• 著者: Tian Y, Li S, Song J, Ji T, Zhu M, Anderson GJ, Wei J, Nie G
  • Corresponding author: Jingyan Wei (College of Pharmaceutical Science, Jilin University, Changchun 130021, China), Guangjun Nie (CAS Key Laboratory for Biomedical Effects of Nanomaterials and Nanosafety, National Center for Nanoscience and Technology of China, Beijing 100190, China)
  • 雑誌: Biomaterials
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2013-12-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24345736

背景

がん治療において、ナノスケール薬物送達システム(直径10~100 nm)の進歩は目覚ましいが、効率的な腫瘍蓄積を達成しつつ、免疫活性化や全身毒性を回避することは依然として課題である。特に、ドキソルビシン (Dox) は乳癌を含む多くの悪性腫瘍治療に重要な役割を果たすが、その用量依存的な心毒性(心筋症やうっ血性心不全)が臨床応用の大きな障壁となっている。近年、エクソソームは、多くの細胞種から分泌される直径30~100 nmのナノサイズの膜小胞であり、細胞間コミュニケーションに寄与する天然由来のナノベシクルとして注目されている Thery et al. NatRevImmunol 2002。エクソソームは、mRNA、microRNA、受容体、酵素などの内因性物質を細胞間で輸送するだけでなく Valadi et al. NatCellBiol 2007、外因性RNA(siRNAやmiRNA)を標的組織や細胞に送達するキャリアとしても利用できることが報告されている Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011。エクソソームは、患者自身の細胞から得られるため免疫原性が低い可能性があり、リン脂質二重層を持つため標的細胞膜と直接融合し、封入薬物の細胞内取り込みを改善する可能性がある。また、その小さなサイズにより単核食細胞系による貪食を回避し、腫瘍血管からの血管外漏出と腫瘍組織内拡散を促進する。これらの利点から、エクソソームは化学療法薬の送達に理想的なキャリアとなり得ると考えられる。しかし、エクソソームを用いた化学療法薬の固形腫瘍への標的送達と安全性向上に関する包括的な研究は不足しており、その臨床的有用性を確立するためにはさらなる検証が必要である。

目的

本研究は、αvインテグリン標的iRGD (internalizing RGD peptide) ペプチドを表面に提示するよう設計された未成熟樹状細胞 (imDCs) 由来エクソソームにドキソルビシン (Dox) を封入したナノ製剤 (iRGD-Exos-Dox) を開発し、そのin vitroおよびin vivoにおけるαvインテグリン陽性腫瘍への標的送達能力、抗腫瘍効果、および安全性を評価することを目的とする。これにより、エクソソームを基盤とした化学療法薬の固形腫瘍標的送達システムの臨床応用の可能性を探る。

結果

iRGD-Exosの特性評価とαvβ3インテグリンへの結合: iRGD (internalizing RGD peptide) ペプチドを表面に提示するエクソソームを生成するため、iRGDペプチドをマウスLamp2b (lysosome-associated membrane glycoprotein 2b) タンパク質の細胞外N末端に融合させたpEGFP-C1-iRGD-Lamp2bプラスミドをimDCs (immature dendritic cells) に導入した。RT-PCRにより、トランスフェクションされたimDCsは未トランスフェクションのimDCsと比較して高レベルのiRGD-Lamp2b mRNAを発現した (Fig. 1A)。超遠心分離法で精製したエクソソームは、透過型電子顕微鏡 (TEM) により典型的なエクソソーム構造を示し (Fig. 1B, C)、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) では平均粒子直径97 nmの狭いサイズ分布が確認された (Fig. 1D, E)。蛍光色素DiOで標識したiRGD-Exosは、精製αvβ3インテグリンコートウェルに強く結合したが (Fig. 1F)、blank-Exos群では結合は検出されなかった。iRGD-Exosのαvβ3への結合は遊離iRGDペプチドにより用量依存的に阻害され (Fig. 1G)、対照群と比較して有意に高く (p < 0.01)、特異的な結合が確認された。

iRGD-Exosのin vitro標的化と細胞内取り込み: iRGD-Exosがαvインテグリン陽性癌細胞に結合できるかを評価するため、DiO標識iRGD-Exosまたはblank-Exosを、αvインテグリンサブユニットを高発現するヒト乳癌細胞株MDA-MB-231 (n=3 replicates) と共培養した。フローサイトメトリー解析の結果、iRGD-Exosはblank-Exosと比較してMDA-MB-231細胞により効率的に結合し (95.4% vs. 35.0%) (Fig. 2A)、iRGD標的化ペプチドがエクソソームの標的細胞への結合能力を劇的に向上させることが示された。さらに、エクソソームをlipophilic styryl FM 4-64 (FM 4-64) 染料 (赤) で、MDA-MB-231細胞膜をDiO (緑) で標識し、共焦点レーザー走査顕微鏡分析を行った。iRGD-Exos処理群では、細胞表面で赤と緑の蛍光が融合したことを示す黄色の蛍光が5分以内に現れ、60分まで経時的に増強された (Fig. 2B)。対照的に、blank-Exos処理細胞では60分後でも比較的低いレベルの相互作用しか観察されず (Fig. 2C)、iRGD-Exosのαvインテグリン発現細胞への標的化能力が確認された。

iRGD-Exos-Doxのin vitroおよびin vivo抗腫瘍効果: iRGD-Exosが化学療法薬Doxをエレクトロポレーションにより封入できるかを検討した。最適化された条件で、エクソソームはDoxで標識され、エレクトロポレーション後にDoxがエクソソームに封入されたことを示した。エレクトロポレーションは、TEMおよびNTA分析で示されたように、iRGD-Exosの物理的特性を著しく変化させなかった。MDA-MB-231細胞を遊離Dox、blank-ExosにDoxを封入したもの (blank-Exos-Dox)、またはiRGD-ExosにDoxを封入したもの (iRGD-Exos-Dox) のいずれかと、同量のDox (2 μM) で2時間処理した共焦点イメージングにより、iRGD-ExosによるDoxの細胞核への送達は、遊離Doxとほぼ同程度に効率的であったが、blank-Exos-Doxよりもはるかに高いことが示された (Fig. 3A)。CCK-8 (Cell Counting Kit-8) アッセイにより細胞生存率を測定した結果、iRGD-Exos-Doxは、遊離Doxと同程度の効率でMDA-MB-231細胞増殖を阻害した (Fig. 3B)。blank-Exos-Dox、blank-Exos、またはiRGD-Exos単独処理群では、細胞増殖の有意な抑制は観察されなかった。MCF-7ヒト乳癌細胞、B16-F10ヒトメラノーマ細胞、HepG2ヒト肝細胞癌細胞を含む、αvインテグリンサブユニットを高発現する他の3つの腫瘍細胞株に対するiRGD-Exos-Doxの増殖抑制効果も評価した結果、MDA-MB-231細胞と同様の結果が得られ、iRGD-Exos-Doxはblank-Exos-Doxと比較して有意に高い細胞毒性を示し (p < 0.01)、遊離Doxと同程度の効果であった (Fig. 3C, D, E)。 in vivoにおいて、MDA-MB-231担癌ヌードマウスモデル (n=6 mice/group) を確立し、DiR (1,1’-dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindotricarbocyanine iodide) 染料で標識したiRGD-Exosおよびblank-Exosを注射後8時間リアルタイムでモニタリングした。iRGD-Exosは注射後30分で腫瘍部位に蛍光シグナルが検出され、約2時間でピークに達した (Fig. 4A)。blank-Exosを注射したマウスでは、どの時点でも腫瘍部位で特異的な蛍光は観察されず、肝臓が主要な標的臓器であった。注射後2時間でマウスの臓器を摘出しex vivo蛍光イメージングを行った結果、腫瘍組織に強い蛍光シグナルが、肝臓と脾臓にも比較的強いシグナルが示された (Fig. 4B)。次に、Doxを含むiRGD-Exosが担癌マウスの腫瘍増殖を抑制する能力を評価した。約0.1 cm^3の確立されたMDA-MB-231腫瘍を持つマウスを5つの群 (n=5-6 mice/group) にランダムに分け、治療は隔日で計6回行われた。iRGD-Exos-Doxで治療された動物では、腫瘍増殖の顕著な抑制が観察された (Fig. 4C)。3日目から21日目にかけて、対照治療群の腫瘍は体積が約15倍に増加したのに対し、iRGD-Exos-Dox治療群の腫瘍は体積が約4倍の増加に留まり、この抑制効果は対照群と比較して統計的に有意であった (p < 0.01)。使用された条件下ではPBS治療群と遊離Dox (3 mg/kg) 治療群の間で腫瘍体積に有意な差はなかった。

iRGD-Exos-Doxのin vivo安全性評価: iRGD-Exos-Dox療法が、Doxの最も重要な用量制限副作用である心臓損傷を引き起こすかを検討した。担癌マウス (n=3 replicates) にPBS、iRGD-Exos-Dox、または同量の遊離Doxを隔日で計6回静脈内注射した。21日目にマウスを屠殺し、心臓損傷のマーカーであるクレアチンキナーゼMBアイソザイム (CK-MB) およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) の活性を測定するために血清を採取した。iRGD-Exos-Doxで治療されたマウスの血清中のCK-MBおよびAST活性は、遊離Doxで治療されたマウスの血清中の活性よりも有意に低く (p < 0.01)、対照マウスのそれらと同程度であった (Fig. 5A, B)。これは、iRGD-Exos-Doxが遊離Doxよりも心毒性が低いことを示している。また、PBSまたはiRGD-Exos-Doxで治療されたマウスから心臓、肝臓、脾臓、肺を摘出し、ヘマトキシリン・エオシン (H&E) 染色を行った結果、iRGD-Exos-Dox治療マウスでは、対照群と比較して明らかな組織損傷は観察されなかった (Fig. 5C)。これらのデータは総合的に、エクソソームが標的化腫瘍療法のための安全で効果的な薬物送達キャリアであることを示唆する。

考察/結論

先行研究との違い: ドキソルビシン (Dox) の用量依存的な心毒性が臨床使用を大きく妨げてきたことは、これまでの研究で広く認識されてきた。本研究は、iRGD (internalizing RGD peptide) ペプチドを表面に提示するよう設計されたエクソソームが、Doxを固形腫瘍へ特異的に送達し、抗腫瘍効果を高めつつ心毒性を有意に低減できることを初めて示した点で、これまでのDox送達システムとは対照的である。従来の合成キャリアシステムが免疫活性化や潜在的毒性といった固有の欠点を持つことと異なり、エクソソームはこれらの有害作用を最小限に抑える可能性を持つ。

新規性: 本研究で初めて、天然由来のナノスケール薬物送達プラットフォームであるエクソソームを、iRGDペプチドで標的化し、化学療法薬Doxをマウスの固形腫瘍へ送達する有効性を実証した。これは、エクソソームが核酸だけでなく、疎水性化学療法薬の送達にも応用可能であることを新規に実証したものである。特に、in vivoでの腫瘍特異的蓄積と、顕著な腫瘍増殖抑制効果、そして心毒性を含む全身毒性の低減を同時に達成したことは、これまで報告されていない重要な知見である。

臨床応用: 本研究の結果は、エクソソームを用いた化学療法薬の固形腫瘍標的送達と安全性向上における臨床応用の大きな可能性を強く示唆する。Doxの心毒性という主要な課題を克服し、治療指数を改善する本アプローチは、臨床現場でのDox治療の安全性と有効性を向上させることに直結する可能性がある。iRGDペプチドは、αvインテグリン陽性腫瘍細胞や腫瘍関連血管内皮細胞に厳密に結合するだけでなく、抗腫瘍薬の血管および組織浸透を促進することが知られており Sugahara et al. CancerCell 2009、この特性が臨床的有用性をさらに高める。

残された課題: エクソソームベースの治療法の臨床応用には、大量生産と徹底的な特性評価が残された課題である。臨床グレードのエクソソームの製造方法は報告されているものの Lamparski et al. JImmunolMethods 2002、これは労働集約的なプロセスであり、臨床使用に必要な量を供給することは依然として困難である。また、樹状細胞 (DC) 由来エクソソームに含まれる内因性核酸やタンパク質などの成分がレシピエントの免疫系に与える可能性のある影響について、今後の検討が必要である。将来的には、合成エクソソームの開発も期待されるが、天然エクソソームと同等の複雑な組成と安全性を実現するには技術的な課題が残る。したがって、エクソソーム生産を強化する技術的改善がさらなる臨床開発を保証する。

方法

細胞培養: ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231およびMCF-7、ヒトメラノーマ細胞株B16-F10、ヒト肝細胞癌細胞株HepG2は、10% FBSおよび抗生物質を添加したDMEMまたはRPMI-1640培地中で培養された。マウス未成熟樹状細胞株 (imDC) は、同様の培地で培養された。全ての細胞は37℃、5% CO2条件下で維持された。

iRGD-Lamp2bプラスミドの構築とトランスフェクション: iRGDペプチドをマウスLamp2b (lysosome-associated membrane glycoprotein 2b) タンパク質の細胞外N末端に融合させたpEGFP-C1-iRGD-Lamp2bプラスミドが構築された。このプラスミドは、Lipofectamine 2000試薬 (Invitrogen, USA) を用いてimDCsにトランスフェクションされた。

エクソソームの精製: トランスフェクション後36時間で細胞培養上清を回収し、段階的な遠心分離および限外ろ過によりエクソソームを精製した。最終的に、30% Tris/スクロース/D2O溶液を用いた超遠心分離 (100,000 g、90分) により精製されたエクソソームは、PBSに再懸濁され、-80℃で保存された Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006

エクソソームの標識: 精製されたエクソソームは、蛍光色素3,3’-dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate (DiO)、1,1’-dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindotricarbocyanine iodide (DiR)、およびlipophilic styryl FM 4-64 (FM 4-64) (全てInvitrogen, USA) を用いて標識された。標識後、超遠心分離により未結合の色素が除去された。

iRGD発現の同定: 精製されたαvβ3インテグリン (Millipore, USA) をマイクロタイタープレートのウェルに固定化し、DiO標識エクソソームを添加して2時間インキュベートした。結合したエクソソームは蛍光強度により定量された。iRGD-Exosの結合特異性を確認するため、遊離iRGDペプチドによる競合阻害試験も実施された。

電子顕微鏡 (TEM) およびナノ粒子トラッキング解析 (NTA): 精製されたエクソソームの形態はHT7700 (Hitachi, Japan) 透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いて観察された。エクソソームのサイズ分布および平均直径は、NanoSight LM10-HSB装置 (A&P Instrument Co., UK) を用いたナノ粒子トラッキング解析 (NTA) により測定された。

治療薬の封入: ドキソルビシン (Dox) は、エレクトロポレーション法を用いてエクソソームに封入された。100 μgの精製エクソソームと50 μgのDoxを200 μLのエレクトロポレーションバッファー中で混合し、350 V、150 μFでエレクトロポレーションを行った。その後、37℃で30分間インキュベートし、エクソソーム膜の回復を促した。未封入のDoxは超遠心分離により除去され、封入されたDox量は蛍光分光光度計F-4600 (HITACHI, Japan) を用いて測定された。

担癌ヌードマウスモデル: 6週齢の雌BALB/cヌードマウス (Beijing Vital River Laboratories) の乳腺脂肪組織に、ヒト乳癌細胞MDA-MB-231 (2.0 × 10^6細胞) をマトリゲルと混合して移植した。腫瘍体積が約0.1 cm^3に達した後、マウスはランダムに各実験群に分けられた。動物実験は北京大学健康科学センター動物実験倫理委員会により承認された。

統計解析: データ解析は、一元配置分散分析 (one-way ANOVA) とLSD多重比較検定を用いて行われた。腫瘍体積の比較には、Kruskal-Wallis検定に続いてMann-Whitney検定が用いられた。