- 著者: Hayley I. Muendlein, Wilson M. Connolly, James Cameron, Irina Smirnova, Zoie Magri, Julie Jetton, Amanda Degterev, Tamara Balsells, Alexei Degterev, Alexander Poltorak
- Corresponding author: Alexander Poltorak (Department of Immunology, Tufts University School of Medicine, Boston, MA 02111, USA; alexander.poltorak@tufts.edu)
- 雑誌: Science Immunology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-09-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 36563168
背景
腫瘍壊死因子-α (TNF-α) は、細菌性敗血症、グラム陰性菌によるLPSショック、急性肝不全、自己免疫疾患など、様々な病態において主要な炎症メディエーターおよび致死メディエーターとして機能することが知られている (Wajant et al. 2019 Front Cell Dev Biol)。TNF-αは、その受容体であるTNFR1 (TNF receptor 1) を介して、炎症促進性の複合体I(NF-κB/MAPK経路を活性化)と、細胞死促進性の複合体II(RIPK1 (receptor-interacting protein kinase 1)/FADD (Fas-associated death domain protein)/caspase-8によるアポトーシスまたはRIPK1/RIPK3 (receptor-interacting protein kinase 3)/MLKL (mixed lineage kinase domain-like) によるネクロトーシス)の形成を誘導する Vandenabeele et al. NatRevMolCellBiol 2010。特に、高用量のTNF-α静脈内注射とD-ガラクトサミン (D-GalN) 前処置を組み合わせたマウスモデルは、急性肝不全と全身性致死を誘導するTNF致死研究のゴールドスタンダードとして広く用いられてきた。
Toll様受容体 (TLR) 経路において、TIRドメイン含有アダプター誘導性IFN-β (TRIF) は、TLR3およびTLR4の主要なアダプター分子として、LPS応答の確立に不可欠な役割を果たすことが報告されている Yamamoto et al. Science 2003。しかし、TNFR1シグナル伝達とTRIFとの直接的な連関、特にTRIFosomeと呼ばれる複合体の形成、およびLPS共受容体であるCD14がTNF致死において果たす役割については、これまで十分に確立されていなかった。従来の理解では、CD14は主にLPS認識とTLR4シグナル伝達に関与すると考えられていたが、その機能がTNF応答にまで及ぶ可能性は未解明であった。
TNF-αが関与する炎症性疾患、例えば関節リウマチ、クローン病、乾癬などでは、TNF-αの過剰な産生や持続的な作用が病態を悪化させる。また、COVID-19患者の重症度や生存率にもTNF-αが関連することが示唆されている DelValle et al. NatMed 2020。これらの疾患におけるTNF-αの病原性メカニズムの全容解明は、新規治療戦略の開発に不可欠である。特に、TNF-R1の下流でTRIFやCD14といったTLR経路の構成要素がどのように関与し、細胞死や炎症応答を誘導するのかという知識ギャップが残されており、その詳細なメカニズムは不足していた。本研究では、Tufts大学のAlexander Poltorak研究室(TLRおよびTNF研究の権威であり、TLR4の発見者の一人)が、細胞特異的なMRP8-CreおよびLyz2-Cre条件付き欠損マウス、全身性Trif/Cd14ノックアウトマウス、および高度なイメージング技術を駆使し、TNF致死におけるTRIFとCD14の決定的な役割を遺伝学的に解明することを試みた。
目的
本研究の目的は、TNF誘発性致死性(TNF + D-GalNモデル)におけるTRIFおよびCD14の必須性を確立することである。具体的には、以下の点を検証した。(1) TNF致死におけるTRIFの必須性を確立し、そのメカニズムを解明する。(2) CD14がLPS非依存的なTNF致死に関与するかどうかを検証し、その役割を明らかにする。(3) 好中球特異的(MRP8-Cre)およびマクロファージ/骨髄系細胞特異的(Lyz2-Cre)なTrif条件欠損マウスを用いて、TNF致死における細胞タイプ間の役割分担を特定する。(4) TRIF、RIPK1、RIPK3、およびcaspase-8からなる「TRIFosome」複合体の形成をin vitroおよびin vivoで実証する。(5) 好中球におけるネクロトーシスとマクロファージにおけるアポトーシスという細胞特異的な細胞死様式を詳細に解析する。(6) TNFR1のエンドソーム内在化におけるCD14の役割を解明し、TRIFのリクルートメントとの関連性を探る。(7) これらの知見に基づき、敗血症、急性肝不全、TNF誘発性多臓器不全、および移植片対宿主病 (GvHD) などの疾患に対する新規治療標的としてのTRIFおよびCD14の可能性を評価する。
結果
Trif-KOおよびCd14-KOマウスはTNF致死から完全に保護される: 野生型 (WT) C57BL/6マウスはTNF-α (9 μg) とD-GalNの投与後6〜12時間以内に100%致死に至り、血清ALT/ASTレベルの著明な上昇と肝細胞の広範なTUNEL陽性アポトーシスが観察された。これに対し、Trif-KOマウス (n=14 mice) およびCd14-KOマウス (n=10 mice) は同じTNF+D-GalN投与プロトコルにおいて80%以上の生存率を示し (p<0.001)、血清ALT/ASTレベルは正常レベルに維持され、肝臓のTUNEL陽性細胞も著しく低下した (Fig 3)。さらに、Ripk3-KOマウス、Caspase-8 flox-Lyz2-Creマウス、およびRIPK1阻害剤ネクロスタチン-1s前処置マウスも同様の保護効果を示した。これらの結果は、TRIF、CD14、RIPK1、RIPK3、およびcaspase-8からなる全体的なシグナル伝達経路がTNF致死を駆動することを示唆する。特に、LPS非存在下でのTNF致死においてもCD14依存性が確認され、LPS非依存的なTNF-CD14シグナル伝達という新規メカニズムが発見された。血清中のTNF、IFN-β、IL-1βレベルはTrif-KOおよびCd14-KOマウスで有意に低下した (p<0.001)。
CD14はTNFR1のエンドソーム内在化を媒介し、TRIF-RIPK1の共局在を促進する: in vitro実験により、CD14がTNFR1のエンドソーム内在化を媒介することが示された。TNF刺激後のWTマクロファージではTNFR1がエンドソームに局在するが、Cd14-KOマクロファージではTNFR1が細胞表面に滞留し、エンドソームへのTNFR1の取り込みが低下した (Fig 2)。このCD14依存的なTNFR1の内在化は、エンドソームにおけるTRIFとRIPK1の共局在を促進し、その結果としてTRIFosome複合体(TRIF+RIPK1+RIPK3+caspase-8)の形成を誘導することが示された。具体的には、TRIFとRIPK1の共局在を示すTRIF+パンクタの形成は、Cd14-KOマクロファージでは認められず、これはCD14がTRIFのオリゴマー化とRIPK1へのリクルートメントの上流で機能することを示唆する (Fig 2A-E)。この新規シグナル伝達軸は、CD14がTNFR1のエンドソーム内在化を促進し、エンドソーム内でTRIF-RIPK1複合体を形成することで細胞死を誘導するというモデルを支持する。これは、従来のプラズマ膜上のTNFR1-複合体Iによる炎症促進経路に加え、エンドソームにおけるTNFR1-TRIFosomeによる細胞死経路の存在を確立するものである。
好中球とマクロファージがTNF致死を駆動する細胞タイプ特異的な役割分担: 細胞タイプ特異的なTrif欠損マウスを用いた実験では、MRP8-Cre-Trif^flox/floxマウス(好中球特異的Trif欠損)が全身性Trif-KOマウスと同等のTNF致死に対する保護効果を示し(>80%生存、p<0.001 vs WT)、好中球におけるTRIFが致死の主要なドライバーであることが示唆された。同様に、Lyz2-Cre-Trif^flox/floxマウス(マクロファージ/骨髄系細胞におけるTrif欠損)も類似の保護効果を示した。骨髄キメラ実験(Trif-KO骨髄をWTレシピエントに、またはWT骨髄をTrif-KOレシピエントに移植)では、両者において保護効果が中間的であったことから、好中球とマクロファージの両細胞型におけるTRIFが相加的にTNF致死を駆動することが示された (Fig 5)。さらに、好中球の枯渇はTNF致死を遅延させ、致死率を低下させた (Fig 6A, B)。Trif-KOマウスにB6由来の好中球またはマクロファージを養子移入すると、TNF致死に対する感受性が回復した (Fig 6C)。B6好中球の追加は血清TNFおよびIFN-βレベルを上昇させたが、IL-1β、LDH、ALTレベルにはほとんど影響を与えなかった。一方、IL-1β、LDH、ALTの血清中蓄積は、TRIF依存的にマクロファージに依存することが示された (Fig 6D-F)。これらのデータは、好中球がTRIF依存的な炎症応答を制御し、マクロファージが細胞死応答を媒介するという細胞タイプ間の機能分担を示唆する。単一細胞RNAシーケンス解析では、B6マウスの脾臓におけるマクロファージおよび好中球集団の割合がTNF投与後に有意に増加したが、Trif-KOマウスではこの増加が抑制された (Fig 4B, C)。これはTRIFがこれらの細胞の動員または増殖を制御することを示唆する。
細胞タイプ特異的な細胞死様式: in vitro実験では、骨髄由来マクロファージ (BMDM) はTNF刺激に対してcaspase-8依存性のアポトーシス(cleaved caspase-3/8の上昇)を主に誘導することが示された。これに対し、好中球はTNF刺激に対してRIPK3/MLKL依存性のネクロトーシス(リン酸化MLKLおよびSYTOX green取り込み)を主に誘導した。マクロファージにおけるネクロトーシスは、TNFとZ-VAD-FMK(カスパーゼ阻害剤)の併用によってのみ誘導され、通常はアポトーシスが優勢である。一方、好中球はカスパーゼ活性が低く、デフォルトでネクロトーシスを誘導する傾向があることが示された。この結果は、TRIFosome複合体(TRIF+RIPK1+RIPK3+caspase-8)が両細胞タイプで形成されるものの、その下流のエフェクターが細胞タイプ固有の細胞死様式を決定するという新規の概念を提示する。
薬理学的介入によるTNF致死の抑制: RIPK1阻害剤であるネクロスタチン-1s (5 mg/kg i.p.) およびRIPK3阻害剤であるGSK’872の前処置は、TNF+D-GalN誘発性致死から70%以上のマウスを保護し、RIPK1/RIPK3経路が治療標的として有効であることを実証した。また、TAK1阻害剤 (5Z-7-oxozeaenol) は複合体Iの活性を抑制し、複合体IIによる細胞死を促進することが示された。これらの知見は、ヒトの敗血症における治療戦略への関連性を示唆する。
考察/結論
本研究は、TNF誘発性致死性(TNF + D-GalNによる急性肝不全モデル)が、TRIFとCD14に依存し、好中球におけるネクロトーシスとマクロファージにおけるアポトーシスという細胞タイプ特異的な分業によって駆動されることを、MRP8-CreおよびLyz2-Creを用いた細胞タイプ特異的KOマウスと全身性Trif/Cd14/Ripk3 KOマウスの三角測量により決定的に確立した。
新規性: 本研究で初めて、TRIFosome(TRIF + RIPK1 + RIPK3 + caspase-8)複合体が、LPS非依存的なTNFR1下流の細胞死促進シグナル伝達複合体として機能するという新規概念を提唱した。また、CD14がLPS共受容体としての役割に加えて、TNFR1のエンドソーム内在化を促進する共受容体およびTRIFリクルートメントの足場として機能するという多機能性を発見した。これは、これまで報告されていないCD14の新たな役割である。
先行研究との違い: これまでの研究では、TRIFは主にTLR3/4の主要なアダプターとしてLPS応答に関与すると考えられていたが Yamamoto et al. Science 2003、本研究はTNF-R1の下流でTRIFがTLR3/4非依存的に機能することを示した点で、これまでの知見と異なる。また、TNF致死における骨髄系細胞の役割は十分に解明されていなかったが、本研究は好中球とマクロファージが致死の主要なエフェクター細胞であり、それぞれ異なる細胞死様式(ネクロトーシスとアポトーシス)を介して病態を駆動するという細胞タイプ特異的な分業を明らかにした。
臨床応用: 本知見は、敗血症(septic shock)、急性肝不全、TNF誘発性多臓器不全、および移植片対宿主病 (GvHD) などの疾患に対する新規治療標的を示唆する。特に、RIPK1阻害剤であるネクロスタチン-1sおよびRIPK3阻害剤であるGSK’872は、TNF致死からマウスを保護する効果を示しており、これらのRIPK阻害剤が臨床試験の候補となり得ることを示唆する。また、抗TRIF抗体やCD14抗体(敗血症の臨床第II相試験で評価されたIC14など)の臨床試験におけるメカニズム的妥当性を裏付けるものでもある。さらに、炎症性腸疾患 (IBD) や関節リウマチ (RA) における抗TNF療法 (インフリキシマブなど) のTRIF-CD14軸を介した類似の機序や、COVID-19サイトカインストームにおけるNET形成、TNF、RIPK3ネクロトーシス病態の潜在的標的としての可能性も示唆される。
残された課題: 今後の検討課題として、(i) TNF + D-GalNモデルが急性肝不全に特異的であるため、敗血症のヒト病態への直接的な翻訳には限界があること、(ii) MRP8-CreとLyz2-Creの細胞特異性が完全ではなく、一部の好中球とマクロファージで重複が見られる可能性、(iii) TRIF欠損がTLR3/4応答を抑制するため、感染防御能の欠損という副作用の検討が必要であること、(iv) TRIFosomeとTBK1/IRF3経路との詳細なクロストークが未解明であること、(v) ヒト敗血症患者におけるTRIF/CD14遺伝子型と予後との相関関係が未確立であること、(vi) 特定のTRIF阻害剤(小分子)の開発が未だ進んでおらず、薬剤パイプラインの構築が遅れていることなどが挙げられる。
本研究は、Yamamoto et al. Science 2003によるTRIFのTLR4アダプター同定、Kaiser et al. Nature 2013によるネクロトーシスにおけるRIPK3の役割、Newton et al. Cell 2014によるRIPK1のネクロトーシスにおけるゲートキーパーとしての役割、Vandenabeele et al. NatRevMolCellBiol 2010によるTNF細胞死経路の概念に、TNFR1-TRIF-CD14共受容体TRIFosome、好中球ネクロトーシス/マクロファージアポトーシスによる細胞タイプ特異的致死ドライバー、およびエンドソームTNFR1細胞死軸という新たな知見を加える、フィールドを変革する貢献である。Tufts大学Poltorak研究室はTLR、TRIF、自然免疫の分野における権威であり、本論文は2022年以降の敗血症およびTNF駆動型致死の治療戦略におけるリファレンス論文として注目される。
方法
動物モデル: 実験にはC57BL/6野生型マウスに加え、Trif-KO、Cd14-KO、Ripk3-KO、Caspase-8 floxマウス、好中球特異的欠損のためのMRP8-Cre (Ly6G lineage) マウス、骨髄系細胞全般の欠損のためのLyz2-Creマウス、およびCRISPR/Cas9システムによる遺伝子ノックアウトマウスを用いた。Trif-KO Cd14-KO二重ノックアウトマウスも作製された。マウスはTufts大学医学部の動物実験委員会が承認したプロトコルに従って飼育された。
TNF致死モデル: TNF誘発性致死モデルは、11週齢の雄雌マウスに組換え型マウスTNF-α 9 μgを静脈内 (i.v.) 投与し、D-ガラクトサミン (D-GalN) 700 mg/kgを腹腔内 (i.p.) 投与することで誘導した。このモデルでは、野生型マウスは通常6〜12時間以内に100%致死に至る。対照群にはPBSを投与した。
エンドポイント評価: マウスの生存曲線はKaplan-Meier法を用いて解析した。肝機能障害の指標として血清アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) レベルを測定した。肝組織における細胞死はTUNEL染色により評価した。全身性炎症の指標として、血清中のサイトカイン(TNF-α、IFN-β、IL-1β、IL-6、CXCL1)レベルをELISA法で定量した。in vivoイメージングおよび免疫組織化学染色を用いて、好中球およびマクロファージの浸潤と局在を解析した。
in vitroアッセイ: 骨髄由来マクロファージ (BMDM) および好中球を単離し、TNF刺激に対する応答を評価した。細胞死の様式は、SYTOX陽性細胞の検出によるネクロトーシス、およびcleaved caspase-3/8の検出によるアポトーシスにより区別した。ネクロトーシスの活性化は、リン酸化MLKL (phospho-MLKL) およびリン酸化RIPK3 (phospho-RIPK3) の発現レベルをウェスタンブロット法で確認した。
TRIFosome複合体検出: TRIFosome複合体の形成は、共免疫沈降法 (co-IP) を用いてTRIF、RIPK1、RIPK3、およびcaspase-8間の相互作用を検出した。TNFR1のエンドソーム内在化は、共焦点レーザー顕微鏡を用いた免疫蛍光染色により、TNFR1とエンドソームマーカー (RAB5A) の共局在をトラッキングすることで評価した。
薬理学的介入: RIPK1阻害剤であるネクロスタチン-1s (Necrostatin-1s, 5 mg/kg i.p.)、RIPK3阻害剤であるGSK’872、およびパンカスパーゼ阻害剤であるZ-VAD-FMKをTNF致死モデルに前処置として投与し、治療効果を検証した。また、TAK1阻害剤である5Z-7-oxozeaenol (5z7) を用いて、TAK1阻害が細胞死経路に与える影響を評価した。
養子移入実験: 骨髄キメラマウス(WT骨髄をTrif-KOレシピエントに、またはTrif-KO骨髄をWTレシピエントに移植)を作製し、特定の細胞タイプにおけるTRIFの役割を同定した。好中球およびマクロファージの機能獲得実験では、Trif-KOマウスにB6またはTrif-KO由来の好中球またはマクロファージを養子移入し、TNF致死に対する感受性を評価した。
単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq): TNF投与後の脾臓細胞から単一細胞懸濁液を調製し、10X Genomics Chromium Controllerを用いてscRNA-seqライブラリを作製した。シーケンスデータはCell Ranger (v3.0) およびSeurat (v4.0) を用いて解析し、細胞クラスターの同定、細胞比率の変化、およびTRIF依存的な遺伝子発現プロファイルを評価した。遺伝子オントロジー (GO) 解析により、各細胞タイプにおけるTRIF依存的な生物学的プロセスを特定した。