- 著者: Schoenfeld AJ, Bandlamudi C, Lavery JA, Montecalvo J, Namakydoust A, Rizvi H, Egger J, Concepcion CP, Paul S, Arcila ME, Daneshbod Y, Chang J, Sauter JL, Beras A, Ladanyi M, Jacks T, Rudin CM, Taylor BS, Donoghue MTA, Heller G, Hellmann MD, Rekhtman N, Riely GJ
- Corresponding author: Gregory J. Riely (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York); Natasha Rekhtman (同)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-07-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 32709715
背景
SMARCA4 (BRG1) は、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の触媒サブユニットをコードするATPaseであり、遺伝子転写調節に中心的な役割を果たす。SWI/SNF複合体のゲノム異常は全固形腫瘍の約20%に認められ、肺癌ではSMARCA4がSWI/SNF複合体内で最も頻度の高い変異遺伝子であることが知られている。SMARCA4変異は肺癌の予後不良と関連することが複数の研究で示されてきたが、その臨床的意義、特に他の主要なゲノム異常(例えばSTK11、KEAP1、KRASなど)との関係性や、変異クラス別の詳細な臨床的影響については十分に解明されていなかった。
近年、KRAS変異肺癌において、STK11、KEAP1、TP53との共変異サブグループが同定され、これらのサブグループ間で免疫チェックポイント阻害薬(ICI)への応答性や予後が大きく異なることがSkoulidis et al. CancerDiscov 2015やArbour et al. ClinCancerRes 2018などの研究で明らかになった。SMARCA4変異はKRAS変異腫瘍に共存することが以前から報告されていたが、これらの共変異の文脈におけるSMARCA4の独立した予後的意義は依然として不明なままであった。また、SMARCA4欠損卵巣小細胞癌(SCCOHT)では免疫療法への感受性が報告されていたものの、非小細胞肺癌(NSCLC)におけるSMARCA4変異とICI応答に関する大規模なデータは限られており、この知識ギャップが残されていた。
さらに、SMARCA4変異がタンパク質発現にどのように影響し、それが臨床転帰にどう関連するのかについても、系統的な解析が不足していた。SMARCA4変異の多様性が、その機能喪失の程度や、ひいては治療応答に影響を与える可能性が示唆されていたが、これを裏付ける大規模な臨床データは存在しなかった。本研究は、これらの未解明な点を包括的に解析し、SMARCA4変異のゲノムランドスケープ、タンパク質発現との関係、および転移性NSCLCにおける予後的・予測的意義を明らかにすることを目的とした。特に、ICIへの応答に関する初の大規模系統的解析を行うことで、SMARCA4変異が新たなバイオマーカーとなり得るかを探る必要があった。本研究は、SMARCA4変異の予後および治療応答への影響について、これまで報告が不足していた詳細な情報を提供することを目指す。
目的
本研究の目的は、非小細胞肺癌(NSCLC)におけるSMARCA4変異のゲノムランドスケープを包括的に解析することである。具体的には、SMARCA4変異のクラス分類(トランケーティング変異とミスセンス変異)、他のゲノム異常との共変異パターン、およびSMARCA4タンパク質発現との関係性を詳細に評価する。
さらに、転移性NSCLC患者におけるSMARCA4変異の予後的意義および免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療に対する予測的意義を評価することを目的とする。特に、SMARCA4変異クラスがICIへの応答に与える影響について、大規模な患者コホートを用いて系統的な解析を行い、SMARCA4変異が新たなバイオマーマーとなり得るかを探る。これにより、SMARCA4変異を有するNSCLC患者の層別化と個別化治療戦略の確立に貢献することを目指す。本研究は、SMARCA4変異の臨床的意義に関する知識ギャップを埋め、患者ケアの改善に資する新たな知見を提供することを目指す。
結果
SMARCA4変異の頻度とクラス分類: 4,813例のNSCLC患者のうち、407例(8%)にSMARCA4変異が同定された。これらの変異は、OncoKBの分類に基づき、2つの主要なクラスに分類された。クラス1変異(トランケーティング変異、融合、ホモ接合性欠失)は212例(全体の4%、SMARCA4変異全体の52%)に認められた。一方、クラス2変異(ミスセンス変異)は195例(全体の4%、SMARCA4変異全体の48%)に認められた (Fig 1)。
SMARCA4タンパク質発現と変異クラスの関係: SMARCA4タンパク質発現の免疫組織化学(IHC)評価は86例のSMARCA4変異腫瘍で実施された。このうち、クラス1変異腫瘍は62例、クラス2変異腫瘍は24例であった。その結果、SMARCA4タンパク質発現の消失は50例で認められ、これらすべてがクラス1変異腫瘍であった。具体的には、クラス1変異腫瘍の81%でタンパク質発現の消失が確認されたのに対し、クラス2変異腫瘍では0%であった(P < 0.001)。この結果は、クラス1変異がBRG1タンパク質の完全な消失を高頻度で引き起こす一方で、クラス2ミスセンス変異ではタンパク質発現が保持されることを明確に示した (Fig 1)。
SMARCA4変異腫瘍における共変異ゲノムランドスケープ: SMARCA4変異腫瘍(n=407 patients)とSMARCA4野生型腫瘍(n=4,406 patients)のゲノムプロファイルを比較した。SMARCA4変異腫瘍で最も頻繁に共存する変異は、TP53(56%)、KEAP1(41%)、STK11(39%)、KRAS(36%)であった。SMARCA4変異腫瘍は、SMARCA4野生型と比較して、STK11変異(P < 0.001, q < 0.001)およびKEAP1変異(P < 0.001, q < 0.001)と有意に共存する傾向が認められた。対照的に、EGFR変異はSMARCA4野生型腫瘍で有意に多く認められた(P < 0.001, q < 0.001)。SMARCA4変異は、KRAS、STK11、KEAP1変異のいずれも伴わないケースが38%存在した。変異クラス別にみると、クラス1変異ではSTK11、NKX2-1、KEAP1変異がクラス2変異よりも有意に多く(STK11: P < 0.001, q = 0.08; NKX2-1: P = 0.002, q = 0.19; KEAP1: P = 0.01, q = 0.34)、クラス2変異ではEGFR変異が比較的多かった(P = 0.004, q = 0.19) (Fig 2)。
SMARCA4変異クラスと予後への影響: 転移性NSCLC患者において、クラス1またはクラス2のSMARCA4変異は、SMARCA4野生型と比較して全生存期間(OS)が有意に短縮することが示された(P < 0.001)。特に、クラス1変異は最も不良な予後と関連していた。Cox多変量解析では、年齢、性別、喫煙歴、組織型、TMB、STK11およびKEAP1変異で補正後も、SMARCA4変異は独立した不良予後因子であることが確認された。クラス2変異のハザード比(HR)は2.01 (95% CI 1.58-2.55)、クラス1変異のHRは1.59 (95% CI 1.25-2.04) であった (Fig 3A)。
KRAS変異を有する患者374例に限定した解析でも、SMARCA4クラス1変異(HR 1.59, 95% CI 1.04-2.41, p<0.001)およびクラス2変異(HR 2.75, 95% CI 1.84-4.11, p<0.001)はともに独立した不良予後因子であった。さらに、STK11、KEAP1、SMARCA4の3つの遺伝子全てに変異を有する患者群では、OSが最も短くなることが示された(P < 0.001) (Fig 3B)。
SMARCA4変異と免疫チェックポイント阻害薬(ICI)への応答: SMARCA4変異を有する患者において、ICI治療の実施はICI非実施と比較してOSの有意な改善と関連していた(HR 0.67, 95% CI 0.48-0.92, P = 0.01)。SMARCA4変異腫瘍は、SMARCA4野生型腫瘍と比較して腫瘍変異負荷(TMB)が高い傾向にあった(P < 0.001)。しかし、PD-L1発現は低発現または陰性である傾向が強かった(P = 0.03)。ICI治療を受けた患者における奏効率(ORR)を評価したところ、クラス1変異腫瘍はクラス2変異腫瘍およびSMARCA4野生型腫瘍と比較して、有意に高いORRを示した(P = 0.027)。しかし、無増悪生存期間(PFS)およびOSにおいては、SMARCA4変異クラス間での有意な差は認められなかった(PFS: P = 0.74; OS: P = 0.35) (Fig 4)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、非小細胞肺癌(NSCLC)におけるSMARCA4変異の最大規模かつ最初の系統的解析であり、SMARCA4変異がそのクラス(クラス1:トランケーティング変異 vs. クラス2:ミスセンス変異)に応じて、タンパク質発現、共変異プロファイル、予後、および免疫チェックポイント阻害薬(ICI)への応答において異なる臨床的意義を持つことを実証した。これまでの研究ではSMARCA4変異の予後不良性が報告されてきたが、本研究はSMARCA4変異を2つの異なるクラスに分類し、それぞれのクラスが異なる臨床的特徴を持つことを初めて示した点で先行研究と異なる。特に、クラス1変異が最も不良な予後(最短のOS)と関連しながらも、ICIに対する奏効率(ORR)が最も高いという逆説的な知見は、これまでのSMARCA4変異に関する理解と対照的である。この結果は、PD-L1低発現にもかかわらずICI奏効性が高いことから、SMARCA4変異状態がPD-L1発現や腫瘍変異負荷(TMB)を補完する新たな予測バイオマーカーとなり得ることを強く示唆する。腎細胞癌におけるPBRM1変異がICI応答改善と関連するというMiao et al. Science 2018の知見との類似性も興味深い。
新規性: 本研究で初めて、SMARCA4変異がSTK11およびKEAP1変異と共存して相加的に予後を悪化させることを明らかにした。また、SMARCA4変異がKRAS変異腫瘍においても独立した予後因子であることを確認した。さらに、SMARCA4クラス1変異がBRG1タンパク質の完全な消失と強く関連し、これがICI高奏効性につながる可能性を示唆した点は新規である。SMARCA4はSWI/SNF複合体のATPaseサブユニットとして転写調節やクロマチン構造維持に中心的な役割を担っており、その欠損が腫瘍免疫微小環境を変化させ、ICI感受性を高める可能性が考えられる。
臨床応用: 本知見は、SMARCA4変異を有するNSCLC患者の層別化と治療戦略の最適化に直結する臨床的意義を持つ。SMARCA4、STK11、KEAP1の3遺伝子を包括したゲノムプロファイリングは、患者の予後層別化に非常に有用である。特に、SMARCA4クラス1変異患者は、PD-L1発現が低い場合でもICI優先戦略が合理的な選択肢となる可能性がある。これは、現在のPD-L1発現に基づくICI適応基準を補完し、より多くの患者にICIの恩恵をもたらす可能性を秘めている。
残された課題: 今後の検討課題として、SMARCA4変異を標的とした治療法の開発が挙げられる。SMARCA2合成致死、CDK4/6阻害(Xue et al. NatCommun 2019)、EZH2阻害、ATR阻害(Deribe et al. NatMed 2018)など、SMARCA4欠損腫瘍に対する前臨床での治療標的が報告されており、これらの知見を臨床試験へ発展させる必要がある。また、SMARCA4変異とICI応答の関係を前向き臨床試験で検証し、その予測的価値をさらに確立することが重要である。本研究は単一施設の後ろ向き解析であるというlimitationがあるため、結果の一般化には多施設共同研究による検証が不可欠である。さらに、SMARCA4変異の接合性がタンパク質発現および臨床転帰に与える影響についても、今後の研究で詳細な解析が求められる。
方法
本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSK) で治療を受け、MSK-IMPACT次世代シーケンシング(NGS)パネル(341、410、または468遺伝子パネル)によるゲノム解析を実施した4,813例のNSCLC患者を対象とした後ろ向き解析である。データロックは2019年4月1日に行われた。
SMARCA4変異の分類: SMARCA4変異は、OncoKB(Chakravarty et al. JCOPrecisOncol 2017)の分類に基づき、以下の2つのクラスに分類された。
- クラス1変異: タンパク質発現の消失を伴う可能性が高いトランケーティング変異、遺伝子融合、およびホモ接合性欠失。合計212例がこのクラスに分類された。
- クラス2変異: ミスセンス変異および意義不明のバリアント。合計195例がこのクラスに分類された。 クラス1とクラス2の変異が同時に存在する腫瘍は、クラス1に分類された。
タンパク質発現の評価: SMARCA4タンパク質の発現は、免疫組織化学(IHC)法を用いて評価された。IHC解析は、十分な組織サンプルが得られた86例のSMARCA4変異腫瘍(クラス1変異62例、クラス2変異24例)で実施された。PD-L1発現は、主にE1L3N抗体を用いて腫瘍細胞の膜染色率としてスコア化された。
ゲノム解析と共変異の評価: MSK-IMPACTアッセイ(Cheng et al. JMolDiagn 2015)を用いて体細胞変異が同定された。SMARCA4変異の有無による遺伝子変異の分布と濃縮が評価され、Fisher’s exact testを用いて統計的有意性を判定し、P値<0.05かつFDR q値<0.10を統計的有意性とした。腫瘍変異負荷(TMB)は、各MSK-IMPACTパネル(341、410、468遺伝子)のバージョンに合わせて正規化され、変異数/メガベース(Mb)として報告された(341遺伝子パネルで0.897 Mb、410遺伝子パネルで1.017 Mb、468遺伝子パネルで1.139 Mb)。
臨床データ収集と統計解析: 転移性NSCLC患者の医療記録、薬局記録、病理記録がレビューされ、人口統計学的データ、病理学的データ、治療データが収集された。SMARCA4野生型NSCLC患者のランダムサンプルが比較対照群として使用された。全生存期間(OS)は、転移診断日から死亡日までと定義され、Kaplan-Meier法とCox比例ハザードモデルを用いて解析された。Coxモデルは、年齢、性別、喫煙歴、組織型、TMB、STK11およびKEAP1変異で補正された。
免疫療法応答解析: 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療を受けたSMARCA4変異患者のコホートにおいて、傾向スコアを用いてICI受療群と非受療群のOSが比較された。ICI治療を受けた患者における奏効率(ORR、RECIST 1.1基準)、無増悪生存期間(PFS)、およびOSが評価された。ORRの比較には多変量ロジスティック回帰が適用され、年齢、TMB、PD-L1、STK11、KEAP1で補正された。統計解析はGraphPad Prismソフトウェアバージョン7およびRバージョン3.6.1ソフトウェアを用いて実施された。P値<0.05を統計的有意性とした。