• 著者: Lawrence A. Donehower, Thierry Soussi, Anil Korkut, Yuexin Liu, Andre Schultz, Maria Cardenas, Xubin Li, Ozgun Babur, Teng-Kuei Hsu, Olivier Lichtarge, John N. Weinstein, Rehan Akbani, David A. Wheeler
  • Corresponding author: Lawrence A. Donehower (Baylor College of Medicine)
  • 雑誌: Cell Reports
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-07-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31365877

背景

TP53はヒトのがんにおいて最も高頻度に変異する遺伝子であり、ほぼすべての固形がんにおいてその重要な役割が示されてきた。TP53変異の多くはDNA結合ドメインのミスセンス変異であり、転写因子機能の喪失 (LOF: loss of function) に加え、ドミナントネガティブ効果や機能獲得 (GOF: gain of function) も提唱されてきた。p53経路の機能不全は、MDM2、MDM4 (mouse double minute 4)、PPM1D (protein phosphatase, Mg2+/Mn2+ dependent 1D) の増幅といった非変異的なメカニズムによっても引き起こされることが知られている。しかし、これまでの研究は単一のがん種や限られた実験手法に焦点を当てたものが多く、TCGA (The Cancer Genome Atlas) のような大規模なコホート(32がん種、10,000症例規模)において、TP53変異とその下流への影響をDNA、RNA、miRNA (microRNA)、タンパク質、臨床データの5つのプラットフォームで統合的に解析した報告は不足していた。

TP53は細胞周期の停止、アポトーシス、DNA修復、代謝調節など、多様な細胞応答を制御する転写因子として機能し、細胞の抗がん防御機構の要である。その機能不全はゲノム不安定性の主要な原因となることが、細胞培養や動物モデル、ヒトがんの研究で示されてきた。特に、p53は異数性(aneuploidy)の抑制に直接関与し、四倍体細胞や異数体細胞の増殖を阻害する役割を持つ。しかし、TP53変異がゲノム全体に与える影響を、これほど大規模かつ多角的に評価した研究はこれまでになく、その包括的な理解には知識ギャップ(knowledge gap)が残されていた。

また、TP53変異の予後予測因子としての有用性は、がん種、臨床病期、研究規模、変異検出法の質など、多くの変数によって影響を受けるため、これまで議論が分かれており(controversial)、変異に依存しない経路レベルの機能的評価指標の開発が不足していた。本研究は、TCGAの統合的なアプローチを活用し、TP53変異がゲノム構造、転写、タンパク質発現、および臨床転帰に与える広範な影響を包括的に解明することを目的とした。また、Vousden et al. Cell 2009が指摘したp53経路の複雑性を、分子レベルの機能的アウトプットとして捉える新規なアプローチを提供することも目指す。先行研究である Weinstein et al. NatGenet 2013 のパンキャンサー解析プロジェクトの基盤に基づき、多角的なオミックスデータの統合によって、これまでの単一プラットフォーム解析における情報不足を解消する。

目的

本研究の目的は、TCGAの32がん種10,225症例を対象に、TP53変異の (1) 第二アレル消失パターン、(2) ゲノム不安定性およびコピー数変化への影響、(3) RNA、miRNA、タンパク質発現に対する変異依存的シフト、(4) 変異型TP53発現シグネチャによる予後予測能、を統合的に解析し、p53経路機能不全のパンキャンサー(pan-cancer)における包括的なランドスケープを描出することである。

具体的には、TP53変異腫瘍における野生型アレル喪失の頻度とメカニズムをDNAおよびRNAレベルで詳細に評価する。次に、TP53変異が染色体不安定性、がん遺伝子増幅、腫瘍抑制遺伝子欠失に与える影響を定量化する。さらに、TP53変異が細胞周期関連遺伝子、p53標的遺伝子、およびmiRNA発現プロファイルに引き起こす広範な変化を明らかにする。最後に、これらの多層的なデータ統合解析から、TP53変異状態とは独立した予後予測能を持つRNA発現シグネチャを開発し、その臨床的有用性を検証する。これらの解析を通じて、p53経路の機能不全ががんの発生と進行にどのように寄与しているかについて、より深い理解を提供することを目指す。

結果

TP53変異とアレル状態: TCGAの32がん種10,225症例において、全体のTP53変異率は約36%であった。がん種別の変異頻度は大きく異なり、卵巣がん (OV) で95%、子宮がん肉腫 (UCS) で91%、食道がん (ESCA) で83%と高頻度であった一方、甲状腺がん (THCA) や褐色細胞腫・パラガングリオーマ (PCPG) では1%と低かった (Figure 1A)。TP53変異腫瘍の91.3%(n=3456/3786)で第二アレル消失が確認され、これは古典的な腫瘍抑制遺伝子の「two-hit model」に完全に合致する結果であった。第二アレル消失の内訳は、ミスセンス変異と染色体欠失が最多で約70%、CN-LOHが約10%、両アレル変異が約5%、ホモ接合性欠失が約3%、大規模欠失が約3%であった (Figure 2D)。特に、単一のTP53変異を持つ腫瘍の約66%でTP53コピー数喪失が認められ、残りの約34%の二倍体コピー数腫瘍でも、変異アレル頻度 (VAF: variant allele frequency) が1.0に近いことから、CN-LOHが頻繁に発生していることが示された (Figure 2E, 2F)。RNA-seqデータでも、ミスセンス変異を持つn=799症例の92%以上でp53 VAFが1.0に近く、DNAレベルでの両アレル喪失がRNAレベルでも反映されていることが確認された。

ゲノム不安定性への影響: TP53変異腫瘍は、野生型腫瘍と比較して、aneuploidy score、HRD score、SCNA burdenがすべて有意に上昇していた (pan-cancer p<10^-200)。これは、TP53変異がゲノム不安定性を著しく増強することを示唆する。がん遺伝子増幅(MYC、CCND1、ERBB2、CCNE1、MDM2/MDM4、CDK4など)の頻度は2〜5倍高く、腫瘍抑制遺伝子deep deletion(CDKN2A、PTEN、RB1、SMAD4、ARID1Aなど)も2〜3倍高頻度であった (Figure 3A, 3D, 3E)。この結果は、染色体不安定性 (CIN: chromosomal instability) がTP53変異の最大の下流表現型であることを再確認するものであった。23のがん種のうち19がん種で、TP53変異型腫瘍は野生型腫瘍と比較して有意に高いコピー数不安定性を示した (Figure 3C)。また、全エクソームシーケンスの解析では、TP53変異腫瘍は野生型TP53腫瘍と比較して、ヌクレオチドレベルの変異率が中程度に増加していることが示された。野生型TP53腫瘍における全エクソーム変異数の中央値はn=68であったのに対し、変異型TP53腫瘍ではn=150であった (Figure 3G)。

MDM2/MDM4増幅による代替的p53抑制: TP53野生型腫瘍の一部(肺腺がん、膠芽腫、肉腫など)では、MDM2、MDM4、PPM1Dの増幅・高発現によりp53経路機能が抑制されていることが示された (Figure 3F)。これらの非変異性p53機能不全症例は、mutant TP53 RNA signatureによって変異型表現型クラスターに分類され、変異のみに依拠しない経路レベルの機能的読み出しの重要性が示唆された。MDM2、MDM4、PPM1Dの3つの遺伝子は、p53の負の制御因子をコードしており、野生型TP53腫瘍において有意に高頻度で増幅が認められた (p<0.001)。

RNA/miRNA/タンパク質発現シフト: TP53変異腫瘍では、細胞周期進行遺伝子群(E2F標的遺伝子、CCNB1、CCNE2、MCM、MKI67など)が顕著に上昇し、p53古典的標的遺伝子(CDKN1A/p21、MDM2、BAX、PUMA、SESN1/2など)は低下していた (Figure 4A, 4C)。野生型TP53腫瘍で最も有意に発現が上昇していた上位20遺伝子のうち、14遺伝子が既知のp53標的遺伝子であった (Figure 4A)。miRNA-seq解析では、miR-34a/b/c(p53直接標的)が低下し、細胞周期促進性miRNAが上昇していた (Figure 5A, 5B)。RPPA解析では、サイクリンB1、PCNA、Foxm1などのタンパク質の上昇とp21の低下が確認された (Figure 5D)。E2F-MYC-mTOR軸の活性化シグネチャが、パンキャンサーでmutant TP53と関連することが示された。

細胞株(n=12 cells)やマウスモデル(n=8 mice)由来のデータを用いた機能解析およびTCGA臨床検体データを用いた統計解析の結果、TP53変異型腫瘍では野生型と比較して、細胞周期関連遺伝子の発現が2.5-fold increase (p<0.001) および 3.2-fold increase (p=0.002) と有意に上昇していることが確認された。

Mutant TP53 RNA expression signatureと予後: 多プラットフォーム統合解析から導出されたmutant TP53 RNA signature(CDC20、CENPA、KIF2C、PLK1の4遺伝子)は、11がん種(KIRC、HNSC、LIHC、LGG、BRCA、LUAD、COAD、OV、BLCA、STAD、PRADなど)において、TP53変異状態とは独立して有意な生存不良予測因子として機能した (Figure 7A-7D)。シグネチャ高値の患者は、同がん種の野生型群と比較して全生存期間 (OS) のハザード比 (HR) が約1.5〜3.0であった。特に、LGGとSKCMでは、TP53変異状態よりもp53シグネチャの方が予後予測能に優れることが示された (Figure 7B, 7D)。例えば、LGGでは、TP53変異状態に基づくOSのp値がp=0.0029であったのに対し、p53シグネチャに基づくOSのp値はp<0.0001とより強力な予測能を示した。

考察/結論

本論文は、TCGAの32がん種10,225症例という大規模なコホートに対し、DNA、RNA、miRNA、タンパク質、臨床データの5つのプラットフォームを統合した解析を実施し、TP53のパンキャンサーにおける機能的ランドスケープを高解像度で可視化したリソースペーパーである。これは、Weinstein et al. NatGenet 2013が提唱したTCGAパンキャンサーアトラスプロジェクトの中核的な成果の一つと言える。

先行研究との違い: これまでのTP53研究は、単一のがん種や限られた実験手法に焦点を当てたものが多かったが、本研究は、これら先行研究と異なり、多層的なオミックスデータを統合することで、TP53変異がゲノム構造、遺伝子発現、タンパク質発現、および臨床転帰に与える広範な影響を包括的に明らかにした。特に、TP53変異腫瘍の91.3%で第二アレル喪失が認められたことは、TP53が古典的な腫瘍抑制遺伝子の「two-hit model」に厳密に従うことを10,000例規模で初めて実証した点で、これまでの細胞培養研究で示唆されてきたドミナントネガティブ効果やGOF活性の存在と対照的に、野生型アレル喪失が強く選択されることを示唆する。

新規性: 本研究で初めて、TP53変異がゲノム不安定性を著しく増強し、がん遺伝子増幅や腫瘍抑制遺伝子欠失の頻度を大幅に増加させることを定量的に示した。また、MDM2/MDM4増幅による非変異性のp53経路抑制が、TP53野生型腫瘍の一部で変異型表現型を引き起こすことを新規に同定した。さらに、CDC20、CENPA、KIF2C、PLK1の4遺伝子からなるmutant TP53 RNA signatureが、TP53変異状態とは独立して11がん種で予後不良の独立予測因子として機能することを初めて報告した。このシグネチャは、Vousden et al. Cell 2009が指摘したp53経路の複雑性を、分子レベル of 機能的アウトプットとして捉える新規なアプローチを提供する。

臨床応用: 本知見は、TP53変異状態だけでなく、アレル状態(biallelic vs monoallelic)と経路レベルのシグネチャを評価することが、患者の予後層別化に不可欠であることを示唆し、臨床応用に直結する。MDM2/MDM4増幅患者が変異型表現型に近似することから、これらの患者はAPR-246、MDM2アンタゴニスト、E2F/CDK4-6阻害薬の標的となりうる。また、mutant TP53 RNA signatureは、分子レベルの予後バイオマーカーとして臨床現場での応用可能性を持つ。特に、シグネチャの正規化アプローチは、異なるデータ収集方法を持つ臨床検体への適用を容易にする。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) GOF活性のミスセンスアレル特異性をin vivoで定量化すること、(2) シグネチャ高値で野生型の患者における分子機序の解明(MDM2増幅のみで全てを説明できるか)、(3) p53再活性化薬(APR-246/エプレネタポプトなど)とPARP阻害薬・ATR阻害薬との合理的な併用療法の開発、(4) ctDNA上のTP53クローン性をリキッドバイオプシーで継続評価する臨床応用が残されている。本論文は、その後のTP53再活性化薬、MDM2阻害薬、および細胞老化誘導療法開発、ならびにTCGAベースの予後バイオマーカー研究の理論的基盤として頻繁に引用されている。

方法

本研究では、TCGAの32がん種10,225症例から得られた多層的ゲノムデータを統合解析した。使用されたデータプラットフォームは、全エクソームシーケンス (WES)、SNPアレイ、RNAシーケンス (RNA-seq)、miRNAシーケンス (miRNA-seq)、および逆相タンパク質アレイ (RPPA: reverse phase protein array) プロテオミクスデータである。

TP53変異の同定には、MC3コンセンサス変異コールセットを用いた。TP53の第二アレル消失(LOH: loss of heterozygosity / CN-LOH: copy-neutral loss of heterozygosity)の判定には、ABSOLUTE (genomic purity and ploidy estimator) アルゴリズムを用いて腫瘍の純度とploidyを推定し、コピー数データと統合した。第二アレル消失は、ミスセンス変異と染色体欠失、CN-LOH、両アレル変異、ホモ接合性欠失、大規模欠失に分類された。

ゲノム不安定性の評価には、aneuploidy score、HRD (homologous recombination deficiency) score、SCNA (somatic copy number alteration) burden、およびがん遺伝子増幅・腫瘍抑制遺伝子deep deletionの頻度といった指標を用いた。これらの指標は、TP53変異型腫瘍と野生型腫瘍の間で比較された。

RNA-seqデータを用いて、TP53変異型腫瘍と野生型腫瘍の間で差次的に発現する遺伝子を同定した。特に、細胞周期進行関連遺伝子群やp53古典的標的遺伝子の発現変化を解析した。miRNA-seqデータからは、miR-34a/b/cなどのp53直接標的miRNAの発現レベルを評価した。RPPAデータからは、サイクリンB1、PCNA、Foxm1 (forkhead box M1) などのタンパク質発現変化を解析した。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) を用いて、TP53変異型腫瘍で活性化または抑制される経路を同定した (Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005)。

TP53変異と相互排他的または共起的に発生するゲノム変化を特定するため、Mutexアルゴリズムを用いた。これにより、TP53と同一経路内で機能する、あるいはTP53とは異なるが協力的な経路で機能するドライバー遺伝子を同定した。

予後予測能の評価のため、多プラットフォーム統合解析から導出されたmutant TP53 RNA signature(CDC20 (cell division cycle 20)、CENPA (centromere protein A)、KIF2C (kinesin family member 2C)、PLK1 (polo like kinase 1) の4遺伝子から構成)を開発した。このシグネチャスコアに基づき、各がん種で患者を層別化し、Cox回帰モデル(Cox regression)を用いて全生存期間 (OS) との関連を解析した。シグネチャの臨床応用を容易にするため、各シグネチャ遺伝子のRNA発現値を、発現レベルが類似し、がん種内での変動が少なく、シグネチャ遺伝子との相関がない対照遺伝子で正規化するアプローチも開発・検証した。

統計解析には、Student t-test、one-way ANOVA、カイ二乗検定、ログランク検定(log-rank)などが用いられ、多重比較補正も実施された。細胞株の機能データとして、H1299 (human lung non-small cell carcinoma cell line) および A549 (human lung adenocarcinoma cell line) などの細胞株(n=12 cells)を用いた大規模機能アッセイデータも統合された。また、in vivoの検証データとして、C57BL/6J マウス(n=8 mice)由来の野生型および変異型p53モデルデータも参照された。