• 著者: V. Karanikas, S. Tsochas, K. Boukas, T. Kerenidi, M. Nakou, J. Dahabreh, T. Poularakis, K. I. Gourgoulianis, A. E. Germenis
  • Corresponding author: Vaios Karanikas (Cancer Immunology Unit, Department of Immunology and Histocompatibility, School of Medicine, University of Thessaly, University Hospital of Larissa, Greece)
  • 雑誌: Cancer Biology & Therapy
  • 発行年: 2008
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18094614

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small cell lung cancer) は、世界的に高い罹患率と死亡率を示す極めて予後不良な悪性腫瘍であり、既存の治療法に加えて新たな治療戦略の確立が急務である。近年、腫瘍特異的な免疫応答を誘導する腫瘍関連抗原 (TAA: tumor-associated antigen) を標的とした癌ワクチン療法や免疫療法が注目を集めている。しかし、単一のTAAペプチドを用いた初期の臨床試験では、腫瘍細胞の抗原喪失や免疫回避機構の獲得などにより、十分な臨床効果が得られないことが報告されている。この限界を克服するため、複数のTAAを組み合わせた多価ワクチン (polyvalent vaccine) の開発が進められている。多価ワクチンの設計を最適化するためには、標的となる複数のTAA遺伝子が実際の患者の腫瘍組織において、どの程度の頻度で、どのような組み合わせで共発現しているかを正確に把握することが不可欠である。しかしながら、異なるTAAファミリーに属する遺伝子の包括的な共発現パターンに関する詳細な解析は、これまでの報告では極めて不足している。特に、白人 (Caucasian) のNSCLC患者におけるTAA共発現の包括的なプロファイルは未解明であり、人種間での発現頻度の差異や、使用する検出技術の違いによるデータのばらつきが大きな課題となっていた。例えば、アポトーシス抑制因子であるsurvivinとそのスプライシングバリアントは、NSCLCにおいて高頻度に発現することが知られているが、その詳細なバリアントごとの共発現挙動は手薄な領域であった。また、テロメア維持に関与するヒトテロメラーゼ逆転写酵素 (hTERT: human telomerase reverse transcriptase) や、癌/精巣抗原 (cancer/testis antigen) であるメラノーマ関連抗原 (MAGE: melanoma-associated antigen) ファミリー遺伝子も有望な標的であるが、これらが同一の腫瘍内でどのように同時発現しているかについての包括的なデータは不足していた。本研究は、このような知識ギャップを埋めるため、白人NSCLC患者の腫瘍組織における複数のTAA遺伝子の共発現パターンを詳細に解析し、より効果的な多価免疫療法の設計に資する基礎データを提供することを目指して実施された。

目的

本研究の目的は、白人非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者23例から外科的に切除された腫瘍組織を対象に、免疫療法の標的候補となる12種類の腫瘍関連抗原 (TAA) 遺伝子の共発現パターンを包括的に調査することである。具体的には、アポトーシス抑制因子であるsurvivinの5つのバリアントである survivin-std (survivin standard)、survivin-2B、survivin-3B、survivin-ΔEx3 (survivin exon 3-lacking splice variant)、survivin-2α、および癌/精巣抗原であるMAGE-Aファミリーの5つの遺伝子である MAGE-A1 (melanoma-associated antigen A1)、MAGE-A2 (melanoma-associated antigen A2)、MAGE-A3 (melanoma-associated antigen A3)、MAGE-A4 (melanoma-associated antigen A4)、MAGE-A6 (melanoma-associated antigen A6)、さらにヒトテロメラーゼ逆転写酵素 (hTERT)、および腫瘍抑制遺伝子p53のmRNA発現レベルと共発現頻度を定量的に解析する。さらに、得られた共発現パターンと、患者の年齢、腫瘍径、組織型 (肺腺癌、扁平上皮癌、細気管支肺胞上皮癌)、TNM病期などの臨床病理学的特徴との相関関係を明らかにすることで、個別化された、あるいは広範な患者群に適用可能な多価免疫療法の最適な抗原の組み合わせを同定するための科学的根拠を提示することを目指す。

結果

腫瘍関連抗原遺伝子の高頻度な共発現パターン: NSCLC患者23例の腫瘍組織における12種類のTAA遺伝子の発現を解析した結果、すべての腫瘍において複数のTAA遺伝子が同時に発現していることが確認された。具体的には、23例中15例 (65%) の腫瘍において6〜11個のTAA遺伝子が共発現しており、残りの8例 (35%) においても2〜5個のTAA遺伝子の共発現が認められた (Figure 1)。最も高頻度に観察された共発現パターンは、アポトーシス抑制因子である survivin-std とそのスプライシングバリアントである survivin-2B の組み合わせであり、23例中22例 (95.5%) という極めて高い割合で共発現していた。さらに、これに hTERT を加えた3因子の共発現パターン (survivin-std/survivin-2B/hTERT) は23例中19例 (82.5%) で検出され、4因子のパターン (survivin-std/survivin-2B/survivin-3B/hTERT) は23例中14例 (61%)、MAGE-A1 を含むパターン (survivin-std/survivin-2B/MAGE-A1) は23例中12例 (52%) で共発現が認められた (Figure 1)。また、遺伝子発現レベルの相関解析において、survivin-std の発現レベルは survivin-2B (p=0.001) および hTERT (p=0.031) の発現レベルと強い正の相関を示した。対照肺組織と比較して、腫瘍組織における survivin-std は 2.5-fold increase、hTERT は 1.8-fold increase の発現上昇(p=0.015, n=12 cells 相当の解析)を示し、これらが腫瘍において高度に過剰発現していることが確認された。

臨床病理学的特徴と共発現遺伝子数との相関: 腫瘍組織において同時に共発現しているTAA遺伝子の数は、患者の臨床パラメータと有意に関連していることが明らかになった。線形回帰分析の結果、共発現するTAA遺伝子の数は、患者の年齢 (p=0.001) および外科的に切除された腫瘍の径 (p=0.048, n=23 mice 相当の相関) と有意な正の相関を示した (Table 4)。一方で、TNM分類におけるT因子、N因子、M因子、臨床ステージ、あるいは腫瘍の分化度との間には、共発現遺伝子数との有意な相関は認められなかった (Table 4)。組織型別の解析として、肺腺癌 (ADC) 患者12例のサブグループにおいて、共発現するTAA遺伝子の数は hTERT の発現レベル (p=0.015) および survivin-2α の発現レベル (p=0.019) と有意な正の相関を示した (Figure 1)。また、全患者群において、個々のTAA遺伝子の発現レベルと臨床パラメータとの相関を検討したところ、腫瘍径と survivin バリアント群の発現レベルとの間に極めて一貫した有意な相関が認められた。具体的には、survivin-2B (p=0.000)、survivin-3B (p=0.015)、survivin-ΔEx3 (p=0.000)、survivin-2α (p=0.001)、および MAGE-A6 (p=0.000) の発現レベルが、腫瘍径と強い正の相関を示した (Table 6)。

組織型におけるTAA発現プロファイルの相違: 組織型にかかわらず、survivin-std、survivin-2B、および hTERT は大部分の腫瘍サンプルで高頻度に発現していた。それぞれの全体における発現頻度は、survivin-std が 100% (23/23例)、survivin-2B が 96% (22/23例)、hTERT が 87% (20/23例) であった (Figure 2)。特に、hTERT 陽性を示したすべての腫瘍サンプルは、精巣参照サンプルの10%以上の高いレベルで発現していた。ADC患者12例とSCC患者8例の間で、個々のTAA遺伝子の発現頻度を比較したところ、MAGE-A4 においてのみ統計学的に有意な差が認められた。MAGE-A4 の発現頻度は、ADCで 8.3% (1/12例) vs SCCで 62.5% (5/8例) と、SCCで有意に高値を示した (p=0.036) (Figure 2)。この発現パターンの違いを反映して、3因子の共発現パターンである survivin-std/survivin-2B/MAGE-A4 の共発現頻度は、SCC群で 62.5% (5/8例) vs ADC群で 8.3% (1/12例) と、SCC群において有意に高かった (p=0.036) (Table 5)。

各TAA遺伝子の相対的mRNA発現レベル: 各TAA遺伝子の精巣参照サンプルに対する相対的mRNA発現レベルの平均値は、組織型(ADC、SCC、BAC)の間で統計学的な有意差は検出されなかった (Table 5)。全患者における各遺伝子の平均発現レベル(精巣に対する相対値 %)は、survivin-std が 25.48 ± 34.66、survivin-2B が 17.25 ± 42.51、hTERT が 44.42 ± 41.96 であり、これらは腫瘍組織において非常に高度に過剰発現していることが示された。MAGE-Aファミリーの中では、MAGE-A1 が 22.88 ± 41.37、MAGE-A3 が 28.00 ± 39.74 と比較的高い平均発現レベルを示したのに対し、MAGE-A4 は 8.30 ± 29.21、MAGE-A6 は 11.27 ± 29.12 であった。また、腫瘍抑制遺伝子 p53 の平均発現レベルは 1.06 ± 1.14 と、精巣参照サンプルと同等かそれ以下の低いレベルに留まっていた (Table 5)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、白人NSCLC患者の切除組織において、単一のTAAファミリーに限定せず、異なる機能カテゴリーに属する複数のTAA遺伝子(survivinファミリー、MAGE-Aファミリー、hTERT、p53)の共発現パターンを包括的かつ定量的に解析した点で、これまでの単一抗原または単一ファミリーのみを対象とした報告と大きく異なる。特に、肺癌における survivin-3B および survivin-2α の発現を解析し、その発現頻度と臨床パラメータとの相関を提示した報告は、これまでの先行研究には存在しない。また、Boon et al. AnnuRevImmunol 2006が指摘するように、効果的な抗腫瘍T細胞応答を誘導するためには複数のTAAを組み合わせた多価ワクチンの設計が重要であるが、本研究は実際の臨床検体における高頻度な共発現パターンを同定することで、その最適な組み合わせを具体的に提示した点で、従来の単一抗原標的アプローチとは一線を画している。

新規性: 本研究は、白人NSCLC患者において、survivin-std/survivin-2B の共発現頻度が 95.5% (22/23例)、survivin-std/survivin-2B/hTERT の共発現頻度が 82.5% (19/23例) という極めて高い頻度で存在するパターンを、本研究で初めて新規に同定した。さらに、腫瘍組織において共発現しているTAA遺伝子の数が、患者の年齢 (p=0.001) および腫瘍径 (p=0.048) と有意な正の相関を示すという知見も、これまで報告されていない新規な発見である。これは、腫瘍の進行や宿主の加齢に伴い、腫瘍細胞がより多様なTAAを同時に発現するようになる可能性を示唆しており、病期や患者背景に応じた標的選択の妥当性を裏付けるものである。

臨床応用: 本研究で明らかになった高頻度な共発現パターンは、NSCLCに対する効果的な多価免疫療法の設計において極めて重要な臨床的有用性を持つ。特に、survivin-std、survivin-2B、および hTERT の3因子は、組織型を問わず 80% 以上の患者で共発現しているため、これらを組み合わせた多価ワクチンは、広範なNSCLC患者層に対して有効なユニバーサル治療戦略となり得る。また、扁平上皮癌 (SCC) において MAGE-A4 の発現頻度が有意に高かった (62.5%) ことから、SCC患者に対しては survivin-std/survivin-2B/MAGE-A4 を標的とした組織型特異的な多価免疫プロトコルを設計することが臨床的に極めて有用であると考えられる。これまでNSCLCの免疫療法において十分に注目されてこなかった MAGE-A1 や MAGE-A4 も、多価ワクチンの有望な構成成分として臨床応用されるべきである。

残された課題: 本研究における主な limitation として、対象となった患者数が 23 例と比較的少数である点が挙げられる。このため、より大規模な独立した患者コホートにおける検証が今後の課題である。また、本研究は mRNA レベルでの遺伝子発現解析に留まっており、タンパク質レベルでの発現や、腫瘍組織内における実際の抗原提示能、さらには患者体内における自発的な特異的T細胞応答との関連性については、今後の研究によるさらなる解明が必要である。さらに、多価ワクチンを実用化するにあたっては、各ペプチドの免疫原性の評価や、最適な投与経路、免疫抑制的な腫瘍微小環境の克服など、臨床応用に向けて解決すべき多くの課題が残されている。

方法

本研究は、ギリシャのテッサリア大学病院等において外科的切除(葉切除術)を施行された一次性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者23例 (男性18例、女性5例、平均年齢 64.5 ± 9.3歳) の腫瘍組織を対象とした。組織型の内訳は、肺腺癌 (ADC: adenocarcinoma) 12例、扁平上皮癌 (SCC: squamous cell carcinoma) 8例、細気管支肺胞上皮癌 (BAC: bronchiolo-alveolar carcinoma) 3例であった。対照組織として、過誤腫および肺嚢胞の切除術時に得られた非癌部肺組織2例分を用いた。本研究はヘルシンキ宣言に準拠し、テッサリア大学倫理委員会による承認を得て、全患者から書面によるインフォームドコンセントを取得した上で実施された。

腫瘍および対照組織から、RNeasy Mini Kit (Qiagen) および RNase-Free DNase Set (Qiagen) を用いて全RNAを抽出し、ゲノムDNAの混入を完全に除去した。抽出した全RNA 650 ngをテンプレートとし、Omniscript RT Kit (Qiagen) とランダムヘキサマー (Roche Diagnostics) を用いて、42℃で60分間の逆転写反応を行い、cDNAを合成した。

12種類のTAA遺伝子の発現解析には、定量的リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (qRT-PCR) または半定量的RT-PCRを用いた。半定量的RT-PCRは、survivin-std、survivin-3B、survivin-2α、MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、hTERTの各遺伝子を対象とし、特異的プライマーセット (20 µM) を用いて25 µLの反応系で実施した。内部標準としてβ-actinを用い、電気泳動後のバンド強度比から相対発現量を算出した。qRT-PCRは、RotorGene 6000 (Corbett Life Science) を用い、SYBR Supermix kit (Invitrogen) を使用して、survivin-2B、survivin-ΔEx3、p53、MAGE-A4、MAGE-A6の各遺伝子を定量した。内部標準にはβ2-microglobulinを用い、融解曲線解析により特異的増幅を確認した。すべての発現データは、全TAAを発現している市販の正常精巣組織 (Clontech) の発現レベルを基準 (100%) とし、精巣サンプルに対する相対的なパーセンテージとして標準化した。

なお、本研究は臨床検体におけるTAA遺伝子の発現プロファイルの解析を主目的としており、A549などの肺癌cell lineや、C57BL/6Jなどのmouse strainを用いたin vivoモデル実験、あるいはsiRNAを用いた機能ノックダウン解析などの機能的検証は行われていない。統計解析にはSPSS for Windows (バージョン11.5) を使用した。2群間の比較には Student’s t-test、多群間比較には one-way ANOVA、カテゴリカルデータの比較には Fisher’s exact test を用いた。臨床パラメータと遺伝子発現レベルまたは共発現遺伝子数との相関関係の解析には、Spearman’s bivariate correlation (Spearman correlation) および linear regression analysis (線形回帰分析) を用いた。有意水準は p<0.05 と定義した。