• 著者: Ross A. Okimoto, Frank Breitenbuecher, Victor R. Olivas, Wei Wu, Beatrice Gini, Matan Hofree, Saurabh Asthana, Gorjan Hrustanovic, Jennifer Flanagan, Asmin Tulpule, Collin M. Blakely, Henry J. Haringsma, Andrew D. Simmons, Kyle Gowen, James Suh, Vincent A. Miller, Siraj Ali, Martin Schuler, Trever G. Bivona
  • Corresponding author: Trever G. Bivona (University of California, San Francisco, San Francisco, CA)
  • 雑誌: Nature Genetics
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27869830

背景

NSCLCによる死亡の90%以上が転移に起因するにもかかわらず、転移を制御する分子エフェクターは十分に同定されていなかった。従来の転移モデルは尾静脈注射による実験的転移アッセイに依存しており、循環内への直接投入で転移の後期段階のみを反映する人工的な系であった。自然転移を迅速に再現する遺伝子操作マウスモデルは稀であり、先行研究と異なり生理的な転移カスケード全体を in vivo で追跡できる系は確立されていなかった。

CIC (Capicua; キャピキュア転写因子) は RTK (receptor tyrosine kinase) /RAS/MAPK (mitogen-activated protein kinase) 経路の転写抑制因子として同定されており、ショウジョウバエの発生において保存された機能を持つ。Tan et al. 2018らの先行研究でヒトの低悪性度神経膠腫・オリゴデンドログリオーマ・大腸癌においてCIC変異が報告されていたが、CIC不活化と肺癌転移の因果的関連は未解明であった。ETV4 (E-twenty-six transcription factor variant 4) はCICの直接的な転写抑制標的として知られており、MMP (matrix metalloproteinase) ファミリー遺伝子の発現を誘導することが示されていた。しかし、CIC欠失→ETV4活性化→ECM (extracellular matrix; 細胞外マトリックス) リモデリング遺伝子上方制御→転移促進という一連の軸は機能的に未証明であった。

Sequist et al. 2011 (Sequist et al. SciTranslMed 2011) の知見より、EGFR変異肺癌の薬剤耐性時には上皮間葉転換 (EMT; epithelial-to-mesenchymal transition) が生じることが示されていた。しかし、このEMTが自然転移と薬剤耐性を同時に規定するかは不明であり、これを解明するための in vivo 自然転移モデルが不足していた (knowledge gap)。

目的

(1) 生体内で自然転移を再現できるin vivo同所性肺癌転移モデルを確立すること。(2) このモデルを用いてNSCLC転移を駆動する分子エフェクターとしてCICを同定し、CIC→ETV4→MMP24という転移カスケードを機能的に証明すること。(3) ヒト肺癌の転移ステージとCIC変異率の関連を臨床データで検証し、ETV4・MMP24の臨床バイオマーカーとしての可能性を評価すること。

結果

In vivoモデルでのCIC欠失による転移促進の実証 (Fig. 1b-d): H1975 M1細胞 (CIC欠失・間葉型) は移植2週以内に 100% (n = 10 mice) が縦隔リンパ節・対側肺への自然転移を示したのに対し、H1975親株 (CIC保有・上皮型) の転移効率は 28% であった (P<0.00004、log-rank)。H1975 M1マウスではH1975マウスと比べてGFP+ CTCが 約5倍 多かった (H1975: 10±2個/100µl vs H1975 M1: 52±7個/100µl、P=0.03)。H1975 M1細胞はin vitro増殖速度でH1975と差がなく、転移亢進は増殖率増加によるものではないことが確認された。

CIC再発現による転移の劇的な抑制 (Fig. 1g-i): H1975 M1へのCIC-GFP再発現により、91% (n = 10 mice out of 11 mice) が転移フリーとなり (GFP対照群: 10/10匹全例転移、P<0.00004)、CTC数は90±18個/100µl → 3±1.2個/100µl に激減した。ERFおよびPAFAH1B3の再発現では転移抑制効果は認められず、CIC特異的な転移抑制因子としての機能が確立された。H1975親株の単細胞解析でCIC欠失サブポピュレーション (~8%) の事前存在が確認され、このCIC欠失細胞が選択的に転移巣を形成していた。

CIC-ETV4-MMP24軸の機能的確立 (Fig. 3a-i): トランスクリプトーム解析でH1975 M1 vs H1975の上位1,000発現変動遺伝子はECM遺伝子に著明に富んでいた (enrichment score ES=8.36、P=3.60×10-10 for H1975 M1; ES=5.67、P=3.20×10-6 for H1975 M2)。CIC欠失細胞 (H1975 M1・M2) ではETV4が脱抑制され、その下流標的としてMMP24が H1975 M1で 24-fold・H1975 M2で 11-fold 上方制御されていた。ChIP-PCRでH1975/H1975 M1細胞においてCICがETV4プロモーターに直接結合することを確認 (alpha-CIC vs alpha-IgG: H1975で23±2.0 vs 3.5±1.0% input)。ETV4ノックダウンはMMP24発現を低下させ、CIC欠失細胞の浸潤能を有意に抑制 (レスキュー実験)。MMP24ノックダウン (shMMP24a/b) はH1975 M1マウス (n = 8 mice/群) の転移を有意に減少させ (log-rank P=0.0016)、CTC数を51±6.1 (shCtrl) → 20±4.5 (shMMP24a) / 24±5.2 (shMMP24b) 個/100µlに低減した。MMP24過剰発現はH1975親株でも転移を誘導し (EV群: 転移率25% vs MMP24群: 転移率89%、P値有意)、CTC数を15±1.8 → 112±9.7個/100µlに増加させた。

複数NSCLCモデルでのMMP24の普遍的な転移促進 (Fig. 4a-m): A549・HCC364細胞 (高浸潤性LA細胞株) でin vivoにて100%の自然転移効率を示したが、MMP24ノックダウンにより転移が有意に抑制された (log-rank有意)。A549ではMMP24ノックダウンがN-cadherin (CDH2) の分解を抑制し、pericellular proteolytic activityの低下を示した。EGFR L858R PDX (患者由来異種移植) においてもMMP24 IHC (immunohistochemistry; 免疫組織化学) 染色が強陽性で、MMP24ノックダウン (siMMP24) で浸潤能が26±1.0 → 12±2.0に低下した (P値有意)。

ヒト臨床データによる検証 — CIC変異・MMP24発現と転移ステージ (Fig. 5a-b): TCGA肺腺癌データ522例 (早期 n=381例、進行期 n=141例) を解析し、CIC変異率は早期0.5% (2/381例) vs 進行期3.5% (5/141例) で有意差 (P=0.02)。転移例 (n=34例、全エクソーム) では5.9% (2/34例) にCIC変異を確認。進行期1,300例超の解析ではCIC変異は3.1% (42/1,342例)。TMAでは核CIC発現スコアが肺癌組織 (94±3.5) で正常肺 (207±4.0) と比較して著明に低下 (P=0.01)。MMP24高発現はLN陽性NSCLC患者 (N1; n=130例) のPFS悪化と有意に関連 (P=0.0093、log-rank)。低ETV4発現のNSCLC患者 (n=982例) はPFS良好の傾向 (log-rank P=0.0093)。転移巣でのMMP24 IHCスコアが原発腫瘍より高値 (原発: 1.03±0.14 vs LN転移: 2.25±0.16、P値有意)。

MAPK経路によるCICの機能的抑制 (Fig. 5c-i): EGF (epidermal growth factor) 刺激でERK (extracellular signal-regulated kinase) が活性化すると核内CIC-GFPが細胞質に移動しプロテアソーム依存性に分解される (bortezomib処置で抑制、trametinib処置で分解阻害)。rociletinib (EGFR阻害) 処置によりETV4プロモーター活性が有意に低下 (P値有意)。これは活性型EGFR→ERK→CIC機能的抑制→ETV4脱抑制という連鎖がEGFR変異肺癌転移の分子基盤であることを示す。

考察/結論

本研究はCICを哺乳類肺癌における保存された転移抑制因子として本研究で初めて機能的に同定し、CIC→ETV4→MMP24という新規の転移駆動カスケードを多段階的に証明した。In vivo同所性モデルで100%の自然転移再現率を示した系は、これまでにない自然転移研究プラットフォームとして転移促進遺伝子の同定に強力なツールを提供した。

先行研究との比較: ETV4は先行研究でEWS-FLI1融合を介してEwing肉腫に関与することが知られていたが、先行研究と異なり本研究はNSCLCにおけるETV4の転移促進的役割を初めて示した。MMP24は先行研究で神経細胞遊走に関与するとされてきたが、肺癌転移における必要性・十分性を実証したのは本研究が初めてであり、これまでの知見と異なり実臨床コホートデータで支持された。DrosophilaでのCIC (capicua) とRTK/RAS経路の相互作用は保存されており、本研究のヒト肺癌でのCIC→ETV4→MMP24軸はその哺乳類相同体として位置づけられる。

新規性: 本研究で初めてCICが転移抑制因子として機能的に証明され、これまでにない同所性自然転移モデルにより転移カスケードの機能的解析が可能になった。MAPK経路の活性化がCICを機能的に抑制するという知見は、EGFR変異 等がCIC-ETV4軸を通じて転移を促進する可能性を示し、上皮間葉転換 との連関を分子レベルで実証した。

臨床的含意: CIC変異 (進行期3.5% vs 早期0.5%) は転移リスクの高い腫瘍を同定するバイオマーカー候補となりうる。MMP24は転移巣で高発現し、高発現がPFS悪化と関連することから、予後バイオマーカーとしての可能性もある。ETV4またはMMP24を標的とした治療戦略がCIC変異NSCLCの新たな抗転移療法として開発される可能性があり、臨床的含意は大きい。

限界と今後の課題: 残された課題として、本研究はEGFR変異NSCLCの細胞株を主体としており、KRAS変異・野生型EGFR等の他のdriver変異NSCLCでのCIC-ETV4軸の役割の解明が必要。CIC変異のNSCLC全体における頻度は3.1-3.5%と比較的稀であり、バイオマーカーとしての臨床応用には患者選択が課題。CIC-ETV4軸は神経膠腫でも別のメカニズムで機能することが知られており、他のがん種でのCIC転移抑制機能の普遍性も今後の検証課題となる。MMP24直接阻害薬は現時点で未開発であり、ETV4の転写因子としての薬剤可能性も今後の検討が必要である。

方法

In vivo同所性肺癌自然転移モデル: 免疫不全 (SCID; severe combined immunodeficiency) マウス (C57BL/6 background) の左肺葉にNSCLC細胞株 (H1975親株・H1975 M1耐性株) をルシフェラーゼ-GFP (green fluorescent protein) 二重標識後に経胸腔的に移植。BLI (bioluminescence imaging; 生物発光イメージング) で週次に原発腫瘍・CTC (circulating tumor cells; 循環腫瘍細胞) ・転移巣を追跡。H1975 M1はH1975親株からrociletinib (3rd generation EGFR-TKI) 長期曝露で独立に樹立した間葉型薬剤耐性細胞株 (M1/M2)。

全エクソームシーケンスによる変異同定: H1975親株・H1975 M1・H1975 M2の全エクソームシーケンスを実施し、転移株に特異的なホモ接合性欠失を同定。19q13領域にERF・CIC・PAFAH1B3を含む欠失を確認。

機能的検証: (1) CIC/ERF/PAFAH1B3の個別再発現による転移表現型のレスキュー実験 (n = 4-11 mice/群)。(2) CRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats) およびshRNA (3 hairpins: shCICa-c) によるCICノックダウン/ノックアウト — 遊走・浸潤 (Transwell assay)・in vivo転移を評価。(3) ETV4プロモーター上のCIC結合をChIP (chromatin immunoprecipitation) -PCRで確認。(4) ETV4ノックダウン・MMP24ノックダウンによるレスキュー実験でCIC→ETV4→MMP24の線形軸を確立。(5) MMP24過剰発現実験で転移への十分性を証明。

転写解析: H1975 M1 vs CIC再発現H1975 M1の比較トランスクリプトームによりCIC応答性遺伝子を同定 (DAVID functional annotation、Gene Ontology解析)。統計解析: log-rank test (転移フリー生存比較)、t-testおよびWilcoxon検定 (数値比較)。

臨床データ解析: TCGA (The Cancer Genome Atlas) 肺腺癌データセット (早期 n=381例、進行期 n=107例) ・全エクソームシーケンス転移例 (n=34例) でCIC変異率を比較。TMA (tissue microarray; 組織マイクロアレイ; 肺癌 n=130 vs 正常肺 n=126) でCIC/MMP24の蛋白発現を解析。公開mRNAデータセット (NSCLC n=982) でMMP24・ETV4発現と生存を関連付け。PDX (patient-derived xenograft; 患者由来異種移植; EGFR L858R) でMMP24の機能的役割を検証。