• 著者: Meili Sun, Huan Shi, Chuanyong Liu, Jie Liu, Xianqiang Liu, Yuping Sun
  • Corresponding author: Yuping Sun (Jinan Central Hospital, Shandong University, China)
  • 雑誌: Breast Cancer Research
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-06-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24919843

背景

HER2 (Human Epidermal growth factor Receptor 2、ErbB2) は乳癌・卵巣癌・胃癌等で過剰発現する TAA (tumor-associated antigen、腫瘍関連抗原) であり、CAR-T (chimeric antigen receptor T cell) 細胞療法の有望な標的である。先行研究の文脈では、(1) trastuzumab (Slamon et al. NEJM 2001) は乳癌に有効であるが、多くの HER2 陽性腫瘍が trastuzumab 耐性を示すこと、(2) Morgan et al. Mol Ther 2010 (PMID 20179677) で trastuzumab 由来 4D5 scFv を用いた高親和性 HER2-CAR-T 投与で致死的 cytokine storm が発生した重大事例、(3) Zhao et al. Cancer Res 2010 (PMID 19843940) で signaling domain modified herceptin-CAR が proof-of-concept を示した、(4) Park et al. Mol Ther 2007 (PMID 17062687) で gene-modified T cell の卵巣癌第 I 相試験が開始、(5) Carpenito et al. PNAS 2009 (PMID 19211796) で CD28 + 4-1BB dual-costim CAR が確立、という流れがある。

これらの先行研究では「ヒト化 scFv で trastuzumab とは異なるエピトープを認識し、Tcm (central memory T cell) 表現型維持と Morgan 事例の毒性回避を両立する HER2-CAR の前臨床評価」が 未解明 であった。何が足りなかったか は明確に、(a) trastuzumab 耐性腫瘍への代替設計、(b) マウス由来 scFv の immunogenicity 回避、(c) CD8α hinge + CD28 + CD3ζ という 2 世代 CAR 構造でヒト化抗体を統合した実証、が gap として残存しており、安全かつ持続的な HER2-CAR-T 設計の前臨床基盤が欠落していた。本研究はヒト化抗 HER2 抗体 chA21 (Cheng et al. Hybridoma 2003) の scFv (KD=11 nM、高い結合親和性、subdomain I 認識) を用いて、この gap を埋める新規 CAR を構築した。

目的

ヒト化抗HER2 chA21 scFvを用いたCD28共刺激含有CAR (chA21-28z) を構築し、HER2陽性腫瘍細胞株に対するin vitro細胞傷害活性とNOD/SCIDマウスモデルでのin vivo抗腫瘍活性を評価すること。

結果

CAR 発現効率と Tcm 優位表現型 (n=3 donor、MOI=5): 健康ドナー 3 名の末梢血 T 細胞に lentiviral vector (MOI=5) で chA21-28z CAR を導入した結果、平均 transduction 効率は 約 70% (range 65-78%、CD3+ T 細胞中、n=3 donor、Fig 1) であった。CD4+ T 細胞 (約 40-45%) と CD8+ T 細胞 (約 55-60%) 両方への transduction が確認された (Fig 2)。培養 14 日目の表現型解析では Tcm (CD45RO+CD62L+ central memory) 表現型の割合が day 0 の約 15-20% → day 14 の約 60-70% (約 3-4-fold 増加、P < 0.01) と劇的に上昇しており、CD45RO+CD62L- effector memory (Tem) や CD45RA+CD62L+ naive 集団は相対的に減少した (Fig 2、Table 1)。この Tcm 優位の組成は long-term in vivo 持続性と抗腫瘍効果の維持に有利な記憶表現型として注目される (Klebanoff et al. Trends Immunol 2005 の Tcm 優位仮説を支持)。

in vitro 抗原特異的細胞傷害性 (n=7 HER2+ 株 vs n=2 HER2- 株): 51Cr 放出 cytotoxicity assay (4 時間、E:T 比 30:1, 15:1, 5:1, 1:1) による in vitro 評価では、HER2 陽性株 (SKBR3、MCF-7、T47D、SKOV3、OVCAR3、A2780、A1847 の n=7 株) に対して chA21-28z CAR-T 細胞は specific lysis 約 60-85% (E:T=30:1) の高い特異的細胞傷害性を示し (Fig 3、約 5-10-fold vs NT control)、IFN-γ (約 5000-15000 pg/mL) と IL-2 (約 1500-4000 pg/mL) を高レベルで産生した。一方、HER2 陰性株 (MDA-MB-468、TC-1 の n=2 株) に対しては有意な活性 (specific lysis < 10%) を示さず、non-transduced (NT) T 細胞 control と同等であった (P > 0.05、n=3 replicate、Fig 3)。HER2-Fc 蛋白 coating well での刺激では IFN-γ 約 8000 pg/mL 産生が確認され、CD19-Fc coating では 100 pg/mL 未満で 約 80-fold 差 を示し、CAR の厳密な抗原特異性が実証された (Fig 4)。SKOV3 共培養 24 時間後の蛍光顕微鏡では T 細胞クラスター形成と SKOV3 細胞層の消失が確認された (Table 2 で各株 specific lysis 一覧)。

in vivo 確立 SKBR3 腫瘍モデルでの腫瘍成長抑制 (n=5-6 マウス/群、P = 0.00012): NOD/SCID マウス皮下 SKBR3 腫瘍モデル (腫瘍体積約 300 mm³ まで成長させた確立腫瘍、n=5-6 マウス/群) において、chA21-28z CAR-T 細胞 (2×10⁷ 細胞を週 2 回静脈内投与) 群では NT T 細胞群と比較して有意な腫瘍成長抑制が得られた (P = 0.00012、Mann-Whitney U test、Fig 5)。接種後 92 日目の腫瘍重量は NT T 細胞群 0.79 ± 0.03 g vs CAR-T 群 0.16 ± 0.02 g (P = 0.0023、約 5-fold 差) であり、CAR-T 細胞投与による 腫瘍重量の 80% 以上の低減 が確認された (n=5-6 マウス/群、Fig 5)。腫瘍体積の経時推移 (Fig 6) では CAR-T 群が day 14 から有意に低下し始め、day 50 で plateau に達した。

腫瘍内 CD3+ T 細胞浸潤の組織学的確認 (n=4 サンプル/群): IHC (immunohistochemistry、免疫組織化学) では静脈内投与後 7 週目に退縮する SKBR3 腫瘍内でヒト CD3+ T 細胞の 多数浸潤 (約 50-150 cells/HPF、high-power field) を確認した (Fig 7、n=4 サンプル/群)。NT T 細胞投与群の腫瘍では CD3+ T 細胞浸潤は 約 5 cells/HPF とごくわずか (約 10-30-fold 差、P < 0.01) で、chA21-28z CAR-T 細胞が腫瘍部位に能動的に局在・集積して抗腫瘍効果を発揮することが組織学的に実証された。腫瘍内 CD4+/CD8+ subset 比は約 1:1 で維持され、Sun ら (本研究) の Tcm 優位製造プロトコルが in vivo persistence にも寄与することが示唆された。

考察/結論

① 先行研究との違い: 本研究はこれまでの trastuzumab (4D5 抗体ベース) CAR-T (Zhao et al. 2009 PMID 19843940 等) と異なり、ヒト化抗 HER2 chA21 抗体 (KD = 11 nM、サブドメイン I 認識) を scFv として使用した点で対照的である。Morgan et al. 2010 (PMID 20179677) の致死的事故 (高親和性 4D5 由来 trastuzumab-CAR-T) と異なり、chA21 は trastuzumab とは別の HER2 エピトープを認識するため off-target 毒性 profile が異なる可能性を提示した。これまでの多くの CAR がマウス由来 scFv を使用していたのと相違して、本研究はヒト化 scFv で T 細胞クリアランス・抗薬物抗体 (ADA) 形成リスクを低減した。

② 新規性: 本研究で初めて、ヒト化 chA21 scFv + CD8α hinge + CD28 + CD3ζ の 2nd generation CAR 構造 (chA21-28z) が構築され、HER2 陽性乳癌・卵巣癌の n=7 細胞株 で in vitro 特異的細胞傷害性と、NOD/SCID マウスでの確立 SKBR3 xenograft 腫瘍重量 約 80% 低減 (P = 0.0023) が新規に実証された。これまで報告されていない設計として、Tcm (central memory T cell) 表現型 (CD45RO+CD62L+) が培養 14 日目で大多数を占める長期持続性志向の製造プロトコルも提示された。

③ 臨床応用: 臨床応用としては、bench-to-bedside の橋渡しとして、(a) CAR-T 療法 の HER2 陽性固形腫瘍 (HER2+ 乳癌・卵巣癌・胃癌) 適応開発の前臨床基盤、(b) trastuzumab 耐性腫瘍への代替戦略 (異なるエピトープ認識による cross-reactivity 回避)、(c) Tcm 優位製造プロトコルによる long-term persistence の改善、(d) iCasp9 safety switch (PMID 22047558) との統合による toxicity 管理、と多面的に bench-to-bedside の橋渡しを支える。臨床的意義は、HER2 標的 CAR-T の安全性向上と efficacy 維持の両立。

④ 残された課題: 今後の検討課題として、(1) HER2 が低レベル発現する正常組織 (心筋・肺上皮等) に対する on-target off-tumor 毒性 (Morgan 2010 の致死的事例) の評価、(2) NOD/SCID 移植モデルの免疫不全 nature による限界 (host immune contribution 不明)、(3) 臨床用量 escalation での MTD 決定、(4) trastuzumab との head-to-head 比較、(5) CRS リスク管理、が limitation として残る。今後の研究方向としては、iCasp9 safety switch 組込み、PD-1 阻害剤併用、tumor-targeted prodrug 設計、trastuzumab-resistant cell line での efficacy 検証、が future research の優先課題である。

方法

CAR 構築: OE-PCR (Overlap Extension PCR、Multistep) 法で chA21-28z CAR (CD8α leader 配列 - chA21 scFv - CD8α hinge - CD28 TM (transmembrane) + ICD (intracellular domain) - CD3ζ) を構築し、pSin lentiviral vector にクローニング。293T cell line (ATCC CRL-3216) で Lipofectamine 2000 (Invitrogen) を用いた transfection でウイルス産生。

T 細胞導入: 健康ドナー (n=3 donor) PBMC (peripheral blood mononuclear cell) を Ficoll-Hypaque 密度勾配遠心で単離、抗 CD3/CD28 ビーズ (Dynabeads、Invitrogen) で活性化後、MOI (multiplicity of infection) = 5 で lentiviral vector 感染 (14 日間培養)。Cell line: SKBR3 (ATCC HTB-30、HER2+++ 乳癌)、MCF-7 (ATCC HTB-22、HER2+ 乳癌)、T47D (ATCC HTB-133、HER2+ 乳癌)、SKOV3 (ATCC HTB-77、HER2+ 卵巣癌)、OVCAR3 (ATCC HTB-161、HER2+ 卵巣癌)、A2780 (ECACC、HER2+ 卵巣癌)、A1847 (HER2+ 卵巣癌)、MDA-MB-468 (ATCC HTB-132、HER2-)、TC-1 (HER2- マウス対照) の 9 株を使用。

評価: (1) フローサイトメトリーで形質導入効率・表現型確認 (CD3/CD4/CD8/CD45RO/CD62L surface staining)、(2) IFN-γ (interferon-gamma) と IL-2 (interleukin-2) の ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay、腫瘍細胞株との共培養 24 時間後)、(3) 51Cr (chromium-51) 放出 cytotoxicity assay (4 時間、E:T (effector-to-target) 比 = 30:1, 15:1, 5:1, 1:1、n=3 replicate)、(4) NOD/SCID マウス皮下 SKBR3 腫瘍モデル (mouse strain: NOD.CB17-Prkdcscid/J、Jackson Lab #001303、n=5-6 マウス/群、2×10⁶ SKBR3 細胞、腫瘍体積約 300 mm³ 時に 2×10⁷ CAR-T 細胞を週 2 回静脈内投与)。

統計解析: 群間比較は unpaired Student t-test (2 群) または one-way ANOVA + Tukey post-hoc (3 群以上)、生存解析は Kaplan-Meier 法 + log-rank test、相関は Pearson correlation、多重比較補正は Bonferroni 法、p < 0.05 を有意水準とした。