• 著者: Hridesh Banerjee, Onyedikachi V Onyekachi, Hector Nieves-Rosado, Benjamin M. Murter, Aditi Kulkarni, Surya P. Pandey, Edgar Cardona, Josephine E. Dougherty, Housaiyin Li, Pragati Upadhyay, Reinhard Hinterleitner, Robert L. Ferris, Lawrence P. Kane
  • Corresponding author: Lawrence P. Kane (University of Pittsburgh)
  • 雑誌: Cancer Immunology Research
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-07-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42455126

背景

腫瘍微小環境における制御性T細胞 (Treg) の蓄積は、抗腫瘍免疫を強力に抑制し、がんの進展を促進する主要な要因である。Tregの除去や機能抑制は抗腫瘍効果を高める有望な戦略であるが、全身的な免疫寛容を維持しつつ腫瘍特異的にTregを標的化することは極めて困難であり、臨床的な課題となっている。そのため、腫瘍浸潤Tregに特異的に発現する分子を同定し、その機能を解明することは、副作用を抑えた新たな治療標的の探索において不可欠である。

T cell immunoglobulin and mucin domain 3 (Tim-3) は、慢性的な抗原刺激を受けたCD8+ T細胞やマクロファージ、NK細胞などで高発現し、免疫チェックポイント分子として知られている。先行研究では、Tim-3が腫瘍浸潤Tregに高発現しており、末梢のTregではほとんど発現していないことが報告されている (Banerjee et al. 2021)。また、Tim-3+ TregはTim-3- Tregよりも高い抑制能を持つことが示唆されており、抗Tim-3抗体による治療効果がTregの減少と相関するという報告もある (Liu et al. 2018)。

しかしながら、Tim-3がTregの生存や機能維持に直接的に寄与しているのか、またその分子メカニズムは何かについては未解明な点が多く、十分な知見が不足している。特に、腫瘍微小環境という過酷な条件下でTim-3がどのようにTregの安定性を維持し、結果としてCD8+ T細胞の疲弊を誘導しているのかという点に大きな knowledge gap が残されている。したがって、Treg特異的なTim-3の役割を遺伝学的に解析し、その治療標的としての妥当性を検証することが急務であった。

目的

本研究の目的は、腫瘍浸潤TregにおけるTim-3の発現が、Treg自身の生存、増殖、および機能維持にどのような役割を果たしているかを明らかにすることである。具体的には、Treg特異的なTim-3欠損マウスモデルを用いて、Tim-3の欠損が腫瘍内Tregの安定性とCD8+ T細胞の疲弊状態に与える影響を検証し、さらにPD-1/PD-L1阻害剤などの免疫チェックポイント阻害剤との併用効果を評価することで、Tim-3+ Tregを標的とした治療戦略の有用性を実証することを目的とした。

結果

腫瘍浸潤TregにおけるTim-3発現の動態: MC38大腸がんモデルにおいて、腫瘍浸潤Tregの蓄積とTim-3の発現 kinetics を解析した。腫瘍内Tregの割合は移植後9-12日でピークに達し、そのうち約 50% のTregが移植後6日目という早期からTim-3を発現していた (Supplementary Fig. S1B)。対照的に、CD8+ TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) のTim-3発現は12日目までピークに達せず、また腫瘍ドレナージリンパ節 (dLN) ではTregおよびCD8+ T細胞ともにTim-3の発現は極めて低かった。この結果は、TregにおけるTim-3の発現がCD8+ T細胞の疲弊に先駆けて誘導されることを示している。

Treg特異的Tim-3欠損による抗腫瘍効果とCD8+ T細胞の脱疲弊: タモキシフェン誘導性Treg特異的Tim-3 KOマウス (Tim-3Treg KO; n=6-10 mice per group) を作製し、MC38腫瘍を移植した。WTマウスと比較して、Tim-3Treg KOマウスでは腫瘍負荷が有意に減少し、生存期間が有意に延長した (Fig. 1B, p<0.05)。この効果はCD8+ T細胞の除去により完全に消失したため、CD8+ T細胞が主役であることが証明された。フローサイトメトリー解析では、Rpl18* (ribosomal protein L18 neo-antigen) 特異的CD8+ T細胞の割合が増加し、PD-1+ Tim-3+ のダブルポジティブ (DP) 細胞(末端疲弊細胞)の割合が減少していた (Fig. 1C, 1D)。さらに、幹細胞様表現型を示す Tcf-1 (T-cell factor 1) + PD-1int Tim-3- 分画が増加し、Toxの発現が低下していた (Fig. 1F, 1G)。in vitro刺激において、KOマウス由来のCD8+ T細胞はIFN-γ、TNF、granzyme Bの産生能が有意に高く (Fig. 1H)、in vivo EdU取り込み試験でも高い増殖能を示した (Fig. 1I)。

Tim-3欠損Tregの生存能低下とAkt-FOXO1経路の抑制: Tim-3Treg KOマウスの腫瘍内では、Tregの割合および絶対数が有意に減少していた (Fig. 2A-B, p<0.05)。また、CD25の平均蛍光強度 (MFI) が低下し、Ki-67発現やEdU取り込みによる増殖能も低下していた (Fig. 2F-G)。bulk RNA-seq解析の結果、KO-Tregではインターフェロン、炎症、およびアポトーシスに関連する遺伝子シグネチャーが上昇しており、Tregの「脆弱性 (fragility)」が示唆された (Fig. 2D-E)。メカニズム解析として、p-Akt, p-FOXO1, p-S6 のレベルを測定したところ、Tim-3 KO-Tregではこれら全てのリン酸化レベルが有意に低下していた (Fig. 2I)。イメージングフローサイトメトリーにより、FOXO1と核染色剤 DRAQ5 の相関を解析したところ、KO-TregではFOXO1の核内留置が有意に増加しており、AktによるFOXO1の核外排除が不全であることが示された (Fig. 2J-K)。

Bcl-2過剰発現によるTreg生存のレスキューと腫瘍増殖の再燃: Tim-3欠損によるTreg減少が単なる生存能低下によるものか、あるいは機能不全によるものかを検証するため、抗アポトースタンパク質 Bcl-2 (B-cell lymphoma 2) をTreg特異的に過剰発現させた。Bcl-2の導入により、Tim-3Treg KOマウスにおける腫瘍内Treg数が有意に回復し、Ki-67+ Tregの割合も増加した (Fig. 3D-E)。このTregの回復に伴い、腫瘍負荷が部分的に増加し、生存期間が短縮した (Fig. 3B-C)。また、CD8+ TILのPD-1およびTim-3の発現が再び上昇した (Fig. 3F)。この結果は、Tim-3が主にTregの生存を維持することで抗腫瘍免疫を抑制していることを裏付けており、Bcl-2による生存維持がTim-3欠損の表現型を部分的に逆転させた。

遅延欠損およびヘテロ欠損における表現型: 腫瘍成立後にタモキシフェンを投与してTim-3を欠損させた遅延KOモデルにおいても、腫瘍増殖の抑制と生存期間の延長が認められた (Fig. 4B-C, p<0.05)。また、Foxp3-Creをヘテロ接合体として持つマウス (Het-Cre KO; n=6-8 mice) では、Tregの約半分のみがTim-3を欠損している状態となるが、それでもWTと比較して腫瘍負荷が 20-30% 減少していた (Fig. 5B)。TIL解析では、Tim-3+ TregがTim-3- Tregに対して強い生存競争上の優位性を持っており、KO-Tregの割合が著しく低かった (Fig. 5C)。これにより、少数のTim-3+ Tregを標的にするだけでも抗腫瘍免疫を改善できる可能性が示された。

B16-F10モデルにおけるチェックポイント阻害剤への感受性向上: 免疫原性が低く「cold tumor」とされるB16-F10メラノーマモデルにおいて、Tim-3Treg KOは腫瘍増殖を抑制し生存率を向上させた (Fig. 6A-B)。さらに、抗PD-L1抗体単剤治療では限定的な効果しか得られなかったが、Tim-3Treg KOマウスに抗PD-L1を投与したところ、腫瘍増殖が劇的に抑制され、一部の個体では腫瘍増殖がプラトーに達した (Fig. 6H-I)。これは、TregにおけるTim-3の欠損が、PD-1阻害剤に対する感受性を高めるプライミング効果を持つことを示唆しており、Tim-3欠損により抗PD-L1の治療効果が 2-fold 以上向上したと考えられる。

ヒト頭頸部癌における臨床データとの相関: ヒト頭頸部癌患者を対象とした臨床試験 (NCT04080804) の単一核RNA-seq (snRNAseq) データを解析した。抗PD-1抗体と抗LAG-3抗体の併用療法 (Nivo/Rela) で奏効した群では、治療後にTregにおける Tim-3 (HAVCR2) の発現が有意にダウンレギュレーションしていた。一方で、Nivo/Ipi群やNivo単剤群ではこのような傾向は見られず、TregのTim-3発現低下が臨床的な治療奏効と相関していることが示された (Fig. 6J)。

考察/結論

先行研究との違い: これまでの研究では、Tim-3は主にCD8+ T細胞の疲弊マーカーとして、あるいは抑制性受容体として捉えられてきた。しかし、本研究は Tim-3 がTregにとっての「生存維持因子」として機能していることを明らかにした点で、これまでの「チェックポイント分子=抑制因子」という単純なモデルとは異なり、細胞種やコンテキストによってその役割が正反対になり得ることを示した。

新規性: 本研究で初めて、腫瘍浸潤TregにおけるTim-3の発現が Akt-FOXO1 シグナル経路を介してTregの生存と安定性を維持し、それが結果としてCD8+ T細胞の末端疲弊を促進しているというメカニズムを新規に同定した。特に、Bcl-2による生存レスキュー実験を通じて、Tim-3の主たる役割がTregの生存維持にあることを証明した点は極めて重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、Treg特異的なTim-3標的治療という新たな戦略の臨床応用に直結する。特に、B16-F10のような治療抵抗性の高い「cold tumor」において、TregのTim-3を抑制することでPD-1阻害剤への感受性が向上したことは、臨床的意義が非常に大きい。また、ヒト頭頸部癌の臨床データにおいてTregのTim-3低下が奏効と相関していたことは、このメカニズムがヒトにおいても保存的であることを示唆しており、バイオマーカーとしての活用や、二重特異性抗体を用いたTreg特異的Tim-3阻害などの translational なアプローチへの道を開くものである。

残された課題: 今後の検討課題として、Tim-3がどのようにAkt経路を活性化させるのか、その上流リガンド(Galectin-9 (β-galactoside-binding protein) やCEACAM1等)との詳細な相互作用を解明する必要がある。また、本研究では末梢の組織炎症は観察されなかったが、急性炎症条件下でのTreg安定性への影響についてはさらなる検証が必要である。Limitation として、マウスモデルでの結果を完全にヒトに外挿するには、より大規模な患者コホートでの検証が不可欠である。

方法

本研究では、C57BL/6Jマウスを用いて、Treg特異的にTim-3 (Havcr2) を欠損させた誘導型ノックアウトマウスを作製した。具体的には、Havcr2 flox/flox マウスと Foxp3-eGFP-Cre-ERT2 マウスを交配させ、タモキシフェン (1 mg, i.p.) を5日間隔で投与することで、Treg特異的なTim-3の欠損を誘導した。腫瘍モデルとしては、皮下移植した MC38 (大腸がん) および B16-F10 (メラノーマ) 細胞を用いた。

細胞解析にはフローサイトメトリーを用い、CD4, CD25, FoxP3 によるTregの同定、および PD-1, Tim-3, SLAMF6, CD69, Tox, Tcf-1 によるCD8+ T細胞の表現型解析を行った。腫瘍特異的CD8+ T細胞の同定には、MC38のネオアンチゲンである Rpl18* 特異的 H-2 Kb テトラマーを用いた。Tregの増殖能は Ki-67 染色および EdU (5-ethynyl-2′-deoxyuridine) の in vivo 取り込み試験により評価した。

分子メカニズムの解析では、腫瘍浸潤Tregをソートし、bulk RNA-sequencing (SMART-Seq HT) を実施した。得られたデータは CLC Genomics Workbench および Partek Flow で解析し、Enrichr を用いて転写因子ターゲットの濃縮解析を行った。また、Akt, FOXO1, S6 のリン酸化レベルをフローサイトメトリーで測定し、FOXO1の核内局在を DRAQ5 染色を用いたイメージングフローサイトメトリー (BD FACSDiscover S8) で定量化した。

統計解析には GraphPad Prism v9.4.1 を使用した。腫瘍増殖曲線は repeated measures t-test および mixed-effect model で解析し、生存曲線は log-rank test を用いた。その他の群間比較には Student’s t-test または ANOVA を用い、p < 0.05 を有意とした。ヒト臨床データの解析では、snRNAseq データから HAVCR2 の発現量を抽出し、Spearman’s rank correlation coefficient を用いて治療奏効との相関を算出した。