- 著者: M. Johannessen, S. Møller, T. Hansen, U. Moens, M. Van Ghelue
- Corresponding author: M. Johannessen; M. Van Ghelue (University of Tromsø, Norway)
- 雑誌: Cellular and Molecular Life Sciences
- 発行年: 2006
- Epub日: 2006-01-02
- Article種別: Review
- PMID: 16389449
背景
FHL2 (Four-and-a-half LIM domain protein 2) は、システインリッチなジンクフィンガー様モジュールであるLIM (Lin-11/Isl-1/Mec-3) ドメインを4.5個持つタンパク質ファミリーの一員である。LIMドメインは100種超のヒトタンパク質に存在し、DNA結合ではなくタンパク質-タンパク質相互作用の界面として機能し、アクチン細胞骨格と転写装置の両方と関連するタンパク質のシグネチャーとして認識されている。LIMドメインは多量体タンパク質複合体の集合を支援するアダプターまたは足場として機能し、競合因子、自己阻害因子、局在化因子としても作用することが報告されてきた (Bach 2000; Kadrmas and Beckerle 2004)。FHL2は2つのグループにより独立にクローニングされ (Morgan and Madgwick 1996; Genini et al. 1997)、心臓で最も豊富に発現するが、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、胎盤、骨格筋など多くの組織でも発現が確認されている。同ファミリーにはFHL1、FHL3、FHL4、ACTが含まれ、FHL2はその中で最も研究が進んでいるメンバーである。FHLファミリーの発現パターンは骨格筋・心血管系で重要な機能を担うことが示唆され (Chu et al. 2000)、FHL2はRhoシグナルを細胞膜から核へ伝達する転写補助因子として (Müller et al. 2002)、またCREB/CREMの組織特異的補助活性化因子として (Fimia et al. 2000) 報告されてきた。
しかし、LIMドメインのみで構成され、明らかな酵素活性 (enzymatic activity) を持たないFHL2が、これほど多様な機能を発揮する分子メカニズムには未解明な点が多い。特に、細胞特異的な発現、局在、利用可能な相互作用パートナーの濃度がその機能特異性にどのように寄与するのかについての統合的な解析は不足していた。先行研究ではFHL2の個別の機能 (アポトーシス誘導、AR共活性化、心肥大修飾) が断片的に報告されてきたが、これらの知見を一つの分子像へ統合し、FHL2の多機能性を体系的に理解する試みはこれまで手薄であった。また、FHL2の発現異常や活性変化が多様なヒト疾患にどのように寄与するかの臨床的証拠も散発的な報告にとどまり、その多機能性を統合的に理解して疾患との因果関係を確立することが今後の重要な課題として残されていた (gap in knowledge)。
目的
本レビューの目的は、FHLファミリーの中で最も研究が進んでいるFHL2について、その転写制御、組織特異的発現パターン、相互作用タンパク質、細胞内局在、生物学的機能、および多様なヒト疾患への関与に関する現在の知見を統合的に整理し、FHL2の多機能的な役割の全貌を提示することである。特に、FHL2が直接DNA結合をしないにもかかわらず、転写補助因子・シグナル伝達分子・足場タンパク質としてどのように機能し、同一分子でありながら細胞型・プロモーター依存的に転写を活性化も抑制もする文脈依存性をどのように獲得するかを詳細に記述する。さらに、心臓生理、骨形成、筋機能、胎盤発生、細胞周期制御、アポトーシスにおけるFHL2の関与を整理し、がんやその他のヒト疾患におけるFHL2の役割と将来的な治療応用の可能性を探ることを目指す。
結果
遺伝子構造と進化的保存性:ヒトfhl2遺伝子は染色体2q12-q14にマップされ、7つのエクソン (うち先頭3個は非コード) から構成される。FHL2タンパク質は4つの完全なLIMドメインと1つの半分のLIMドメインで構成され、279アミノ酸、計算分子量32 kDa (32,192 Da) である。特異抗体は約32 kDaの主バンドに加え、LIM2-LIM3間のYEKQHAMQ配列の切断由来と推定される25 kDaペプチド、翻訳後修飾由来とみられる41 kDaバンドを認識する。FHL2は進化的に高度に保存され、Caenorhabditis elegans、Drosophila melanogaster、amphioxisから哺乳類までオルソログが確認される (Figure 2)。ヒトFHL2はFHL1と47.9%、FHL3と51.8%、FHL4と47.1%、ACTと58.5%のアミノ酸同一性を持つ。γ線照射後のヒト末梢血リンパ球ではFHL2発現が用量依存的に最大9-fold (約9倍) 増加し、放射線被曝バイオマーカー (biomarker) としての可能性が示された。fhl2遺伝子の5’上流プロモーター領域および第2イントロンには、p53、SRF (serum response factor)、CArGボックス、E2F、AP1、MEF-2、Nkx2.5など多数の転写因子結合部位が同定されており (Fig 1)、放射線・機械的伸展・血清刺激といった多様な上流シグナルに応じてFHL2発現が転写レベルで制御されることを示す。特にp53応答配列の存在は、DNA損傷ストレス下でのFHL2誘導と整合する。
組織特異的発現と細胞内局在:FHL2は心臓で最も高発現し、副腎、膀胱、腎臓、肺、卵巣、膵臓、胎盤、骨格筋、消化管などでも検出されるが、脾臓、胸腺、血液白血球、皮膚では発現しない (Table 1)。脳・肝臓・肺ではノーザンブロットで低レベルのmRNAが検出される一方、スロットブロットでは検出されず、検出方法による不一致がみられる (Table 1)。細胞内局在は細胞型依存的で、一部の細胞 (A33 primary myoblasts、HeLa) では主に核内に、他の細胞 (Rh30、C2C12、HepG2) では均等分布が観察される。分子量32 kDaは核膜孔の能動輸送閾値である50 kDaを下回るため、明確な核移行シグナルなしに核-細胞質間を受動的にシャトリングしうる。血清成分であるlysophosphatidic acidおよびsphingosine-1-phosphateの刺激は、ROCK/Rho GTPase依存的にFHL2の核移行を誘導する (Muller et al. 2002)。
50種超の相互作用タンパク質ネットワーク:FHL2は受容体、構造タンパク質、シグナル伝達因子、転写因子・コファクター、スプライシング因子、DNA複製修復酵素、代謝酵素など多様な機能クラスに属する50種超のタンパク質と相互作用する (Table 2)。主要パートナーにはインテグリン (integrin α3A/B、α7A/B、β1A/1Dなど)、titin、α-actinin、ERK2、pp125FAK、β-catenin、γ-catenin、CREB (cAMP response element binding protein)、CBP/p300、AR (androgen receptor)、WT1、FOXO1、SRF、Runx2/Cbfa1、TRAF6、BRCA1が含まれる。スプライシング因子であるNP220およびPSF (PTB-associated splicing factor) との相互作用も報告され、FHL2がスプライシング制御にも関与する可能性が示唆される (Figure 3)。多くのパートナーは互いに配列・構造的相同性をほとんど持たない点が、FHL2の機能多様性の構造的基盤と考えられる。各LIMドメインが異なるパートナー結合界面を提供するため、4.5個のLIMモジュールを持つFHL2は単一分子で複数の相手を同時に係留する足場 (scaffold) として働きうる。例えばN末端側LIMドメインはinteginやtitinなどの構造タンパク質と、C末端側LIMドメインはAR (androgen receptor) やβ-cateninなどの転写関連因子と優先的に相互作用する傾向が報告され、ドメイン分割により細胞質の構造的役割と核内の転写制御役割を1分子内で兼ね備える点がFHL2の機能多重性を支えている (Fig 3)。
文脈依存的な転写補助因子としての両面性:FHL2は直接DNA結合しないが、GAL4-FHL2融合タンパク質は細胞型依存的にレポーター遺伝子転写を活性化する (CV-1・293T・MCF-7では活性、HT1080・C2C12Aでは不活性)。最も顕著な特徴は同一分子が文脈に応じて活性化・抑制の両方向に働くことで、FHL2はβ-cateninを介したTCF/LEF依存性転写をHEK293・SW480・A375細胞では活性化する一方、I28・CHO・C2C12細胞では抑制する。AR転写ではFHL2、CBP/p300、β-cateninが相乗的に作用し (Labalette et al. 2004)、CREB・AP1・WT1・Runx2の共活性化因子として、SRF・Hand1/E12・PLZF・FOXO1の共抑制因子として機能する。FHL2はFOXO1とSIRT1の相互作用を促進してFOXO1の脱アセチル化を促し、その活性を抑制してcyclin D1プロモーター制御に関与する (Yang et al. 2005)。加えてFHL2はDNA損傷ストレス下でBRCA1やp53と協調して標的遺伝子の転写を共活性化し、アポトーシス (apoptosis) 関連遺伝子の発現を介して細胞死を誘導しうる一方、ARや β-cateninを介する増殖シグナルでは細胞増殖を促進する。すなわちFHL2の作用方向は結合パートナーと細胞文脈に応じて増殖・細胞死のいずれにも傾き、同一プロモーターであっても共存する補助因子の組成 (CBP/p300との競合や相乗など) によって最終的な出力が決定される。これらの両面性は、FHL2が単一の転写スイッチではなく、複数の標的プロモーター上で個別に活性化・抑制を切り替える文脈依存的モジュレーターであることを示しており、4.5個のLIMモジュールが提供する独立した結合界面が、この多標的・両方向制御を構造的に可能にしていると考えられる。
心臓生理と骨格筋機能:fhl2ノックアウトマウスは正常な心臓発達・機能を示しMendel比に従って出生するが、心肥大を惹起するβ-アドレナリン持続刺激に対して増強された心肥大反応を示す。この増強反応は心肥大マーカーであるANF (atrial natriuretic factor) の発現亢進を伴い、isoproterenol処理後の心重量/体重比も野生型に比べ有意に増加した (Kong et al. 2001)。FHL2はMAP kinase ERK2と物理的に相互作用してその核内蓄積を阻害し、心肥大シグナルを抑制すると考えられる (Purcell et al. 2004)。骨格筋ではtitin、MM-creatine kinase、adenylate cyclase、phosphofructokinaseをサルコメアへ係留し、筋収縮時のエネルギー供給酵素のリクルートに寄与する (Lange et al. 2002)。また電位依存性K+チャネルのβサブユニットminKと相互作用し、KvLQT1/minK共発現細胞でのIKs生成にFHL2が必須であることが示され、心筋再分極への関与が示唆される (Kupershmidt et al. 2002)。
骨代謝とがんにおける役割:fhl2ノックアウトマウスは骨芽細胞活性の低下による骨減少症 (osteopenia) を発症し、骨芽細胞・破骨細胞数は不変である。骨芽細胞分化過程でFHL2転写産物は3-fold (約3倍) 増加し、骨芽細胞特異的過剰発現トランスジェニックマウスでは骨量が増加した。機序としてFHL2はRunx2/Cbfa1のC末端領域に結合してRunx2依存性転写を促進し、さらにTRAF6に結合してRANK/TRAF6/NFκBシグナルを抑制することで破骨細胞形成・骨吸収を抑制する (Bai et al. 2005)。がんでは、肺腫瘍生検で健常肺にない強い核内FHL2免疫陽性が認められ、FHL2高発現患者は12か月以内に死亡する確率が有意に高かった (p=0.0001) (Borczuk et al. 2004)。肝芽腫では10例中8例でFHL2 mRNAが対応正常組織より著明に増加し、>50%で変異するβ-cateninの共活性化因子として機能しうる (Wei et al. 2003)。一方で前立腺がん組織 (n=15) では正常組織 (n=15) に比べFHL2が低下する報告もあり、乳がん (n=9)・前立腺がん (n=14) 検体でのfhl2変異は検出されず、がん種により発現変動の方向性が異なる点が特徴である。この二面性は、FHL2がARの組織特異的共活性化因子として前立腺上皮では増殖促進的に、p53やWT1の共活性化を介して他組織ではアポトーシス誘導的に働くという、文脈依存的な転写制御の延長線上にあると解釈される。さらにFHL2は卵巣がんでは過剰発現し細胞外マトリックスへの接着・浸潤を促進する一方、大腸では発現低下が報告されるなど、上皮系腫瘍全般でFHL2の発現方向性が腫瘍微小環境とパートナー組成に強く依存することが、本レビューで横断的に整理された。
考察/結論
FHL2は約50種の多様なタンパク質と相互作用する多機能タンパク質であり、その多面的役割は豊富なタンパク質-タンパク質相互作用能に依存している。転写補助因子、シグナル伝達分子、足場タンパク質として心臓生理、骨形成、筋機能、胎盤発生、細胞周期制御に関与する。LIMドメインのみで構成され酵素活性を欠くにもかかわらずこれほど多様な機能を発揮できる分子機序は依然未解明であり、細胞特異的な発現・局在と利用可能な相互作用パートナーの濃度がその鍵を握ると考えられる。
先行研究との違い:本レビューは、FHL2の機能を「転写制御」「シグナル伝達」「細胞骨格」の3極で統合整理した点で、個別機能のみを扱ってきたこれまでの研究とは異なる包括的視点を提供する。同ファミリーのFHL1が心肥大時に発現上昇する心肥大マーカーである一方、FHL2は抗肥大的に機能するという差異は対照的であり、FHL2ノックアウトマウスでβ-アドレナリン刺激への心肥大反応が増強される所見は、FHL2が心臓保護的役割を果たす点で既報のFHL1の役割とは相違する。
新規性:本レビューは、同一のFHL2分子が細胞型・プロモーター依存的に転写を活性化も抑制もするという文脈依存的二面性を、β-catenin・AR・CREB・SRF・FOXO1・Hand1など多数の標的を横断して体系的に提示した点に新規性がある。さらに、これまで個別に報告されていた肺がん・卵巣がん・肝芽腫・骨粗鬆症・クローン病・子宮内膜症・拡張型心筋症との関連を統合し、FHL2が新規な分子標的となりうる可能性を示した。
臨床応用:FHL2の機能異常が多様な疾患に関与するとの知見は臨床的意義を持つ。骨粗鬆症ではオステオカルシンプロモーター下のウイルスベクターによるfhl2遺伝子導入で骨芽細胞のFHL2を回復させる治療戦略が、FHL2過剰発現がんではRNA干渉 (RNA interference) によるFHL2発現抑制が、それぞれ標的治療として示唆される。こうしたbench-to-bedsideの橋渡しは、FHL2を標的とした新規治療法開発の出発点となりうる。
残された課題:今後の検討課題として、多数の相互作用のうちどれが生理的に必須かの検証、限られたパートナー濃度下で特定の相手を選択するメカニズムの解明、fhl2遺伝子変異とがん形成の因果関係の確立が挙げられる。また翻訳後修飾やプロテオリシスが機能に与える影響、細胞特異的局在と機能選択性を制御する微調整機構の解明も今後の研究の重要な方向性として残されている (future research)。多くの知見が細胞培養系に基づく点もlimitationであり、in vivoでの生理的役割の検証が求められる。
方法
本論文はナラティブレビュー (narrative review) であり、新たな一次データの取得や前向きの統計解析は行っていない。著者らはFHL2に関する既存の文献を広範に収集し、その遺伝子構造、発現プロファイル、細胞内局在、タンパク質間相互作用、生物学的機能、およびヒト疾患における役割について整理・統合した。文献の同定は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて、FHL2が最初に同定された1996年から本レビュー執筆時点の2005年10月までを対象に行われたと推察される。選択基準はFHL2の生物学的機能・疾患関連性を扱う一次研究論文とし、除外基準はFHL2に直接関係しない論文とした。
統合された一次研究の方法論を整理すると、(1) 遺伝子構造・転写制御はヒトfhl2遺伝子の染色体マッピング、エクソン構成、プロモーター解析、p53・SRF (serum response factor)・MEF-2・Nkx2.5・Lbx1・E2Fなどの転写因子結合部位同定、クロマチン免疫沈降 (ChIP) 解析に基づく。(2) タンパク質配列の進化的保存性はClustalWによるアミノ酸配列アライメントで評価された。(3) 発現プロファイルはノーザンブロット、RT-PCR (reverse transcription polymerase chain reaction)、ドットブロット、in situハイブリダイゼーション、ウェスタンブロットの多様な検出法を用いた研究結果が統合された (Table 1)。(4) 細胞内局在は異所性発現FHL2-GFP融合タンパク質と内因性FHL2特異抗体を用いた免疫染色研究が参照された。(5) 相互作用パートナーは酵母ツーハイブリッド法 (Y2H; yeast two-hybrid)、共免疫沈降法 (CoIP; co-immunoprecipitation)、in vitro結合アッセイ、アフィニティクロマトグラフィーを用いて同定された50種超のタンパク質が網羅的にリスト化された (Table 2)。臨床関連データとしては、肺がん患者の予後相関 (p=0.0001) や前立腺がん組織 (n=15) とその対応正常組織 (n=15) のFHL2発現量比較など、各原著で用いられた統計的有意性検定の結果が引用されている。統合された原著で用いられた統計手法は、予後解析ではKaplan-Meier法による生存曲線推定とlog-rank test、多変量予後因子解析ではCox proportional hazards model、群間の発現量比較ではStudent’s t-testおよびchi-square testであり、有意水準はp<0.05に設定されている。