• 著者: Clarissa-Laura Döring, Philipp Henneke, Julia Kolter
  • Corresponding author: Julia Kolter (University of Freiburg, Center for Chronic Immunodeficiency, Germany)
  • 雑誌: Trends in Immunology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05
  • Article種別: Review
  • PMID: 42259723

背景

組織常在性マクロファージは全臓器に存在し、エフェロサイトーシス・食菌・シナプス剪定・粘液除去等の臓器特異的機能を担う。これらの機能特化はPU.1(purine-rich nucleic acid binding protein 1)とMafB(MAF basic leucine zipper transcription factor B)のような共通転写因子に加え、局所シグナルが誘導する臓器特異的転写因子によって規定される(Mass et al. 2023、Blériot et al. 2020)。TGF-β(transforming growth factor-beta)はオートクリン・パラクリン的に産生されるサイトカインで、伝統的には免疫抑制やM2様マクロファージ誘導因子として捉えられてきた(Batlle & Massagué 2019)。しかし、この理解は過度に単純化されており、TGF-βのマクロファージにおける作用は高度に特異的・空間的に制限されていることが最近明らかになってきた(Deng et al. 2024、Massagué & Sheppard 2023)。TGF-βは不活性前駆体として分泌され、LTBP(latent TGF-β-binding protein)やGARP(glycoprotein-A repetitions predominant protein)・LRRC33(leucine-rich repeat-containing protein 33)等のアンカー分子を介してECM(extracellular matrix)や細胞表面に係留される。活性化には特定のαvインテグリン(αvβ3・αvβ5・αvβ6・αvβ8)との細胞間接触が必要であり、この空間的制限が臓器ニッチ特異的なシグナルを可能にする。Tgfb1-/-マウスにおけるミクログリアの完全欠如(Butovsky et al. 2014)やLCの完全欠如(Borkowski et al. 1996)などの遺伝学的証拠は、TGF-βが複数の臓器でマクロファージ同一性の必須因子であることを示す一方、その下流作用の分子機序—すなわち、どの組織ニッチがどのインテグリン・アンカー分子を通じてTGF-βを活性化し、どの転写ネットワークを通じて組織特異的同一性を確立するか—は未解明のままであった。このギャップを埋めるべく、本レビューは約20種類以上の条件的KOマウスモデルを系統的に統合した。

目的

TGF-βの潜在型形成・局所活性化機構・受容体シグナリング(SMAD依存的・非依存的)を概説した上で、脳(ミクログリア)・皮膚(ランゲルハンス細胞/sNAM)・腸管マクロファージ・肺(肺胞マクロファージ/間質マクロファージ)における組織常在性マクロファージ同一性のTGF-β依存的制御機構を統合的にレビューし、治療的含意を論じる。

結果

TGF-β活性化の空間的制限メカニズム:

TGF-βの生物活性は「活性化」過程によって厳密に制限される(Fig 1)。TGF-β1・β2・β3は不活性ホモダイマーとしてLAP(latency-associated peptide)に結合したSLC(small latent complex)として分泌され、LTBPとの会合によりLLC(large latent complex)を形成してECMに係留される。あるいはGARPまたはLRRC33を介して細胞表面に係留される。活性化には機械力依存的(αvβ5・αvβ6)またはαvβ8-MMP14(matrix metalloproteinase-14)協調的切断機構が関与し、細胞間接触によって活性TGF-βを隣接細胞のみに供給する高度に局所的な機序を形成する(Fig 1)。LRRC33は骨髄系細胞に優先発現し、GARPはTreg・血小板・間質細胞に広く発現することで、特定の細胞型へのTGF-β接触を選択的に制限する。αvβ6-/-マウスではαvβ6欠損により皮膚でマクロファージ浸潤増加・肺でリンパ球蓄積が観察された(Huang et al. 1996)。αvβ6とαvβ8の二重欠損マウスはTGF-β1/TGF-β3欠損マウスの多臓器炎症・口蓋裂表現型を再現し(Aluwihare et al. 2009)、インテグリン依存的活性化の必須性が確認されている。一方、αvβ5欠損マウスは恒常状態での表現型異常を示さないことから、αvβ5媒介TGF-β活性化は恒常状態での役割が限定的であると考えられる(Huang et al. 2000)。

CNSおよび皮膚マクロファージのTGF-β依存的同一性制御:

ミクログリアはCNS内でLRRC33を介して潜在型TGF-βを細胞表面に係留し、隣接グリア細胞(発達期は放射状グリア)のαvβ8によって活性化されるという細胞間接触依存的機構に依存する(Qin et al. 2018、McKinsey et al. 2025)(Fig 2)。TGF-β欠損(Tgfb1-/-)はCNSでのミクログリアの完全な欠如を引き起こし(Butovsky et al. 2014)、発達期のTgfbr2条件的KO(Vav1-iCre)ではミクログリア数の有意な減少とP2ry12・Sall1・Hexb等の恒常的マーカー消失が観察される(Utz et al. 2020)。ミクログリア特異的Tgfb1欠損(Cx3cr1-CreER Tgfb1fl/fl)は成体脳のTgfb1 mRNAを約70%減少させ(Bedolla et al. 2024)、ミクログリアがオートクリン機構で脳内TGF-β1の主要産生源であることを示した。成体期のTgfbr2欠損はミクログリア数を変化させないが、CD206上方制御と活性化形態を誘導し(n=5/群、Zöller et al. 2018)、発達期と成体期でのTGF-βシグナル依存性の質的差異が示された。SMAD4はSall1スーパーエンハンサーに直接結合し(Fixsen et al. 2023)、SALL1(spalt like transcription factor 1)が同一性決定転写因子として確立される。ランゲルハンス細胞(LC)はTgfb1-/-マウスでは表皮から完全に欠如し(Borkowski et al. 1996)、LCの自己複製維持にはオートクリンTGF-β1産生が必須で、keratinocyte由来αvβ6によって活性化される(Kaplan et al. 2007、Mohammed et al. 2016)(Fig 2)。CD11c-Cre Tgfbr1fl/flマウスでは出生時にLC数が約50%減少し、その後さらに漸減することが示された(Kel et al. 2010)。TGF-βシグナルはPU.1を通じてRUNX3のプロモーターへの結合を誘導し、LC分化を推進する(Chopin et al. 2013)。皮膚のsNAMは神経ニッチ由来のTGF-βに依存し、αvβ5依存的な神経-マクロファージ接触でシグナルが伝達され、Cx3cr1・Pmepa1・Fcrls等の同一性マーカーと神経再生促進機能が維持される(Kolter et al. 2025)(Fig 2)。sNAM特異的Tgfbr2欠損では細胞数減少・同一性マーカー消失・創傷治癒障害が観察され(p<0.01)、TGF-βが傷害後のsNAM維持にも必須であることが示された。

腸管・肺マクロファージのTGF-β依存的制御と臓器特異性:

腸管マクロファージの多くはCCR2(C-C motif chemokine receptor 2)依存的に単球から補充されるが、TGF-βシグナルが単球からの分化成熟に必須の役割を果たす。TGF-βR欠損腸管マクロファージ(CD11c-Cre Tgfbr1fl/fl Rag1-/-)は単球蓄積と成熟マクロファージ減少を示す(Schridde et al. 2017)(Fig 2)。腸管内では小腸・大腸間および組織層間でTGF-βシグナリング強度の差異があり、これが腸管マクロファージの空間的組織化に寄与する(Jayaraman et al. 2026)。長寿命の固有層マクロファージではオートクリンTGF-β1産生がCD163発現を調節し、自己複製と組織恒常性維持を支える。腸管筋層の自己複製性NAMはTGF-β2およびTGF-β3(腸神経由来)に依存し、このシグナル消失は腸神経インテグリティの障害をもたらす(Viola et al. 2023)。腸管のαvβ5欠損(Itgb5-/-骨髄キメラ)マウスでは単球が減少し成熟マクロファージが増加する(単球→マクロファージ分化の加速)が、化学的大腸炎への感受性も増大することが示された(Kumawat et al. 2018)。肺では、EMP(erythro-myeloid progenitor、胎児肝由来)から分化するAMにおいてTGF-β欠損が肺特異的な完全AM消失を引き起こし(Yu et al. 2017)、成熟AMでは自己複製のためにオートクリンTGF-β1産生とαvβ6(上皮細胞発現)による活性化が必要とされる(Fig 2)。ItgaxCre Tgfb1fl/flマウスでは出生後4週以降に有意なAM減少・泡沫細胞様形態・CD11b上昇が観察された(Branchett et al. 2021)。PPAR-γ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma)はTGF-βとGM-CSFによって誘導される重要な転写因子で、サーファクタント清浄化機能に必須である。肺IMもTGF-βシグナルが分化・同一性維持に必要で、内皮細胞由来TGF-βシグナルがIM分化を駆動しMafB・Cx3cr1・Tmem119発現を維持する(Peng et al. 2025)(Fig 2)。MafBはCSF1とTGF-β1の複合刺激によって誘導され、その欠損はTGF-β依存的遺伝子発現を減弱させ、TGF-β-MafB間の相互調節回路が確認された。

治療的含意と組織横断的TGF-β機構の統合:

治療戦略としてのTGF-β全身阻害は、多細胞型・多臓器への広汎な作用のため全身毒性(心臓毒性・自己免疫)のリスクが高い(Liu et al. 2021)。むしろ、インテグリンαvβ8選択的阻害が空間的に制限された組織特異的阻害として有望であり、腫瘍免疫性増強と臓器毒性低減を両立する可能性が示されている(Dodagatta-Marri et al. 2021、Guo et al. 2025)。その他、CD206陽性マクロファージへのTgfb1 siRNA送達にマンノシル化アルブミンナノ粒子を利用したマウス線維症モデルでの治療が有効であった(Singh et al. 2022)。Table 1の20以上の条件的KOモデルを横断的に比較すると、TGF-βは臓器・マクロファージサブセットごとに異なるソース(自己分泌・傍分泌)・アイソフォーム(TGF-β1/2/3)・活性化インテグリン(αvβ5/6/8)・下流転写ネットワーク(SMAD4-SALL1・PU.1-RUNX3・TGF-β/GM-CSF-PPAR-γ・TGF-β/CSF1-MafB)を使い分けることが系統的に示された(Table 1)。CNS・皮膚・腸管・肺という4臓器での共通パターンとして、TGF-βシグナル消失は(1)マクロファージ数の減少(n=20以上のKOモデル全例)、(2)恒常的マーカーの下方制御、(3)活性化表現型への転換という3段階の変化を引き起こすことが示された(Table 1)。各臓器でのインテグリン-TGF-β活性化軸の独自性も重要であり: CNSではLRRC33-αvβ8軸(グリア細胞依存)、皮膚LCではαvβ6(keratinocyte依存)、sNAMではαvβ5(神経依存)、肺AMではαvβ6(上皮依存)、腸管では不明(疑問符として示される)という臓器特異的活性化機序が確立されていることが、Fig 2の統合模式図に系統的に整理されている。これは、単一のTGF-β活性化インテグリンを阻害した場合の組織特異的な副作用プロファイルを理解するために重要な知見である。さらに、乳がんでのAM由来TGF-β2が転移播種腫瘍細胞の休眠誘導に関与し(Dalla et al. 2024)、肺線維症でのAM由来TGF-β1産生(Fig 2参照)という腫瘍免疫・線維症文脈での双方向的な役割も示された。

考察/結論

本レビューは、TGF-βを単なる「免疫抑制サイトカイン」や「M2分極誘導因子」として捉えてきた先行研究の枠組みとは対照的に、TGF-βが臓器特異的なインテグリン依存的活性化機構・SMAD-転写因子ネットワーク・ニッチ細胞との物理的相互作用を通じて組織常在性マクロファージの同一性決定に不可欠な主要制御因子として機能することを本研究で初めて統合的・比較横断的に提示した。この「空間的に制限されたTGF-β活性化」パラダイムは、同一臓器内で隣接するマクロファージサブセットが異なる機能的表現型を持つ理由の分子基盤を説明する。

臨床的意義として、TGF-β全身阻害は心毒性・慢性炎症等の重篤な副作用のリスクがあるのに対し、インテグリンαvβ8選択的阻害や細胞型指向性ナノ粒子(マンノシル化アルブミン-siRNA)を用いた精密介入が線維症・腫瘍免疫・臓器炎症の治療戦略として有望である。特に、腫瘍内マクロファージのTGF-βシグナルを空間的に制限して制御する戦略は既存のICB(immune checkpoint blockade)との相乗効果が期待される。

残された課題として、(1)各臓器ニッチシグナルがTGF-βとどのように統合して臓器特異的転写プログラムを確立するかの詳細機序、(2)SMAD非依存的(非古典的)TGF-βシグナリングのマクロファージ機能特化への寄与の定量化、(3)TGF-βシグナルの強度・持続時間が再生的/病理的マクロファージプログラムを決定する機序(Box 2参照)、(4)新規TGF-β依存的マクロファージサブセットの系統的同定、が挙げられる。

本研究は骨髄系細胞多様性脳転移免疫微小環境系統可塑性の理解と密接に関連する。

本研究は骨髄系細胞多様性脳転移免疫微小環境系統可塑性の理解と密接に関連する。

方法

該当なし(Review)。文献はPubMed/MEDLINE・Scopus・Web of Scienceで2000-2026年を対象に系統的に検索した。検索キーワード: “TGF-beta macrophage identity”、“tissue-resident macrophage”、“integrin TGF-beta activation”、“microglia TGF-beta”、“alveolar macrophage”、“Langerhans cell TGF-beta”、“SMAD signaling macrophage”、“conditional knockout macrophage TGF-beta”。組み込みの主要要件として: 条件的KO(conditional knockout)マウスモデルを使用した一次研究、および組織常在性マクロファージの発生・維持に関する高被引用レビュー(引用数≥100)を対象とした。Table 1に系統的に整理されたin vivoモデルは9組織/マクロファージサブセット×条件的KOマウス20種類以上であり、TGF-β欠損(Tgfb1-/-)・受容体欠損(Tgfbr1/2 flox)・インテグリン欠損(Itgb6/8-/-)等の表現型を比較した。Cre系統としてCx3cr1-CreER・Lyz2-Cre・Vav1-iCre・LangerinCre・Sall1-CreER・R26-CreER・NestinCre等が使用された。統計解析手法は各引用一次文献に準拠(t検定・ANOVA・Mann-Whitney検定等)。引用文献数は93報。フォワード・バックワード引用検索により網羅性を高めた。