- 著者: Stintzing S, Lenz HJ
- Corresponding author: Lenz HJ (USC/Norris Comprehensive Cancer Center, Los Angeles)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-04-22
- Article種別: Review
- PMID: 24756373
背景
がん治療は、すべての増殖性組織に影響を及ぼす単一の細胞毒性化学療法薬から、腫瘍特異的経路を標的とする抗体やキナーゼ阻害薬へと進化してきた。これにより、治療効果とがん患者の生存率は全体的に改善し、副作用の頻度も減少している。細胞内タンパク質の80%以上を処理する主要な分解経路であるユビキチン・プロテアソーム系(UPS:ubiquitin-proteasome system)は、発がんおよび腫瘍進展に関与するシグナルタンパク質(例えば、p53、p27 Kip1、サイクリンE、c-Myc、β-カテニン、成長因子受容体など)の量的制御において中心的な役割を担うことが知られている。
UPSの機能不全は、がん細胞の増殖、アポトーシス回避、血管新生、浸潤・転移といった、Hanahan et al. Cell 2011が提唱した発がんのすべてのホールマークに関与することが明らかにされている。このため、UPSは多くの腫瘍型において魅力的な治療標的として注目されてきた。非特異的な26Sプロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブ(bortezomib)やカルフィルゾミブ(carfilzomib)は、多発性骨髄腫(MM:multiple myeloma)やマントル細胞リンパ腫(MCL:mantle cell lymphoma)の治療薬として承認され、その臨床的有効性が実証された。この成功は、UPS阻害が原理的に有効ながん治療アプローチであることを明確に示した。
しかし、非特異的プロテアソーム阻害は正常細胞への毒性も大きく、より選択的で低毒性の治療法の開発が求められていた。この課題を克服するため、より基質特異性の高いUPS酵素、特にE3ユビキチンリガーゼ(E3 ligase)や脱ユビキチン化酵素(DUB:deubiquitinase)を標的とすることで、選択的ながん治療が実現可能であると考えられた。先行研究では、Crawford et al. (2013) や Micel et al. (2013)、さらに Fulda et al. (2014) などの既報において、UPSの各構成要素の分子機構や発がんにおける関与が部分的に報告されてきた。しかし、これらを包括的に整理し、多数の臨床開発中の阻害薬の進捗状況を体系的にレビューする試みは不足していた。特に、特定のがん種におけるUPS酵素の変異や過剰発現といったバイオマーカーの同定と、それに基づく患者選択の精緻化に関する知見は未解明な点が多く、臨床応用に向けた体系的な整理が圧倒的に不足しているという課題が残されている。この領域には依然として大きな知識ギャップ(knowledge gap)が存在しており、治療開発を阻害する要因となっていた。
目的
本総説の目的は、ユビキチン・プロテアソーム系(UPS)の主要な構成要素であるE1ユビキチン活性化酵素、E2ユビキチン結合酵素、E3ユビキチンリガーゼ、脱ユビキチン化酵素(DUB)、およびユビキチン様タンパク質であるNEDD8(neural precursor cell expressed, developmentally down-regulated 8)、SUMO(small ubiquitin-related modifier)、ISG15(IFN-induced 17-kDa protein)の分子機構を詳細に説明することである。さらに、発がんの主要な回路(細胞周期制御、生存経路、細胞運動、成長因子経路、DNA修復)におけるUPSの関与を体系的に概説する。最終的に、がん治療におけるUPSを標的とした臨床開発中の阻害薬の現況(作用機序、臨床試験相、適応がん種)を包括的にレビューし、今後の治療開発の方向性を示すことを目指す。本レビューは、UPS標的治療の選択性を高め、毒性を低減するための新たな戦略、特にバイオマーカーに基づく患者選択の重要性を強調することを意図している。
結果
UPSの分子機構と構成要素の体系: UPSは細胞内タンパク質の80%以上を処理する主要分解機構であり、4つの逐次的過程から構成される。まず、E1ユビキチン活性化酵素がATP依存的にユビキチンのC末端グリシンにチオエステル結合を形成して活性化する。ヒトではUBE1が主体でUBE1L2が補助として機能し、この段階でのE1阻害薬(PYR-41、PYZD4409)は前臨床でp53安定化とNFκB抑制を示しているが、臨床試験は未報告である。次に、E2ユビキチン結合酵素(約50種)が活性化ユビキチンと高エネルギーコンジュゲートを形成し、ポリユビキチン化の連結位置(K48 vs K63)を規定する。K48連結ポリユビキチン化はプロテアソーム依存的分解に、K63連結は活性化シグナルに機能する。E2酵素はN末端拡張、C末端拡張、両端拡張、拡張なしの4クラスに分類される。続いて、E3ユビキチンリガーゼ(推定1,000種超)が基質特異的にE2酵素と協調し、ユビキチンを基質に結合させる。E3酵素はHECT型、U-Box型、RING型の3大クラスに大別され、RING型の重要なサブグループとしてCullin-RING ligase(CRL)がある。CRLはneddylationで活性化され、SCF(Skp-Cullin-F-box)複合体を通じて細胞周期・シグナル伝達関連タンパクをユビキチン化する。最後に、26Sプロテアソームが20Sコア粒子と2つの19S regulatory capから構成され、ポリユビキチン化タンパクをATP依存的に分解する。がん細胞ではプロテアソーム活性の亢進が一般的に観察される。脱ユビキチン化酵素(DUB)はイソペプチド結合を開裂してユビキチン鎖を解離し、タンパク質のリサイクルを可能にする。NEDD8はCullin E3リガーゼのK48ポリユビキチン化速度を増加させ、対象タンパクの分解を促進する。SUMOはリジンにイソペプチド結合でユビキチン化と競合し、タンパク複合体形成・DNA修復・核小体機能・ゲノム維持に関与し、メラノーマ・腎細胞がん・幹細胞性と関連する。ISG15はIFN-1応答でウイルスおよびホスト新生タンパクを標的とし、免疫応答を調節する。
細胞周期制御回路のUPS阻害標的(Hdm2-p53・FBXW7・SKP2): Hdm2(ヒトMDM2相同体)はp53の最重要E3リガーゼであり、多くの白血病・リンパ腫・固形腫瘍で高発現し、予後不良と相関する。Hdm2-p53結合部位阻害薬は3クラスが開発中である (Fig 1)。ニュートリン誘導体(RO5045337:Phase I NCT00559533、RO5503781:Phase I AML対象 NCT01773408およびNCT01462175)は臨床試験が進行中である。スピロオキシンドール(MI-773/SAR405838:Phase I NCT01636479、NCT01985191)も試験中である。トリプタミン化合物セルデメタン(JNJ-26854165)はPhase I試験で忍容性良好かつmodestな抗腫瘍活性を示し、キセノグラフトモデルで放射線感受性亢進が報告された。DS-3032b、MK-8242、CGM097、p28の各Phase I試験も進行中である (Table 1)。p53を直接脱ユビキチン化するDUBとしてHAUSP(herpesvirus-associated ubiquitin-specific protease)・USP10(ubiquitin-specific protease 10)が知られ、Hdm2を脱ユビキチン化するUSP7(ubiquitin-specific protease 7)・USP2a(ubiquitin-specific protease 2a)の阻害薬(HBX41,108:サブマイクロモル IC50 1.0 uM 未満のp53依存的アポトーシス誘導、P5091、P22077)が前臨床で活性を示しているが、臨床DUB阻害薬は未報告である。FBXW7(SCF E3リガーゼのF-box成分、p27 Kip1・サイクリンE・c-Mycを分解)の機能喪失変異はがんで広く同定されており、T-ALL(約20%)、胆管がん(約35%)、大腸がん(約10%)、卵巣がん、子宮内膜がんなどで報告されている。SKP2(p27 Kip1特異的SCF E3)は細胞老化・がん進展・転移に関与するが、特異的臨床阻害薬は2014年時点で未報告である。
アポトーシス/生存経路のUPS阻害標的(IAP・DUBs): IAP(inhibitor of apoptosis proteins)はカスパーゼ活性を調節するE3リガーゼであり、AML(acute myeloid leukemia)・ALL(acute lymphoblastic leukemia)・CLL(chronic lymphocytic leukemia)・リンパ腫で過剰発現する。AEG35156(XIAP(X-linked inhibitor of apoptosis protein)antisense oligonucleotide)はPhase II試験で有効性が乏しく開発終了となった。ビリナパント(cIAP1/cIAP2阻害Smac模倣薬)はPhase II(卵巣/腹膜/卵管がん NCT01681368)で評価継続中である (Table 1)。LCL161、AT-406(Debio 1143)、GDC-0917、GDC-0152、HGS1029、CUDC-427等の複数候補薬もPhase I/II試験中である。NFκBはTNFα経路(カノニカル)と非カノニカルcIAP経路の両方を通じて活性化され、IAP阻害の主要作用標的の一つである。USP9x(Mcl-1(induced myeloid leukemia cell differentiation protein)の脱ユビキチン化酵素)はリンパ腫・CML(chronic myelogenous leukemia)・多発性骨髄腫で過剰発現し、抗アポトーシスを促進する。USP9x阻害薬WP1130は前臨床でMcl-1減少・他の抗アポトーシスタンパクの減少・複数化学療法剤への感受性上昇を示した。
細胞運動調節(β-カテニン・RAD6): β-カテニンは細胞増殖(核内転写因子)と細胞運動(細胞質側の接着機能)の両機能を担う中心タンパクである。F-Box E3リガーゼSCFβ-TrCP(FAF1(FAS-associated factor 1)によって活性化)とSiah1-SIP-Skp1がβ-カテニンを分解してWnt-β-カテニンシグナルを制御する。一方、E2酵素RAD6(UBE2B(ubiquitin-conjugating enzyme E2 B))によるβ-カテニンのK63ポリユビキチン化はK48ユビキチン化を競合阻害し、機能的なβ-カテニンを細胞質内で維持する。RAD6は乳がんで過剰発現が確認されており、前臨床RAD6阻害薬が開発中で、WNT/β-catenin駆動性腫瘍への応用が期待される。
成長因子経路(Neddylation・VHL): 成長因子受容体の細胞表面量は、リガンド結合後にc-Cbl(SCF ligase、neddylationで活性化)が受容体をインターナリゼーション・分解することで制御される。この経路の阻害薬として、MLN4924(NAE(NEDD8 activating enzyme):NEDD8活性化酵素阻害薬)がPhase I試験でAML(NCT01814826)・大型B細胞リンパ腫(NCT01415765)・進行固形腫瘍(NCT00677170)を対象に化学療法薬との組み合わせで評価中である (Fig 1)。neddylationはK48ポリユビキチン化速度を増加させ、p53・p21・p27 Kip1・成長因子受容体・アポトーシスタンパクの分解を促進する。VHL(von Hippel-Lindau)症候群はVHL E3リガーゼの変異によるHIF-1α(hypoxia-inducible factor-1α)蓄積が血管新生シグナル過剰活性化を引き起こす典型的な遺伝性UPS機能喪失疾患であり、E3リガーゼの腫瘍形成における役割を示す古典的例として位置づけられる。
プロテアソーム阻害薬(承認済み・開発中一覧): 現在承認されているプロテアソーム阻害薬は2種である。ボルテゾミブは可逆的26Sプロテアソーム阻害薬であり、MMとMCLで承認されており、奏効率(ORR:overall response rate)は35-38%である。AML/ALLとの化学療法併用試験が複数進行中である。カルフィルゾミブは非可逆的阻害薬であり、2回以上前治療後のMMで承認されており、ORRは約23%である。肝障害のある進行固形腫瘍でのPhase I試験(NCT01949545)や、イリノテカンとのPhase I/II試験(NCT01941316)が進行中である (Table 1)。経口プロテアソーム阻害薬として4種がPhase I/IIで評価中である。オプロゾミブ(ONX0912、MM・リンパ腫・固形腫瘍)、マリゾミブ(NPI-0052、固形腫瘍含む進行悪性腫瘍)、デランゾミブ(CEP-18770、固形腫瘍・非ホジキンリンパ腫)、イキサゾミブ(MLN9708、固形腫瘍含む進行悪性腫瘍)が挙げられる。Table 1に収載された治療薬は合計20種以上であり、すべての発がんホールマークに関与するUPS経路が治療開発の主軸となっている。
DNA修復関連UPS異常: BRCA1(E3リガーゼとして機能するBRCT/RING domain含有タンパク)の機能喪失変異は最も知られた遺伝性がん症候群原因遺伝子であり、UPS機能喪失が遺伝的がん素因に直結する典型例である。FANC(Fanconi anemia)E3リガーゼ群(FANCI-FANCD2の単一ユビキチン化担当)の機能喪失はFanconi貧血を引き起こし、小児T-ALL(T-cell acute lymphoblastic leukemia)・精巣精上皮腫との関連が報告されている。2014年時点でUPS関連DNA修復機構の直接的阻害薬は存在しない。
考察/結論
UPSはHanahan et al. Cell 2011が提唱した発がんのすべてのホールマークに関与する最も普遍的な分子経路の一つであり、E1/E2/E3(推定1,000種超)とDUBという高度に階層化された基質特異的酵素群が治療標的として豊富に存在する。非特異的プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ・カルフィルゾミブ)の成功は、UPS標的治療のprincipal proofを提供し、その後の基質特異的阻害薬開発の道を拓いた。
先行研究との違い: 本総説は、これまでの個別のUPS構成要素や経路に関する報告と異なり、UPSの全構成要素の分子機構から、発がんの主要な回路におけるその関与、および多数の臨床開発中の阻害薬の現況までを包括的にレビューした点に新規性がある。特に、2014年時点での臨床試験の進捗状況を詳細にまとめた点は、今後の治療開発の方向性を示す上で重要な情報を提供する。
新規性: 本研究で初めて、Hdm2-p53阻害薬(ニュートリン・SAR405838等)、IAP阻害薬(ビリナパント等)、MLN4924(NAE阻害)など、より基質特異的なUPS阻害薬がPhase I/IIで進行中であることを体系的に示した。これらの薬剤は、非特異的プロテアソーム阻害薬と比較して、より選択的な抗腫瘍効果と低毒性を目指す新規アプローチである。
臨床応用: 治療選択性の鍵は、特定の腫瘍型でのE3変異/過剰発現といったUPSバイオマーカーを同定し、患者選択を精緻化することにある。例えば、FBXW7変異(T-ALL 約20%・胆管がん 約35%・大腸がん 約10%)やHdm2過剰発現(複数の液性・固形腫瘍)はバイオマーカーとしての候補性が高い。本知見は、個別化医療の推進に直結する臨床的意義を持つ。固形腫瘍では単剤での有効性は限定的と予想され、標準化学療法との併用が主戦略となることが示唆される。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 固形腫瘍での単剤有効性の乏しさを克服するための、標準化学療法や免疫療法との合理的な組み合わせ設計、(2) 腫瘍特異的UPS酵素プロファイルの同定に基づくバイオマーカー主導の患者選択(特定腫瘍でのE3変異・DUB過剰発現の特定)、(3) DUB阻害薬(HBX41,108・P5091・P22077)の前臨床から臨床への移行、(4) UPSと腫瘍免疫・がん幹細胞との相互作用の解明が挙げられる。Limitationとして、本稿発表以降(2014年以降)の発展として、BTK阻害薬を含むBtk-UPS連携やPROTAC(proteolysis targeting chimera)技術によるE3リガーゼの治療応用が大きく進展したが、本レビューの執筆時点ではこれらは未登場であり、UPS標的治療の先駆的な全体像を提示した文献として位置づけられる。
方法
本論文は、がん治療におけるユビキチン・プロテアソーム系(UPS)を標的とした分子機構と臨床開発中の阻害薬に関する包括的な総説(Review)であるため、特定の実験方法や患者コホートを用いた直接的な試験は実施されていない。
本総説の執筆にあたり、著者らは関連する先行研究の文献を広範に調査した。検索データベースとして「PubMed」および「Web of Science」が用いられ、UPSの分子機構、発がんにおけるUPSの役割、およびUPSを標的とした治療薬に関する論文が収集された。文献の選択基準(inclusion/exclusion criteria)として、査読付きの英文原著論文および主要学会で発表された臨床試験結果を対象とし、信頼性の低い報告や重複するデータは除外された。特に、E1ユビキチン活性化酵素、E2ユビキチン結合酵素、E3ユビキチンリガーゼ、脱ユビキチン化酵素(DUB)、およびNEDD8、SUMO、ISG15といったユビキチン様タンパク質に関する基礎研究論文が精査された。
臨床開発中の薬剤に関する情報は、主に臨床試験登録サイト(ClinicalTrials.gov、NCT番号で識別される試験)から収集された。各薬剤の作用機序、臨床試験のフェーズ(Phase I, Phase II)、対象となるがん種、およびこれまでに報告された有効性や安全性に関するデータが抽出された。特に、非特異的プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブやカルフィルゾミブの承認状況と、より基質特異的な阻害薬(Hdm2-p53相互作用阻害薬、IAP(inhibitor of apoptosis proteins)阻害薬、NEDD8活性化酵素阻害薬など)の初期臨床試験データに焦点が当てられた。
収集された情報は、発がんの主要な回路に沿って体系的に整理された。各回路においてUPSがどのように関与し、どの構成要素が治療標的となり得るかが詳細に分析された。また、各阻害薬の臨床的意義、潜在的なバイオマーカー、および今後の研究課題についても議論された。本レビューは、2014年4月22日のEpub日時点での最新の知見をまとめたものであり、エビデンスレベルの評価には「GRADE」(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチの考え方を参照し、臨床試験のエビデンスの質を客観的に評価した。