- 著者: Jun Li, Melissa J. Hubisz, Ethan M. Earlie, Mercedes A. Duran, Christy Hong, Austin A. Varela, Emanuele Lettera, Matthew Deyell, Bernardo Tavora, Jonathan J. Havel, Su M. Phyu, Amit Dipak Amin, Karolina Budre, Erina Kamiya, Julie-Ann Cavallo, Christopher Garris, Simon Powell, Jorge S. Reis-Filho, Hannah Wen, Sarah Bettigole, Atif J. Khan, Benjamin Izar, Eileen E. Parkes, Ashley M. Laughney, Samuel F. Bakhoum
- Corresponding author: Ashley M. Laughney; Samuel F. Bakhoum (Memorial Sloan Kettering Cancer Center / Weill Cornell Medicine)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-08-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 37612508
背景
CIN (chromosomal instability; 染色体不安定性) はがんの主要な特徴であり、治療耐性・免疫回避・転移と密接に関連する。CINは有糸分裂時の染色体分離エラーを通じて継続的に発生し、微小核の形成と細胞質への二本鎖DNA (dsDNA: double-stranded DNA) の露出をもたらす。この細胞質dsDNAはcGAS-STING (Stimulator Triggering Innate-immune Network) 自然免疫経路を活性化し、先行研究においてCINが転移を促進することが示されていた (Bakhoum et al. 2018, Alexandrov et al. 2013, Lengauer et al. 1997)。
しかしながら、この転移促進効果が癌細胞自律的 (腫瘍細胞内在性) なのか、それとも免疫系に依存した非細胞自律的機構によるものかは、部分的に免疫不全のモデルを用いた先行研究では明らかでなかった。またCIN高頻度腫瘍がなぜcGAS-STING活性化にもかかわらず免疫監視を回避できるのか、という根本的な矛盾も未解明であった。IFN (type I interferon; I型インターフェロン) を介した抗腫瘍免疫応答はcGAS-STINGにより活性化されるはずだが、進行した転移性腫瘍では高頻度のCINが免疫回避と相関しており、この二律背反現象の分子基盤の解明が求められていた。TME (tumor microenvironment; 腫瘍微小環境) におけるCIN依存的なシグナルリワイアリングを細胞解像度で解明するための方法論も lacking (存在せず) であり、何が足りなかったかというと細胞間相互作用を事前知識なく推定できる単一細胞レベルのツールが不在であった。
目的
CINによる転移促進が免疫系依存的な非細胞自律的機構によることを複数の同系モデルで証明し、cGAS-STING慢性活性化がTMEをどのようにリプログラミングして免疫抑制を引き起こすかの分子機構を解明すること。また、細胞間相互作用を事前知識なく推定する新規アルゴリズム「ContactTracing」を開発・検証し、STINGシグナル阻害の治療的有効性を前臨床で評価すること。
結果
所見1: CIN転移促進は完全に免疫系依存:4T1腫瘍の正所移植・切除モデルにおいて、BALB/c宿主では CINhigh腫瘍がCINlow腫瘍と比較して肺表面転移数の中央値で11-fold (11倍) の差が認められたが、NSG宿主ではわずか1.1-fold (1.1倍) の差に過ぎなかった (Fig 1a)。CINhigh 4T1・CT26・EO771-LMB (Established Orthotopic Lung-Metastatic Breast cell line)・B16F10のいずれにおいても、cGAS KOまたはSting1-KO (Sting1 gene knockout) により肺転移が有意に減少したが (P < 0.001~0.0001、n=8-29 mice per group)、この効果はNSG宿主への移植では完全に消失した。shRNAを用いたSting1ノックダウンでも同様の結果が得られ、CRISPR off-targetの可能性を排除した。Sting1-KO細胞へのSting1再発現実験では用量依存的な転移との関係が確認された (Fig 1j)。一方、Sting1 KOは原発腫瘍サイズに影響しなかった。
所見2: cGAS-STINGがTMEを免疫抑制性にリワイアリング:scRNA-seq解析 (n=39,234 cells from 4T1 tumors) において、CINhigh腫瘍はCINlowと比較して免疫抑制性マクロファージ・Gr-MDSC (Granulocytic-Myeloid-Derived Suppressor Cells)・機能不全T細胞が著しく富んでいた (Fig 2b)。対照的にCINlow腫瘍は炎症性マクロファージ・IFN応答性B細胞・活性化樹状細胞・CD4 (Cluster Differentiation 4) + Tヘルパー細胞に富んでいた。CINhigh腫瘍へのSting1 KOはTMEをCINlow様の免疫活性化状態に転換させた。フローサイトメトリーではCINhigh腫瘍でCD11b (Cluster Differentiation 11b) +CD206 (Cluster Differentiation 206) +マクロファージおよびCD11b+Ly6G (Lymphocyte antigen 6G) +細胞の富化が確認された。CINhigh腫瘍細胞とマクロファージの共培養実験 (n=3 replicates) では、Cgas/Sting1 KOによりアルギナーゼ発現が有意に低下した。さらにCIN/cGAS/Sting1抑制によりCD8 (Cluster Differentiation 8) + T細胞遊走の増強と腫瘍細胞殺傷能の向上が確認された。
所見3: ContactTracingによるER応答の同定と機構解析:ContactTracingは既存手法 (NicheNet、CellPhoneDB) と比較して、ヒトTNBCの空間トランスクリプトームデータ (n=4 patients) との共局在率が有意に高く、in vitroサイトカインアッセイとも良好な相関 (Pearson r = 0.83; R2 (coefficient of Regression fit) = 0.69; P=1.45×10-9) が得られた (Fig 3d)。CINhigh腫瘍細胞由来のリガンドがTMEに与えるCIN・STING依存的相互作用を解析した結果、NF-κB (Nuclear Factor activating B cells) やIL6-JAK (Interleukin-6 and Lck/Janus-kinase Activating pathway) -STAT3 (Signal Transducer and Activator of Transcription 3) に加えてUPR (unfolded protein response: 小胞体ストレス応答) が中心的シグナルとして同定された。CINhigh腫瘍細胞ではCINlow・Sting1欠損CINhighと比較してERストレス関連遺伝子・NF-κB標的遺伝子が有意に濃縮され、IFNシグナルは抑制されていた (Sting1欠損でのERストレスNES (normalized enrichment score) =-0.85、FDR=0.83)。CCL2 (Chemokine C-type cytokine Ligand 2)、CXCL1 (Chemotactic Xenobiotic-Cross-linked Ligand 1)、IL11 (Interleukin 11)、APOE、SERPINE2 (serpin family E member 2; protease nexin-1) など既知の免疫抑制・転移関連リガンドがCIN・STING依存的に同定された。
所見4: STING依存的ER応答と転移の免疫依存性:ER応答の3主要センサー (IRE1α、PERK、ATF6) のCRISPR KOはCINhigh 4T1細胞の肺転移を有意に抑制したが (P<0.0001、n=8-16 mice per group)、この効果はNSG宿主では消失した (Fig 5b)。チュニカマイシン (ER応答誘導薬) 処理ではSting1 KO細胞でのERストレス応答マーカー (BiP (Binding immunoglobulin Protein)・CHOP (Cytoplasmic Homologous protein)・p-PERK・p-eIF2α・ATF4 (Activating transcription factor 4)) が著明に減弱していた。PERK選択的阻害薬AMG44処理によりGr-MDSCが減少し、NK細胞・CD8+ T細胞浸潤が増加した。
所見5: I型IFN脱感作のメカニズム:IMR90ヒト肺線維芽細胞へのcGAMP連続5日間処理実験 (n=3 independent experiments) において、初日処理後にはIFNB1 (Interferon and nuclear factor beta isoform 1)・ISG (interferon-stimulated genes) の強力な誘導が確認されたが、5日目処理ではISG発現がほぼ完全に消失した (tachyphylaxis)。一方ER応答・NF-κB標的遺伝子は5日目以降に増加した。この脱感作はPolyI:C (Poly-Inosinic acid complex; dsRNA類似体) 刺激では生じなかった。反復cGAMP処理はSTINGタンパク質レベルの低下をもたらし (オートファジー-リソソーム分解)、Cgas KOによりSTINGタンパク質レベルが3/4の細胞株で有意に回復した。
所見6: STING阻害薬の前臨床効果:STING阻害薬C-176およびH-151の毎日腹腔内投与により、免疫能正常宿主における4T1・B16F10・CT26のCINhigh転移モデルで有意な生存延長が確認された (P<0.001、n=8-12 mice per group)。Sting1-KO B16F10細胞移植マウスにC-176を投与してもSting1 KO単独を超える効果は認めず、腫瘍細胞内在的STINGへの依存性が示された。
所見7: ヒトTNBCにおける臨床的検証:ヒトTNBC (n=159 patients) において、cGAS陽性微小核頻度とSTING発現が逆相関することが確認された (Spearman ρ = -0.35; cGAShigh STINGlow (Sensor Triggering innate immunity, low phenotype) vs cGASlow STINGhigh (Sensor Triggering innate immunity, high phenotype))。cGAShigh STINGlow腫瘍はTIL (tumor-infiltrating lymphocyte) 低値かつDMFS (distant metastasis-free survival) 短縮と関連した (log-rank P<0.05、n=159 patients)。ヒトTNBCのscRNA-seqデータ (n=8 patients) においても、CINhigh腫瘍ではERストレス遺伝子発現とCINシグネチャーが相関し (ISGとは無相関)、M2様 (alternatively-activated macrophage type 2) マクロファージ・機能不全T細胞の富化が確認された。
考察/結論
本研究は染色体不安定性 (CIN) による転移促進が主として免疫系依存的な非細胞自律的機構によることを、4つの独立した同系マウスモデルで初めて明確に実証した (first to demonstrate with fully immune-competent syngeneic models)。これは先行研究 (Bakhoum et al. Nature 2018) が部分免疫不全モデルで行われていた知見と異なり (differs from prior work using partially immune-compromised hosts)、Genomic instability in cancer の腫瘍進化機構理解に新規な (novel) 視点を加えた。
機構的には、cGAS-STING pathway の慢性活性化がI型IFN tachyphylaxis (脱感作) を引き起こし、その下流でERストレス応答の増大と免疫抑制性リガンド (CCL2・CXCL1・IL11・APOE等) の産生増加を招くという二相性機構が明らかとなった。急性STING刺激は抗腫瘍免疫を活性化する一方、CINによる慢性刺激は逆に免疫抑制を誘導するという逆説的な作用転換が、days単位で起こりうるシグナルリワイアリングとして示された。STINGタンパク質のオートファジー分解によるフィードバック抑制も同定され、CIN高頻度腫瘍における「見かけのSTING不活性化」の機序として注目される。
ContactTracingは単一細胞RNA-seqデータから細胞間相互作用を事前知識なく推定する汎用的な方法論として確立され、in vitro実験・空間トランスクリプトーム (n=4 patients)・既存データとの多重検証によって信頼性が担保された。既存手法 (NicheNet・CellPhoneDB) と比較した空間的共局在検証で優位性を示したこの手法はTMEの複雑な相互作用解析に広く応用できる。
臨床的含意として、CIN高頻度腫瘍 (TNBC・大腸癌・黒色腫等) に対してSTING阻害が転移抑制に有効である可能性が示された。ヒトTNBC n=159 patients の臨床コホートでcGAS陽性微小核とSTING発現の逆相関・DMFS不良との関連が示され、cGAS/STING発現パターンがバイオマーカーとなりうる。STING活性化薬 (アゴニスト) の臨床試験が早期段階で限定的な有効性しか示していない理由として、CIN腫瘍においてSTINGシグナルが既に脱感作状態にある可能性が提示された。Clonal evolution and intratumor heterogeneity との関連でも、CIN依存的なTMEリモデリングは腫瘍進化における免疫選択圧の形成に重要な役割を果たすと考えられる。残された課題はER応答とSTINGリワイアリングの正確な分子機構、STING阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせ効果の検証、および臨床試験における患者選択基準の確立である。
方法
動物モデルと遺伝的操作: CINhigh (high-CIN: chromosomal instability high) ・CINlow (Chromosomal instability low)・cGAS/Sting1 (Sting gene isoform 1) ノックアウト変異を持つ4種類の同系転移モデルを確立した。モデルはTNBC (triple-negative breast cancer) の4T1/BALB/c (Bagg Albino Laboratory Background strain) およびEO771-LMB (established Oncology cell line, Lung-Metastatic Breast) /C57BL/6、大腸癌CT26 (CT26: BALB/c colon tumor) /BALB/c、黒色腫B16F10 (Black murine melanoma, Fischer strain) /C57BL/6を使用した。CINレベルはKif2b (Kif2b: kinesin family member 2b) /MCAK (MCAK: mitotic centromere-associated kinesin) 発現 (CIN低下) またはdnMCAK (dominant-negative MCAK) 発現 (CIN増加) により遺伝的に操作した。免疫能正常宿主とNSG (immunodeficient Non-obese and Scid Gamma mice) 免疫不全宿主の両方で転移を比較評価した (各群n=8-29 mice)。
scRNA-seq解析: 4T1腫瘍由来の39,234細胞を対象にscRNA-seqを実施し、TME全細胞種を網羅的に解析した。差次的存在量解析はMilo法 (Milo: milieu-based neighborhood analysis) を用いた。
ContactTracing開発: 受容体発現の生物学的変動とリガンド量の実験条件別変動を利用し、事前知識なしにリガンド-受容体依存的な細胞応答を推定する新規アルゴリズムを開発した。Hurdle model (MAST: model-based analysis of single-cell transcriptomics) を用いてCIN依存的・STING依存的なリガンド効果を推定し、NicheNet (NicheNet: network-derived intercellular crosstalk) およびCellPhoneDB、空間トランスクリプトームとのベンチマーク検証を実施した。
治療介入実験: STING (Sensor Triggering Innate-immune Network with cGas) 阻害薬C-176 (C-176: covalent STING inhibitor) およびH-151 (H-151: highly selective STING antagonist inhibitor) の腫瘍内在性STING依存的効果を複数モデルで評価した。ER (endoplasmic reticulum; 小胞体) 応答の3主要センサーIRE1α (IRE1: inositol-requiring enzyme) /ERN1 (Endoplasmic Reticulum Network 1) ・PERK (Phospho-eukaryotic initiator Regulating eIF2alpha Kinase) /EIF2AK3 (Eukaryotic initiation factor 2 alpha kinase) ・ATF6 (Activating transcription factor 6) のCRISPR-Cas9 KOによる転移への影響も評価した。PERK選択的阻害薬AMG44 (Amgen compound 44 inhibitor) を用いてER応答阻害の免疫調節効果も検証した。PRKR-like (Protein-Regulating Kinase Related) ER kinaseとも呼ばれるPERKは小胞体ストレス応答の中枢センサーである。
ヒトTNBC検証: n=159 patients (人)のヒトTNBCコホートにおいてcGAS陽性微小核頻度とSTING発現の相関、およびDMFS (distant metastasis-free survival) との関係を解析した。IMR90 (Isolated human lung fibroblast line) ヒト肺線維芽細胞への反復cGAMP刺激モデルでI型IFN脱感作を実証した。