕著に増加することが確認された。この感染好中球集団のうち、CitH3陽性を示すNET放出好中球が20-40%を占めることが明らかになった (Fig 2B)。Counting Beadsを用いた絶対数算出により、感染後48時間ではマウス1匹あたり1-5×10⁵個のNET+好中球が存在するスケールであることが示された。感染前と感染後のNET放出細胞の割合および絶対数には統計的に有意な差 (p<0.001, n=5-8 mice/group) が認められ、数百細胞レベルの統計的検出力でNETs放出の誘導が確認された。この単一細胞解像度により、個々のNET放出好中球のCD11bおよびLy6Gの発現パターンを同時に評価することが可能であった。

バリデーションコントロールの確立とPAD4依存性の検証: 本プロトコールの特異性と信頼性を検証するため、陽性および陰性対照が確立された。陽性対照として、BALF細胞をex vivoでPMA (100 nM) で3時間刺激したところ、CitH3陽性画分が大幅に増加し、CitH3染色の特異性が確認された。陰性対照として、PAD4阻害剤GSK484 (10 μM) で30分間前処理したBALF細胞では、CitH3陽性画分が90%以上消失することが示された (Fig 2C)。この結果は、NET形成におけるPAD4依存性のヒストンシトルリン化の必須性を示唆するとともに、CitH3抗体がPAD4依存性NETsを特異的に検出すること、および死細胞やデブリに由来する非NET性のCitH3シグナルが効果的に除去されることを検証した。また、アイソタイプコントロール(rabbit IgG)を用いることで、非特異的結合によるベースラインシグナルを評価し、真のCitH3陽性シグナルとの区別が可能であった。

従来法に対する優位性と多応用性: 本フローサイトメトリープロトコールは、従来のNETs定量法と比較して複数の優位性を持つ。免疫蛍光顕微鏡法では1サンプルあたり数時間を要し、観察者バイアスが生じやすく、評価できる細胞数も100-500細胞が上限であるのに対し、フローサイトメトリーでは1サンプルあたり30-60分で処理可能であり、10,000以上の細胞を解析できるため、高い統計的検出力を有する。MPO-DNA ELISAは血漿中のNETsを半定量的に評価するものであり、BALFや組織局所での定量には不向きであるのに対し、フローサイトメトリーはBALFだけでなく、肺組織を解離した細胞にも適用可能である。さらに、本プロトコールはS. aureus肺炎モデル以外の様々な病態モデルにも応用可能である。例えば、LPS誘発性ARDSモデル (Poli et al. Immunity 2022)、インフルエンザやCOVID-19のマウスモデル、他の細菌性肺炎(K. pneumoniae, P. aeruginosa)、さらには肺腫瘍における骨髄や脾臓由来のNETs研究にも拡張できる可能性が示唆された。また、DNase I、GSK484、好中球エラスターゼ阻害剤などのNETsを標的とした治療薬の薬力学的バイオマーカーとしても利用可能である。

考察/結論

本STAR Protocols 2023論文は、マウスBALFにおけるin vivo NETsのフローサイトメトリー定量に関する、標準化されたバリデーションコントロールを統合した決定的な方法論プロトコールを提供するものである。CitH3細胞内染色、Ly6G/CD11b/CD45多色パネル、Counting Beadsによる絶対定量、GSK484による陰性対照、PMAによる陽性対照の組み合わせにより、高スループット、高い統計的検出力、優れた再現性、そして単一細胞解像度を同時に達成している。これにより、従来の免疫蛍光顕微鏡、SYTOX Green、MPO-DNA ELISAといった手法の限界を克服することが可能となる。

先行研究との違い: 本研究は、これまでのフローサイトメトリーによるNETs定量法が抱えていた、標準化されたプロトコールの欠如、適切なバリデーションコントロールの不足、および絶対定量能力の欠如という課題を克服した点で、先行研究と対照的である。特に、PAD4阻害剤GSK484を用いた陰性対照の確立は、CitH3陽性シグナルのNETs特異性を明確に検証する上で新規性が高い。

新規性: 本プロトコールは、CitH3陽性好中球の絶対数をCounting Beadsを用いて定量する手法を統合した点で新規である。これにより、単にNETs放出好中球の割合を評価するだけでなく、病態におけるNETs放出細胞の実際の数を正確に把握することが可能となった。また、S. aureus肺炎モデルにおけるin vivo NETs放出の定量的な評価は、これまで報告されていない詳細なプロトコールとして、今後の研究の基盤となる。

臨床応用: 本プロトコールは、様々な疾患におけるNETsの役割を解明するための前臨床研究に大きく貢献し、その知見は臨床応用へと繋がる可能性を秘めている。具体的には、(i) 敗血症、肺炎、COVID-19などの感染症におけるNETsを標的とした治療法(例:DNase I、GSK484、好中球エラスターゼ阻害剤)の薬力学的バイオマーカー評価のための前臨床モデルとして有用である。(ii) 全身性エリテマトーデス (SLE)、ANCA関連血管炎 (AAV)、関節リウマチ (RA)、乾癬などの自己免疫疾患のマウスモデルにおけるNETs定量の標準化に寄与する。(iii) がん(例:NETsによる血行性転移促進、Park et al. Science Translational Medicine 2016Yang et al. Nature 2020)のマウスモデルにおけるNETs定量バイオマーカーとしても利用可能である。(iv) 将来的には、ヒトBALFや血液サンプルへのプロトコール拡張(CitH3抗体とヒト好中球マーカーCD15/CD66bの組み合わせ)により、臨床現場でのNETsバイオマーカーとしての活用が期待される。

残された課題: 本プロトコールにはいくつかの限界も残されている。第一に、CitH3はNETsの堅牢なマーカーであるが、PAD4非依存的なNET形成(例:C. albicansのβ-グルカンやIL-8によるバイタルNETosisなど、ROS依存性でPAD4非依存性のNETs)は検出漏れとなる可能性がある。第二に、固定・透過処理の過程でNETsの物理的構造が損傷する可能性があり、細胞外DNAトラップ構造の可視化(SYTOX外染色との組み合わせなど)には限界がある。第三に、BALF処理時間内のex vivo NET形成アーティファクトの可能性が挙げられるが、これはGSK484前処理によって低減できる可能性がある。第四に、本論文ではヒトBALFでのバリデーションは行われておらず、追加の研究が必要である。第五に、SYTOX GreenとCitH3のデュアルアプローチ(Masuda et al. 2017 J Immunol Methods)との直接的な比較は行われていない。今後の検討課題として、これらの限界を克服するためのさらなる最適化と検証が挙げられる。

本研究は、BrinkmannによるNETs発見 (2004 Science)、FuchsらによるCitH3とDNA機構の解明 (2007 J Cell Biol)、Chenらによる初期のNETsフローサイトメトリー (2017 J Leukoc Biol)、MasudaらによるSYTOXとCitH3の組み合わせ (2017 J Immunol Methods)、Huらによる免疫蛍光法 (2020 J Vis Exp) といったNETs定量方法論の発展において、2023年時点でのバリデーションと絶対定量能力を統合したフローサイトメトリープロトコールを加える決定的な貢献を果たした。Zanoni研究室は、自然免疫と肺炎症(例:Di Gioia et al. 2020 Nat Immunolにおける酸化リン脂質とIL-1)の研究における方法論的拡張として、本プロトコールを開発した。2023年以降、本プロトコールはCOVID-19、敗血症、がん、自己免疫疾患のマウスモデルにおけるNETs定量標準法として広く引用される実用的なプロトコールとなることが期待される。

方法

本プロトコールは、マウスの肺感染モデルにおける気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中のNETsをフローサイトメトリーで定量するための詳細な手順を記述している。

動物モデルと感染: 8-12週齢のC57BL/6Jマウスを使用し、S. aureus USA300株 (10⁷ CFU, 50 μL PBS) を経鼻感染させた。一部の実験では、陽性対照としてPMAまたはLPSを経鼻投与した。感染後24-72時間でBALFを採取した。PAD4阻害剤GSK484 (10 μM) の前処理は、陰性対照としてin vitroで細胞に適用された。

BALF採取: マウスを安楽死させた後、気管を露出させ、カミソリで半分切開し、イントラダーミックチューブを挿入した。1 mLのPBSを3回注入・吸引することでBALFを採取し、FACSチューブに回収して氷上で保管した。肺の膨張を視覚化し、効率的な洗浄を確保するために、胸腔を開放し、横隔膜を切開した (Fig 1)。

BALF処理: 回収したBALFは300 gで5分間遠心分離し、上清を除去した。細胞ペレットはACK (Ammonium-Chloride-Potassium) bufferを用いて赤血球を溶解し、0.1% BSAを含むPBSで洗浄した。その後、非特異的結合を抑制するため、抗CD16/32抗体(Fc block)を用いて10分間4°Cで処理した。

細胞表面染色: Fc block処理後、細胞は以下の抗体で30分間4°Cで染色された:抗Ly6G-APC (クローン1A8, BD Biosciences)、抗CD11b-PE (クローンM1/70, BioLegend)、抗CD45-FITC (クローン30-F11, BioLegend)。これらの抗体は、好中球集団を同定するために使用された。

細胞内CitH3染色: 細胞表面染色後、BD Cytofix/Cytopermキットを用いて細胞を固定・透過処理した。その後、抗citrullinated histone H3抗体 (Abcam ab5103, rabbit polyclonal) を用いて1時間室温で染色した。洗浄後、二次抗体としてanti-rabbit IgG-PE-Cy7を30分間室温で反応させた。

絶対定量: 染色プロトコールの最後に、CountBright Plus Beads (Thermo Fisher Scientific, 50 μL/sample) を各サンプルに添加した。これにより、フローサイトメトリー解析時に細胞集団とビーズのイベント数を同時に取得し、以下の計算式を用いて絶対細胞数を算出した。 絶対細胞数 = (好中球のイベント数 / ビーズのイベント数) × (ビーズのストック濃度) × (最終液量)

バリデーションコントロール:

  • 陽性対照: BALF細胞をex vivoでPMA (100 nM) で3時間刺激し、CitH3陽性細胞の誘導を確認した。
  • 陰性対照: PAD4阻害剤GSK484 (10 μM) で30分間前処理することで、CitH3陽性画分が大幅に減少することを確認した。これはPAD4依存性のヒストンシトルリン化がNET形成に必須であることを示し、CitH3抗体の特異性を検証する。
  • アイソタイプコントロール: 非特異的結合のベースラインを評価するために、rabbit IgGアイソタイプコントロール抗体を用いた。

データ取得と解析: 染色されたサンプルはBD LSRFortessa 4-laserフローサイトメーターで取得され、FlowJoソフトウェアを用いて解析された。ゲーティング戦略は、FSC/SSC散乱図で細胞集団を特定し、CD45陽性細胞をゲートし、その中のLy6G陽性CD11b陽性細胞を好中球として同定した。最終的に、好中球集団におけるCitH3陽性画分の割合と、Counting Beadsを用いた絶対数を算出した。統計解析には、Mann-Whitney U testが用いられた。