• 著者: C.P. Concepcion, S. Ma, L.M. LaFave, A. Bhutkar, M. Liu, L.P. DeAngelo, J.Y. Kim, I. Del Priore, A.J. Schoenfeld, M. Miller, V.K. Kartha, P.M.K. Westcott, F.J. Sanchez-Rivera, K. Meli, M. Gupta, R.T. Bronson, G.J. Riely, N. Rekhtman, C.M. Rudin, C.F. Kim, A. Regev, J.D. Buenrostro, T. Jacks
  • Corresponding author: T. Jacks (Koch Institute for Integrative Cancer Research, MIT, Cambridge, MA)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34561242

背景

SMARCA4 (BRG1) はSWI/SNF (BAF) クロマチンリモデリング複合体の2種類の相互排他的ATPaseのうちの一方をコードし、NSCLC (主にLUAD) の約10%で変異する。変異のうち、タンパク発現を完全に消失させるtruncating mutation (切断変異) が予後と最も強く関連し、SMARCA4変異を持つLUAD患者では全生存期間が有意に短縮することが臨床解析で示されている (Schoenfeld et al. ClinCancerRes 2020)。SWI/SNF複合体の遺伝子変異はがん全体で最も頻度の高い変異群のひとつを形成しており、その機能は高度に細胞種特異的であることが認識されているが、個々のサブユニット変異が腫瘍生物学に与える影響はがん種・文脈ごとに異なる (Mittal et al. NatRevClinOncol 2020)。

LUADにおいてはKRASが最も多く共変異する癌遺伝子 (35%)、TP53が最も多く共欠失する腫瘍抑制遺伝子 (56%) であり、SMARCA4変異はEGFR変異LUADとは逆に、タバコ関連変異プロファイルを有するLUADに富む。先行マウスモデル研究では、carcinogen誘発モデルや Kras 駆動GEMM (genetically engineered mouse model)にSmarca4 (mouse SWI/SNF chromatin remodeling ATPase gene, ortholog of SMARCA4/BRG1)欠損を導入した複数の研究が矛盾する結果を示しており、SMARCA4の腫瘍抑制機能は明確でなかった。また、KP (KrasLSL-G12D/+; Trp53fl/fl; fl: floxed loxP-flanked allele) モデルを用いたscATAC-seq先行研究 (LaFave et al. CancerCell 2020) は正常Smarca4をもつ腫瘍でのエピゲノム状態変化を記述したが、Smarca4欠損がSWI/SNF機能とクロマチン制御に与える直接的影響は手薄であった。さらに、cell-of-origin (腫瘍起源細胞) とSMARCA4変異の腫瘍促進・抑制機能の関係も未解明なままであり、この gap in knowledge がSMARCA4変異LUAD患者の多様な臨床表現型を説明できない根本的な不足であった。

目的

KrasLSL-G12D/+; Trp53fl/fl (KP) マウスモデルにSmarca4fl (floxed Smarca4 allele) を導入し、cell-of-origin(SPC (Surfactant Protein C)+肺胞II型細胞 vs. CCSP (Club Cell Secretory Protein)+クラブ細胞)に依存したSmarca4の腫瘍抑制・促進機能の差異を in vivo で解明する。あわせてscATAC-seq、bulk ATAC-seq、CUT&RUN (C&R) によるエピゲノムおよびSWI/SNF結合プロファイリングを実施し、SMARCA4欠損腫瘍の細胞状態とSWI/SNF機能障害のメカニズムを明らかにし、ヒトLUADへの適用可能性を検証すること。

結果

SPC+AT2細胞起源でのSmarca4欠損の二面的腫瘍抑制効果: SPC-Creモデルでは、KP (n=11)、KPS-HET (n=21)、KPS (n=10) の3遺伝子型間で腫瘍数に有意差はなかった (One-way ANOVA: NS)。しかしKPSマウスの腫瘍負荷 (% tumor area) はKP・KPS-HETと比較して有意に低下し (One-way ANOVA: F(2,39)=5.475, p=0.0080)、組織学的にはグレード1が増加 (p=0.0009)、グレード3が減少 (p=0.0013) した (Fig 1C, E)。これはSmarca4の完全欠損がAT2細胞起源腫瘍の大部分で腫瘍進行を抑制することを示している。一方、KPSマウスにはグレード4腫瘍および転移がKP・KPS-HETより高頻度に観察され、これらは例外なくSMARCA4タンパク陰性であった (Fig 1G, H)。すなわち、SMARCA4を完全消失した細胞のサブセットが選択的に高悪性度・転移性腫瘍を形成するという逆説的役割が示された。また、KPS-HETでも転移がSPC-Creモデルで観察され、KPと比較した転移頻度増加傾向があった (χ²: p=0.1305で有意差なし)。

CCSP+クラブ細胞起源でのSmarca4欠損の一貫した腫瘍促進効果: CCSP-Creモデルでは、Smarca4欠損の腫瘍促進的役割が明確に示された。KPS (n=5-6) マウスはKP (n=6) と比較して腫瘍数が1.86倍増加し (One-way ANOVA: F(2,16)=6.786, p=0.0073; Dunnett: p=0.0078)、KPS-HETと比較しても1.72倍であった (Fig 3B)。グレード4腫瘍の割合も有意に増加し (One-way ANOVA: F(2,17)=9.102, p=0.0021; Dunnett: p=0.0044)、コホート内の全転移がKPS動物のみに観察された (χ²: p=0.0029; Fig 3F)。腫瘍の86-96%がSMARCA4タンパク陰性であり、Cre組換え逃避頻度がSPC-Creモデル (14-35%) と対照的に低く、クラブ細胞ではSmarca4欠損に対する選択圧が異なることを示す。さらに、KPSマウスの全生存期間はKPより有意に短縮した (log-rank: p=0.0086; Fig 3G)。これらの結果は、細胞種特異的なSMARCA4機能を明確に示すものである。

scATAC-seqによる原発腫瘍の転移様エピゲノム状態の同定: SPC-Creモデルの終末期動物からscATAC-seq (合計n=25,229細胞; KP n=3匹、KPS-HET n=3匹、KPS n=3匹の原発腫瘍 [各群biological replicates]; 各遺伝子型の転移巣計n=3,449細胞を含む) を実施した結果、KPとKPS-HETの原発腫瘍細胞はエピゲノム状態の連続体を形成したのに対し、KPS原発腫瘍細胞は独立したクラスターを形成した (Fig 2B, C)。重要なことに、KPS原発腫瘍クラスター (SPC KPS、クラスター1-4) は転移巣クラスター (クラスター16-21) と酷似したTFモチーフプロファイルを示した (Fig 2D)。具体的には、肺系統TFであるNkx2-1/Ttf1とGata6のモチーフアクセシビリティが著しく低下し、転移促進TFであるRunx2・Sox2・Sox9のアクセシビリティが増加していた。club cell signature scoreはKPSクラスターで特異的に高く (p<2.2×10^-16)、AT2 (alveolar type 2) signatureは低値を示した (p<2.2×10^-16; Fig 2G, H)。CCSP-Creモデルでは16,321細胞のscATAC-seq解析でも同様の知見が再現され、KPS細胞はNkx2-1・Cebpa活性喪失とRunx2・Sox2・Sox9活性化を示した (Fig 4D, E)。AP-1ファミリー (Fos/Jun) モチーフは原発KPS腫瘍で低下しており、転移巣KPS細胞ではむしろ増加していることから、AP-1活性獲得が転移移行に際した重要な選択イベントと示唆された。

SWI/SNF全3クラスの機能障害メカニズム: SMARCA4-WT/KO isogenic KP cell line pairs (n=2 independent cell lines per genotype, biological replicates) を用いたbulk ATAC-seqにより、SMARCA4-KO細胞では9,497箇所の有意な差次的ピーク (q<0.05、LFC>1) が同定され、そのうちダウン方向が1.75倍過剰に集積していた (p=3.8e-199、超幾何検定; Fig 5G)。CUT&RUN解析では、SMARCA4欠損によってダウンしたATACピーク部位において、pan-SWI/SNFサブユニットSMARCC1のみならず、cBAF (canonical BAF complex)特異的サブユニットArid1A、PBAF (polybromo-associated BAF)特異的サブユニットPBRM1、ncBAF (non-canonical BAF)/GBAF特異的サブユニットBRD9の結合がいずれも低下しており、SWI/SNF全3クラスの機能が障害されることが示された (Fig 5J)。なかでもARID1A (cBAF) 結合の低下が最も顕著であった。これらの変化はH3K27ac (エンハンサー・プロモーター活性マーカー)、H3K4me1 (primed site)、H3K4me3 (プロモーター活性) の低下を伴っており (Fig 5K)、クロマチンアクセシビリティの低下がSWI/SNF結合喪失の直接的帰結であることを示している。GATA6結合部位に焦点を当てた解析では、SMARCA4-WT細胞でGATA6結合部位に明確なSMARCA4結合が検出されたのに対し、SMARCA4-KO細胞ではATACピーク・SMARCA4・SMARCC1・ARID1A・PBRM1・BRD9がすべて低下し (Fig 5M, N)、肺系統TFのGATA6がクロマチンを開口できない機序が同定された。

ヒトLUADへの外挿性の検証: SMARCA4-WT (n=2) および SMARCA4変異 (biallelic inactivating; n=3) のLUAD PDXモデルから30,992細胞のscATAC-seq解析を実施した。各PDXは独立したクラスターを形成したが、SMARCA4変異群のうちTP53経路異常を持つサブセット (SMARCA4-MUT AP-1-lo、クラスター1-4) でマウスKPSクラスターと類似した特徴 (AP-1低活性、RUNX2・IRF1高活性、FOXファミリー低活性) が再現された (Fig 6D, E)。TCGA LUAD解析 (Cerami et al. CancerDiscov 2012) では、SMARCA4 truncating変異を持つ腫瘍はclub cell・AT2細胞シグネチャーとの相関が有意に低下し (いずれもWT群より低相関)、ESC (embryonic stem cell) 様シグネチャーとの相関が特異的に増加した (truncating変異: ESC-like signature enrichment p=4.75e-3; Fig 6K)。マウス由来KPSシグネチャーはTCGAのSMARCA4 truncating変異腫瘍で強く濃縮されており (p=3.18e-3; Fig 6L)、ヒトSMARCA4欠損LUADへの適用可能性が確認された。

考察/結論

本研究はSMARCA4の腫瘍抑制機能が cell-of-origin に依存するという新規の知見を提示した。SPC+AT2細胞起源では大多数の腫瘍でSmarca4欠損が腫瘍進行を抑制するが、CCSP+クラブ細胞起源では一貫して腫瘍を促進するという細胞種特異性は、SMARCA4変異NSCLC患者間の多様な臨床経過の一因となる可能性がある。先行研究でKPモデルにSmarca4欠損を導入した2つの独立研究が相反する結果を示していた理由も、それぞれが用いたCre発現プロモーターの細胞種特異性 (AT2 vs. club cell比率) の違いによるものと今回の知見は矛盾なく説明する — これはSmarca4欠損の腫瘍生物学に関する重要な解釈的枠組みの更新であり、既存の報告と異なる重要な点である。

本研究で初めて示されたのは、Smarca4欠損原発腫瘍が肺系統TF活性の喪失と転移細胞状態に類似したエピゲノムを原発腫瘍段階で既に保有するという点である。Smarca4が正常な腫瘍 (KP) では tumor progression に伴い段階的にNkx2-1活性が失われる (LaFave et al. CancerCell 2020) のに対し、Smarca4欠損腫瘍では原発腫瘍の段階からすでに転移様エピゲノムを獲得している。この「early metastatic features」の獲得は、SWI/SNF複合体の全3クラス機能障害によるクロマチンレベルでの肺系統モチーフへのアクセス不能に起因するという機械論的根拠が、bulk ATAC-seq + CUT&RUN解析により初めて直接的に実証された。さらに、SWI/SNF全3クラスの中でcBAF (ARID1A) の結合低下が最大であることを新規に明らかにした点は、SWI/SNF複合体クラス間の機能的優先順位を示す新規の発見である。

臨床的意義として、(1) SMARCA4 truncating変異LUADではSWI/SNF複合体機能を標的とした治療アプローチ (EZH2阻害、SMARCA2合成致死) が有望であること、(2) SMARCA4変異腫瘍における細胞系統TF活性やクロマチンアクセシビリティパターンがバイオマーカーとして有望であること、(3) KEAP1変異との高い共変異頻度 (ともにクラブ細胞起源を選択する可能性) を考慮した分子サブタイプ分類が治療戦略に影響する可能性がある。KPS mouse modelはSMARCA4変異LUADを対象とした前臨床研究プラットフォームとして有用であり、SMARCA4変異の臨床応用可能な治療標的開発への橋渡しが期待される。

今後の課題として、(1) ヒトSMARCA4変異LUAD における実際の cell-of-origin の同定方法の確立、(2) SMARCA4 missense変異 (dominant-negative機能を持つ) や KEAP1/STK11との共変異を組み込んだ複合GEMMモデルの構築、(3) SWI/SNF機能障害と腫瘍微小環境 (免疫細胞) との相互作用の解明、(4) Smarca4欠損に伴うゲノム不安定性の役割の探索が挙げられる。特に、ヒトSMARCA4変異LUADで club cell vs. AT2 cell 起源を区別するバイオマーカーの開発は、臨床的な治療選択に直結する未解決の重要課題である (Hargreaves et al. NatGenet 2021)。

方法

マウスモデルと腫瘍誘発: KrasLSL-G12D/+; Trp53fl/fl (fl: floxed conditional allele) (KP)、KrasLSL-G12D/+; Trp53fl/fl; Smarca4fl/+ (KPS-HET)、KrasLSL-G12D/+; Trp53fl/fl; Smarca4fl/fl (KPS) の3遺伝子型マウス (C57BL/6J inbred strain) を、SPC-Cre (肺胞II型細胞・AT2ターゲット) またはCCSP-Cre (クラブ細胞ターゲット) を発現するアデノウイルス (Ad-SPC-Cre 1.0×10^8 PFU、Ad-CCSP-Cre 1.0×10^8 PFU) の気管内投与により腫瘍誘発した。SPC-Creモデルは感染17週後、CCSP-Creモデルは感染16週後に終末期動物を解析した。腫瘍数・腫瘍負荷 (% tumor area/lung area) はH&E染色切片で定量 (QuPath) し、腫瘍グレード (グレード1-4) は深層学習アルゴリズム (Aiforia nsclc_V25またはV37) により判定した。転移は胸腔内組織 (胸腺・リンパ節) のH&E切片で盲検的に同定した。SMARCA4タンパク発現はIHCで評価し、NKX2-1およびGATA6陽性細胞率はQuPathで定量した。

統計解析: 群間比較はOne-way ANOVAおよびDunnett多重比較検定を用い、転移頻度はχ²検定、生存解析はlog-rank検定を用いた。

エピゲノム解析: 終末期動物からFACSで単離したtdTomato+/APC-腫瘍細胞を用いてscATAC-seq (SPC-Cre: 25,229細胞; CCSP-Cre: 16,321細胞) を実施した。クラスター同定はLouvain法、TFモチーフ解析はchromVAR法を適用した。Smarca4-WT/KO同質遺伝子KP細胞株ペア (n=2各) でbulk ATAC-seq、SWI/SNFサブユニット (SMARCA4、SMARCC1、ARID1A、PBRM1、BRD9、SMARCA2) のCUT&RUN、ヒストン修飾 (H3K27ac、H3K4me1、H3K4me3) プロファイリングを実施した。ヒトPDX (patient-derived xenograft) モデル (SMARCA4-WT n=2、SMARCA4変異 n=3; MSK-IMPACTで確認) から30,992細胞のscATAC-seqを行い、TCGA LUAD転写プロファイリングデータとの統合解析も実施した。bulk RNA-seqのDE (differential expression) 解析はDESeq2 (Love et al. GenomeBiol 2014) で行い、調整p<0.05、|FC|>1.5を有意とした。