• 著者: Suisui Hao, Yoshiaki Sato, Zhaojin Liu, Darleny Lizardo, Xinyan Lu, Heinz-Josef Lenz, Robert E. Schoen, Jian Yu, Lin Zhang
  • Corresponding author: Lin Zhang (Keck School of Medicine of USC)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-07-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42461083

背景

大腸がん (Colorectal Cancer: CRC) のうち 10-15% を占めるマイクロサテライト不安定性 (Microsatellite Instability: MSI) 腫瘍は、DNA ミスマッチ修復 (Mismatch Repair: MMR) 欠損によりゲノム全体で短鎖タンデム反復配列の変異が蓄積するハイパーミュータビリティを特徴とする。MSI 腫瘍は高い腫瘍変異負荷 (Tumor Mutational Burden: TMB) とネオアンチゲンの増加を伴うため、PD-1 抗体などの免疫チェックポイント阻害薬 (Immune Checkpoint Inhibitors: ICIs) に対して高い感受性を示すことが報告されている (Le et al. 2015, 2017)。しかし、相当数の MSI CRC 患者では ICIs に反応しないか、あるいは耐性を獲得することが知られており、重篤な免疫関連副作用のリスクも存在する。そのため、MSI CRC に対する新たな治療戦略の構築が急務となっている。

近年の研究により、MSI がん細胞は生存のために RecQ ファミリーの DNA ヘリカーゼである Werner (WRN) に依存していることが明らかになった (Chan et al. 2019, Lieb et al. 2019)。WRN の欠損や阻害は、MSI がん細胞において二本鎖 DNA 断裂 (Double-Stranded Breaks: DSBs) の蓄積と DNA 損傷応答の活性化を招き、p53 および PUMA 依存的なアポトーシスを誘導する (Hao et al. 2022)。この合成致死性を利用した小分子 WRN 阻害薬 (HRO761, VVD-214, NDI-219216 等) が開発され、現在臨床試験が進められている。

一方で、アポトーシス細胞から放出される染色体外環状 DNA (Extrachromosomal Circular DNA: eccDNA) が、cGAS-STING 経路を介して先天免疫を活性化し、免疫刺激剤として機能することが報告されている (Wang et al. 2021)。しかし、WRN 阻害による MSI がん細胞の死滅が、このような eccDNA の放出を介して抗腫瘍免疫を活性化し得るかという点については未解明であり、その詳細なメカニズムや治療的意義に関する知見が不足していた。

目的

本研究の目的は、MSI CRC における WRN 阻害が誘導する細胞死が、eccDNA の放出を介して抗腫瘍免疫応答を活性化するかを明らかにすることである。具体的には、WRN 欠損による eccDNA 生成の分子メカニズム、特に核内リガーゼ LIG3 (Ligase 3) の関与を検証し、放出された eccDNA が樹状細胞 (Dendritic Cells: DCs) の活性化および CD8+ T 細胞の浸潤をどのように促進するかを解析する。さらに、WRN 阻害薬と抗 PD-1 抗体の併用療法が、MSI CRC モデルにおいて相乗的な抗腫瘍効果を発揮するかを検証し、その臨床的有用性を探る。

結果

WRN 欠損による MSI CRC 細胞の免疫シグナル活性化と eccDNA 放出: MSI CRC 細胞株 HCT116 とその MSS 派生株 CH3+5 を用い、WRN siRNA によるノックダウン (KD) を行った。WRN KD は HCT116 においてのみ生存能を著しく低下させ、アポトーシスおよび caspase 活性化を誘導した (Fig. 1A-B, p<0.001)。RNA-Seq および GSEA 解析の結果、WRN KD HCT116 では TNF シグナリングや IL-17 シグナリングなどの免疫経路が高度に濃縮されており、qRT-PCR により (Tumor Necrosis Factor Alpha), (Interferon Alpha), (Interferon Beta) の発現上昇が確認された (Fig. 1C-E)。また、WRN KD HCT116 では 400-600 bp の eccDNA が検出されたが、CH3+5 では認められなかった (Fig. 1H)。この eccDNA 生成は、p53 KO、PUMA KO、またはパンカスパーゼ阻害剤 z-VAD-fmk (z-VAD) の処理により抑制された (Fig. 1I)。

LIG3 依存的な eccDNA 生成と樹状細胞の活性化: LIG3 KO HCT116 細胞では、WRN KD による eccDNA 生成および , , の誘導が消失した (Fig. 2A-B, p<0.01)。この免疫活性化能は、WRN KD HCT116 から単離した eccDNA を外部から導入することで回復した (Fig. 2C)。また、WRN KD HCT116 とヒト末梢血単核球 (PBMC) 由来の DCs を共培養したところ、DCs による HCT116 の食細胞作用が著しく促進されたが、これは p53 KO、PUMA KO、LIG3 KO によって阻害された (Fig. 2D)。さらに、WRN KD HCT116 の条件付き培地 (CM) は DCs の活性化マーカー (CD83, CD86, HLA-DR) の発現を上昇させ、IFN- の産生を誘導した (Fig. 2E-F)。この CM の活性は、線状 DNA を分解する Plasmid-Safe DNase (PS) や PacI、RNase A の処理後も維持されたが、全 DNA/RNA を分解する Benzonase 処理により完全に消失した (Fig. 2G-H)。

マウス MSI モデルにおける WRN 欠損の免疫原性: マウス MSS CRC 細胞株 CT26 に CRISPR/Cas9 で を KO した -KO CT26 細胞を作製した。Wrn KD は -KO CT26 においてのみ、生存能低下、アポトーシス誘導、および eccDNA 生成を惹起した (Fig. 3A-D, p<0.001)。また、Wrn KD -KO CT26 の CM はマウス脾臓由来 DCs を活性化したが、この効果は Puma KO または Lig3 KO により抑制され、Benzonase 処理で消失した (Fig. 3G-J)。WGS 解析により -KO CT26 では (TA)n 反復配列の拡張が確認され、Wrn 欠損時にこれらの領域で DNA 断裂が生じることが示された (Fig. S3D-E)。

薬理学的 WRN 阻害による eccDNA 介在性免疫活性化: 選択的 WRN 阻害薬 HRO761 は、HCT116 において極めて低い (vs CH3+5 の ) で細胞死を誘導した (Fig. 4C)。HRO761 処理は , p53, PUMA の誘導および eccDNA の放出を促進し、LIG3 KO 細胞ではこれらの効果が消失した (Fig. 4D-H)。HRO761 処理した HCT116 の CM は DCs を活性化し、この活性は Benzonase 感受性であった (Fig. 4K-L)。また、HRO761 は -KO CT26 細胞においても 依存的に細胞死を誘導し、cGAS-STING 経路を活性化した (Fig. 5A-H)。特に KO -KO CT26 細胞では、HRO761 による細胞死、eccDNA 放出、および DC 活性化能が有意に低下した (Fig. 5H-K, p<0.01)。

in vivo における WRN 阻害による抗腫瘍免疫の増強: -KO CT26 腫瘍を移植した BALB/c マウス (n=5 mice/group) において、ML216 (10 mg/kg daily, i.p.) または HRO761 (30 mg/kg daily, p.o.) の投与は腫瘍増殖を抑制した (Fig. 6A, 7A)。この効果は KO 腫瘍では消失し、腫瘍内 eccDNA 量の減少と一致していた (Fig. 6B, 7B)。ML216 および HRO761 処理群では、腫瘍内への T 細胞の浸潤が増加し、Granzyme B (GzmB) および 陽性 T 細胞の割合が上昇した (Fig. 6F-H, 7F-H)。特に HRO761 処理では DCs の浸潤も有意に増加した (Fig. 7I)。抗 抗体による T 細胞の除去は、ML216 および HRO761 の抗腫瘍効果をほぼ完全に消失させた (Fig. 6J, 7J)。

抗 PD-1 抗体との併用による相乗効果: -KO CT26 腫瘍モデル (n=5 mice/group) において、ML216 (10 mg/kg) と低用量抗 PD-1 抗体 (180 /dose) の併用は、単剤療法と比較して腫瘍抑制効果を著しく増強した (Fig. 8A)。同様に、HRO761 (30 mg/kg) とさらに低用量の抗 PD-1 抗体 (100 /dose) の併用により、強力な腫瘍縮小が認められた (Fig. 8G)。併用群では、 T 細胞の浸潤および活性化 (GzmB, ) が最大となり、HRO761 併用群では DCs の浸潤も有意に増加した (Fig. 8I-L)。

ヒト MSI CRC 患者由来オルガノイド (PDO) での検証: Air-Liquid Interface (ALI) 培養系を用いた MSI CRC PDO (MLH1/PMS2 欠損) において、ML216 と pembrolizumab (10 /mL) の併用処理を行った。その結果、MSS PDO とは対照的に、MSI PDO では T 細胞の浸潤と増殖が著しく亢進し、培地中の および の放出量が増加した (Fig. S14A-C)。

考察/結論

先行研究との違い: これまでの研究では、WRN 阻害が MSI がん細胞において p53/PUMA 依存的なアポトーシスを誘導し、合成致死性を発揮することが主眼に置かれていた。本研究はそれらと異なり、WRN 阻害によって誘導される細胞死が単なる腫瘍細胞の除去に留まらず、LIG3 依存的な eccDNA の放出を介して強力な免疫原性細胞死 (Immunogenic Cell Death: ICD) を惹起することを初めて示した。

新規性: 本研究で初めて、MSI CRC における WRN 阻害が LIG3 を介して eccDNA を生成・放出し、それが cGAS-STING 経路を通じて樹状細胞を活性化し、最終的に T 細胞による抗腫瘍免疫を増強させるという一連のメカニズムを新規に同定した。特に、放出される DNA の「環状構造」が免疫活性化に必須であることを、線状 DNA 分解酵素に対する耐性を用いて証明した点は極めて独創的である。

臨床応用: 本知見は、WRN 阻害薬を単剤としてだけでなく、ICIs と併用することの強力な理論的根拠となる。WRN 阻害が「冷たい腫瘍 (cold tumor)」を「熱い腫瘍 (hot tumor)」へと変換し、DCs のリクルートと T 細胞の活性化を促進するため、ICIs への抵抗性を克服する bench-to-bedside の戦略として期待される。特に、低用量の抗 PD-1 抗体で十分な効果が得られたことは、併用による毒性軽減と有効性向上の両立という臨床的意義を示唆している。

残された課題: 今後の検討課題として、LIG3 がどのような機序で WRN 欠損細胞のアポトーシス過程において eccDNA の環状化を促進するのかという詳細な分子メカニズムの解明が残されている。また、本研究では主に CRC を対象としたが、胃がんなどの他の MSI-high がん種においても同様の eccDNA 介在性免疫活性化が起こるかを確認する必要がある。Limitation として、マウス Wrn とヒト WRN のアミノ酸相同性が約 70-75% と低いため、HRO761 のマウス細胞への感受性がヒト細胞より低かったことが挙げられ、より最適化されたマウス用阻害薬による検証が望まれる。

方法

細胞株および遺伝子操作: HCT116 (MSI), CH3+5 (MSS), RKO, LoVo, SW480, SW620, CT26 などの CRC 細胞株を使用した。CRISPR/Cas9 を用いて , , , , のノックアウト (KO) 株を作製した。HCT116 の MMR 欠損を補正した CH3+5 細胞は既報に従い使用した。

WRN 阻害および細胞解析: WRN siRNA によるノックダウン、または小分子阻害薬 ML216, HRO761 を用いて WRN 機能を抑制した。細胞生存能は MTS アッセイで評価し、アポトーシスは Annexin V/PI 染色およびフローサイトメトリーで解析した。DNA 損傷は や pKAP1 のウェスタンブロッティング、およびメタフェーズ・スプレッド解析による染色体破砕の観察で評価した。

eccDNA の単離と解析: アルカリ溶解法および磁性シリカビーズを用いた精製法により eccDNA を単離した。得られた DNA は 1% アガロースゲル電気泳動で解析した。CM の免疫活性評価では、Plasmid-Safe DNase (PS), PacI, RNase A の組み合わせによる処理、または Benzonase による全核酸分解を行い、DCs の活性化能を比較した。

免疫細胞共培養およびフローサイトメトリー: ヒト PBMC 由な DCs およびマウス脾臓由来 DCs を調製した。CFSE でラベルしたがん細胞と DCs を共培養し、食細胞作用をフローサイトメトリーで定量した。DCs の活性化は CD83, CD86, HLA-DR の発現および qRT-PCR によるサイトカイン産生量で評価した。

動物実験および PDO 解析: -KO CT26 細胞を NSG マウスで腫瘍化させ、それを BALB/c マウスに移植したモデルを用いた。ML216 (10 mg/kg daily, i.p.) または HRO761 (30 mg/kg daily, p.o.) を投与し、腫瘍体積を測定した。抗 抗体による T 細胞除去、および抗 PD-1 抗体 (100-180 /dose) との併用効果を検証した。ヒト MSI CRC 患者由来オルガノイド (PDO) は Air-Liquid Interface (ALI) 培養系を用いて構築し、TME を維持した状態で薬剤応答を解析した。

統計解析: データは mean SD または mean SEM で表示した。群間比較には Student’s t-test または ANOVA (Fisher’s LSD post-hoc test) を用い、 を有意とした。