• 著者: Emma Lefrançais, Guadalupe Ortiz-Muñoz (co-first), Axelle Caudrillier, Beñat Mallavia, Fengchun Liu, David M. Sayah, Emily E. Thornton, Mark B. Headley, Tovo David, Shaun R. Coughlin, Matthew F. Krummel, Andrew D. Leavitt, Emmanuelle Passegué, Mark R. Looney
  • Corresponding author: Mark R. Looney (University of California, San Francisco, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-03-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28329764

背景

血小板は止血・血栓形成・炎症応答に不可欠な細胞成分であり、その産生は主に巨核球 (MK) が骨髄血洞にプロプラテレット (proplatelet) 延長体を放出することで行われるという「骨髄中心モデル」が約100年にわたる定説であった (Semple et al. 2011; Machlus & Italiano 2013)。しかし、1937年のHowell & Donahueによる「肺を通過した静脈血では動脈血より血小板数が多くMKが少ない」という生理学的観察や (Kallinikos-Maniatis 1969)、電子顕微鏡による肺毛細血管内MKの記録 (Zucker-Franklin & Philipp 2000) など、肺が血小板産生に寄与するという間接的証拠は断片的に報告されてきた。また肺循環には骨髄を出た血流が最初に到達するという解剖学的特性から、MKが肺毛細血管に捕捉されてプロプラテレット形成を完成させる可能性も理論的に指摘されていた (Weyrich & Zimmerman 2013)。

しかし、こうした間接的証拠が積み重なる一方で、肺における血小板産生を生体内でリアルタイムかつ直接的に可視化・定量した研究は皆無であり、肺が実際に血小板産生に占める割合は不明のままであった。この分野の知見は著しく手薄であり、gap in knowledgeとして長年放置されていた。同様に、健常成体の肺に機能的な造血前駆細胞が存在するという概念は教科書的な造血モデルには含まれておらず、骨髄・脾臓・肝臓以外の臓器が造血幹細胞 (HSC) の生理的貯蔵庫となり得るかどうかも未解明であった。

肺イメージングの技術的障壁は、安定化肺2光子生体顕微鏡 (2PIVM) の開発 (Looney et al. NatMethods 2011) によって突破された。PF4-Cre報告マウス系統の活用と組み合わせることで、MK系細胞を特異的に蛍光標識したまま生体内でリアルタイム追跡できる環境が整い、これらの根本的な問いに直接答えることが初めて可能となった。

目的

本研究の目的は3点である。(1) 2PIVMとPF4-Cre×Rosa26-mTmG報告マウス (PF4-mTmG) を用いてマウス肺毛細血管内でのMKによる血小板産生をリアルタイム可視化・定量し、肺が全血小板産生に占める割合を算出する。(2) 単肺移植モデルを用いて肺内MKの細胞外起源を証明し、肺実質内の造血前駆細胞プールを同定・定量する。(3) 肺移植実験によって肺内造血前駆細胞がTPO受容体欠損 (c-mpl-/-) 血小板減少症マウスの血小板産生および骨髄HSC欠損を機能的に回復させることを実証する。

結果

肺毛細血管内でのリアルタイム血小板産生と定量: PF4-mTmGマウスの肺2PIVM (n=10 mice、計20時間撮影) により、GFP+の大型MK (体積中央値10,000 μm³、直径>25 μm) が肺毛細血管内でプロプラテレット延長体を形成し、直径2-3 μm (体積<10 μm³) の小型GFP+血小板を循環に放出する様子を初めてリアルタイムで直接可視化した (Fig. 1a, b)。各イベントは20-60分にわたり継続し、巨核球核は血小板放出後に裸核として血管内に残存することが確認された。放出血小板数はMKサイズにより異なり、小型MK (<500血小板、n=18)、中型 (500-1,000血小板、n=7)、大型 (>1,000血小板、n=10) に分布し、中央値は約500血小板/MKであった (Fig. 1f)。観察体積0.07 mm³あたりの平均MKフラグメントイベントは2.2±0.26/時間 (n=10 mice) であり (Fig. 1g)、全肺体積への外挿では1時間あたり1,000万血小板以上の肺内産生量が推定された (Fig. 1h)。血小板寿命 (3-5日) と脾臓への1/3隔離を補正すると、肺は全身血小板産生の約50%を担うと算出された (Fig. 1i)。単肺移植実験 (mTmG肺→PF4-mTmG受容マウス) でのみ肺毛細血管内でGFP+MKによる血小板放出が観察されたことから、肺内で血小板を産生するMKはすべて肺外 (骨髄等) 起源であることが確認された。骨髄・脾臓でも細胞外MKによるproplatelet放出が観察されたが、血管内MKによる血小板放出イベントは肺特有の現象であり、肝臓ではMKは検出されなかった。

TPO刺激による肺内血小板産生の生物学的調節性: TPO投与後5日目に循環血小板数が対照群比で約3倍に増加し (n=5 mice/群、p<0.0001、Fig. 1j)、2PIVMで観察されるMKフラグメントイベント頻度は対照群の2.2±0.26/時間 (n=10) から3.9±0.38/時間 (n=9 mice) へと有意に増加した (約1.77倍、p<0.005、Fig. 1k)。血小板サイズ中央値は対照群で8.4 μm³ (n=492 platelets) 、TPO投与群では10.1 μm³ (n=389 platelets) で有意差はなく (not significant)、TPOは血小板サイズではなく産生量を特異的に増加させることが示された。2PIVM実施前後で血小板数は変化せず (n=3、not significant)、観察操作自体が血小板産生に影響しないことが確認された (Extended Data Fig. 1b)。これらの結果は、肺内血小板産生が造血成長因子により生物学的に制御可能であることを示す。また、von Willebrand factor (vWF) レベルが肺動脈で特に高いことや (Yamamoto et al. 1998)、MKとvWFを介するGPIb-vWFシグナリングがin vitroでproplatelet形成を促進するという既報 (Dunois-Lardé et al. 2009) から、肺血管特有の分子環境がMKに対してproplatelet形成を促進している可能性が示唆された。

肺実質内造血前駆細胞プールの同定と定量: PF4-tomatoおよびPF4-mTmGマウスの肺2PIVMにより、肺間質 (perivascular lung interstitium) に大型の静止性PF4+細胞が多数存在することが確認された (Fig. 2a, b)。これらの細胞は2PIVM撮影中 (最長4時間) に動かず、細胞外局在を示した。血管内ラベリング法 (静脈内CD41-APC注射後に肺灌流・消化) により、PF4+細胞の85%が血管外・15%が血管内に局在することが明確になった (Fig. 2j、平均4実験・n=8 mice)。定量的画像解析では肺組織1 mm³あたり約2,000個のPF4+細胞が存在し、全肺では100万個以上と推定された (Fig. 2e、n=312 cells解析)。血管外MKは血管内MKと比べて体積が約1/3、直径が約1/2と小さく、骨髄・脾臓の常在性MKよりも小型であった。PF4-nTnGマウスのFACS解析では、核GFP+CD41+細胞がGPVI (glycoprotein VI) およびc-Mpl (TPO受容体) を発現し、マクロファージマーカーF4/80には陰性であったことから、MK系細胞であることが確認された (Fig. 2k)。RNA-seq解析では、肺MKと骨髄MK (nGFP+CD41+) の間で705遺伝子が差次的発現を示し (FDR<0.05、肺で543遺伝子上方制御・162遺伝子下方制御、Extended Data Fig. 4a)、肺MKは骨髄MKより成熟マーカー (CD42b、CD61、DNA含量) の発現が低く、より未熟なプロファイルを示した。さらに、肺MKはinnate immunity関連の遺伝子経路 (TLR経路・ケモカイン) が上方制御されていた (Extended Data Fig. 4d-f)。フローサイトメトリー解析 (全肺n=12 mice) では、肺の血管外空間にMkP・LT-HSC・ST-HSC・MPP2・MPP3/4・myeloid progenitorの各サブセットが存在することが直接確認された (Fig. 4a, b)。ST-HSCは脾臓より肺に多く存在し、肺の造血前駆細胞プールとしての独自性が示された。

肺移植による血小板産生と骨髄HSC再構成の実証: PF4-tomato肺をc-mpl-/-マウスに移植すると (n=4-6 mice/群)、70% (7/10) の受容マウスで移植後から90日以上にわたる持続的なドナー由来Tomato+CD41+血小板産生が確認され、血小板数を完全に正常化した (Fig. 3b, c, d)。再構成血小板はCD42・GPVI・c-Mplに陽性で、トロンビン (10 nM) 刺激でCD62P発現が誘導され (p<0.01)、機能的な血小板であることが確認された (Extended Data Fig. 6)。TPO非投与のc-mpl-/-受容でも5例中2例 (40%) で再構成が観察された (Extended Data Fig. 5a, b)。10カ月追跡例でも持続的なドナー由来血小板産生が維持され、長期再構成能が実証された (Extended Data Fig. 5j, k)。一方、c-mpl-/-肺→c-mpl-/-受容では血小板再構成は生じず (Fig. 3b)、TPO-competentなドナー肺由来前駆細胞の存在が必須であることが示された。mTmG肺移植後3カ月のc-mpl-/-受容マウスの骨髄解析では、MkPの約1/3がドナー由来Tomato+であり (n=2-4 mice/群、p<0.05、Fig. 3i, j)、LT-HSC・ST-HSC・MPP2・MPP3/4の全LSKサブセットが有意に回復した (Fig. 3k-n)。野生型肺から精製したLSKおよびST-HSC細胞をc-mpl-/-マウスに静脈内注射するのみでも末梢血c-Mpl+血小板が有意に増加し (p<0.001)、血小板数が部分的に回復した (Fig. 4g-i)。さらに移植後2-3カ月で末梢血にドナー由来好中球・B細胞・T細胞が検出され (Extended Data Fig. 8i-k)、多系統造血が実証された。これらはHaas et al. CellStemCell 2015の示した炎症誘導性造血とは異なり、定常状態の肺内に機能的造血前駆細胞が生理的に貯蔵されていることを示す。近年、Conrad et al. Blood 2025はヒト成体肺においても機能的造血前駆細胞を同定しており、本研究のマウスにおける知見がヒトにも保存されている可能性を支持する (Heazlewood et al. Blood 2022 は MK 成熟と血小板産生における RNA 結合蛋白の役割を詳述)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は「血小板産生の主座は骨髄」という約100年にわたるパラダイムを生体内直接観察データによって根本的に塗り替えた点で、既報の間接的証拠に基づく知見と対照的である。Howell & Donahue (1937) の古典的観察やZucker-Franklin & Philipp (2000) の電子顕微鏡観察はいずれも間接的な証拠に留まり、肺での血小板産生量の定量や生物学的調節性の実証には至っていなかった。本研究は2PIVMとPF4-Cre報告マウスという手法の組み合わせにより、これらの間接的証拠が指し示していた生物学的現象を定量的に確認した。また、成体肺に機能的造血前駆細胞が存在するという知見はこれまでの教科書的造血モデルに存在せず、骨髄・脾臓中心の既報の造血学的理解と相違する。

新規性: 本研究で新規に明らかにされた知見は3点にわたる。第一に、生体内リアルタイム定量解析 (n=10 mice、計20時間、2.2±0.26 MK/時間) により肺が全血小板産生の約50%を担うことを直接証明し、数値的に骨髄中心モデルを否定した点は本研究で初めて示されたことである。第二に、成体肺の血管外空間に機能的造血前駆細胞 (MkP・LSKサブセット・LT-HSC) が100万個規模で存在するという、これまで報告されていない解剖学的実体を同定した点である。第三に、肺移植実験によりこれら前駆細胞が骨髄に移動して90日以上の血小板産生完全回復と多系統造血を達成することを実証した点であり、肺を単なる血小板産生部位を超えた「造血器官」として位置づける新規な概念を提唱した。

臨床応用: 本研究の発見は、世界で数百万人が罹患する血小板減少症 (化学療法誘発性・再生不良性貧血・特発性血小板減少性紫斑病など) の治療に新たな戦略を開く臨床的意義を持つ。著者らは肺を「血小板産生バイオリアクター」として位置づけ、MKの細胞療法や成長因子を活用した血小板産生促進療法への展開可能性を提案している。また、肺移植後のドナー由来造血前駆細胞によるキメラ現象は急性・慢性同種移植片拒絶反応の制御に影響し得ることが示唆され、肺移植の臨床現場における新たな視点を提供する。RNA-seq解析で明らかになった肺MKのinnate immunity遺伝子経路の上方制御は、炎症性・感染性肺疾患における宿主防御への関与を示唆し、bench-to-bedsideの観点から将来の探索的研究の基盤となる。

残された課題: 今後の検討として重要な点がいくつかある。第一に、本研究はマウスモデルに限定されており、ヒト肺での同様の血小板産生と造血前駆細胞の存在を確認することが残された課題である。倫理的制約から直接の2PIVM観察は困難であるため、間接的アプローチ (肺移植後の血小板産生解析や剖検組織解析等) が必要となる。第二に、肺内造血前駆細胞のニッチを規定する分子シグナル (ホーミング因子・microenvironment維持機構) の同定は今後の研究として不可欠である。第三に、MRSA肺炎モデルで肺MKおよび造血前駆細胞の分布が変動することが示唆されたが (Extended Data Fig. 4g-k)、感染・炎症下での肺の造血機能の変動メカニズムの解明がlimitationとして残る。第四に、肺内MKが産生する血小板の機能的特性が骨髄由来血小板と質的に同等であるかどうかは本研究では直接評価されておらず、future researchの課題である。

方法

使用マウスモデル: C57BL/6J背景の複数のモデルを用いた。PF4 (Platelet Factor 4、血小板第4因子; MK系細胞特異的ケモカイン)-Cre×Rosa26-mTmG (membrane Tomato/membrane GFP) マウス (PF4-mTmG): PF4陽性MK・血小板が膜GFP (green fluorescent protein) 標識、他全細胞は膜Tomato標識。PF4-Cre×nTnG (nuclear Tomato/nuclear GFP) マウス (PF4-nTnG): GFPが核に局在し無核血小板を除外可能なモデル。PF4-Cre×Rosa26-LSL-tdTomatoマウス (PF4-tomato): MK・血小板がTomato標識。c-mpl-/-マウス (Genentech提供): TPO (thrombopoietin、トロンボポエチン) 受容体欠損による血小板産生不能。マウスはすべて8-12週齢の雌雄を使用した。

2光子生体内イメージング: 安定化肺イメージング法を改変し実施した。麻酔・人工呼吸下 (MiniVent、130-140回/分、tidal volume 10 μl/g、PEEP 2-3 cm H2O) のマウスに胸部窓 (8 mm coverslip) を第4-5肋間に挿入し、20-25 mmHgの吸引圧で左肺を固定した。Nikon A1R Multi-photon顕微鏡 + Mai Tai DeepSee IRレーザー (920 nm) で25倍水浸レンズを用い、緑色 (500-550 nm) および赤色 (570-620 nm) 発光を検出。1フレーム/秒・512×512ピクセル・40 μm zスタックで120分間撮影し、n=10 miceで計20時間の映像を取得した。画像解析はImaris 7.6.1 (Bitplane) で実施し、MKの体積・直径解析 (n=35)・血小板体積解析 (n=492) を行った。血小板産生量は観察体積 (0.07 mm³) から全肺体積への外挿と血小板寿命・脾臓隔離率 (1/3) で補正して算出した (Extended Data Table 1)。

TPO刺激実験: 組換えヒトTPO (rhTPO, Genentech、250 mg/kg、腹腔内投与) を5日前投与後に肺2PIVMと末梢血血小板数測定を実施した (n≥5 mice/群)。

単肺移植モデル: 灌流済みPF4-tomatoまたはmTmG肺をc-mpl-/-または野生型受容マウスに左肺移植した (n=4-6 mice/群)。移植後3日目・40日目にrhTPO投与 (250 mg/kg、腹腔内)、毎週下顎静脈採血でHemavet 950 FSによる血小板数測定とFACSによるドナー由来Tomato+CD41+血小板の追跡を最長10カ月実施した。

フローサイトメトリー・細胞ソーティング: 灌流後の肺をDnaseI (5 μl/ml) + LiberaseTM (0.5 mg/ml) で37°C・30分間消化後、100 μm→40 μmストレーナー濾過・赤血球溶解を行った。血管内外局在の区別にはCD45-APCまたはCD41-APCを静脈内注射5分後に灌流・消化する方法を用いた。造血前駆細胞のゲーティング: LSK (Lin-CD45+Sca-1+c-Kit+)、MkP (myeloid progenitor中CD150+CD41+)、LT-HSC (LSK CD48-CD150+)、ST-HSC (LSK CD48-CD150-)、MPP2 (LSK CD48+CD150+)、MPP3/4 (LSK CD48+CD150-)。骨髄はtibiaとfemurをPBS-5 mM EDTAでフラッシュして回収した。LSRII (BD Biosciences) で解析、BD FACS Aria IIでソーティング、FlowJoでデータ解析を実施した。

RNA-seq解析: PF4-nTnGマウスの核GFP+CD41+MKを肺・骨髄からソート (4 mice/実験、3独立実験)、Nugen Ovation plus NexteraキットでmRNAライブラリーを作製し、Illumina HiSeq 4000で50 bp single-end RNA-seqを実施した (平均72百万リード/サンプル、総432百万リード)。STAR_2.4.2aでGRCm38.78にアライン、DESeq2 v1.14.0で差次的発現遺伝子 (DEG) を同定し (FDR<0.05)、DAVID Bioinformatics ResourcesでGene Ontology Biological Processes (GO-BP) 解析を実施した。

統計解析: unpaired t検定および一元配置ANOVA + Bonferroni事後検定 (GraphPad PRISM 5.0) を使用し、p≤0.05を有意とした。RNA-seq差次的発現遺伝子 (DEG) 同定にはFDR (false discovery rate、偽発見率) <0.05を用いた。外れ値の事前定義: 肺移植手術の失敗率10%は事前に除外を規定した。PEEP (positive end-expiratory pressure、呼気終末陽圧) 2-3 cm H2Oの条件は画像取得の安定化に不可欠であった。