- 著者: Shen Y. Heazlewood, Tanveer Ahmad, Monika Mohenska, Belinda B. Guo, Pradnya Gangatirkar, Emma C. Josefsson, et al.
- Corresponding author: Susan K. Nilsson / Minna-Liisa Anko (CSIRO Biomedical Manufacturing / Monash University / Hudson Institute of Medical Research, VIC, Australia)
- 雑誌: Blood
- 発行年: 2022
- Epub日: 2021-12-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 34852174
背景
血小板は骨髄巨核球 (MK) が放出する無核細胞質片であり、正常止血、創傷治癒、炎症免疫応答に不可欠である。MK成熟は、内有糸分裂 (endomitosis) による多倍体化、demarcation membrane system (DMS) の構築、細胞質拡張、血小板顆粒 (α顆粒、dense顆粒、リソソーム) 形成を経る複雑なプロセスで終結する。この血小板産生過程の複雑さは、異常な血小板数や機能によって特徴づけられる多様な血小板疾患に反映されている (Nurden et al. 2015, Maclachlan et al. 2017)。転写因子がMKの系列決定を指令する一方 (Katsumura et al. 2017, Avellino et al. 2017, Porcher et al. 2017, de Bruijn et al. 2017)、SF3B1、U2AF1、SRSF2などのスプライシングファクター遺伝子変異が骨髄異形成症候群 (MDS) 患者に頻繁に認められる事実は (Graubert et al. 2011, Yoshida et al. 2011, Qiu et al. 2016)、正常造血における転写後制御の重要性を示している。MK前駆細胞およびin vitro分化させた胎児肝CD41+ MKにおける広範なイントロン保持の同定は (Edwards et al. 2016)、RNAプロセシングがMK遺伝子発現の調整において中心的な役割を果たすことを示唆する。さらに、RNA結合タンパク質をコードするRBM8A遺伝子の変異が血小板減少症-橈骨欠損症候群を引き起こすことも報告されている (Albers et al. 2012)。
血小板はゲノムDNAを持たないが、親MKから受け継いだ豊富なRNAレパートリーを含み、リボソームとRNA分解機構も備える (Mills et al. 2016, Denis et al. 2005)。血小板のRNA内容は血小板機能の変化を反映し (Rowley et al. 2011, Schubert et al. 2014)、MKによるRNA搭載と血小板におけるRNA分解の両方が制御されているが、これらのプロセスを制御する因子は大部分が未解明である (Cecchetti et al. 2011, Mills et al. 2017)。RNA結合タンパク質 (RBP) はRNA生合成のあらゆる段階で必要とされ、細胞のRNAレパートリーを修飾する。セリン-アルギニンリッチ (SR) タンパク質ファミリーに属するRNA結合タンパク質 (RBP) SRSF3 (serine-arginine-rich splicing factor 3) は、mRNAスプライシング、ポリアデニル化、核細胞質輸送、翻訳制御を含むRNA代謝の多段階を制御する (Zhong et al. 2009, Anko et al. 2014, Huang et al. 2001, Cavaloc et al. 1999, Lou et al. 1998, Auyeung et al. 2013, Anko et al. 2012, Ratnadiwakara et al. 2018)。しかし、MKおよび血小板におけるSRSF3の生理的役割は未解明であった。全身性ヘテロ接合型Srsf3欠損マウスが血小板数の減少を示すことから (Jumaa et al. 1999)、MKにおけるSRSF3の特異的機能の解析が不足していた。本研究は、SRSF3がMK成熟と血小板産生に不可欠な役割を果たすことを初めて包括的に実証し、その分子メカニズムを解明することを目的とした。
目的
本研究の目的は、MK特異的Srsf3欠損マウス (Pf4-Srsf3△/△) を作製し、SRSF3がMK成熟、血小板産生、および血小板へのRNAの選別的搭載に果たす役割と分子機序を包括的に解明することである。具体的には、以下の4つの主要な目的を設定した。(1) SRSF3欠損がMK成熟障害と血小板表現型に与える影響を同定し、その重症度と特徴を明らかにする。(2) MK成熟過程におけるトランスクリプトーム再プログラミングにおけるSRSF3の役割をRNAシーケンス解析により詳細に解析する。(3) SRSF3がmRNA核外輸送アダプターとして機能し、特定のmRNAの核内蓄積を引き起こすメカニズムを実証する。(4) 血小板へのRNA選別におけるSRSF3の役割を解明し、SRSF3欠損が血小板RNAレパートリーに与える影響を明らかにする。これらの目的を達成することで、SRSF3が正常な血小板産生と血小板病態の理解に重要な役割を果たすことを示す。
結果
所見1:MK特異的SRSF3欠損による重症血小板減少症と異常血小板の産生: Pf4-Srsf3△/△マウスは末梢血小板数が対照と比較して90%以上減少した (Figure 1C)。一方、同一前駆細胞由来の赤血球数は正常であり、骨髄MK総数および各ploidy別MK数 (Figure 1D, E) は不変であったことから、endomitosisは影響を受けないことが示された。MK表面受容体であるCD41 (integrin αIIb)、CD61 (integrin β3)、c-MPLの高発現集団がploidy横断的に有意に減少した (Figure 1F-H, p<0.0001)。残存する5〜10%の血小板は対照比約2倍の面積を示し (Figure 2E-G)、macrothrombocytopeniaの表現型を呈した。これらの血小板は顆粒密度が著明に減少し (Figure 2H)、空胞 (空のα顆粒) を含み、形態的に活性化状態を呈した (Figure 2I)。GPIbα (CD42b) やGPIX (CD42a) は血小板サイズ増大に応じて増加したが、GPVI (GP6) は低下した (Figure 3A)。これらの結果は、SRSF3がMK成熟と血小板産生に必須であることを示唆する。
所見2:SRSF3欠損による血小板機能障害と急速な循環からのクリアランス: 精製Pf4-Srsf3△/△血小板はアゴニスト非存在下で既にP-selectin表面露出が最大付近まで亢進しており (pre-activation)、アゴニスト刺激への追加応答は著明に低下した (Figure 3C, p<0.001)。CFSE/CTV標識血小板の移植実験では、Srsf3-null血小板の半減期が野生型20.8時間から10.9時間に短縮し (Figure 4A)、in vivoでは対照血小板と比較して9.3倍速くクリアされた (Figure 4B)。Pf4-Srsf3△/△マウスは脾臓重量増加および脾臓血小板含有数増加を示し (Figure 4C, p<0.0001)、Caspase 3/7活性増加 (Figure 4D) およびAnnexinV陽性増加が認められ、主に脾臓でのアポトーシスによる血小板破壊が機序として示唆された。安定状態での新生網状血小板 (TO+) 比率が対照の<5%からPf4-Srsf3△/△では>40%に増加し (Figure 4E, p<0.0001)、持続的な血小板産生が示唆されたが、APS (抗血小板血清) 負荷試験では回復の頭打ちが見られ、血小板産生予備能が制限されていることが示された (Figure 4F)。これらの実験は、Srsf3-null血小板が機能不全であり、循環から迅速に除去されることを明確に示した。
所見3:MK成熟ステージの停止と超微細構造異常: TEM解析により、Pf4-Srsf3△/△骨髄では、多葉核、十分に発達したDMS、豊富な血小板顆粒を特徴とするStage III MKが消失し、Stage II MK (核型不整、20〜80 µm) が増加していることが示された (Figure 2A, B)。Stage I megakaryoblast数は変化しなかった。Stage IIおよびIIIのMKでemperipolesis (他の細胞の貪食) が顕著に増加しており (Figure 2C, D)、灰色血小板症候群 (GPS) などのMK関連疾患との表現型類似性が認められた。この所見は、SRSF3がMKの形態学的成熟に不可欠であることを示す。
所見4:MK成熟転写プログラムの再編失敗とmRNA核外輸送障害: RNAシーケンス解析により、対照MKでは8Nから≥16Nへの移行で321遺伝子が変化 (258上昇、63低下) し、MK・血小板特異的機能をコードするRNAが誘導されたが (Figure 5A, Table 1)、Pf4-Srsf3△/△では71遺伝子の変化のみで成熟プログラムの活性化が失敗した (Figure 5B, C)。≥16N MKの対照との比較では224遺伝子 (213下方制御) が異常であり (Figure 5D, Table 1)、Tubb1/Tubb2a/Tubb2b (proplatelet微小管、log2FC -3.32, -2.93, -1.91)、Nbeal2 (α顆粒形成、Gray platelet syndrome原因遺伝子)、Itga2b, Itgb3 (integrin受容体)、P2ry12, Alox12, Slfn14, Rasgrp2, Vwf, Myh9等のヒト血小板疾患関連遺伝子が下方制御された (Figure 5E, Table 2)。MEG-01細胞でのRIP実験により、SRSF3がMPL, ITGA2B, ITGB3 mRNAに直接結合することを確認し (Figure 5H)、iCLIPデータとの比較でMK成熟時DEGの約1/3が直接SRSF3標的であることを示した (Figure 5G)。CRISPR/Cas9でSRSF3を欠損させたMEG-01細胞の核細胞質分画実験では、MPLおよびITGA2B mRNAが核内に有意に蓄積し細胞質で減少した (Figure 5I, p<0.05)。これは、対応タンパクの大幅な発現低下の機序として提唱された。これらの結果は、SRSF3がMK成熟における転写プログラムの再編とmRNA核外輸送に重要な役割を果たすことを示す。
所見5:血小板へのRNA選別異常: 血小板RNAシーケンスでは5827遺伝子 (3120上昇、2707低下) が異常であり (Table 1, Figure 6B)、platelet/MK RNA比の分布がbimodal・左方偏移し、対照での正常な「MK成熟誘導RNA選択的蓄積」パターンが消失した (Figure 6D, E)。Srsf3-null血小板では1血小板当たりのRNA量が対照比約20倍増加し (Figure 6A, p<0.05)、上位40 platelet RNA中の非遍在的platelet特異的RNA含有率が対照17/40からSrsf3-null 8/40に低下した。これらの結果から、SRSF3が核外輸送に加えて細胞質でのMK RNA選別・血小板への積荷にも機能することが示された (Figure 6G)。
考察/結論
本研究は、RNA結合タンパク質SRSF3がMK成熟時の転写プログラム再編と血小板への機能関連RNA選別の両方に不可欠であることを初めて包括的に実証した画期的な研究である。SRSF3欠損によるmacrothrombocytopeniaの表現型は、Tubb1関連大血小板減少症、Gray platelet syndrome (Nbeal2)、MYH9-related disease、ITGA2B/ITGB3関連血小板減少症などヒト先天性血小板疾患と高い類似性を示し、MK RNA処理が血小板疾患の共通分子基盤をなす可能性を示唆する。
先行研究との違い: これまでSRSF3が他の細胞種でmRNAスプライシングや核外輸送に関与することは知られていたが、MK成熟における転写プログラムの再編や血小板へのRNA選別という、血小板産生に特化した生理的役割は本研究で初めて明らかにされた。特に、SRSF3がmRNA nuclear export adaptorとしてMPL/CD41/CD61 mRNAの核外輸送を担い、タンパク量を転写量から独立して調節するという機構は、MK成熟過程における転写後レベルでの遺伝子発現チューニングの新パラダイムを提示する点で、これまでの知見と異なる。
新規性: 本研究で初めて、SRSF3が核外輸送に加えて細胞質でのMK RNA選別・血小板への積荷にも機能するという新規の発見がなされた。これは、「血小板RNAはMK由来であるが単純なクロスセクションではなく選択的に積荷される」という近年の知見を遺伝学的に裏付ける初の証拠である。この選択的RNA搭載のメカニズムは、血小板の機能的特異性を決定する上で極めて重要である。
臨床応用: 本知見は、SRSF3欠損がヒトのmacrothrombocytopeniaと類似した表現型を示すことから、ヒト先天性血小板減少症や骨髄異形成症候群における血小板病態の理解に重要な臨床的意義を持つ。SF3B1, U2AF1, SRSF2などのスプライシング因子変異がMDSを引き起こす機序解明においても、RNA処理の血小板産生への役割は重要な手がかりとなる。SRSF3の機能不全が血小板疾患の原因となりうる可能性は、新たな診断マーカーや治療標的の開発に繋がる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) emperipolesis (SRSF3欠損MKでの異常細胞貪食) の分子機序、(2) SRSF3と他のSRタンパク (SRSF1, SRSF2等) との機能分担と代償機構、(3) ヒトMDS・先天性血小板減少症患者でのSRSF3変異・発現異常の検証、(4) エクソソーム/MVを介した血小板RNAの細胞間コミュニケーションへの寄与、が挙げられる。これらの課題を解決することで、SRSF3が関与する血小板産生制御の全貌がさらに明らかになるだろう。
方法
Srsf3 fl/fl × Pf4-Cre交配によりMK特異的欠損マウス (Pf4-Srsf3△/△) を確立し、6〜10週齢の雄雌C57BL/6Jマウスを使用した。動物実験はMonash University Animal Ethics Committeeの承認を得て実施された。骨髄MKはHoechst 33342/CD41/CD61/c-MPL標識でフローソーティングし、ploidy別に8Nおよび≥16N集団を分離した (それぞれ23±3k細胞、81±5k細胞)。透過型電子顕微鏡 (TEM) でMK成熟ステージ (Stage I-III) と血小板超微細構造を評価した。血小板クリアランス実験は、CFSE/CTV標識血小板の野生型マウスへの同種移植と、in vivo抗CD42c-Dylight488抗体を用いた循環血小板の標識により行った。血小板機能は、ADP/convulxin/PAR4-AP/thrombinでアゴニスト刺激後のJON/A (αIIbβ3活性型) およびP-selectin表面露出をフローサイトメトリーで評価した。
RNAシーケンスはIllumina HiSeq1500で実施し、リードはDobin et al. Bioinformatics 2013を用いてEnsembl mm10にアラインメントした。差次的遺伝子発現 (DEG) 解析はMKについてはRobinson et al. Bioinformatics 2010、血小板についてはLove et al. GenomeBiol 2014を用いて行った。遺伝子オントロジー (GO) 濃縮解析はHuang et al. NatProtoc 2009を用いて実施した。MEG-01ヒト巨核球細胞株にSRSF3-GFPをレンチウイルス発現させ、RIP-RT-qPCRでRNA直接結合を確認した。CRISPR/Cas9でSRSF3を欠損させたMEG-01細胞の核細胞質分画を行い、MPL、ITGA2B、ITGB3 mRNAの細胞内局在をRT-qPCRで解析した。18S rRNAおよびU6 snRNAを分画の純度評価に用いた。Caspase 3/7活性はCaspase Glo-3/7アッセイで測定した。統計解析には2-tailed unpaired Student t testおよび2-way ANOVAを用いた。