• 著者: Ryan LaCanna, Daniela Liccardo, Peggy Zhang, Lauran Trages, Jillian Yount, Shawn Bhargavan, Martin Woschek, Kerstin Doerrfuss, Alexander Bhargavan, Erica Bhargavan, et al.
  • Corresponding author: Ying Tian (Department of Pharmacology, Center for Translational Medicine, Temple University Lewis Katz School of Medicine, Philadelphia, Pennsylvania, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Investigation
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30985294

背景

肺胞上皮は吸入病原体から肺を保護する重要なバリア機能を担い、肺傷害後の再生能力は機能回復に不可欠である。Streptococcus pneumoniae (S. pneumoniae) は市中肺炎の最も一般的な病原体であり、その感染は肺胞上皮の広範な損傷と炎症性細胞の浸潤を特徴とする。肺胞上皮の損傷と再生のメカニズムは、肺炎からの回復において極めて重要である。SPC (surfactant protein C) を発現するII型肺胞上皮細胞 (AECII) は、肺胞上皮の幹/前駆細胞として認識されており、傷害後に増殖・分化して新生肺胞上皮 (I型肺胞上皮細胞 (AT1細胞) を含む) の形成に寄与することが、Barkauskas et al. (2013) や Hogan et al. (2014) などの先行研究で示されていた。

Hippo経路の主要なメディエーターであるYAP (Yes-associated protein) とTAZ (transcriptional coactivator with PDZ-binding motif) は、細胞増殖、生存、再生に重要な転写共役因子として知られている。YAP/TAZの核への移行は細胞増殖を促進し、細胞外基質の剛性変化などの機械的刺激への応答に関与することが報告されている。例えば、Liu et al. (2016) は、YAPが機械的張力に応答した肺胞再生においてAECIIの増殖と分化に必須であることを示している。一方で、YAP/TAZは発癌ドライバーとしても機能し、肺癌を含む多くの癌腫でHippo経路の下流として過剰活性化が報告されており、その二面性が注目されている。

しかし、急性肺炎症や傷害後の修復過程において、AECIIにおけるYAP/TAZが果たす具体的な役割、特に炎症の消退と肺胞再生の同時制御における役割は未解明であった。炎症反応は組織修復の初期段階で重要であるが、過剰または遷延する炎症は線維化を促進し、再生を阻害することが知られている。例えば、Karin and Clevers (2016) は、修復性炎症が組織再生を促進することを示唆しているが、慢性炎症が線維化を引き起こすメカニズムについては知識が不足していた。特に、YAP/TAZが炎症の消退をどのように制御し、それが肺胞再生にどのように影響するかについては、これまで十分に報告されていなかった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とした。

目的

細菌性肺炎モデルにおいて、II型肺胞上皮細胞 (AECII) におけるYAP/TAZ (Hippo経路のメディエーター) が、肺胞上皮再生および肺炎症の消退にどのように関与するかを分子レベルで解明すること。特に、YAP/TAZが炎症消退を制御する新規メカニズムを同定し、その経路が肺胞再生に与える影響を明らかにすることを目的とした。

結果

肺炎後の肺胞上皮損傷と再生の動態: S. pneumoniae感染後、肺胞上皮の損傷とそれに続く再生が経時的に観察された。感染後2日目 (2 dpi) に細菌負荷と細胞アポトーシスがピークに達し、T1a陽性AT1細胞とSPC陽性AECIIの数が著しく減少した。その後、14 dpiまでにこれらの細胞集団は基礎レベルまで回復した (Figure 1A, D, E)。AECIIのDNA合成は4 dpiでピークに達し、EdU標識率は7% ± 0.3%であった (Figure 2A, B)。SPC-CreERT2; Rosa26-mTmGマウス (n=4-5 mice per group) を用いた系統追跡実験により、SPC陽性AECIIが感染後に増殖・分化して新生肺胞上皮 (AT1細胞を含む) に寄与することが確認された。7 dpi以降、AECIIからAT1細胞への分化 (GFP+T1a+細胞) が有意に増加し、14 dpiでは7 dpiと比較して4.7 ± 0.4-foldの亢進が認められた (Figure 2C, D, E)。これは、炎症後の上皮修復が活発に進行することを示唆する。

YAP/TAZの核内発現亢進とHippo経路の活性化: 感染後のAECIIにおいて、YAP/TAZの核内発現が増加した。これは、Hippo経路キナーゼ (LATS1/2) の活性低下を示唆するものであり、細胞外基質リモデリングや機械的環境変化への応答としてYAP/TAZ活性が増加することが示唆された。核内YAP/TAZ陽性AECII細胞の割合は感染後4-7日で最大となり、AECIIの増殖ピーク (4 dpi) と一致した (Figure 2F)。ウェスタンブロット解析では、7 dpiのAECIIにおいてYAP/TAZタンパク質レベルが上昇し、リン酸化YAP (p-YAP Ser127) およびリン酸化TAZ (p-TAZ Ser89) の総YAP/TAZに対する比率が低下していた (Figure 2G)。これは、Hippo経路の抑制とYAP/TAZの活性化を示唆する。

Yap/Taz欠損マウスにおける肺胞再生障害と炎症遷延: AECII特異的なYap/Taz条件的欠損マウス (Yap/Taz変異マウス、n=3-8 mice per group) では、感染後の肺組織において炎症反応が遷延し、肺胞上皮の再生が著明に遅延した。対照マウスと比較して、Yap/Taz変異マウスでは体重回復が遅延し、BALF中の総タンパク質レベルが7 dpiおよび14 dpiで有意に高かった (Supplemental Figure 4A, B)。AECIIの増殖マーカーKi67+率は、Yap/Taz変異マウスで0.30% ± 0.09%と、対照マウスの1.80% ± 0.09% (p<0.001) に比べ約6分の1に低下した (Figure 4C)。系統追跡では、GFP+T1a+ (AT1分化細胞) の割合がYap/Taz変異マウスで6.6% ± 2.1%と、対照の24.1% ± 2.1%から72.6%減少した (Figure 4D, E, F)。EdU+GFP+細胞の割合も、Yap/Taz変異マウスで0.49% ± 0.10% vs 対照1.45% ± 0.10% (p<0.001) であり、AECIIからAT1細胞への分化フローが著明に障害されることが示された (Figure 4B)。さらに、Yap/Taz変異マウスでは肺組織の線維化スコアが対照と比較して有意に上昇しており、14 dpiで重度の線維化病変が認められた (Figure 3C, D, E)。これらの病変は56 dpiまでに退縮したが、修復遅延が線維化傾向をもたらすことが示された。

炎症消退メカニズム:IκBα/NFκB軸の関与: Yap/Taz欠損AECIIでは、NFκBシグナルの終結に関与する主要抑制分子であるIκBα (Nfkbia) およびIκBβ (Nfkbib) の発現が有意に低下していた (Figure 5A)。これは、正常なYAP/TAZ活性がNFκB経路を抑制することで炎症の消退が促進されるという、Hippo-NFκBの新規クロストークを示唆する。Yap/Taz変異マウスでは、好中球およびマクロファージの肺内浸潤が延長し、炎症消退が著明に遅延した (Supplemental Figure 5D)。マイクロアレイ解析では、炎症制御および細胞外基質リモデリングに関連する遺伝子群の発現変化がYap/Taz変異マウスで異常を示した (Supplemental Figure 5A)。NFκB下流のIL-1β、CXCL3、CCL21aなどの炎症性サイトカイン産生がYap/Taz変異マウスで持続的に上昇しており、BALF中のIL-1βタンパク質レベルは7 dpiおよび14 dpiで有意に高かった (Figure 5B, C)。Yap/Taz変異マウスの肺では、CD3+ T細胞の数も7 dpiおよび14 dpiで有意に増加していた (Figure 5D, E, F)。ChIPアッセイにより、YAPおよびTeadがIκBα遺伝子座のプロモーター領域にあるTBM1サイトに結合することが示された (Figure 6A, B)。ルシフェラーゼレポーターアッセイ (n=3-6 per group) では、Tead2、YAP、TAZがIκBαプロモーターの転写を活性化し、YAP shRNAによるYAP抑制がNFκB転写活性を亢進することが確認された (Figure 6C, D, F)。これらの結果は、YAP/TAZがIκBαを介してNFκB応答を制御することを示唆する (Figure 6G)。

IκBα過剰発現による炎症消退と肺胞再生の促進: Yap/Taz変異マウスの肺にAAV6ベクターを用いてIκBαを過剰発現させると、NFκBを介した遺伝子発現が抑制され、BALF中のIL-1βタンパク質レベルが14 dpiで有意に減少した (Figure 7A, B)。サイトカインアレイ解析では、IL-1βやCXCL9などの炎症性サイトカインレベルが低下した (Figure 7C)。AAV6-IκBα治療により、Yap/Taz変異マウスの肺におけるCD3+ T細胞の数が14 dpiで有意に減少した (Figure 7D)。さらに、AAV6-IκBα治療は、Yap/Taz変異マウスにおけるAT1細胞の回復を促進し、肺組織の完全性を改善した (Figure 7E, F, G, H)。肺線維化病変も、Ashcroftスコアとヒドロキシプロリンアッセイにより14 dpiで有意に減少した (Figure 7I, J, K)。これらの結果は、IκBαの発現回復が炎症消退を促進し、肺胞上皮再生を加速することを示している。ただし、IκBα治療はAECIIからAT1細胞への分化 (GFP+T1a+) を改善しなかったことから、再生されたAT1細胞は非系統追跡AECIIに由来する可能性が示唆された (Supplemental Figure 8A, B, C)。

考察/結論

本研究は、YAP/TAZがII型肺胞上皮細胞 (AECII) における細菌性肺炎後の肺胞上皮再生と炎症消退の両方を同時に制御するという二重の機能を明らかにした。これは、YAP/TAZが単に細胞増殖を制御するだけでなく、炎症反応の終結という免疫調節的役割も担っていることを示す重要な知見である。

先行研究との違い: これまでの研究では、YAP/TAZが肺胞上皮の幹/前駆細胞の増殖と分化に重要であることが示されていたが、炎症消退における具体的な役割は不明であった。例えば、Liu et al. (2016) はYAPが機械的張力に応答した肺胞再生に必須であることを報告しているが、炎症の抑制メカニズムについては触れていない。本研究は、YAP/TAZがIκBαの上方制御を介してNFκB経路を抑制し、炎症の消退を促進するという新規の分子経路を提示した点で、先行研究とは対照的である。このHippo-NFκBクロストークは、これまで十分に示されていなかった。

新規性: 本研究で初めて、YAP/TAZがIκBαの転写を直接制御し、NFκBを介した炎症反応を抑制することで、肺胞上皮再生に好ましい微小環境を形成するというメカニズムを新規に同定した。Yap/Taz欠損マウスでは、IκBαの発現低下によりNFκB経路が持続的に活性化し、炎症が遷延することで肺胞上皮再生が遅延した。IκBαの過剰発現が炎症を抑制し、肺胞再生を促進したことは、このYAP/TAZ-IκBα-NFκB経路が肺損傷からの回復に極めて重要であることを本研究で初めて実証した。

臨床応用: 本知見は、急性肺傷害 (ALI) や急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)、細菌性肺炎後の遷延する炎症および線維化といった病態において、YAP/TAZ経路の活性状態が予後を規定する可能性を示唆する。YAP/TAZ活性化を促進する治療的介入が、炎症消退と肺胞再生を同時に促進する新たな治療戦略として将来的に検討されうる。特に、IκBαを標的とした治療は、炎症を抑制しつつ肺胞再生を促すことで、肺線維化への移行を防ぐ可能性があり、臨床応用への大きな意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、YAP/TAZ経路の活性化が肺胞再生に有益である一方で、持続的な活性化が肺腺癌の発生・維持にも関与するというHippo経路の二面性に対する安全性の検討が残されている。治療標的としてのYAP/TAZ経路の活性化は、発癌リスクとのバランスを慎重に評価する必要がある。また、本研究ではIκBα治療がAECIIからAT1細胞への分化を直接改善しなかったことから、再生されたAT1細胞が非系統追跡AECIIに由来する可能性が示唆された。この非系統追跡AECIIの起源と、YAP/TAZがこれらの細胞に与える影響についても、今後の研究で詳細に解明する必要がある。さらに、ヒト疾患 (COVID-19後遺症、間質性肺疾患など) におけるYAP/TAZの役割の解明と、治療標的としての安全性および有効性の検証が今後の研究の方向性として挙げられる。

方法

マウスをStreptococcus pneumoniae (SpT4株) で気道内接種し、細菌性肺炎モデルを確立した。感染菌量は約 5 × 10⁶ CFUとした。肺組織は感染後2、4、7、14日目に採取し、組織学的解析およびフローサイトメトリーにより評価した。使用したマウスは6〜10週齢の雄のC57BL/6マウス、SPC-CreERT2マウス、Yap fl/fl マウス、Taz fl/fl マウス、Rosa26-mTmGマウスであり、これらはTemple Universityの無菌マウス施設で飼育された。

肺胞上皮細胞の損傷と再生の評価: SpT4カプセル特異的抗体を用いた免疫染色とTUNEL染色により、細菌の局在と細胞アポトーシスを評価した。T1a (AT1細胞マーカー) およびSPC (AECIIマーカー) の発現を免疫染色とフローサイトメトリーで定量し、肺胞上皮の損傷と回復を評価した。

AECIIの増殖と分化の系統追跡: DNA合成を評価するため、EdUを腹腔内投与し、SPC抗体との共染色によりEdU陽性AECIIの割合を測定した。SPC-CreERT2; Rosa26-mTmGトランスジェニックマウスを用いて、タモキシフェン投与によりSPC陽性AECIIにGFPを発現させ、感染後のAECII由来細胞の増殖・分化 (AECIIからAT1細胞への分化) を系統追跡した。GFPとT1aの共染色により、GFP陽性T1a陽性細胞の割合を定量した。

YAP/TAZの役割の検討: AECII特異的なYap/Taz条件的欠損マウス (SPC-CreERT2; Yapfl/fl; Tazfl/fl; Rosa26-mTmGマウス、以下Yap/Taz変異マウス) を作成し、肺炎後の肺胞再生、炎症反応、および線維化を野生型対照マウス (SPC-CreERT2; Rosa26-mTmGマウス) と比較した。Ki67染色によりAECIIの増殖を評価した。肺線維化はMassonのトリクローム染色とヒドロキシプロリンアッセイによりAshcroftスコアで定量した。

炎症反応の評価: 肺内の炎症性細胞 (CD45+、CD3+リンパ球、CD11c+CD64+マクロファージ、Ly6G+好中球) の浸潤動態をフローサイトメトリーで定量した。気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中の総タンパク質量とIL-1βレベルを測定し、肺組織ライセートのサイトカインアレイ解析により炎症性サイトカインの発現プロファイルを評価した。

分子メカニズムの解析: 感染後のAECII (GFP+) を単離し、マイクロアレイ解析および定量的リアルタイムPCR (qRT-PCR) により遺伝子発現変化を網羅的に解析した。特に、Hippo経路の標的遺伝子 (Ctgf, Cyr61, Birc5 (baculoviral IAP repeat containing 5)) およびNFκB経路関連遺伝子 (Ikba (NFKB inhibitor alpha), Ikbb (NFKB inhibitor beta), Cxcl3, Ccl21a (chemokine (C-C motif) ligand 21a)) の発現を評価した。ウェスタンブロットによりYAP/TAZタンパク質レベルおよびリン酸化状態 (p-YAP Ser127 (serine 127), p-TAZ Ser89 (serine 89)) を解析し、核内移行を評価した。

YAP/TAZ-IκBα-NFκB経路の検証: マウス肺上皮細胞株MLE-15を用いて、IκBα遺伝子座のプロモーター領域におけるTead結合モチーフ (TBM) へのYAP/Teadの結合をChIPアッセイで検証した。ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、Tead2、YAP、TAZがIκBαプロモーターを転写活性化すること、およびYAP shRNAによるYAP抑制がNFκB転写活性を亢進することを示した。

IκBα過剰発現による治療的介入: Yap/Taz変異マウスにAAV6ベクターを用いてIκBαを気管内投与し、炎症消退と肺胞再生への影響を評価した。AAV6ベクターはSPC+ AECIIに優先的に導入されることを確認した。IκBα過剰発現後のBALF中IL-1βレベル、肺内炎症性細胞数、AT1細胞回復、および線維化スコアを評価した。

統計解析: データは平均値±SEMで示され、多群比較には一元配置ANOVA (analysis of variance) または二元配置ANOVA、その後のTukey’s、Dunnett’s、またはŠidák’sの多重比較検定を用いた。2群間の比較にはStudentのt検定を用いた。p値が0.05未満を有意とした。