• 著者: Sara Flamini, Philipp Sergeev, Zenobio Viana de Barros, Tommaso Mello, Michele Biagioli, Musetta Paglialunga, Chiara Fiorucci, Tatiana Prikazchikova, Stefano Pagano, Andrea Gagliardi, Carlo Riccardi, Timofei Zatsepin, Graziella Migliorati, Oxana Bereshchenko, Stefano Bruscoli
  • Corresponding author: Oxana Bereshchenko (University of Perugia, Italy)
  • 雑誌: Cell death & disease
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-04-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33927191

背景

肝線維化 (LF) は、ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD)、自己免疫性肝炎など、様々な慢性肝疾患に共通する病態であり、過剰な瘢痕組織形成から不可逆的な肝硬変へと進行し、最終的には肝細胞癌 (HCC) のリスクを高める。LF の病態形成において、C-C motif chemokine ligand 2 (CCL2) とその受容体である C-C chemokine receptor type 2 (CCR2) からなる CCL2-CCR2 軸が重要な役割を果たすことが確立されている。この軸は単球、マクロファージ、T細胞などの炎症性白血球の肝臓への動員を促進し、肝星細胞 (HSC) の活性化とコラーゲン産生を誘導することで線維化を進行させる。

先行研究では、CCL2 中和抗体が四塩化炭素 (CCl4) 誘発肝線維化モデルにおいて白血球浸潤と HSC 活性化を有意に減少させること (Marra et al. 1999) や、CCR2 拮抗薬である cenicriviroc が非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) 患者の線維化改善効果を示すこと (Friedman et al. 2018) が報告されている。また、NAFLD 患者の肝組織では CCL2 発現が線維化ステージと正相関し (Syn et al. 2012)、CCR2 欠損マウスが NASH 誘発モデルにおいてマクロファージ浸潤と線維化から保護されること (Miura et al. 2012) も独立に示されている。これらの知見は CCL2-CCR2 軸が肝線維化の重要な治療標的であることを強く示唆する。しかし、内因性の CCL2 産生を制御する生理的なブレーキ機構についてはこれまで不明な点が多かった。この領域には知識のギャップが残されている。

グルココルチコイド (GCs) は強力な抗炎症薬であるが、長期投与による副作用が問題となる。Glucocorticoid-induced leucine zipper (GILZ) は、Tsc22d3 遺伝子によってコードされる GC 誘導性の抗炎症性転写因子である。GILZ は NF-κB および ERK-MAPK 経路の抑制を介して、白血球の活性化、サイトカイン産生、T細胞分化を制御することが知られている。GILZ 欠損モデルでは関節炎や腸炎など複数の炎症性疾患の増悪が報告されているが、肝線維化における GILZ の直接的な役割はこれまで研究されていなかった。本研究は、この知識のギャップを埋めるため、GILZ-CCL2 軸が肝線維化において果たす機能的役割を詳細に解析した。特に、内因性の CCL2 産生を制御するメカニズムに関する理解が不足しており、その解明が新たな治療戦略開発に不可欠であると考えられた。

目的

本研究の目的は、CCl4 誘発肝線維化マウスモデルを用いて、Glucocorticoid-induced leucine zipper (GILZ) が肝線維化の発症と進行において果たす役割を解明することである。具体的には、GILZ が CCL2-CCR2 軸を介した白血球動員を抑制するメカニズムを検証し、その結果として肝星細胞 (HSC) の活性化とコラーゲン産生がどのように影響されるかを明らかにすることを目指す。さらに、ヒト非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) 患者の肝臓サンプルにおける GILZ (TSC22D3) と CCL2 の発現関係を解析し、マウスモデルで得られた知見の臨床的関連性を確認することで、GILZ-CCL2 経路が肝線維化に対する新規治療標的となり得る可能性を提示する。

結果

GILZ 欠損は慢性肝線維化を増悪させる: CCl4 投与 6-7 週後、GILZ KO マウス (n=10 mice/群) は野生型 (WT) マウスと比較して、Sirius red 陽性コラーゲン面積が約 2.3倍増加した (p<0.001)。血清 AST 値は WT 比で 1.8倍高値 (p<0.01)、ALT 値も 1.6倍上昇 (p<0.01) し、Liver Index も有意に増加した (Fig 1)。肝組織における α-SMA mRNA 発現は GILZ KO で WT 比 3.1倍上昇 (p<0.001)、Col1a1 mRNA も 2.5倍高値 (p<0.001) であった。対照的に、GILZ 過剰発現トランスジェニック (TG) マウスでは CCl4 誘発コラーゲン沈着が WT 比で約 40% 減少した (p<0.05)。

GILZ 欠損は急性・慢性期を通じて HSC 活性化を増強する: α-SMA 免疫組織化学 (IHC) 染色により、急性 CCl4 投与 72 時間後においても GILZ KO マウスの肝臓中心静脈周囲域 (pericentral zone) における α-SMA 陽性面積が WT 比 2.1倍増加した (n=6 mice/群、p<0.05) (Fig 2)。Col1a1 mRNA 発現も 2.8倍高値であった。慢性期 (7週) でも同様の α-SMA 陽性面積の増加が確認され、GILZ が肝線維化の急性および慢性両フェーズにおいて HSC 活性化を持続的に抑制していることが示唆された。

GILZ 欠損は肝臓への白血球リクルートを顕著に増加させる: CCl4 投与 72 時間後のフローサイトメトリー解析 (n=8 mice/群) では、GILZ KO マウスの肝臓における総肝浸潤白血球数が WT 比 2.6倍 (p<0.001) に増加した (Fig 3)。特に、単球 (CD11b+Gr1-) は 3.4倍 (p<0.001)、CD4+ T細胞は 1.9倍 (p<0.01)、CD8+ T細胞は 2.2倍 (p<0.01)、NK細胞は 1.7倍 (p<0.05) と有意に増加した。アポトーシス関連遺伝子 (Fas、FasL、Bcl-xL) の mRNA 発現は WT と GILZ KO マウス間で有意差がなく (p>0.05)、白血球の増加が細胞死の抑制ではなく、リクルートの亢進によるものであることが示された。GILZ TG マウスでは逆に肝浸潤単球数が WT 比 45% 減少し、GILZ が白血球リクルートに対して直接的な抑制作用を持つことが確認された。

CCL2-CCR2 軸による機構的連鎖の確立: GILZ KO マウスの肝臓では CCL2 mRNA 発現が WT 比 4.2倍高値 (p<0.001) を示し、クッパー細胞および肝細胞由来の産生亢進が確認された (Fig 4)。In vivo LNP-siRNA による CCR2 ノックダウン (効率約 75%) を行った結果、GILZ KO マウスで増強されていた白血球リクルートが WT レベルに正常化し (CD11b+ 単球: 3.4倍 → 1.1倍)、α-SMA mRNA 発現も 3.1倍 → 1.3倍に低下した (Fig 5)。この結果は、GILZ 欠損による肝線維化亢進が、CCL2-CCR2 シグナルを介した白血球浸潤とそれに続く HSC 活性化の経路で進行することを機構的に確立した。

ヒト NAFLD コホートにおける GILZ-CCL2 逆相関: Gene Expression Omnibus (GEO) データセット GSE48452 (NASH 患者 n=72 donors) の解析では、進行線維化 (ステージ 3-4) 症例の TSC22D3 (GILZ をコードする遺伝子) mRNA 発現が軽症 (ステージ 0-1) 症例と比較して 58% 低下した (p<0.01) (Fig 6)。GSE49541 (NAFLD 患者 n=46 donors) でも同様に 45% の低下 (p<0.05) が確認された。両コホートにおいて、TSC22D3 と CCL2 mRNA 発現の間に有意な負の Pearson 相関 (r = -0.52、p<0.001) が認められ、マウスモデルで確立された GILZ-CCL2 抑制機構がヒト NAFLD においても機能することが示された。さらに、線維化ステージ 0 から 4 にかけて TSC22D3 の低下と CCL2 の上昇が単調に進行する用量反応関係が両コホートで共通して観察され、GILZ-CCL2 軸が肝線維化の進行度と連動したバイオマーカーとなり得る可能性が示唆された。

考察/結論

本研究は、Glucocorticoid-induced leucine zipper (GILZ) が CCL2 産生抑制を介して白血球リクルートと肝星細胞 (HSC) 活性化を制御し、肝線維化の進展を抑制する内因性の保護因子であることを初めて示した新規な知見である。これまで、cenicriviroc などの外因性 CCL2-CCR2 拮抗薬が動物モデルおよび非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) 患者で線維化抑制効果を示すことが報告されてきたが、内因性の CCL2 制御機構の存在は十分に明らかにされていなかった。本研究は、これらの先行研究と異なり、内因性グルココルチコイド (GC) シグナルメディエーターとしての GILZ が CCL2 産生の生理的ブレーキとして機能することを、遺伝学的証拠 (GILZ KO/TG マウスモデルおよび in vivo siRNA レスキュー実験) により実証した点で概念的に意義が大きい。

GCs の抗炎症作用を GILZ を介して選択的に利用する治療戦略は、以下の点で臨床応用への意義深い選択肢を提供する。第一に、従来の GC 長期投与に伴う重篤な副作用 (副腎抑制、糖尿病、骨粗鬆症など) を回避できる可能性を秘めている。第二に、ヒト NAFLD コホートにおいて TSC22D3 (GILZ をコードする遺伝子) 発現の低下と CCL2 発現の上昇が有意に逆相関することが確認されており、本知見のトランスレーショナルバリューが高いことを示している。第三に、脂質ナノ粒子 (LNP) 封入 siRNA による CCR2 の in vivo ノックダウンが有効であったことは、RNA 医薬が肝疾患の治療に応用される可能性に対する前臨床的根拠となる。

臨床応用への展開として、(a) GILZ 模倣化合物 (GILZ 由来ペプチド、TAT-GILZ など) の開発による NAFLD/NASH 治療、(b) 抗 CCL2 抗体 (carlumab) や CCR2 拮抗薬 (cenicriviroc、Phase III CENTAUR/AURORA 試験) との合理的併用療法、(c) TSC22D3 mRNA 発現を NAFLD 進行の予後バイオマーカーとして活用することなどが提案される。

残された課題としては、(1) GILZ の細胞種特異的機能 (肝細胞、クッパー細胞、浸潤白血球における役割分担) の詳細な解析、(2) GILZ 模倣化合物の前臨床および臨床開発、(3) 他の線維性疾患 (特発性肺線維症、腎線維症など) への本知見の外挿可能性の検証が挙げられる。これらの課題は今後の研究でさらに深く掘り下げられるべきである。

方法

動物モデル: C57BL/6J バックグラウンドの Tsc22d3 遺伝子ノックアウト (GILZ KO) マウスおよび GILZ 過剰発現トランスジェニック (GILZ TG) マウス (各群 n=8-12 mice) を使用した。肝線維化は、CCl4 (オリーブオイルで 1:3 に希釈、500 µL/kg) を週 2 回腹腔内投与し、6-7 週間で慢性モデルを作製した。急性肝損傷モデルは単回 CCl4 投与後 72 時間で評価した。全ての動物実験は、イタリア、ヨーロッパ、アメリカの動物福祉法規に従い、ペルージャ大学の倫理委員会により承認された。

組織学的・生化学的評価: 肝組織は 10% ホルマリン固定後、パラフィン包埋し、Sirius red 染色によりコラーゲン沈着面積を定量した。HSC 活性化の評価には、α-SMA 免疫組織化学 (IHC) 染色を用いた。血清中の肝損傷マーカーであるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) およびアラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 値 (U/L) を測定した。肝重量と体重の比率から Liver Index を算出した。肝組織からの RNA を抽出し、RT-qPCR により α-SMA、Col1a1、CCL2、Tsc22d3 mRNA 発現量を定量した (GAPDH で正規化、各 n=3 独立実験で再現性を確認)。

肝浸潤白血球の解析: 肝臓を Collagenase IV で消化後、肝浸潤白血球を分離した。Flow cytometry を用いて、CD3、CD4、CD8、CD11b、B220、CD49b、Gr1 などの表面マーカーにより、T細胞、B細胞、単球、顆粒球、NK細胞などのサブセットを定量解析した (n=5-8 mice/群)。アポトーシス関連遺伝子 (Fas、FasL、Bcl-xL) の mRNA 発現も qPCR で評価した。

肝細胞の分離: 肝細胞とクッパー細胞は、2段階のコラゲナーゼ肝灌流により分離した。肝細胞は40%パーコール遠心分離で精製し、クッパー細胞は非実質細胞プールから接着差により精製した。

In vivo siRNA 介入: CCL2 受容体である CCR2 を標的とする siRNA を脂質ナノ粒子 (LNP) 製剤に封入し、GILZ KO マウスに静脈内投与することで CCR2 をノックダウンした。siRNA の有効性は qPCR で確認した (ノックダウン効率約 75%)。siRNA はオフターゲット効果を避けるため、2’-OMeピリミジンヌクレオチドと3’-インターヌクレオチドホスホロチオエートで修飾された。

ヒトデータ解析: Gene Expression Omnibus (GEO) の公開データセット GSE48452 (NASH 患者 n=72) および GSE49541 (NAFLD 患者 n=46) を利用し、TSC22D3 (ヒト GILZ 遺伝子) と CCL2 mRNA 発現間の Pearson 相関係数を算出した。線維化ステージ別の遺伝子発現比較も行った。

統計解析: 群間比較には Student’s t-test またはノンパラメトリック Mann-Whitney U test を使用した。多重比較には二元配置分散分析 (two-way ANOVA) を適用した。統計的有意水準は p<0.05 とした。