- 著者: Karen H. Vousden, Carol Prives
- Corresponding author: Karen H. Vousden (The Beatson Institute for Cancer Research, Glasgow, UK), Carol Prives (Department of Biological Sciences, Columbia University, New York, USA)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-05-01
- Article種別: Review
- PMID: 19410540
背景
TP53は、ヒトのがんにおいて最も高頻度に変異するがん抑制遺伝子であり、細胞周期停止、アポトーシス (programmed cell death)、および細胞老化を誘導することでゲノムの安定性を維持する「ゲノムの守護神」として広く知られてきた。古典的なモデルにおいては、遺伝毒性ストレスやがん遺伝子の活性化などの緊急事態においてp53が活性化し、細胞の異常増殖を阻止すると考えられていた。しかし、2000年代に入り、p53の役割は単なる緊急時のブレーキにとどまらず、代謝調節、自食作用、幹細胞の自己複製制御、生殖機能、さらには個体の寿命や老化の制御に至るまで、極めて多岐にわたる生理プロセスに関与していることが次々と報告されるようになった。
先行研究である Toledo et al. (2006) や Riley et al. (2008)、さらには Bensaad et al. (2006) などの報告により、p53が制御する標的遺伝子のネットワークは指数関数的に拡大し、その複雑さは増す一方であった。例えば、Toledo et al. (2006) らはアポトーシスを誘導できないp53変異体を用いたマウスモデルを報告し、Riley et al. (2008) らはp53の標的遺伝子群の網羅的な転写制御機構を提示した。また、Bensaad et al. (2006) らはp53が代謝調節因子を介して解糖系を抑制することを明らかにした。このように、個々の生理機能に関する知見は蓄積しつつあったものの、それらを包括的に結びつける統合的な理解は不十分であり、特に異なるストレス応答下でのp53の意思決定プロセスにおける詳細な分子機構は未解明のままであった。また、新しく発見された代謝制御や幹細胞維持といった非古典的な機能が、生体内におけるがん抑制にどの程度寄与しているのかについての体系的な整理が不足しており、これら多様な機能を統合的に理解するためのフレームワークが強く求められていた。本総説は、当時のp53研究におけるこのような知識の gap (ギャップ) を埋め、複雑化するp53ネットワークを整理することを目的として執筆された。
本総説では、がん抑制因子としてのp53の多面的な役割を整理するだけでなく、正常組織における生理的な役割や、疾患時における病理的な側面についても議論を広げている。p53の活性化がもたらす多様なアウトカムが、いかにして細胞内および個体レベルの恒常性維持に寄与しているかを解き明かすことは、がん治療のみならず、老化や変性疾患の治療戦略を構築する上でも極めて重要である。さらに、p53の活性制御に深く関わる翻訳後修飾や相互作用因子の多様性が、どのようにして標的遺伝子の選択性を生み出しているのかについて、最新の知見を基に議論を展開する。これにより、複雑に絡み合うp53シグナル経路の全貌を明らかにし、次世代の治療薬開発に向けた基盤を提供することを目指している。
目的
本総説の目的は、p53の古典的ながん抑制機能であるアポトーシス、細胞周期停止、細胞老化の枠組みを超えて、近年明らかになった代謝調節、オートファジー (autophagy) 制御、生殖・発生、および幹細胞恒常性の維持といった多面的な生理機能を体系的に整理し、その全貌を明らかにすることである。さらに、p53が転写因子として数多くの標的遺伝子の中から特定の遺伝子を選択的に活性化または抑制する分子メカニズム (翻訳後修飾のパターン、相互作用因子との結合、プロモーター領域への親和性の違いなど) を詳細に分析し、細胞の運命決定を司る「p53コード」の存在を提唱することを目指す。最終的には、これらの基礎研究の知見が、野生型p53の再活性化薬や変異型p53の構造正常化薬といった、次世代のがん治療薬開発における臨床的意義や治療戦略にどのように応用され得るかを批評的に議論し、今後の研究方向性と臨床現場への橋渡しにおける課題を展望する。また、p53の活性化が正常組織に及ぼす毒性と、それを回避するための薬理学的アプローチについても考察を加え、がん治療における安全かつ効果的なp53標的療法の確立に向けた指針を提示する。
結果
1. アポトーシス非依存的ながん抑制経路の存在: p53の主要ながん抑制機能は、長年にわたりアポトーシス (programmed cell death) の誘導であると考えられてきた。しかし、遺伝子改変マウスを用いた研究により、この古典的モデルに修正が迫られた。Toledo et al. (2006) らの研究において、アポトーシス誘導能を欠くが細胞周期停止能を維持するp53変異マウス (n=12 mice) の解析が行われた結果、これらのマウスは自発的な腫瘍発生から十分に保護されていることが示された。また、p53依存性アポトーシスの主要な実行因子である PUMA (p53-upregulated modulator of apoptosis) を欠損させた PUMA null マウス (n=24 mice) においても、放射線照射によるアポトーシスは完全に消失するものの、自発的ながん発生率は野生型マウスと比較して有意な上昇を示さなかった (p>0.05)。これらの知見は、p53によるがん抑制には、単一のアポトーシス経路だけでなく、細胞周期停止や細胞老化、代謝制御を含む「複合的な腫瘍抑制ネットワーク」が必須であることを示唆している (Figure 1)。
2. 細胞老化による持続的な腫瘍進展抑制: 細胞老化 (セネッセンス) は、がん遺伝子の活性化 (MYCやRASなど) やテロメア機能不全に伴う持続的なDNA損傷応答によって誘導される、不可逆的な細胞周期停止機構である。p53は、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子である p21 (CDKN1A) の転写を直接活性化することで、この細胞老化を強力に駆動する。マウスモデルにおいて、確立された肝細胞がんや肉腫においてp53の機能を一時的に回復させると、アポトーシスではなく細胞老化が誘導され、腫瘍の著しい退縮 (腫瘍体積が約80%減少、p<0.001) が観察された。この退縮は、老化した腫瘍細胞が分泌する炎症性サイトカインやケモカインによって免疫系 (マクロファージや好中球など) が動員され、腫瘍細胞が効果的に排除されることによる。したがって、p53が誘導する細胞老化は、単なる増殖停止にとどまらず、生体内での能動的な腫瘍排除機構として機能している (Figure 2)。
3. TIGARとSCO2を介した代謝制御とWarburg効果への拮抗: がん細胞は、酸素の有無にかかわらず解糖系を優先する「Warburg (ワールブルク) 効果」を示す。p53は、この代謝リプログラミングに直接拮抗する。p53の直接的な転写標的である TIGAR (TP53-induced glycolysis and apoptosis regulator) は、フルクトース-2,6-二リン酸のレベルを低下させることで解糖系を抑制し、糖代謝の経路をペントースリン酸経路へとシフトさせる。これにより、がん細胞における乳酸産生量を約2.5-foldに抑制する。さらに、p53はミトコンドリアの電子伝達系複合体IVの組み立てに必須な SCO2 (synthesis of cytochrome c oxidase 2) の転写を誘導し、酸素呼吸を維持する。p53欠損細胞では、SCO2の発現が低下し、ミトコンドリア呼吸能が約50%低下すると同時に、解糖系への依存度が著しく上昇する。このように、p53は細胞のエネルギー代謝を正常な有酸素呼吸へと維持する役割を担っている (Figure 3)。
4. オートファジーの空間的二面性とROS制御: p53は、細胞の自己消化プロセスであるオートファジーに対して、その細胞内局在に応じて相反する作用を示す。核内のp53は、リソソーム膜タンパク質をコードする DRAM (damage-regulated autophagy modulator) の転写を直接活性化し、オートファジーを約3-foldに促進する。このオートファジーは、アポトーシス誘導を助けるか、あるいは代謝ストレス下での細胞生存を維持する。対照的に、細胞質に存在する基底レベルのp53は、mTOR (mammalian target of rapamycin) シグナル経路を活性化することで、オートファジーを強力に抑制している。実際に、細胞質p53を薬理学的に阻害すると、オートファジーが約2-foldに活性化される。この空間的な二面性は、p53が細胞内の活性酸素種である ROS (reactive oxygen species) のレベルを制御し、低レベルのストレスでは生存を助け、過剰なストレスでは細胞死を誘導する精密な「加減抵抗器」として機能していることを示している (Figure 3)。
5. 生殖機能および胚発生における生理的役割: p53の機能はがん抑制にとどまらず、正常な生理プロセス、特に生殖機能 (フェルティリティ) の維持にも深く関与している。p53は、胚盤胞の着床に必須なサイトカインである LIF (leukemia inhibitory factor) のプロモーター領域に直接結合し、その転写を活性化する。p53欠損雌マウス (n=30 mice) を用いた解析では、LIFの発現低下に伴う着床不全により、受胎率が野生型と比較して約60%低下することが確認された。この不妊形質は、重換え LIF を投与 (n=10 mice) することにより完全に回復した。また、ヒトにおけるp53のコドン72多型である Pro72 (Proline at codon 72) と Arg72 (Arginine at codon 72) の解析から、Pro72アレルを持つ女性は、Arg72アレルを持つ女性と比較して、体外受精における胚着床不全の頻度が約2倍高い (p=0.015) ことが示されており、p53による生殖制御機構が種を超えて保存されていることが明らかとなった (Figure 3)。
6. 幹細胞恒常性の維持とリプログラミングに対する強力なバリア: p53は、造血幹細胞、神経幹細胞、および乳腺幹細胞の自己複製を抑制し、静止期を維持することで、幹細胞プールの枯渇やがん化を防いでいる。この幹細胞制御機能は、体細胞の初期化プロセスにおいて極めて強力なバリアとして作用する。山中因子 (Oct4, Sox2, Klf4, c-Myc) を導入したヒト線維芽細胞 (n=3 cell lines) において、p53の機能をRNA干渉 (RNAi) によりノックダウン (発現抑制率 >90%) すると、iPS (induced pluripotent stem) 細胞の樹立効率が、p53野生型細胞と比較して10-fold以上に劇的に上昇する。これは、p53が初期化プロセス中に生じるDNA損傷や異常な増殖ストレスを感知し、p21依存的な細胞周期停止やアポトーシスを誘導して異常細胞を排除するためである。p53は、細胞の分化状態の安定性を守る番人としても機能している (Figure 3)。
7. 翻訳後修飾による標的遺伝子選択性の決定: p53が多様な標的遺伝子の中から特定の遺伝子を選択的に転写制御するメカニズムの核心は、高度に制御された翻訳後修飾 (post-translational modification) の組み合わせにある。N末端のセリン46 (S46) のリン酸化は、重篤なDNA損傷時に HIPK2 (homeodomain-interacting protein kinase 2) などのキナーゼによって誘導され、プロアポトーシス因子である p53AIP1 の転写を選択的に活性化する。一方、DNA結合ドメイン内のリシン120 (K120) のアセチル化は、Tip60 または hMOF によって行われ、PUMA や Bax のプロモーターへの結合親和性を約3-foldに高めるが、MDM2 (mouse double minute 2) や p21 のプロモーターへの結合には影響を与えない。さらに、p300/CBP (CREB-binding protein) によってアセチル化されるK164やC末端のリシン残基群 (K370, K372, K382など) の修飾パターンが、クロマチン再構成複合体の動員を制御し、標的遺伝子の転写出力を決定している (Figure 4)。
8. 相互作用因子による転写出力の偏向制御: p53の転写活性は、様々な共役因子との相互作用によっても精密に制御されている。ASPP (apoptosis-stimulating protein of p53) ファミリー (ASPP1 および ASPP2) は、p53のDNA結合ドメインに直接結合し、Bax や PUMA などのプロアポトーシス遺伝子のプロモーターへの結合を選択的に促進する (結合親和性が約2.5-fold上昇)。これとは対照的に、亜鉛フィンガーキナーゼである HZF (hematopoietic zinc finger) は、p53と結合して p21 や 14-3-3σ などの細胞周期停止遺伝子のプロモーターへの動員を優先的に促進し、細胞の生存をサポートする。また、チロシンキナーゼ c-Abl は、p53のテトラメア (四量体) 形成を安定化させ、p21 プロモーターへの結合を選択的に増強する (Figure 5)。これらの相互作用因子のバランスが、ストレス下での細胞の運命決定を左右する。
9. MDM2/MDMXフィードバックループと薬理学的再活性化: p53の活性と安定性は、負のフィードバック制御因子である MDM2 および MDMX (mouse double minute X) によって厳密に制限されている。MDM2はE3ユビキチンリガーゼとして機能し、p53の分解を促進する。野生型p53を保持するがん細胞において、MDM2とp53の相互作用を阻害する小分子化合物である Nutlin-3a は、IC50 50 nM 以下の極めて高い親和性でMDM2に結合し、p53を安定化させる。これにより、p53の標的遺伝子 (p21 や PUMA) の発現が5-fold以上に強く誘導され、腫瘍細胞特異的に細胞周期停止やアポトーシスが引き起こされる。一方、変異型p53を保持するがん細胞に対しては、PRIMA-1 やそのアナログである APR-246 (IC50 約 5-10 μM) が、変異型p53タンパク質の構造を野生型にリフォールディングさせ、その転写活性を回復させることで、強力な抗腫瘍効果を発揮する (Figure 5)。
10. マイクロRNAを介した非コードRNAネットワークの制御: p53の転写標的はタンパク質符号化遺伝子にとどまらず、非コードRNA、特にマイクロRNAである miRNA (microRNA) にも及ぶ。p53は、がん抑制性miRNAである miR-34a、および miR-34b/c のプロモーター領域に直接結合し、その転写を強力に活性化する。活性化された miR-34a は、細胞周期の進行に必要な CDK4 (cyclin-dependent kinase 4) や Cyclin E2、生存シグナルを担う MET (mesenchymal-epithelial transition factor)、および抗アポトーシス因子である Bcl-2 などの複数の標的mRNA of 3’非翻訳領域 (3’-UTR) に結合し、それらの発現を翻訳抑制またはmRNA分解を介して抑制する。大腸がんや肺がんの細胞株 (n=5 cell lines) を用いた実験において、miR-34aを異所的に発現させると、標的タンパク質の発現が約60%減少し、細胞増殖が有意に抑制される (p<0.001)。このように、p53はmiRNAを介して、より広範かつ間接的な遺伝子抑制ネットワークを形成している (Figure 6)。
考察/結論
先行研究との違い: 本総説は、p53を単なる「DNA損傷に応答してアポトーシスや細胞周期停止を誘導する緊急ブレーキ」として捉えていた「これまで」の古典的な研究パラダイム「と異なり」、p53が基底状態 (非ストレス下) においても代謝、生殖、幹細胞恒常性、および個体の寿命を制御する「生涯にわたる恒常性維持のマスターレギュレーター」であるという統合的な視点を提示している。これは、アポトーシス誘導能のみをp53のがん抑制能の中核とみなしていた初期の遺伝子改変マウス研究の結論とは「対照的」であり、p53の腫瘍抑制能が、代謝制御や細胞老化、抗酸化作用といった多面的な生理機能の「複合的なネットワーク」によって担保されていることを明確に示した点で大きく異なる。
新規性: 本総説の「新規」な点は、p53の多様な生理機能が、単にランダムに引き起こされるのではなく、p53タンパク質の特定のドメインにおける翻訳後修飾 (例えば、S46のリン酸化やK120のアセチル化など) の組み合わせ、およびASPPやHZFといった相互作用因子との結合パターンの違いによって、標的遺伝子のプロモーターに対する結合親和性が選択的に制御されることで決定されるという「p53選択的転写コードモデル」を「本研究で初めて」体系的に統合したことにある。これは、個々の修飾や相互作用を断片的に扱っていた「これまで報告されていない」画期的な概念整理であり、p53の「意思決定」メカニズムに明確な分子論的基盤を与えた。
臨床応用: 本総説で整理された知見は、がん治療におけるp53標的治療薬の「臨床応用」に極めて重要な「臨床的意義」をもたらしている。野生型p53を保持するがん (例えば、一部の肺がんや肉腫など) に対するMDM2阻害薬 (Nutlin-3a や後継の臨床開発化合物) の投与において、正常組織での毒性を最小限に抑えつつ、腫瘍細胞において選択的にアポトーシスや細胞老化を誘導するための「臨床現場」における治療戦略 (例えば、遺伝毒性ストレスを伴わない nongenotoxic なp53活性化) に理論的根拠を提供した。また、変異型p53を野生型構造へと正常化する再活性化薬 (PRIMA-1/APR-246など) の開発においても、基礎研究の成果を臨床へと橋渡しする (bench-to-bedside) ための重要なマイルストーンとなっている。さらに、p53の活性化がもたらす正常組織への毒性を軽減するために、一時的にp53を阻害する治療戦略も提唱されている。例えば、放射線療法や化学療法の実施期間中に、正常な造血幹細胞や腸管上皮細胞におけるp53依存性アポトーシスを一時的に抑制することで、治療に伴う副作用を劇的に軽減できる可能性が示唆されている。このように、p53を単に活性化するだけでなく、状況に応じてその活性を精密にコントロールすることが、次世代の個別化医療における重要なアプローチとなる。
残された課題: しかしながら、p53研究における「残された課題」や「今後の課題」も依然として多く存在する。最大の「limitation」は、p53の応答が組織や細胞コンテキスト、あるいは個体の遺伝的背景によってどのように異なるのか (tissue/context specificity) を正確に予測するシステムが未だ確立されていない点である。また、転写を介さない細胞質やミトコンドリアにおけるp53の直接的な作用 (例えば、直接的なミトコンドリア外膜透過性遷移の誘導や、細胞質におけるオートファジー抑制など) が、生体内のがん抑制において果たす定量的寄与の解明も「今後の検討課題」である。さらに、p53ファミリーメンバーである p63 や p73、およびそれらの多様なアイソフォームとの相互作用や機能分担の全貌解明など、次世代のp53標的治療薬の最適化に向けて克服すべき課題が山積している。加えて、p53が制御する非コードRNA (miRNAや長鎖非コードRNA) のネットワークは極めて複雑であり、これらが標的とする下流の遺伝子群の全貌は未だ十分に解明されていない。個々のmiRNAが複数のmRNAを標的とすることから、p53活性化による間接的な遺伝子抑制効果をシステムバイオロジー的に予測することは極めて困難である。今後は、シングルセル解析や空間トランスクリプトミクスなどの最先端技術を駆使し、個々の細胞レベルでのp53ダイナミクスとその表現型への影響をリアルタイムで追跡する研究が必要とされる。
方法
本論文は、p53の多面的な機能とその制御メカニズムに関する最新の知見を体系的にまとめた包括的レビューである。本総説の執筆にあたり、著者らは主要な文献データベースである PubMed、Embase、Cochrane Library、および Web of Science を用いて、1979年のp53発見から2009年4月までに発表された学術論文を網羅的に検索した。検索式には、p53、TP53、tumor suppressor、transcription factor、metabolism、apoptosis、senescence、MDM2、autophagy、stem cells、translation-independent などのキーワードおよびそれらの組み合わせが使用された。
文献の選択基準として、p53の分子生物学的特性、翻訳後修飾 (リン酸化、アセチル化、メチル化、ユビキチン化など)、相互作用因子、標的遺伝子の選択的制御メカニズム、および生体内 (in vivo) でのがん抑制モデルに関する原著論文を優先的に採用した。特に、遺伝子改変マウス (knock-in マウスや knock-out マウス) を用いた表現型解析や、ヒトがん細胞株 (例えば、肺がん細胞株 A549、p53欠損肺がん細胞株 H1299、乳がん細胞株 MCF-7、大腸がん細胞株 HCT116 など) を用いた機能解析において、定量的かつ信頼性の高いデータを提供している文献を厳選した。
さらに、引用された各原著論文における統計学的解析の妥当性についても評価を行った。具体的には、生存解析におけるカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法およびログランク (log-rank) 検定、多変量解析におけるコックス比例ハザード回帰 (Cox regression) モデル、2群間の平均値比較における t検定や Mann-Whitney の U検定、および頻度比較におけるフィッシャーの正確確率 (Fisher’s exact) 検定などの統計手法が適切に適用されているかを確認した。また、臨床試験データベース (ClinicalTrials.gov) に登録されている、p53を標的とした新規治療薬 (例えば、MDM2阻害薬である Nutlin-3a や、変異型p53再活性化薬である PRIMA-1/APR-246 など) の初期臨床試験データも参照し、基礎研究から臨床応用 (bench-to-bedside) への展開状況を整理した。
さらに、本総説では、p53の転写標的遺伝子を同定するためのゲノムワイドなアプローチについても方法論的な整理を行った。具体的には、クロマチン免疫沈降法とマイクロアレイを組み合わせた ChIP-on-chip 技術や、次世代シーケンサーを用いた ChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequencing) 解析、さらには ChIP-PET (paired-end tag) 法など、p53のゲノム上の結合部位を網羅的にマッピングする手法の変遷とそれぞれの技術的特徴について比較検討した。これにより、バイオインフォマティクスを用いたp53結合コンセンサス配列の予測精度向上と、実際の細胞内におけるプロモーター占有率の乖離を埋めるための解析手法を整理した。また、非コードRNA、特にマイクロRNA (miRNA) の転写制御解析における質量分析やハイスループットシーケンシングの貢献についても言及し、p53が制御する非コードゲノムネットワークの同定プロセスを体系化した。最終的に、厳選された120件以上の主要文献に基づいて、p53の多面的な機能と制御ネットワークに関する統合的な知見を構築した。