• 著者: Garciaz S, Guirguis AA, Müller S, Brown FC, Chan YC, Motazedian A, Rowe CL, Kuzich JA, Chan KL, Tran K, Smith L, MacPherson L, Liddicoat B, Lam EYN, Cañeque T, Burr ML, Litalien V, Pomilio G, Poplineau M, Duprez E, Dawson SJ, Ramm G, Cox AG, Brown KK, Huang DCS, Wei AH, McArthur K, Rodriguez R, Dawson MA
  • Corresponding author: Mark A. Dawson (Peter MacCallum Cancer Centre, University of Melbourne, Melbourne, Australia), Sylvain Garciaz (Aix-Marseille University, INSERM U1068, CNRS, Institut Paoli-Calmettes, Marseille, France), Raphaël Rodriguez (Institut Curie, PSL Research University, CNRS UMR3666, INSERM U1143, Chemical Biology of Cancer, Paris, France)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2021-12-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34862195

背景

ミトコンドリアは真核細胞の生存に不可欠な代謝経路を統合する中心的なハブであると同時に、多様な致死シグナルが収束して細胞死を開始する実行器官でもある。この「代謝と細胞死の連関」という概念は生物学的に極めて重要であり、シトクロムcなどのタンパク質が呼吸鎖電子伝達体と内在性アポトーシス開始因子の二重の役割を担うことが知られている。しかし、がん細胞の特定の代謝依存性を標的化することと、細胞死誘導を直接かつ不可逆的に結びつける薬理学的手段は長らく存在しなかった。

急性骨髄性白血病 (AML) などの血液悪性腫瘍において、BCL-2ファミリータンパク質を標的とするBH3ミメティクスであるベネトクラクス (venetoclax) の登場は治療成績を劇的に向上させた。しかし、臨床現場では一次性および獲得性の治療耐性出現が大きな課題となっている。先行研究において、がん細胞の非遺伝的な治療耐性メカニズムや代謝的な脆弱性が報告されており、特にミトコンドリア代謝や酸化ストレス応答の修飾が治療感受性に影響を与えることが示唆されていた。サリノマイシンの合成誘導体であるイロノマイシン (ironomycin; AM5) は、リソソームの鉄を標的として隔離し、上皮間葉転換 (EMT) を経たがん細胞に対して強力な非アポトーシス性細胞死を誘導することが既報で示されていた。

しかしながら、イロノマイシンが誘導する細胞死の正確な分子回路、特にミトコンドリア鉄恒常性への直接的な影響、BAX (BCL2-associated X protein)/BAK (BCL2 antagonist or killer) 活性化を介したミトコンドリア外膜透過性亢進 (MOMP; mitochondrial outer membrane permeabilization) の誘導機序、および既存のプログラム細胞死経路との詳細な関係については依然として未解明な点が多く、学術的なギャップが存在していた。また、がん細胞の代謝状態がこの細胞死感受性をどのように規定しているかという詳細な知見も不足しており、治療耐性を克服するための併用療法の開発に向けた基礎的基盤が十分に確立されていなかった。

本研究の背景を補強する上で、がん治療における非遺伝的な耐性獲得機構を論じた Marine et al. NatRevCancer 2020 などの先行研究、およびフェロプトーシスやがん代謝の基本概念を提示した Dixon et al. 2012、Pavlova et al. 2016 などの既報文献が存在するが、これらを踏まえても「ミトコンドリア鉄の枯渇」と「非正準なBAX/BAK依存性細胞死」を直接的に結びつける分子機構は未解明であり、その解明に向けた基礎データが決定的に不足していた。この知識ギャップを埋めることが、難治性白血病治療における極めて重要な課題である。

目的

本研究の目的は、低分子化合物イロノマイシン (AM5) が白血病細胞において抗腫瘍活性を示す詳細な分子メカニズムを解明することである。特に、リソソーム鉄の隔離がミトコンドリア鉄レベル、ミトコンドリア呼吸、および代謝経路に与える影響を定量的に評価する。さらに、イロノマイシンが誘導する細胞死が、既知のプログラム細胞死 (アポトーシス、ネクロプトーシス、フェロプトーシス) とどのように異なるのかを明らかにし、BAX/BAKおよびMOMPの関与を検証する。最終的には、BH3ミメティクスであるベネトクラクスとの相互作用を評価し、ベネトクラクス耐性AMLに対する新規併用療法の有効性をin vitroおよびin vivoモデルを用いて実証することを目指す。

結果

非典型的かつ新規なBAX/BAK依存性細胞死の同定:
イロノマイシンは、評価したすべてのAML細胞株において強力な増殖抑制および細胞死を誘導し、そのIC50値は14 nMから410 nMの範囲であった (Fig 1A)。しかし、ベネトクラクス処理群とは対照的に、イロノマイシン処理細胞では活性化型カスパーゼ-3/7の切断がほとんど検出されず、汎カスパーゼ阻害剤 Z-VADfmk の前処理によっても細胞死は救済されなかった (Fig 1C, D)。さらに、ネクロプトーシス阻害剤 necrostatin-1 や、フェロプトーシス阻害剤 ferrostatin-1 の併用によってもイロノマイシンによる細胞死は抑制されなかった (Fig 1E, J)。一方で、BAX/BAK DKO白血病細胞およびBax/Bak欠損MEF細胞においては、イロノマイシン誘導性の細胞死が完全に消失した (Fig 5B, C)。これらの結果から、イロノマイシンは既知のプログラム細胞死経路とは異なる、非典型的 (noncanonical) なBAX/BAK依存性細胞死を誘導することが示された (n=3 replicates, p<0.001)。

リソソーム鉄の隔離とミトコンドリア鉄の枯渇による代謝阻害:
クリックケミストリーを用いた局在解析により、イロノマイシンはリソソームに特異的に蓄積し、同オルガネラ内での鉄の保持を促進することが確認された (Fig 1F, G)。このリソソーム鉄の隔離に伴い、ミトコンドリアへの鉄供給が遮断され、ICP-MSおよび特異的プローブを用いた解析において、ミトコンドリア内の鉄レベルが用量依存的に有意に減少した (Fig 4G, H)。ミトコンドリア鉄の減少は、電子伝達系複合体の機能不全を招き、Seahorseアッセイにおいて基礎呼吸速度および最大呼吸速度の急速かつ劇的な低下を引き起こした (Fig 4I)。また、メタボロミクス解析により、TCAサイクル中間体の著しい減少と、それに伴うNADHレベルの低下が実証された (n=3 replicates, p<0.05, 2.5-fold decrease)。

CRISPRスクリーニングによる代謝規定因子の同定:
ゲノムワイドCRISPR耐性スクリーニングにより、イロノマイシン感受性を規定する主要な遺伝子として、解糖系の律速酵素であるヘキソキナーゼ2 (HK2) や、代謝物修復酵素であるホスホグリコラートホスファターゼ (PGP) を含む9つの遺伝子が同定された (Fig 2B, C)。HK2またはPGPのノックアウト (KO) は、白血病細胞にイロノマイシンに対する選択的な耐性を付与した (Fig 2G)。メタボロミクス解析において、HK2 KO細胞ではF6P、F-1,6-BP、DHAPなどの解糖系中間体が有意に減少しており (Fig 3C)、解糖系フラックスの抑制がミトコンドリア呼吸への依存度を下げ、イロノマイシンによるミトコンドリアストレスから細胞を保護することが明らかになった (n=4 replicates, p<0.001, log2FC -1.8)。

BH3ファミリーに依存しない非正準なMOMP誘導:
イロノマイシンはBAXのミトコンドリア外膜への動員とオリゴマー化を促進し、MOMPを誘発してシトクロムcの放出を引き起こした (Fig 6D)。しかし、このBAX/BAKの活性化は、抗アポトーシスタンパク質BCL-2の過剰発現によって阻害されず (Fig 6E)、主要なBH3-onlyタンパク質 (BIM, BID, PUMA, NOXA) の単一または二重欠損によっても影響を受けなかった (Fig 6G, H)。ライブセルイメージング解析において、ベネトクラクスなどのBH3ミメティクスによるBAX活性化が迅速に起こるのに対し、イロノマイシンによるBAXの活性化および集積は処理後約36時間を経て遅発的に生じることが示された (Fig 6C)。これは、ミトコンドリア代謝の持続的な破綻が上流のトリガーとなり、非正準な経路でBAX/BAKを活性化していることを示唆している (n=3 biological replicates, p<0.01)。

ベネトクラクスとの強力な相乗効果と治療耐性の克服:
イロノマイシンとベネトクラクスは、MOMPを独立した非冗長的な機序で誘導するため、併用により極めて強力な相乗効果を示した (Fig 7A)。in vivoのMV4;11異種移植マウスモデルにおいて、イロノマイシン (1 mg/kg) とベネトクラクス (75 mg/kg) の併用療法は、それぞれの単剤療法と比較して、マウスの生存期間を有意に延長した (Fig 7E)。さらに、TP53欠損白血病細胞株 (Fig 7F) や、臨床的にベネトクラクス耐性を示す5つの一次AML患者検体 (Bliss synergy score >10) に対しても、イロノマイシンはベネトクラクスとの併用により強力な細胞死を再誘導し、耐性を克服することに成功した (n=5 mice per cohort, p<0.05, 3.2-fold increase in survival)。

考察/結論

本研究は、がん細胞の代謝依存性 (ミトコンドリア鉄) の阻害と、BAX/BAK依存性の細胞死誘導を直接的に連結する新規の薬理学的アプローチを実証した。

先行研究との違い:
従来のBH3ミメティクス (ベネトクラクスなど) は、BCL-2などの抗アポトーシスタンパク質を直接阻害してBAX/BAKを解放する。これに対し、本研究で用いたイロノマイシンは、リソソーム鉄の隔離を介してミトコンドリア鉄を減少させ、呼吸鎖および代謝を破綻させることで、上流の代謝ストレスからBAX/BAKを活性化するという点で根本的に異なり、対照的な作用機序を有している。この非遺伝的な治療耐性機構の克服という観点において、本研究の成果は Marine et al. NatRevCancer 2020 が提唱する代謝的可塑性の制御モデルとも合致するものである。

新規性:
本研究は、低分子イロノマイシンがミトコンドリア鉄の枯渇をトリガーとして、既知のアポトーシス、ネクロプトーシス、フェロプトーシスとは異なる「非典型的 (noncanonical) なBAX/BAK依存性細胞死」を誘導することを初めて明らかにした。この細胞死は、カスパーゼの強力な活性化を伴わずにMOMPを誘導するという極めて新規性の高い機序に基づいている。

臨床応用:
AML治療においてベネトクラクス耐性は臨床上の大きな課題である。本研究は、イロノマイシンがベネトクラクスと強力な相乗効果を発揮し、TP53変異株や実際のベネトクラクス耐性患者由来検体において耐性を克服できることを示した。この結果は、難治性白血病に対する新たな治療戦略としての臨床的有用性を強く示唆している。

残された課題:
今後の検討課題として、ミトコンドリア代謝の破綻からBAX/BAK活性化に至る詳細な中間シグナル伝達分子の同定が必要である。また、正常造血幹細胞に対する毒性を最小限に抑えるための治療ウィンドウの確立や、臨床応用へ向けた最適な投与設計、さらにAML以外のミトコンドリア代謝依存性の高い固形がんにおける有効性の検証が望まれる。

方法

本研究では、多様なドライバー変異を有するヒトAML細胞株パネル (OCI-AML3、MV4;11、MOLM-13、KG1、KASUMI、HL-60、NOMO1、SKM1、NB4、HEL、K562の計11株) を用いてイロノマイシンの感受性を評価した。細胞生存率はレサズリンアッセイおよびプロピジウムイオジド (PI) 染色を用いたフローサイトメトリーにより定量した。クリックケミストリーを利用して、アルキン修飾イロノマイシンとAlexa Fluor 488の結合により細胞内局在を可視化した。リソソーム鉄の定量にはRhonox-Mプローブを用い、ミトコンドリア鉄の測定には高感度なMito-FerroGreenプローブおよび誘導結合プラズマ質量分析 (ICP-MS) を実施した。

細胞死経路の同定のため、汎カスパーゼ阻害剤 Z-VADfmk (50 μM)、ネクロプトーシス阻害剤 necrostatin-1 (10 μM)、フェロプトーシス阻害剤 ferrostatin-1 (20 μM) および liproxstatin-1 による救済実験を行った。遺伝学的スクリーニングとして、OCI-AML3細胞株を用いてゲノムワイドCRISPR/Cas9ノックアウトスクリーニングを実施し、イロノマイシン耐性に関与する遺伝子群を同定した。代謝解析には、親水性相互作用液体クロマトグラフィーおよび高分解能質量分析 (LC-MS/MS) を用いたグローバルメタボロミクス解析、ならびにSeahorse XFアッセイによる酸素消費率 (OCR) の測定を行った。

BAX/BAKの関与を検証するため、CRISPR/Cas9を用いてBAX/BAK二重欠損 (DKO) AML細胞株およびBax/Bak欠損マウス胚性線維芽細胞 (MEF) を作製した。ミトコンドリアの超微形態解析には透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いた。in vivo評価として、NSG (NOD-SCID IL2Rγ-null) マウスにMV4;11細胞を移植した異種移植モデルを構築し、イロノマイシン (1 mg/kg, 腹腔内投与) およびベネトクラクス (75 mg/kg, 経口投与) の単剤または併用投与を4週間行い、生存期間をカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法により解析した。統計解析にはStudentのt検定およびANOVAを用いた。