• 著者: Beatriz Salvador-Barbero, Monica Alvarez-Fernandez, Elisabet Zapatero-Solana, Aicha El Bakkali, Maria del Camino Menendez, Pedro P. Lopez-Casas, Tomas Di Domenico, Tao Xie, Todd VanArsdale, David J. Shields, Manuel Hidalgo, Marcos Malumbres
  • Corresponding author: David J. Shields (Pfizer Inc.); Manuel Hidalgo (Weill Cornell Medicine); Marcos Malumbres (CNIO, Madrid)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-01-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32109375

背景

CDK4/6阻害薬 (パルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブ) は、ER陽性乳癌において内分泌療法との併用で無増悪生存期間 (PFS) を大幅に改善し、標準治療として確立されている (Asghar et al., 2015; Sherr et al., 2016)。これらの薬剤は、多様ながん腫への適応拡大が期待され、活発に研究が進められていた (Malumbres, 2019)。膵腺癌 (PDAC) は、KRAS変異が90%以上、CDKN2A遺伝子座の不活化が80%以上という特徴を持ち、CDK4/6経路が恒常的に活性化していることから、分子標的治療の有望な候補と考えられていた (Bailey et al., 2016; Jones et al., 2008; Mueller et al., 2018)。しかし、膵癌細胞株におけるCDK4/6阻害薬単剤での抗腫瘍活性は限定的であり (Chou et al., 2018; Heilmann et al., 2014; Knudsen et al., 2019)、5年生存率が10%未満という最悪の予後を改善するためには、化学療法との組み合わせが必要であると考えられていた (Conroy et al., 2018; Garrido-Laguna and Hidalgo, 2015)。

CDK4/6阻害薬はG1期停止を誘導するため、S期や分裂期を標的とする化学療法 (タキサン系薬剤やDNA損傷剤) との同時投与では、細胞周期停止による保護作用が働き、抗腫瘍効果が減弱する可能性が懸念されていた (McClendon et al., 2012)。実際、先行研究では、CDK4/6阻害薬とゲムシタビンや5-FU、タキサン系薬剤、PLK1阻害薬との同時併用が、膵癌細胞において拮抗作用を示すことが報告されていた (Chou et al., 2018; Franco et al., 2014)。一方で、化学療法後にCDK4/6阻害薬を投与する順序依存的な戦略の可能性、およびその分子基盤は依然として未解明であった。このような背景から、CDK4/6阻害薬と細胞毒性化学療法の最適な併用戦略を確立するための知識ギャップが残されており、この知識の不足を埋めることが喫緊の課題であった。本研究は、この知識の不足を埋めることを目指したものである。

目的

本研究の目的は、膵腺癌 (PDAC) モデルにおいてCDK4/6阻害薬と細胞毒性化学療法の投与順序が治療効果に及ぼす影響を系統的に解析することである。特に、化学療法後にCDK4/6阻害薬を逐次投与することで抗腫瘍効果が増強されるメカニズムを分子レベルで解明することを目指した。さらに、このメカニズムに基づいて、CDK4/6阻害薬との合理的な組み合わせ候補としてPARP阻害薬を同定し、その相乗効果を検証することも目的とした。これにより、膵腺癌におけるCDK4/6阻害薬の最適な使用戦略を確立するための科学的根拠を提供することを目指した。

結果

投与順序依存的な抗腫瘍効果の差異: コロニー形成アッセイでは、P→T (パルボシクリブ先行) 投与はタキサン単剤に比べ抗増殖効果を有意に減弱させた。一方、T→P (タキサン先行後パルボシクリブ) 投与は、複数のPDCL (Panc033: タキサン 2 nM、Panc163・Panc247: 5 nM、パルボシクリブ 125〜500 nM) および確立細胞株 (MiaPaCa-2・Hs766t) でコロニー形成を有意に抑制した (p<0.05〜0.001、Student’s t検定)。in vivo PDXモデル (n=8腫瘍/群) では、T→P 28日治療後の腫瘍増殖抑制率 (TGI) が各単剤に比べ有意に改善し、Ki67陽性率もT→P群で最低値を示した (p<0.05、n=3腫瘍/群)。GEMMモデル (Pdx1-Cre; Kras G12V; Cdkn2aΔ/Δマウス、n=9/群) でもT→P組み合わせが腫瘍増殖を有意に遅延させ (p<0.001、ANOVA)、28日時点の生存マウス数が他群より多かった (Figure 2A, 2B, 4A, 4C)。腫瘍オルガノイドでは、T→P群が7日後にvolumeの大幅減少 (p<0.05〜0.001) とBrdU取り込み低下を示し、GEMMと一致した結果であった (Figure 4E, 4F)。

化学療法後の腫瘍回復阻害: パルボシクリブ単剤洗い出し後の細胞は再増殖を再開したが、タキサン前処置後パルボシクリブ投与では、PDCL複数株で洗い出し後コロニー形成が有意に抑制された (p<0.05〜0.001)。in vivoでも4週治療終了後の腫瘍再増殖 (倍増までの時間) がT→P群で有意に延長された (p<0.05)。FUCCI発現細胞の時差顕微鏡解析では、T→P処置後に多倍体・核形態異常細胞が細胞周期再開を試みるも、パルボシクリブにより効率的に分裂阻止された (G0/G1 arrest維持) ことが確認された (Figure 3B, 3D, 5D)。これは、CDK4/6阻害薬がDNA損傷からの回復を妨げることを示唆している。

RB1依存性DNA修復 (相同組換え) 抑制機構: RNA-seq解析では、T→P組み合わせが単剤よりも強くかつ持続的に、E2F/NFYB/NRF1標的遺伝子群を抑制することが示された。GO解析では、DNA修復 (GO:0006281) および相同組換え (GO:0000724) が最も濃縮された生物学的プロセスとして同定された (52遺伝子、24時間時点)。タンパク質レベルでも、RAD51やBRCA1/2関連因子 (DUTなど) がT→P群で最も強くかつ持続的に低下し、免疫組織化学でPDXサンプル (Panc265・JH051) でも確認された (Figure 6C, 6D)。CRISPR/Cas9によるRB1ノックアウトは、これらのDNA修復遺伝子の抑制を解除し (Figure S7E)、T→Pのコロニー形成協調効果を完全に消失させた (p<0.05〜0.001、Figure 6E)。蛍光HRレポーターアッセイでは、T→P処置細胞のHR効率が有意に低下した一方、NHEJ効率は代償的に増加した (p<0.05〜0.001、Figure 7H)。

PARP阻害薬との相乗効果とBRCAness誘導: CDK4/6阻害によるHR機能不全 (RB1依存) は、DNA損傷修復をBER (塩基除去修復) に依存させ、PARP阻害薬 (オラパリブ) との同時投与でPDAC細胞増殖を顕著に協調抑制した (Panc163: パルボシクリブ 125 nM + オラパリブ各濃度、Panc215: パルボシクリブ 250 nM + オラパリブ各濃度、n=3実験 [Panc215はn=2]、p<0.05〜0.001、Student’s t検定)。この相乗効果は、RB1/E2F軸によるPARP1遺伝子発現抑制機構 (Tempka et al., 2018) とも整合し、CDK4/6阻害薬がBRCA変異非依存のBRCAness状態を誘導することが示された (Figure 8F)。さらに、パルボシクリブ後続投与は、タキサン以外にもEg5阻害薬 (モナストロール・100 μM)・PLK1阻害薬 (BI2536・5 μM)、ゲムシタビン (25 nM)・5-FU (2 μg/mL)・シスプラチン (1 μM)・エトポシド (5 μM)・イリノテカン (5 μM) など多様なDNA損傷剤後の腫瘍回復を阻害し (γH2AX・53BP1持続、HR効率低下)、T→P戦略の広い適用可能性が示された (Figure 8B, 8C, 8D, 8E)。イリノテカン→パルボシクリブ逐次投与でもHR蛍光レポーターアッセイでHR効率が有意に低下し (p<0.001)、本機序が標準的なDNA損傷修復全般に適用できることが確認された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、CDK4/6阻害薬の膵腺癌への適用において「化学療法後のCDK4/6阻害薬投与」という投与順序の重要性を初めて系統的かつ機構的に実証した点で、これまでの報告と異なる。これまで、CDK4/6阻害薬は細胞周期をG1期で停止させるため、S期やM期を標的とする化学療法の効果を妨げるという負の先入観があったが、本研究の結果は、化学療法後の逐次投与が抗腫瘍効果を増強することを示した。

新規性: 本研究で初めて、この増強効果がRB1を介したDNA修復 (特に相同組換え: HR) 経路の抑制という新規のメカニズムによることを詳細に解明した。CDK4/6阻害薬がRB1/E2F軸を介してDNA修復関連遺伝子の転写を抑制し、化学療法によって生じたDNA損傷からの腫瘍細胞の回復を阻害するという知見は、これまで報告されていない。さらに、このRB1依存的なHR機能不全 (BRCAness誘導) がPARP阻害薬との相乗効果をもたらすという合理的な根拠を提供した点が独創的である。

臨床応用: 本知見は、BRCA変異が少ない膵癌においてPARP阻害薬の適応拡大を可能にする新たな戦略として重要な臨床的意義を持つ。FOLFIRINOXやゲムシタビン+Nab-パクリタキセルなどの標準化学療法後のパルボシクリブ維持療法、およびCDK4/6阻害薬とPARP阻害薬の組み合わせ (BRCAness誘導戦略) の第II相試験の設計根拠を提供した。実際にBRCA変異PDAC患者に対してオラパリブ維持療法がPFS改善を示した臨床試験 (Golan et al., 2019) との相補的位置づけとして、BRCA野生型PDAC患者への適応拡大が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 化学療法からCDK4/6阻害薬投与開始までの最適時間間隔の臨床的決定 (本研究ではin vitroで24時間、in vivoでの至適間隔は未確立)、(2) RB1発現やp16 INK4A 欠損を予測バイオマーカーとした患者選択戦略の確立、(3) 膵癌以外の固形腫瘍 (卵巣癌、非小細胞肺癌、放射線療法後の腫瘍など) への外挿可能性の臨床検証、および (4) PDAC特有の免疫抑制性腫瘍微小環境や線維性間質がCDK4/6阻害薬の薬物動態や効果に与える影響の解明が残されている。これらの課題は今後の研究で検討されるべきである。

方法

本研究では、複数の膵腺癌 (PDAC) 患者由来異種移植片 (PDX) 由来細胞株 (PDCLs: Panc033, Panc163, Panc215, Panc247, Panc265, JH051など) および確立細胞株 (MiaPaCa-2, Hs766t) を用いて、in vitroでのコロニー形成アッセイを実施した。in vivoモデルとしては、PDXをNSGマウス (n=8腫瘍/群、28日間治療) およびPdx1-Cre; Kras+/LSLG12Vgeo; Cdkn2aΔ/Δマウス (GEMM、n=9/群) に移植したモデルを使用した。さらに、KRAS変異を有するPDAC患者由来オルガノイド (PDO) も検討に含めた。

治療スケジュールは、(1) パルボシクリブ先行→タキサン (P→T)、(2) タキサン先行→パルボシクリブ (T→P)、(3) 同時投与の3パターンを比較した。in vivo実験では、Nab-パクリタキセル (30 mg/kg、週1回) とパルボシクリブ (100 mg/kg、週5日) を28日間投与した。DNA修復能の評価には、γH2AXおよび53BP1フォーカス定量、コメットアッセイ、ならびに相同組換え (HR) および非相同末端結合 (NHEJ) の蛍光レポーターアッセイを用いた。RB1依存性の検証は、CRISPR/Cas9システムによるRB1ノックアウト細胞を用いて行った。転写プロファイルの解析にはRNA-seqを実施し、3つのPDCL (Panc163, Panc215, Panc247) においてタキサン+パルボシクリブ併用群と各単剤群を12時間、24時間、48時間後に比較した。RNA-seqデータはGEO ID: GSE135215に登録されている。RNA-seqデータの解析には、TopHat-2.0.10、Bowtie 1.0.0、Li et al. Bioinformatics 2009、htseq (Anders et al. Bioinformatics 2015)、DESeq2 (Love et al. GenomeBiol 2014)が使用された。遺伝子セット濃縮解析にはEnrichrおよびDAVIDが用いられた。統計解析はPrism 5を用いて行われ、Student’s t検定、一元配置分散分析 (ANOVA)、二元配置分散分析 (two-way ANOVA) が適用された。