• 著者: Kazuki N. Sugahara, Tambet Teesalu, Priya Prakash Karmali, Venkata Ramana Kotamraju, Lilach Agemy, Olivier M. Girard, Douglas Hanahan, Robert F. Mattrey, Erkki Ruoslahti
  • Corresponding author: Erkki Ruoslahti (Burnham Institute for Medical Research at UCSB, Santa Barbara, CA, USA)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2009
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19962669

背景

腫瘍血管は正常組織と異なる生化学的表面分子シグナチャー (“vascular zip codes”) を発現し、RGDモチーフ含有ペプチドを介したαvインテグリン標的化により薬剤・診断薬・ナノ粒子を腫瘍血管へ選択的に送達できることが確立されていた (Ruoslahti 2002)。しかしながら、従来のRGDペプチドは腫瘍血管壁を超えて間質 (tumor parenchyma) へ深部移行することはなく、腫瘍間質圧の亢進 (elevated interstitial pressure) が血管外輸送を阻む主要障壁となっていた (Heldin et al. 2004)。これにより多くの薬剤は腫瘍血管周辺にとどまり、腫瘍細胞への十分な到達が実現できていなかった。この腫瘍組織への薬剤浸透の不足は、がん治療における主要な課題の一つとして認識されていた (Jain 1990)。

一方、著者らの先行研究 (Teesalu et al. 2009) は、C末端にR/KXXR/Kモチーフ (CendR motif) を持つペプチドがneuropilin-1と結合し、細胞や組織への透過を誘導することを報告していた。このCendRモチーフは、ペプチドのC末端に位置する場合にのみ活性を示すという「C-end Rule」に従う。血管内皮増殖因子-165 (VEGF-165) や一部のセマフォリンもC末端CendRモチーフを介してneuropilin-1に結合し、血管透過性を亢進させることが知られている (Acevedo et al. 2008)。また、HTLV-1などのウイルスもCendRモチーフを利用して細胞に侵入することが報告されており (Lambert et al. 2009)、CendRシステムが生体内のバリア透過に普遍的に関与する可能性が示唆されていた。

これらの背景から、腫瘍ホーミング能とCendR依存性組織透過能を併せ持つペプチドの開発が、腫瘍実質への薬剤送達におけるブレークスルーとなり得ると仮説された。従来のRGDペプチドでは克服できなかった腫瘍間質への浸透というギャップを埋める新たな戦略が求められていた。特に、腫瘍間質への薬剤送達を促進するメカニズムは未解明な部分が多く、この領域の知識が不足している点が課題であった。

目的

本研究の目的は、腫瘍ホーミング能とCendR依存性組織透過能を併せ持つ新規ペプチドをファージディスプレイ法により同定することである。さらに、同定されたペプチド(iRGD (internalizing RGD))の腫瘍組織深部への送達メカニズムを細胞・分子レベルで詳細に解明する。最終的に、iRGDを利用した薬剤、ナノ粒子、およびMRI造影剤の腫瘍実質深部への送達効率と、それによる治療効果および画像診断感度の増強をin vivoモデルで実証する。

結果

iRGD の同定と広範な腫瘍モデルでの特異的ホーミング: ヒト前立腺癌骨転移マウスモデルを用いたファージディスプレイスクリーニングにより、ファージプールの結合能は元のライブラリと比較して200-400倍に濃縮された (Fig 1A)。シークエンシングの結果、CRGDKGPDC (最頻)、CRGDRGPDC、CRGDKGPECの3配列が優位に選択された (Fig 1B)。このうちCRGDKGPDCは4°CでPPC1細胞に結合し、37°Cで細胞内に内在化することから「iRGD (internalizing RGD)」と命名された (Fig 1C, p<0.001)。FAM標識iRGDは、評価した全ての腫瘍モデル(前立腺癌、膵管腺癌、乳癌、骨転移、脳転移、膵神経内分泌腫瘍、子宮頸癌など)において、正常組織には集積せず、腫瘍組織に強い特異的蛍光を示した (Fig 2A)。共焦点顕微鏡観察では、iRGDは腫瘍血管内およびその周辺だけでなく、腫瘍実質広範に拡散していることが確認された。一方、従来のRGDペプチドであるCRGDCやRGD4Cは、腫瘍血管壁近傍に限局し、間質への拡散は認められなかった (Fig 2B)。iRGDのホーミング面積はCRGDCの12倍以上であった (Fig 2C, p<0.001)。特に、線維性間質が豊富な膵管腺癌 (PDAC) モデルにおいても、iRGDは腫瘍実質に到達し、CRGDCは血管壁内にとどまることが示された (Fig S4)。iRGDファージ (直径約65 nm) およびiRGD結合ミセル (直径15-25 nm) も同様の血管外実質到達能を示した。

三段階ホーミング機序の解明: iRGDのin vivo腫瘍ホーミングはRGDモチーフに依存しており、非インテグリン結合性変異体iRGE (CRGEKGPDC) は腫瘍蛍光が最小であった (Fig 3A)。過剰量の非標識iRGDペプチドの共投与はFAM-iRGDの腫瘍集積を減少させたが、iRGEは影響しなかった (Fig 3B)。iRGDはαvβ3インテグリン (Kd = 17.8 ± 8.6 nM) およびαvβ5インテグリン (Kd = 61.7 ± 13.3 nM) に結合した (Table S2)。これらの親和性は従来のRGDペプチドと同程度であり、インテグリン結合親和性の違いが組織浸透能の違いを説明しないことが示唆された。 分子機序解析により、iRGDの三段階ホーミング機序が確立された (Fig 4)。まず、iRGDのRGDモチーフが腫瘍血管内皮細胞や腫瘍細胞上のαvインテグリンに結合する。次に、細胞表面プロテアーゼによる切断を受け、N末端側断片であるFAM-CRGDKが生成されることが質量分析により直接検出された (Fig S8)。この切断により、CRGDKのC末端にCendRモチーフ (RGDK) が露出する。最後に、このCendRモチーフがneuropilin-1に結合 (Kd = 1.4 ± 0.6 µM) し、細胞および組織への浸透を誘導する (Fig 5)。トリプシン処理したiRGDファージはPPC1細胞への結合が有意に増強され、これはプロトタイプCendRペプチドRPARPARと同程度であった (Fig 5A, p<0.01)。抗neuropilin-1抗体はiRGDファージの組織透過を阻害し、ファージは腫瘍血管内にトラップされた (Fig 6A)。PDACモデルでのタイムラプス実験では、FAM-iRGDは初期にαvインテグリンおよびneuropilin-1陽性血管に共局在し、その後αv陽性間質細胞やneuropilin-1高発現腺管に到達・集積することが示された (Fig 6B)。

MRIイメージングによる腫瘍検出感度の向上: 22Rv1 orthotopic腫瘍モデル (n=5 mice for iRGD nanoworms, n=3 mice for CRGDC nanoworms, n=3 mice for untargeted nanoworms) において、iRGD結合超常磁性酸化鉄ナノワームはT2強調MRIで腫瘍全体に広がる低信号域 (hypointensity) を示し、注射後3時間および7時間で明確なコントラストが得られた (Fig 7)。一方、CRGDC結合ナノワームは腫瘍血管のみに低信号域を示し、非標的化ナノワームでは腫瘍シグナルは検出されなかった。共焦点顕微鏡でもiRGDナノワームの間質拡散が確認された。これらの結果は、iRGDが診断薬の腫瘍送達を可能にし、従来のRGDペプチドよりも効率的に腫瘍を可視化できることを示している。

抗腫瘍薬アブラキサンの腫瘍内蓄積と治療効果の増強: 22Rv1モデルにおいて、iRGD結合アブラキサンの腫瘍内蓄積量は、非標的化アブラキサンの8倍、CRGDC結合アブラキサンの約4倍であった (Fig 8A, p<0.001)。BT474モデルでは、非標的化アブラキサンと比較して11倍の蓄積が認められた (Fig 8C, p<0.001)。治療実験では、22Rv1 orthotopicモデルにおいてiRGD結合アブラキサンは有意な腫瘍増殖抑制を達成したが (Fig 8B, p<0.01)、同用量の非標的化アブラキサンおよびCRGDC結合アブラキサンでは有意な効果は認められなかった。パクリタキセル耐性を示すBT474 orthotopicモデルにおいても、iRGD結合アブラキサンのみが有意な腫瘍増殖抑制を示し (Fig 8D, p<0.001)、iRGDペプチド単独では効果はなかった。これらの結果は、iRGDが薬剤送達において高い有効性を持つことを明確に示している。

考察/結論

本研究の最大の革新性は、従来「vascular targeting」に限定されていた腫瘍特異的送達の概念を「tissue-penetrating delivery」へと拡張した点にある。iRGDの三段階機序 (integrin binding → proteolytic activation → NRP-1 mediated penetration) は生理的障壁の能動的通過をプログラムしており、腫瘍環境のプロテアーゼ活性、αv integrin過発現、NRP-1高発現が重なる点で腫瘍特異性が多層的に担保される。CRGDK fragmentがintegrin親和性を大幅に喪失 (50-150倍低下) しながらNRP-1への親和性を獲得するという構造的変化が「receptor switching」を実現し、組織深部拡散を駆動する。これは、これまで報告されていない新規の薬剤送達メカニズムである。

先行研究と異なり、本研究は腫瘍血管に限定されない組織深部への薬剤送達を可能にするメカニズムを解明した点で画期的である。従来のRGDペプチドは血管内皮への結合に留まっていたが、iRGDはプロテアーゼによる活性化とneuropilin-1への結合を介して、腫瘍間質という物理的障壁を克服する。

新規性として、iRGDがαvインテグリン結合、プロテアーゼ切断によるCendRモチーフ露出、neuropilin-1結合という三段階のシーケンシャルな機序で腫瘍組織に浸透するメカニズムを初めて詳細に解明した。この「receptor switching」の概念は、薬剤送達研究においてこれまで報告されていない。

臨床応用の観点では、iRGDを既存の化学療法薬とコンジュゲートするだけで腫瘍内蓄積を大幅に増大させ治療域への到達を可能にする「modular add-on」戦略が示された。これは既承認薬の再設計なしに適用でき、paclitaxel、Dox、siRNA、抗体、遺伝子ベクター等多様なペイロードへの汎用性がある。MRI造影剤では同一投与量で診断感度を大幅に向上させ、より早期の腫瘍検出につながる。Neuropilin-1がウイルス (HTLV-1、VEGF-165) やsemaphorinのバリア通過機構と共通の受容体を利用することは、CendRシステムが生体内の組織透過の普遍的原理であることを示唆する。本研究は後のiRGD修飾エクソソーム (Tian et al. Biomaterials 2014)、CEND-1 (iRGD + nab-paclitaxel、PDAC Phase I)、多数のiRGD-nanoparticle研究の直接的礎となった。

残された課題として、iRGDの迅速な腫瘍組織浸透の分子メカニズムのさらなる解明が挙げられる。特に、CendR特性が誘導する血管透過性亢進の具体的なメカニズムや、iRGDを切断する細胞表面プロテアーゼの同定と特性解析は今後の検討課題である。また、iRGDの臨床応用における安全性プロファイルや、ヒト腫瘍におけるiRGDの有効性を検証するための大規模な臨床試験も必要となる。Limitationとして、本研究は主にマウスモデルでの評価であり、ヒトへの外挿性にはさらなる検証が必要である。

結論として、iRGDペプチドはαv integrin結合 → タンパク分解切断 → neuropilin-1結合という三段階シーケンシャル機序により、腫瘍血管壁を能動的に通過して腫瘍実質深部まで化合物・ナノ粒子を送達する初のtissue-penetratingペプチドとして確立された。iRGDコンジュゲートabraxaneは非標的abraxaneでは効果のない低用量で有意な腫瘍増殖抑制を達成し、iRGD-coated鉄酸化ナノワームはMRI腫瘍イメージング感度を飛躍的に向上させた。腫瘍間質圧という長年の物理的障壁を克服し、既存薬の治療指数改善と診断精度向上を同一プラットフォームで実現するこのコンセプトは、現代の腫瘍標的ナノ医療の基盤的知見として高い引用頻度を誇り、エクソソーム工学・腫瘍浸透型ナノ粒子・臨床試験へと続く一連の研究潮流を生み出した。

方法

iRGD 同定: T7ファージ上に提示した cyclic CX7C (C, cysteine; X, any amino acid) ペプチドライブラリ (多様度 約10⁹) を用いて、ヒト前立腺癌骨転移マウスモデルの細胞懸濁液で3ラウンドのex vivo selectionと1ラウンドのin vivo selectionを実施した。濃縮されたファージクローンはシークエンシングにより配列を決定した。

腫瘍ホーミング評価: FAM (fluorescein)-標識合成iRGD (約200 µg) を様々な腫瘍担持マウスに静脈内注射し、2時間後に蛍光イメージング (Illumatool Bright Light System LT-9900) と共焦点顕微鏡を用いて臓器および腫瘍内分布を解析した。評価した腫瘍モデルは、前立腺癌 (PC-3, PPC1 (human prostate cancer cells), 22Rv1のorthotopic/骨/脳異種移植片)、膵管腺癌 (de novo膵管腺癌 KrasG12D/p48-Cre/Ink4a+/-, orthotopic MIA PaCa-2異種移植片)、乳癌 (BT474異種移植片)、子宮頸癌など6種類以上である。Cy7標識iRGD-ミセル (直径15-25 nm) を用いて全身近赤外イメージングも実施した。ペプチドの腫瘍ホーミング面積は、抗FITC抗体で免疫組織化学染色した凍結切片をScanscope CM-1スキャナーでスキャンし、ImageScopeソフトウェアで定量した。

分子機序解析: CendR機序を検証するため、トリプシン前処理したiRGDファージのPPC1細胞への結合実験、抗neuropilin-1抗体による競合阻害、αvインテグリン高発現/低発現M21メラノーマ細胞およびneuropilin-1高発現PPC1細胞、さらにneuropilin-1過剰発現M21細胞での結合・透過アッセイを実施した。N末端にFAMを標識したiRGDをPPC1細胞と共培養し、プロテアソーム阻害剤MG132存在下で細胞内代謝産物を抗FITCアフィニティークロマトグラフィーで単離・質量分析することで切断断片を同定した。iRGDおよびCRGDKペプチドのαvβ3、αvβ5インテグリン、およびneuropilin-1への結合親和性はELISA法によりIC50値として定量した。

機能イメージング: 22Rv1 orthotopic前立腺癌マウスにiRGDまたはCRGDCペプチドをコーティングした超常磁性酸化鉄ナノワーム (約80 × 30 nm) を静脈内注射 (鉄5 mg/kg) し、3T MRI (T2強調像) で腫瘍集積を評価した。MRIスキャンはナノワーム注射前、3時間後、7時間後に実施した。

治療実験: 22Rv1 orthotopic前立腺癌モデル (n=18 for untargeted abraxane, n=10 for CRGDC-abraxane, n=19 for iRGD-abraxane, n=10 for iRGD peptide alone, n=18 for PBS; 14日間、2日毎にパクリタキセル3 mg/kg相当) およびBT474 orthotopic乳癌モデル (n=8 per group; 20日間) で、iRGD結合アブラキサン (130 nmアルブミン包埋パクリタキセルナノ粒子)、CRGDC結合アブラキサン、および非標的化アブラキサンの抗腫瘍効果を比較した。腫瘍内アブラキサン蓄積量は、注射後3時間でELISA (タキソール抗体で捕捉、ヒトアルブミン抗体で検出) により定量した。統計解析にはStudent’s t検定および一元配置分散分析 (ANOVA) を用いた。