• 著者: Bruce A. Smith, Nicholas G. Balanis, Anitha Nanjundiah, et al.
  • Corresponding author: Owen N. Witte / Thomas G. Graeber (UCLA; tgraeber@mednet.ucla.edu)
  • 雑誌: Cell Reports
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30232014

背景

多くの上皮癌は系統可塑性を経て幹細胞様特性を獲得し、高悪性度・治療抵抗性を示す (Phenotypic-plasticity-in-cancer)。先行研究では、ESC (embryonic stem cell) シグネチャーと癌悪性度の関連が Ben-Porath 2008 と Wong 2008 によって示され、癌幹細胞研究のヒストリカルマイルストーンとなった。しかしこれらの研究はESCと複数細胞種の比較という間接的手法に基づくため、ASC (adult stem cell) との関係は未解明のまま残された。さらにSmith et al. 2015は前立腺基底幹細胞とSCNPC (small cell neuroendocrine prostate cancer) の転写類似性を示したが、肺・膀胱等の他臓器への一般化は未検証であった。

肺・前立腺・膀胱等の複数組織由来のSCN (small cell neuroendocrine cancer) は、RB1/TP53変異・MYC増幅・後成的制御因子変化を組織起源を超えて共有することが知られていたものの、幹細胞転写プログラムとの接点という観点でのパンキャンサー統合解析は不足していた。先行研究のESCシグネチャーは増殖との相関を持ち、その予後的価値が増殖代替指標に過ぎないとの懸念があった点も、成体幹細胞特異的アプローチの未開拓という知識ギャップを浮き彫りにしていた。naive/primed hESC (human embryonic stem cell) シグネチャーと重複しないヒト成体幹細胞特異的シグネチャーを RRHO (rank-rank hypergeometric overlap) 法で構築し、TCGAパンキャンサーとSCN特化コホートで系統的に検証するアプローチはまだ実施されていなかった

目的

ヒト上皮成体幹細胞 (前立腺・乳腺・腸管) に共通する50遺伝子シグネチャー (ASCシグネチャー) をRank-Rank Hypergeometric Overlap (RRHO) 法で構築し、(1) TCGAパンキャンサーコホートにおける悪性度・予後との関連、(2) 複数組織・複数データセットにわたるSCN癌との特異的関連、(3) SCN間に共通するDNAメチル化エピゲノムプロファイルと転写制御ネットワークの同定、を検証すること。

結果

ASCシグネチャーと悪性度・予後 (Figure 2):TCGAパンキャンサー解析でASC (adult stem cell) 高スコア群 (n=1,097 samples) はASC低スコア群 (n=923 samples) より有意に予後不良であり (p=7.6×10^-5)、癌種・分子サブタイプ・増殖シグネチャーで調整後もHR有意 (p=2.5×10^-3) であった。独立データセット (Takeuchi 2006) でも肺腺癌ASC高群 (n=12 cases) vs 低群 (n=13 cases) での有意な生存差を確認した (Figure 2F)。前立腺癌ではASCスコアがGleason scoreに追加的な病期予測力を提供し (p=9.0×10^-4、likelihood ratio test)、病期stage I→IVで段階的にASCスコアが上昇する傾向が確認された (Figure 2A)。増殖シグネチャーをASCシグネチャーから除外してもHR有意性は維持され (p<0.05)、ESCシグネチャー群 (naive/primed) と比較してASCシグネチャーは高グレード腫瘍の分類精度が最も高いことが示された (Figure 2C)。

ASCシグネチャーとゲノム異常 (Figure 3):ASC高スコア腫瘍では3q・5p・8q高レベル増幅が有意に富化された (p=1.7×10^-5)。頭頸部扁平上皮癌 (22%) と肺扁平上皮癌 (24%) がASC高群に集積し (Figure 3A-B)、増幅遺伝子にTERT・PIK3CA・SOX2・MECOM・MYC・MYCL、欠失にCSMD1 (33%)・CDKN2A (29%)・RB1 (16%)・PTEN (8%) が含まれた。RB1機能喪失120遺伝子シグネチャーはASC高群で有意高値であり (Figure 3C)、TP53・NOTCH1変異もASCと有意相関した。SCNLC (small cell neuroendocrine lung cancer) 増幅タンパク質コード遺伝子290のうち181遺伝子 (62%) がASC関連増幅上位204位以内に集積した (p<10^-100、hypergeometric test、Figure 3E)。

SCN癌とのASCスコア特異的関連 (Figure 4):CLCGP肺コホート (SCN n=28 vs 非SCN n=233)・Takeuchi肺コホート (SCN n=9 vs n=149)・Beltran 2016前立腺コホート (SCNPC n=15 vs 非SCNPC n=34)・Beltran 2011前立腺コホート (SCNPC n=7 vs 非SCNPC n=30) の全データセットでSCN表現型が非SCNより有意に高いASCスコアを示した (Figure 4A)。膀胱SCN (n=4) vs 非SCN膀胱癌 (n=402、Robertson 2017) でも同様であり (Figure 4E)、転移性汎癌コホート (Robinson 2017: SCN n=15 vs 非SCN n=90) でもSCNが有意高値を示した (Figure 4C)。前立腺癌の臨床進行 (限局腺癌→転移性去勢抵抗性腺癌→転移性SCNPC) でASCスコアの段階的上昇も確認され、MYC標的・増殖・ESC共通遺伝子除去後も関連維持 (p=0.003〜p<10^-4) であった。10,000遺伝子ランダム順列検定でもASCシグネチャーが有意優位 (permutation p≤3.3×10^-3、Figure 5B) であった。

SCN間の共通メチル化エピゲノムとDNMT発現 (Figure 6-7):DNMT1・DNMT3A・DNMT3BのmRNA発現はASCスコアと正相関し (Beltran 2016コホート Spearman r=0.57〜0.72)、SCNPC・SCNLCで非SCN癌より有意高値であった (p<0.001、Figure 6B)。DNMT1 IHCで肺癌組織マイクロアレイ (SCNLC n=35、腺癌 n=48、扁平上皮癌 n=49) でもSCNLCが最高発現を示した (p<1×10^-5、Figure 6F)。メチル化-発現逆相関遺伝子571から、SCN/非SCN間共通差次メチル化124遺伝子 (hypomethylated 89: p=1.1×10^-6、hypermethylated 35: p=0.003) を同定した (Figure 7A)。VIPER推定活性と差次メチル化の逆相関を前立腺コホート (Spearman rho=-0.73) および肺癌細胞株コホート (rho=-0.75) の両データセットで確認した (Figure 7C)。hypomethylated 89遺伝子のAchilles RNAiスクリーニングで、SCN選択的必須な16 leading-edge遺伝子 (NPTX1・FOXD1・CCKBR等) を同定した (Figure 7E)。

考察/結論

本研究は前立腺・乳腺・腸管の3組織ASCを比較統合したRRHO法で50遺伝子ASCシグネチャーを構築し、TCGAパンキャンサーにおいて (1) 病期・グレード・予後と独立して関連し (p=7.6×10^-5)、(2) 増殖シグネチャー控除後もHR有意 (p=2.5×10^-3)、(3) 特に肺・前立腺・膀胱由来のSCN癌で全データセットにわたり最高スコアを示すことを実証した。

先行研究との差分: 先行研究のBen-Porath (2008)・Wong (2008) のESCシグネチャーと異なり、本研究のASCシグネチャーはヒト3組織のソート幹細胞を直接比較するRRHO法により「成体幹細胞特異的」転写フィンガープリントを抽出し、増殖シグネチャーから独立したSCN癌との特異的関連を達成した。これまでの先行研究ではESCシグネチャーが増殖と相関するため、その予後的価値が増殖の代替指標に過ぎないとの懸念があったが、本研究のASCシグネチャーは増殖遺伝子除去後も有意なHRを維持し、新規な独立予後因子であることを示した。

革新的観点: SCN癌が組織起源を超えてASCシグネチャーを共有するという発見は、SCNCを「pan-SCN」として統合的に研究・治療すべきという概念的枠組みを提供した。これは単一組織起源の研究では見えない普遍的分子特徴であり、臓器横断的な共通治療標的 (DNMT・E2F・SOX2・ASCL1) 探索の基盤となる。特にASCL1・HES6等の神経分化調節因子がhypomethylated遺伝子に含まれること、CASP8・CFLAR・TNFRSF1AのhypermethylationがアポトーシスへのDNMT阻害剤感受性と機能的に連結することは、エピゲノム標的療法 の論理的根拠を具体化する。ゲノム不安定性 とRB1/TP53機能喪失の組み合わせがASCスコアと強く相関することも、SCN癌特有の分子的脆弱性の根拠となる。

臨床的含意: ASCシグネチャーは治療抵抗性SCN変換の予測マーカー、早期診断補助 (前立腺癌からSCNPC変換の検出等)、複数癌種横断的な予後バイオマーカーとしての応用が期待される。特にアンドロゲン療法・EGFR/ALK分子標的療法後のSCN変換リスク評価においてliquid biopsyと組み合わせた利用が有望である。DNMT阻害剤によるCASP8復元→SCN細胞アポトーシス増感 (Sabari 2017) や、エピゲノム修飾薬による抗アンドロゲン療法感受性回復 (Ku 2017) との前臨床知見はこの応用可能性を強化する。

今後の課題: 前向きコホートでの予後予測バリデーション、Achilles RNAiスクリーニングで同定された16必須遺伝子 (NPTX1・FOXD1等) の治療標的としての機能的検証、ならびにASCシグネチャーによるSCN変換予測をliquid biomarkerへ展開することである。

方法

シグネチャー構築: 3組織のソート幹細胞 vs 分化細胞データセットに RRHO (rank-rank hypergeometric overlap) アルゴリズムを適用した。すなわち Trop2+CD49f 高前立腺幹細胞 (Smith 2015)、Lin-CD49f (lineage negative) 高EpCAM (epithelial cell adhesion molecule)-乳腺幹細胞 (Lim 2009)、EphB2ソート腸管幹細胞 (Jung 2011) の3データである。3組織すべてで幹細胞方向に高ランクの上位50遺伝子をASC (adult stem cell) シグネチャーと定義した。マーカー陽性細胞はフローサイトメトリーでソートして精製した。naive hESC (Theunissen 2014) と primed hESC (Takashima 2014) シグネチャーとの遺伝子重複は設計段階で排除した。独立検証データセット (腸管幹細胞n=4/分化細胞n=4、naive n=6、primed n=5) でシグネチャーの識別精度を確認した (Figure 1C)。遺伝子発現変動解析は Love et al. GenomeBiol 2014 を用いた。

TCGAパンキャンサー解析: TCGA (the cancer genome atlas) の複数上皮癌種データにシグネチャースコアを適用し、病期 (stage I-IV) 別・グレード別のASCスコア変化を unsupervised clustering で評価した (Figure 2A)。生存解析はASC高スコア群 vs 低スコア群で Kaplan-Meier 法・log-rank 検定を行い、Cox 回帰で癌種・分子サブタイプ・増殖シグネチャーを共変量として調整した (Figure 2B-E)。前立腺癌では ASC スコアが Gleason score に追加する予測能を likelihood ratio test で検証した。ゲノム異常との関連は hypergeometric test で評価した (Figure 3)。

SCN癌データセット解析: 複数の公開データセットで SCN 癌 vs 非SCN癌の ASC スコアを比較した (Figure 4)。データセットは SCNLC (small cell neuroendocrine lung cancer; George 2015、CLCGP (clinical lung cancer genome project) 2013 n=261、Takeuchi 2006 n=158)、SCNPC (Beltran 2016 n=49、Beltran 2011 n=37)、膀胱SCN (Robertson 2017 n=406)、転移性汎癌 (Robinson 2017 n>150) からなる。MYC標的・増殖・ESC共通遺伝子の除去による感度解析と、10,000 ランダム 50 遺伝子順列検定を実施した (Figure 5)。DNMT1 タンパク発現解析には Cancer Cell Line Encyclopedia の前立腺癌細胞株パネル (LNCaP (lymph node carcinoma of prostate) を含む) と LuCaP (Lupino Cancer Prostate xenograft) PDX (patient-derived xenograft) シリーズ (SCNPC n=4、非SCNPC n=20) を使用した。肺癌組織マイクロアレイでは IHC 法で DNMT1 を染色した。SCN 必須遺伝子の機能的検証には Project Achilles の大規模 shRNA ロスオブファンクションスクリーニングデータ (約17,000 genes) を活用した。

エピゲノム解析: 前立腺癌 (Beltran 2016) と肺癌細胞株のペアデータ (DNAメチル化+RNA発現) で Spearman 相関によりメチル化-発現逆相関遺伝子 571 を同定し、SCN と非SCN 間の差次メチル化を検定した (Figure 7A)。ARACNe と VIPER (virtual inference of protein-activity by enriched regulon) を用いて差次メチル化遺伝子の転写プログラムを推定し (Figure 7C)、Achilles RNAi スクリーニングデータで SCN 選択的必須遺伝子を GSEA (gene set enrichment analysis) により同定した (Figure 7E)。DNMT1 IHC は肺癌組織マイクロアレイ (腺癌n=48、扁平上皮癌n=49、SCNLC n=35) で実施した (Figure 6E-F)。